人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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199話 舞台決定

 午後

 

 ~ダンススタジオ~

 

 苗の植え替えや久慈川さんへのメール。

 そして生徒会の仕事にも参加してから撮影にやって来た。

 しかし、少し来るのが早すぎたようだ。

 メイクは終わり、台本も頭に叩き込んだけれど撮影準備が整っていない。

 ダンスの自主練習は、残念ながら撮影準備の邪魔になってしまう。

 

 代わりに演劇の台本を読んで役作りをすることにした。

 

 主人公のめまぐるしく変化する立場とその心境の変化。

 台本と照らし合わせながら脳内で表にする。

 さらにそこへ対応する感情を照らし合わせて流れをつかむ……

 

「おはようございまぁ~す」

 

 アレクサンドラさんが来たようだ。

 

「おはようございます」

「おはよう。葉隠くん早いのね。もうメイクもバッチリじゃない。……あら?」

 

 彼の視線が俺の手元で止まる。

 

「なぁに? その本」

「これですか? 演劇の台本です。今度の文化祭で、うちのクラスは演劇をやることになったので」

「あら! まぁそうなの、いいわねぇ~文化祭。青春って感じ! いつやるの?」

「次の土曜日です」

「もう一週間もないじゃない! いつから練習してたの」

「……先週から」

「えっ、間に合うの?」

「頑張るしかないです」

 

 もう決まってしまったことなんだから。

 今更変えられないし、どちらもおろそかにしたくはない。

 

「じゃあ、頑張ってね。私はお邪魔しないようにしておくわ。でもダンスのことなら何でも聞いてね」

 

 静かに立ち去る背中に、アレクサンドラさんからの気遣いを感じる。

 ただウインクは余計だと思う。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

「フィニッシュ! オッケー。すごくいいわ。もう大体の動きは掴めたみたいね」

「はい!」

「ならもう一度、もっと細かいとこまで気をつけて通すわよ。指先の先端まで意識を巡らせてもう一度。ミュージック、スタートッ!」

 

 撮影とダンスレッスンが続いている。

 タルタロス探索のおかげで体力には余裕がある。

 しかしタルタロスよりも体力の消耗が早いようだ。

 まだダンスに慣れていない。自分のものにできていない証拠。

 アレクサンドラさんのように、もっと自然に動けるように。

 ひとつひとつ丁寧に動きの問題点を解消していくことを考えて、ひたすら踊り続ける。

 

「カットー! そろそろ休憩入れます!」

「お疲れ様でーす」

 

 撮影が休憩時間に入った。

 効率よく学ぶためには、適度に休まなければならない。

 

「葉隠君。ちょっといいかな? Ms.アレクサンドラも」

「プロデューサー、お疲れ様です。もちろんです」

「何かあったのかしら? プロデューサーさん」

「未定になってた結果発表の舞台が決まったから、その連絡にね」

 

 ああ、確かどこかで結果を披露することになっていたな。

 その場所が決まったのか。

 

「発表の日時は9月20日の土曜日。場所は葉隠君の通っている、私立月光館学園の講堂だよ」

「……えっ?」

 

 うちの学校の講堂? それにその日程だと、

 

「文化祭の日に丸被りなんですが」

「うん。だから文化祭のステージで大々的に披露するのさ!」

「嘘でしょう……本当に?」

「ほんとほんと。文化祭も盛り上がるし、全面協力してくれるってさ。それに伴って、明日から文化祭準備の様子を撮るためにカメラを入れるから、よろしくね。本番当日までは別番組の取材ってことにするから」

 

 マジか……うちの学校、なんでもかんでも許可しすぎじゃない?

 ついこの間までマスコミ対応で苦労してたのに。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるってこういう事なんだろうか……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・11F~

 

  天田との探索中。

 

「? 天田、ちょっとこっちに行ってみよう」

「どうかしたんですか?」

「なんか、はじめて感知する形状のものがある」

 

 脱出装置でも転送装置でもない。

 人やシャドウでもない。

 経常的には宝箱に近い……しかしこれまで探索中に発見した宝箱とはサイズが違う。

 気になって、確かめる為に小部屋に足を踏み入れる。

 するとそこには、光り輝く宝箱が浮かんでいた。

 

「!! そうか、レア宝箱!」

「レア宝箱?」

「タルタロスの中で見つかる宝箱には、普通のとは違うレア物もあるんだ。中身も相応に貴重なものが入ってる」

 

 説明しながら箱を開けてみると……

 

「刀ですね。でも、なんだか大きくないですか?」

 

 このサイズは太刀だ。

 そして柄に数珠が巻かれている……

 レア宝箱の武器で、数珠。

 

「おそらく“数珠丸恒次”だと思う。未来の順平の武器だ」

 

 ベルベットルームで受けられる依頼に、数珠丸恒次を見せて欲しいというものもあった。

 おそらく間違いはない。しかし……

 

「これどうしよう……」

「使えないんですか? あんまり良い武器じゃないとか?」

「いや、レア宝箱から出ただけあって、この辺で手に入る武器の中では優秀だったはずだけど。太刀は使ったことないんだ」

 

 俺の戦い方は格闘・模造刀・小太刀二刀の三種類。

 太刀は使ったことがないので不慣れだ。

 下手に使って悪くしてしまっても勿体無い。

 

「本物かレプリカかは分からないけど、本物の数珠丸恒次なら“天下五剣”って五振りの名刀の一振りに数えられる、ものすごい刀なんだよ」

「だったら、とりあえず持って帰りましょうよ。それでサポートチームの人に相談するとか」

「それが一番かな」

 

 今日のところは、適当なコインロッカーを借りて入れておこう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月15日(月)

 

 朝

 

 ~講堂~

 

「文化祭を成功させたいかー!?」

『ウォオオオオ!!!!』

「よーし! 文化祭を盛り上げるぞ!!」

『オオオオオオ!!!!!!!』

 

 朝礼で再び生徒たちを煽った。

 全校生徒と教職員の士気が上がった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

「アーノルドー、どうして、しまったんだー」

「あなたはそんな人じゃなかったでしょう!?」

「っ! ……黙れ黙れ黙れッ!! 誰に向かって口を利いている! ……この者共を捕らえて牢へ放り込め! 明朝、日の出と共に首を刎ねるのだ!」

「「「ははっ!」」」

「そんな! 待ってよ! 村にいた日々を思い出して! アーノルド!」

「おまえは、ほんとうにひとのこころをうしなってしまったのかー!」

 

 ……

 

「カーット! そこまで! 葉隠君ナイス!」

「ありがとう」

「島田さんも良い感じ!」

「どんなもんだー!」

「石見君は棒読みなんとかして! カメラは気にしない!」

「分かってるよ!」

「衛兵三人組は問題ないと思う」

「「「俺らの扱い適当じゃね!?」」」

 

 総合監督、もとい実行委員の佐藤さんからの感想と返事が飛び交う中、

 

「練習中失礼する」

 

 桐条先輩がやってきた。

 

「桐条先輩!?」

「美鶴様がどうしてここに……?」

 

 突然の登場でざわめくクラス。

 

「先輩、何かありましたか?」

「練習中に邪魔をしてすまない。できれば放課後に少し時間を貰いたいんだ。ステージの使用について調整が必要になってな」

 

 ステージの使用。つまりテレビの件か久慈川さんの件だな。

 

「また、それに関係する来客もある。その方々を交えて話し合いたい。時間はだいたい1時間程度あればいいそうだ」

「分かりました。予定を空けておきます」

「よろしく頼む。後でもう少し詳しい事情をメールで送っておく」

 

 そう言い残し、桐条先輩は慌しく立ち去った。先輩も忙しそうだ……

 

「ねぇ葉隠君!」

「今の会話、どういうこと!?」

「桐条先輩とメールのやり取りしてるの!?」

「というか美鶴様のアドレスを知ってるの!?」

 

 興奮している先輩のファンには、生徒会役員として仕事上の連絡用と伝えてなだめる。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~小会議室~

 

 ホワイトボードと円卓のみが置かれた部屋で、俺と先輩は会議の準備をしていた。

 

「講堂の図面を初めとした資料、全て整いました」

「こちらも席次の確認が終わった。すまないな。急に手伝わせて」

「いえ、俺も関係のあることですから。それにしても、久慈川さんの事務所からOKが出たんですね」

「確かに急な話ではあるが、無名のアイドルを起用してもらえる貴重な機会はありがたいそうだ。おかげで謝礼も安く済んだ」

 

 久慈川さんを安く呼べる、か。

 

「楽しそうだな」

「そうですか?」

「今にも笑い出しそうな顔をしていたよ」

 

 そんな顔をしていたようだ。

 確かに笑える。

 

「数年で彼女の人気は一気に上がりますよ。だから、相当にお得な依頼になると思います」

「ほう? ずいぶんとその久慈川さんを買っているのだな」

 

 買っているというよりも、成功する未来を知っているから当然のこと。

 少なくとも素養は十分にあるはずだ。

 

「個人的に応援しているのも事実ですが、彼女は俺のお客様でもあるので。確信しています」

「占いか……よく当たるらしいな、君のは」

「おかげさまで、ようやく一人前を名乗れるようになりました」

 

 オーナーの許可が出て、バイト中の占いによる1回あたりの料金が上がった。

 そして俺の報酬が増えた。

 もっとも、現在は希望者を制限しているためそれほど大きな儲けにはならない。

 

「先日の件から急激に希望者が増えてしまって。ありがたいことですが、制限しないと他の仕事ができなくなりかねないので」

「あまり無理はするなよ。君に倒れられると困る」

 

 桐条先輩から冗談と本気が交ざった気遣いを感じた、その時。

 

「失礼します」

 

 会議室の扉が開き、鳥海先生と共に近藤さんが入ってきた。

 

「お待たせしました」

「急に呼び出してしまってすみません、近藤さん。桐条先輩、こちらはプロジェクトの件で俺のサポートを担当してくださる近藤さんです」

 

 初対面の先輩に近藤さんを紹介。

 お互いに挨拶を交わしているうちに、案内役の鳥海先生は立ち去った。

 

 と思ったら、5分もたたないうちに久慈川さんと若い男性を連れて戻ってきた。

 

「お、おはようございます! タクラプロの久慈川りせです! このたびは」

「緊張しすぎだろ」

「は、葉隠先輩!?」

 

 入ってきた瞬間から緊張が全開だったので、声をかけてしまった。

 

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ。ねぇ? 桐条先輩」

「ああ、全く問題ない。君が久慈川さんか。私は月光館学園の生徒会役員を勤めている桐条美鶴。この度は急な出演依頼を聞いていただけた事、感謝している」

「こちらこそ! 私みたいな新人に文化祭のステージとか、そんな立派な機会を与えてくださって、お礼を言わなきゃいけないのはこっちですよ! ですよね、井上さん」

「そうだね」

 

 久慈川さんと入れ替わるように、後ろにいた男性が前へ出てくる。

 彼が久慈川りせのマネージャー、“井上さん”か。

 

 彼は懐から名刺入を取り出し、俺たち三人に丁寧に名刺を配りながら挨拶をしていく。

 物腰穏やかだが、若いから近藤さんと比べるとやや頼りなさそうに見える。

 

 ……偏見かな?

 

 正直俺は、彼にあまり良い印象がない。

 

 ペルソナ4の久慈川りせイベントで登場した彼は、最後に久慈川さんに才能があると思っていた事と、だからこそ引退を撤回しないのが残念だと告げて立ち去る。さらにその後、久慈川さんが現役時代そんなこと一度も言ってくれなかったのに……とつぶやくシーンもあった。

 

 彼はマネージャーをしていた間、一度もそういう言葉をかけたことがないのか?

 

 ……久慈川さんに聞いた覚えがないだけかもしれない。

 だがそもそも彼女は芸能生活のストレスで悩み、引退を決めて八十稲羽市にやってくる。

 そして引退をマネージャーに告げたのは、最後のライブの直前。

 

 ギリギリのタイミングまで相談しなかった久慈川さんが悪いのだろうか?

 相談が無くても、彼女の様子から精神状態に気づくことはできなかったのだろうか?

 本人の努力と忍耐が重要としても、負担を軽減することはできなかったのだろうか?

 彼一人の責任ではないだろう。しかし久慈川さんはまだ中学生。

 未成年アイドルへのメンタルケアに疑問が残る。

 

 立ち居振る舞いやオーラを見た限り、井上さんから悪いものは感じない。

 

 それに続編のペルソナ4ダンシングオールナイトでは、久慈川りせの復帰イベントである“絆フェス”に、4の仲間(素人)を出演させることを許可し、関係各所にも認めさせる寛容さを見せている。

 

 悪人ではないとしても、有能でもないのかもしれない。

 いや、素人を大規模なフェスに参加させることを認めさせることができるなら有能か?

 よくわからないな……とりあえず要注意だ。




影虎は課題の振り付けを覚えた!
発表の場が文化祭のステージに決まった!
影虎はレア宝箱から“数珠丸恒次”を手に入れた!
影虎は演技の練習と指導を行った!
影虎は会議の準備をした!
久慈川りせの文化祭ステージが決まった!
影虎はマネージャーの井上と顔を合わせた!
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