人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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初めまして。うどん風スープパスタです。
読んでばかりの私が思いつきを文字にしてみました。
それだけの理由で書いたので、更新は未定。
エタる可能性が大きいです。
自分で書くのは始めてなので、文章は拙いと思います。
別に構わないという方は続きをどうぞ。


プロローグ

 2008年 4月3日 辰巳ポートアイランド

 

 「はぁ、はぁっ、はぁ、っ!?」

 

 息が、苦しい。道も見通しが悪い……もう二度とあの引越し業者には頼まない! 男子寮と女子寮を間違えたとか言って予定より荷物の到着が遅れるし、荷物もいくつか壊れていたし、適当な仕事して!! おかげで荷解きも遅れるわ、気づいたら真夜中だわ、夜食を買いに出たらこの有様だ!

 

 心の中で悪態をつきながら、青緑色の月が照らす街を疾走する。

 

 後ろから“影時間”にのみ生息する“シャドウ”という怪物が俺を追ってくるからだ。アレに殺されるか食われるかすれば、“影人間”と呼ばれる死人のような状態になってしまう。

 

 「そんなの、ごめんだ!」

 

 走り疲れた足に気合で力を込めて全力で影から遠ざかり、遮蔽物の多い路地に身を隠す。

 

 「……逃げきれた、か?」

 

 走り過ぎて痛む脇腹に手を当てて周りの様子を見ても、追ってきていたシャドウは見当たらない。

 

 「今のうちに、どこか建物の中へ……っ!?」

 

 後ろを振り向こうとした視界の片隅に黒い影が映り込み、反射的に身を隠していた路地から飛び出した直後、俺がいた場所へ鋭い爪が振り下ろされた。路地の壁に5本の傷が刻まれた音を合図に、再び命懸けの逃走劇が始まる。

 

 

 

 走り続けて疲れた体は重く、頭にはこれまでの思い出が次々と浮かんでくる。

 

 あれは、そうだ。元はといえばあの神のせいか……

 

 

 

 

 

 ~回想~

 

 気がつくと俺はどこかの部屋に居た。

 

「………………床?」

 

 意識が朦朧として、かすむ目をこすりながら重い体を起こす。最初は家だと思っていたが、意識がはっきりし始めて気づく。俺が寝ていた場所はカーペットの上だ。

 

 家には絶対に無い高級そうなそれに驚き、周囲を見渡せば西洋の城を思わせる装飾過多な内装と椅子があるだけ。壁はあるけど、扉がない。

 

「何処だよここ……夢?」

 

 立ち上がって何度周囲を見回しても、目に映るのは気後れするほど豪華な内装のみ。出口どころか自分がどうやって中に入ったかも分からなかった。

 

 そのうち夢かと思って頬をつねろうとしたその時。

 

「つまらんな」

 

 突然聞こえたのは退屈そうな声。驚いてその元へ振り向けば、玉座の肘置きに頬杖をついて俺を見ている退屈そうな男が一人。態度がまともなら玉座に相応しい貫禄があっただろう古めかしい立派な服を着ている。

 

「あ、あなたは……?」

「他人に名を聞くならば、自分から名乗るのが礼儀ではないか?」

「っ、失礼しました。私は田中太一と申します。それで、あなたは……」

 

 そう聞いても返事がなく、目の前の男性はじっと俺を見ているだけ。そのまま嫌な沈黙が流れたあと、男性は一度ため息を吐いて、今度は背もたれに体を預けてこう言う。

 

「やはり、つまらん。夢かと思えば顔をつねろうとし、名の聞き方を指摘されれば正す。珍しくない反応だ、もはや見飽きた」

「見飽きた、って……そんな事を言われましても……」

 

 俺が意味の分からない反応に戸惑っていると、男性はそれを気にせず独り言のように呟く。

 

「まぁ、そんなつまらん人間だからこそここに来たのか」

 

 この人、何か知ってるのか!?

 

「すみません、ここは何処でしょうか!? 私は気づいたらここに居て――」

「分かっている。分かっているから黙れ。説明もできん」

「は、はい」

 

 気だるそうな声に有無を言わさぬ威圧感を感じて、俺はつい口を閉じてしまう。なんだよ、この人……

 

「黙ったか、では話すが……貴様は死んだ。これから私が貴様を転生させる。以上だ」

 

 …………それだけか!?

 

「ちょ、ちょっと待ってください! それだけですか!? それに、意味がよく……」

 

 俺が声を出したら、さっきよりは大分マシだけど、また威圧感が……

 

「面倒だな……貴様、地球の日本に生きていて、転生だのなんだのという話は知らんのか?」

「暇潰しに、ネットで時々読む程度なら……」

「ならば理解せよ。貴様の身に起こっている事、これから起こる事はまさにそれだ」

 

 理解せよ、って、出来るか!! 現実に起こるなんて考えてるわけないだろ!! と、言いたいが言えない。抵抗は許さんと言いたげに威圧感が強まった。膝が震えて立っているのも辛い。

 

 本当にネット小説の通りなら、俺は死んでいてこんな訳のわからないまま訳のわからない世界に行くのか? バカバカしいと思えたらいいのに……男の奇妙な存在と威圧感がそれを許してくれない。全てを受け入れるしかないと思ってしまう……

 

 でも、せめて!

 

「せめて! せめて、行く所の事だけでも教えてください!」

 

 この叫びが男の琴線に触れたのか、威圧感が消えた。

 

「あっ」

 

 俺はその場に膝から崩れ落ち、男は何か呟きながら俺を見ている。

 

「ふむ……実につまらん言葉だが声を出せたか……よかろう、少し詳しく話してやろう」

 

 俺は顔を挙げて男の顔を見るが、体が震えて声が出ないし異常な疲れを感じる。

 

 そんな俺の様子に構わず、男は勝手に話し始める。

 

「まず、貴様の死は事故だ。私のように貴様らが神と呼ぶ存在が何かをした訳ではない。貴様の魂には善悪が無く、ここで魂を再利用されるために送られた」

 

 半ば呆然としていたけど、男……神の声は届いた。しかし、再利用? 輪廻転生じゃなくて、リサイクルなのか? それに俺の善悪って何だ?

 

「魂は生前に行った善行と悪行により、善か悪のどちらかに偏る。そして死した時点の魂が善ならば世界の秩序と維持のため、悪ならば世界に刺激を与え発展を促す一因として、天国か地獄で力として使われた後で輪廻の輪に戻る。

 だが、貴様のように善と悪のどちらにも偏っていない魂はどちらにも使えぬ。よって一度異なる危険な世界へ送り、その世界や人々を救わせることで力を得る。貴様を異なる世界に送るのはそのためだ」

 

 なんだそれ。言葉は分かるけど、理解ができない……

 

「理解できなくて構わん。貴様が知る必要もない。次に貴様が聞きたがる世界の事だが……」

「戦争でも、起きているのですか……?」

 

 危ない世界と聞いて、威圧感も無かった事でつい口に出た。それについてまた威圧感が来るかと思えば、今度は違った。

 

「戦争、か」

 

 返ってきたのは短い呟きと失笑。それとも嘲笑か? どちらにしても嫌な嗤い方だ。

 

「愚かな……貴様一人の魂で戦争を止めると? 自分にそんな力があるとでも思っているのか? 貴様がそんな人間ならば、今頃天国か地獄でさぞ重用された事だろう。こんな所に来るわけがない。

 ここに来た者が行くのは人が生み出した物語の世界、全ての結果までの筋道が既に出来ていて、比較的問題を解決しやすい世界だ」

 

 言葉の節々が気になるけど、だったら……

 

 恐る恐る、もう一つ聞いてみる。

 

「原作は何でしょうか?」

「Persona3と人は呼ぶ」

 

 全く知らない話でないのが救い……いや、あの話だと敵と戦いまくる事になるはず……

 

「何をもって誰を救うかが重要なのだ。適当な力は与えるが、戦いたくなければ世界を滅亡から救うのは物語の主人公に丸投げすれば良い」

「……そうなると、何をすればいいのですか?」

 

 俺の質問に、神が質問で返す。

 

「貴様が知る物語の最後はどう締めくくられている?」

「記憶にある限りでは、主人公が敵を封印する代わりに死ぬはずです」

「その通り。貴様はその代わりになる」

 

 ………………はい?

 

「物語の筋道では主人公が魂を使い、肉体が死ぬ。そこで貴様が死に、主人公の魂の代わりとなることで主人公を救う。それだけだ。

 送る前に寿命と魂の動きをある程度こちらで設定しておくので、貴様は時が来るまでただ生きるだけで構わん。後は勝手に“世界を救った英雄”を救う事になる」

 

 神はあっけらかんと言い放つ。

 

 どうだ? これで失敗する事など無かろう? と……

 

 

 

 それから神は人の魂は等価ではなく、普通の人間を何百人救うよりも大勢の命を救った英雄を救う方が割がいいとか言葉は理解できる話の他に、言葉の意味すら理解できない話もしていたが、確実に分かった事は1つ。

 

 目の前の神にとっては、俺やここに来た人間なんてどうでもいい存在なんだ。

 

 相手が神ならそう考えるのも仕方ないかもしれない。でも、納得は出来ない。

 

 次々と浮かぶ家族や友人、恋人はいなかったけれど、可愛いなと思っていた学生時代のクラスメイトや同僚の顔……そして、彼らとの思い出。

 

 主人公が異世界に行く内容の小説を読んで楽しんだことはある。主人公になりたいと考えたこともある。でも、今は行きたいと思えない。世界を救う役目だって、誰でもいいじゃないか。

 

 そう考えたら、神はつまらなそうにこう言った。

 

「どのみち死んでいるのだから、家族や友の話など時間の無駄だ。ここに来た時点で貴様の道は1つ、貴様の意思など関係ない。貴様の言葉を借りるならば……私にとって貴様らはどうでもいい、送り込む魂も誰でもいい、だから貴様でいいのだ」

 

 心を読んだように……いや、神なら読めるのか。

 

「さて、もう面倒だ。最後に1つ貴様に命じる。貴様は時が来るまで死ぬことは許さん。それまではどれほど傷つこうと死にきれず、時が来るまで苦痛に苛まれ続けると心得よ。

 それ以外の事は勝手にするがいい。助けはせんが、縛りもしない」

 

 そこまで聞いて、急に立ちくらみを起こしたように目の前が揺れる。

 

「まっ……!」

 

 声がっ……俺は、納得してない!

 

「大人しくなったと思えばまた反抗するか。待たぬよ。貴様の納得も不要だ」

 

 ふざ、っ!

 

 突然に神の姿が変わる。人の面影すらない何かへと……ほんの一瞬その姿を見た途端に目の前が暗くなり、そこから先は覚えていない。

 

 次に目を覚ました時には赤ん坊になっていた。

 

 

 

 ~~~~~~~~

 

 

 

 この世界に生まれて15年、最初は今生の名前が“葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)”に変わっていたせいで戸惑ったっけ……また走馬灯……って縁起が悪い!!

 

 「死んでたまるかぁ! 死にきれないなら余計に死んでたまるかぁ!!」

 

 もう自分が何言ってるかも分からなくなってきたけれど、体の力を振り絞って辰巳ポートアイランド駅前の広場に駆け込む。

 

 だが、ここでシャドウが徐々に距離を詰めてくる。疲労が溜まった足よりシャドウの方が早いらしい。

 

 「くそっ! ……イチかバチか……うぉおおおおお!」

 

 雄叫びをあげて駅と駅前広場を繋ぐ階段の横。昼間なら花屋“ラフレシ屋”がある壁に駆け寄り、思い切り跳躍する。

 

 「ふっ!」

 

 壁を駆け上り、壁の高い位置を蹴って後ろへ飛び、シャドウを飛び越える。

 

 「グギィ!?」

 

 俺を追ってきたシャドウは勢い余って壁へ激突。耳障りな悲鳴を上げて動きが止まり、俺はバック宙の要領で一回転してシャドウの後ろへ着地。そして動きが止まってる間に逃げる。

 

 「見たか! これでも、鍛えてるんだ!」

 

 危険に巻き込まれる可能性があるのは分かっていたから、まともに体を動かせるようになってから色々やってコツコツ鍛えてきた。七年半前、影時間が生まれてからは特に。

 

 なぜなら、ペルソナが全く使えなかったからだ。

 

「今こそ必要な時だろうに」

 

 影時間を体験している以上、適性はあるはずなのに一向に使える気配がない。影時間を知ってるから仲間に入れてください、なんて積極的に原作キャラに関わるつもりも無いし、召喚機が無ければ使えないなら一生使えない事も覚悟した。そうなると頼れるのは己の体のみ。だから今日までがむしゃらに鍛えてきた。

 

 意地でも逃げ切る……

 

 「って、もう来やがった!」

 

 考える余裕もなく、またさっきの路地裏へ逆戻り。距離がじわじわと詰められて、とうとうシャドウの細長い手が迫る。

 

 「っ! 行き止まり!?」

 

 駆け込んだ路地の先は逃げ場のない袋小路になっていた。

 

 これはマズイ、別の道うおっ!?

 

 背後から鋭い爪が振り下ろされた。ギリギリで気づいて避けられたけど、今の回避で俺の体は袋小路へ。唯一の逃げ道はシャドウが立ちふさがっている。

 

 「……やるしかないか」

 

 服装はただのシャツとジーンズだけど、目の前のシャドウはゲームで“臆病のマーヤ”と呼ばれていた、最初に出てくる雑魚のはず。体が横幅2mくらいで、今まで遠くから見た事のある奴よりでかいけど……

 

 「キィイ!」

 

 耳障りな声と共に右の爪が横に振るわれ、俺は後ろに下がって躱す。

 続けざまに左の爪が、俺の頭をぶち抜く勢いで突き出される。

 

 膝を曲げ、体を屈めて重心を後ろへ。突き出された手首を両手で掴んで上へそらす。

 

 「ハァッ!」

 

 後ろに傾かせた体を使って後ろに下がり、全力で掴んだ手首を引く。

 

 「キイッ!?」

 「セイ!」

 

 伸びた手をさらに引っ張られた事で、上手くシャドウが引き倒されてくれた。すかさずシャドウの顔、仮面へ掌底を打ち込む。

 

 「くっ……」

 「ギイイイイッ!?」

 「うぉおおおおお!!!」

 

 仮面は固く、掌に壁を殴ったような衝撃が伝わったが、シャドウの悲鳴で効いているのが分かった。ならば、と左右の手で連打。

 

 「ギイ!」

 「おっ! と……」

 

 流石にシャドウもただ殴られてくれるはずもない。殴られながらも体制を立て直して、俺を振り払うように爪を振るった。

 

 少なくとも、全く抵抗できない事はなさそう……体よりも仮面を殴られる方が嫌みたいだ。

 

 「がっ!?」

 

 そう考えたその時、脇腹に強い衝撃と鈍い痛みを受け、体が浮いて路地の壁に叩きつけられる。

 

 「ゲホッ……嘘、だろ……?」

 

 咳き込みながら体の痛みに耐えて目を開けると、俺が戦っていた臆病のマーヤだけでなく飾り物を付けた女性の生首のシャドウ、“囁きのティアラ”が髪を触手のように揺らめかせて浮かんでいた。

 

 「どっから、湧いて出たんだよ……」

 

 あの生首に髪でぶん殴られたのは分かったけど、ヤバイ。

 脳震盪? 体は痛むし、力が入らない。

 

 「くっ、動け、動けって」

 

 俺がもがいている間にも、二体のシャドウはにじり寄ってくる。

 錯覚かもしれないけど、怯える獲物の姿を楽しむような嗜虐性と、目の前に美味そうな食事が並べられているような興奮を感じる。

 

 ここまでか……

 

 今度の人生も、短かったなぁ……

 

 あの神のせいでこの世界にきた当初は、何もかもが気に入らなかった。

 赤ん坊だったから、よく泣いてよく暴れた。

 そんな俺に、両親はずっと良くしてくれた。

 成長してもそれは変わらず、いつの間にか不満の大半は無くなっていた。

 前世の経験があるから小・中の勉強は楽勝で、変わりものか天才児に勘違いされたけど、学校にはそれなりに友達も居た。

 ……あの神に感謝はしてない、あの神は気に食わない。

 でも、あの神に与えられたこの人生は、幸せだったと思う。

 もうすぐ死ぬのは分かってたんだ。……もう、いいかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいのか?』

 

 誰かの声が聞こえた気がする……何が?

 

『本当にこのまま死んで、いいのか?』

 

 ……

 

『死にたいのか?』

 

 そんなわけない。

 寿命まではまだ今年を含めて2年あるんだ。

 時間の許す限り生きていたい。

 死に方だって選びたい。

 こんな道端で化物に食われて死ぬより、ベッドの上で死にたい。

 関わりたくはないけど、俺が身代わりになる主人公とその仲間は一目見ておきたい。

 死にたくない。

 

『なら、生きろ』

 

 体も動かないのにどうやって?

 

『あがけ』

 

 あがけって、そんな適当な……

 

『それ以外に何もできないだろ?』

 

 まぁ、そうだな。

 

『さぁ、どうする? 時間が無いぞ』

 

 声の言う通り、臆病のマーヤが両手と体を広げて俺の体に覆いかぶさろうとしている。

 

 俺は、やっぱり生きていたい!

 

 そう思ったら体に力が少しだけ戻った気がした。

 

 臆病のマーヤが倒れ込んでくる。咄嗟に左腕で体を支え、右手を握った拳を迫るシャドウの仮面に向けて突き出す。

 

 「ギヒィイ!!!」

 

 俺の拳にヘッドバットをかました臆病のマーヤが一際大きい声で叫び、体を仰け反らせた。

 俺は立ち上がらずに横へ転がり、のけぞるシャドウと道の隙間へ飛び込む。

 

 「うっ……!」

 

 上手く隙間を転がり出て立ち上がったのに、逃げる直前で起きた急な立ちくらみに足が止まってしまい、また生首に狙われる。

 

 鞭として振るわれ、風と風を切り裂く音を纏った髪が俺に当たる直前、また頭の中に声が響いた。

 

『我は汝、汝は我』

 「キィ!?」

 「あ、あれ?」

 

 腕を交差させて攻撃を受けたら、直撃したのに痛みが無く、シャドウが始めて俺を警戒するように距離をとる。

 

 気づけばいつの間にか俺は着たおぼえのない黒のロングコートを着て、両手には同じ素材の黒い手袋、右目には泥棒が持っていそうな片眼鏡を付けていた。

 

 これ……ペルソナか!?

 

 疑問と同時に“力”の使い方が頭へ流れ込み、理解した瞬間、何かが体を突き動かした。

 俺は衝動的に2体のシャドウに向き直る。

 

 逃げ続けても追われるだけ。今なら、いける。まずは

 

 「ディア!」

 

 回復魔法を使えば体の痛みが消え、体に力が戻る。けれども、その間に生首から髪の連続攻撃が来た。

 

 「スクカジャ!」

 

 命中・回避能力上昇のスキル。生首の攻撃を把握でき、回復したこともあって体が軽い。自分でも驚くほど体が動いて、攻撃は全て空を切る。

 

 そのまま臆病のマーヤに接近しながら、今度は攻撃力を底上げする。

 

 「タルカジャ!」

 

 体にいっそう力が漲り、臆病のマーヤまであと二歩。

 

 「ラクンダ!」

 

 伸びてくるマーヤの両手をくぐり抜け、防御力を低下させるスキルを使い、渾身の一撃を叩き込む。

 

 「ギィイ! ッ……」

 

 カウンター気味にシャドウの仮面へ拳がめり込み、割れた途端に臆病のマーヤが溶けるように消えた。

 

 あと一体!

 

 「キィッ!? キッキッ!」

 「待て」

 

 臆病のマーヤが倒されたことで逃げ出そうとする生首。でも、髪を掴み取ってやれば逃げられない。そして

 

 「アギ」

 

 俺が生首を睨んで呟くと何もない空間に突然小さな爆発が起こり、生首を炎が飲み込む。

 炎と煙がはれた時、そこには生首の影も形もなく、手元の髪は先端から消えていった。

 

 

 

 

 

 「助かった……」

 

 ペルソナを使い始めてからは軽く倒せたけれど、それまでの疲労がシャドウが消えた安心感と一緒に押し寄せてきて、路地のど真ん中でつい座り込んでしまう。

 

 「これが、俺のペルソナか」

 

 身につけた装備に意識を向けると、それらは実態の無い煙となり、俺の前で人型に変わる。

 黒い短髪に黒い目、シャツとジーンズを着て道端に座り込む、鏡写しの俺の姿。

 

 俺のペルソナ“ドッペルゲンガー”

 

 今は俺の姿をしているけど、本当は特定の姿を持たない。

 その代わりに変身が可能で武器や防具に変身できる。

 

 少し驚いたけどペルソナと合体させた武器もあるんだし、装備品の入手方法を持ち合わせていない俺にとっては都合がいい。

 

 物理と火氷風雷は全て耐性があり、光と闇は無効。

 ゲームでは聞いたことのない能力を複数持っていて、その全てが戦闘より逃げ隠れに向いているため“生き延びるためのペルソナ”という感じがする。

 

 「ペルソナが“ドッペルゲンガー”で、この能力。“もう一人の自分”か……まだ分からない事もあるけど……まず、帰るか」

 

 それから俺はドッペルゲンガーを装備品に戻し、本当の安全を求めて寮へ帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ、夜食買ってなかった……」




主人公&オリジナルペルソナ設定

主人公設定
名前:葉隠(はがくれ)影虎(かげとら)
性別:男
容姿:黒い短髪に黒い瞳。体はしっかり鍛えているが、どこにでも居そうな普通の生徒。
性格:転生前は生真面目。転生後も根は真面目だが、転生経験がどう影響したのか、時々微妙にはっちゃけ気味、時々不安定。幼少期から将来に危機感をおぼえ、鍛えていたため運動能力には自信あり。








ペルソナ:ドッペルゲンガー
アルカナ:隠者
耐性:物理と火氷風雷に耐性があり、光と闇は無効。

スキル:
補助とバステのスキルが中心、現在は対象が単体のスキルのみ使用可能。
魔法攻撃スキルは火、氷、風、雷の単体攻撃四つのみ。光と闇の即死系は使用不可。
物理攻撃スキルは一つも無い。
回復も出来るが、やはり現在は効果が単体のスキルのみ。
一日一回だけ“トラフーリ”という逃走用の魔法が使える。
逃走、隠密行動用の能力を複数持つ。

備考:
特定の姿を持たない代わりに変身が可能で装備品にもなる。召喚に召喚機は不要。
防御力と敏捷性は高いが攻撃力に欠ける。
戦闘より逃げ隠れに特化した生き延びるためのペルソナ。
とある秘密が隠されている?

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