人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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207話 月光祭

 影時間

 

 ~タルタロス前~

 

 人は………………いない。

 

 昨日の今日で見回りを警戒していたが、どうやらノーマークのようだ。影時間に入る前に、桐条先輩から真田を抑えたことに対するお礼メールが届いていたから、試合を約束した効果があったのかもしれない。

 

 俺にとっては都合がいい。

 

『集合』

 

 魔術で合図を出すと、昨日隠れさせた8体の偵察用シャドウが速やかに集まってくる。

 

 しかし、

 

 

 ~タルタロス・2F~

 

「これだけか……」

 

 タルタロスに隠れさせたシャドウは3体しか見つからなかった……

 内訳は戦闘用シャドウが2体。回復用シャドウが1体。

 全身に傷を負っていたので、おそらくタルタロスのシャドウにやられたのだろう。

 召喚シャドウは通常のシャドウに敵とみなされるようだ。

 

 傷ついたシャドウの治療をしながら考える。

 

 召喚シャドウは戦闘のダメージなどで激しく消耗すると消滅するが、消耗に気をつけて適度に回復したり、エネルギーを供給してやれば日をまたいでも手元に留めておくことが可能。

 

 あまり数が多すぎると維持するだけでエネルギーを使い果たしそうだけど、何体かは戦力として常備しても良いかもしれない。偵察用シャドウも探索に便利だし。

 

 ……当面は帰宅前に安全な16Fに連れて行って、待機させよう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月20日(土) 文化祭当日

 

 朝

 

 ~生徒会室~

 

「いよいよだな」

「そうですね。桐条先輩」

 

 今日は普段よりも早い時間帯からクラスに集まり、最後の仕上げや開店準備に勤しんでいる生徒たち。そんな彼らのざわめく声も聞こえる中……

 

『平成20年度、“月光祭”を開催いたします!』

 

 流れた放送により湧き上がる校内。

 生徒たちの雄叫びが校舎に響きわたる。

 校門も開放されたようだし、やがて来校者も溢れかえるだろう。

 

「では、俺はこれで。あまり手伝えなくてすみません」

「君には君の仕事がある。そちらに注力してくれ」

「葉隠は見回り担当として、もし途中で何かあればすぐに連絡してくれ」

「私と武将はどっちが必ずここで待機してるからね」

「私も何度か巡回する予定だ。何かあれば遠慮なく声をかけてくれ」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言って生徒会室を出る。

 まだお客の少ない廊下を急ぎ、教室へと向かう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~教室~

 

「お待たせ」

「葉隠君来た! これで全員揃ったね」

「そっちに座って」

 

 うちのクラスは講堂での演劇が出し物なので、教室は至って普通。

 黒板前に立つ実行委員の二人を前に、自分の席へと座る。

 

「今日までやることはやってきたから、後はそれを本番の舞台でやるだけだよ! みんな頑張ろう!」

『オー!!』

「そのために最終チェックをしておこう。衣装や小道具は揃ってるよね?」

 

 その他開演時間やその前の集合時間について、もろもろの確認を行った!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 確認後

 

 演劇の集合は12時30分に講堂。

 上演は午後1時から1時30分。

 久慈川さんのステージが午後3時から始まり、俺のダンスは4時からの予定だ。

 

 つまり午前中は自由時間。

 見回りを兼ねて文化祭の出し物を見て回る。

 

「何あれ、プロレスラー?」

「Tシャツピチピチ過ぎぃ」

「高校生だしアマレスじゃない?」

 

 ……廊下ですれ違ったお客様に笑われている。

 祭りの雰囲気に溶け込めると思ったが、変装にマスクはやめたほうがよかっただろうか?

 それともTシャツが原因か?

 

 Tシャツは黄色い生地に黒い文字でE組のカフェの宣伝文句が書かれている。

 知らないうちにこんなものまで作っていたらしく、木村さんから貰った。

 サイズはやや小さい。

 

 ちなみにマスクはTシャツの黄色と黒に合わせて虎のマスクを用意した。

 と言ってもドッペルゲンガーだけど。

 

「うわぁぁああああ!!」

「キャー!?!!?」

 

 !! 誰かの悲鳴が聞こえる! いきなりトラブルか!?

 

「……ん?」

 

 悲鳴の元を探すと、そこには“1-B お化け屋敷”の文字が……

 

「今の悲鳴はこれが原因か」

「あれ? その声、もしかして葉隠君?」

 

 入り口前の受付から声がかかる。

 

「お疲れ様、岩崎さん」

「まだ始まったばかりだから、そんなに疲れてないよ」

「そう。……それにしてもすごい悲鳴だったね」

「うん。入る人みんな、しっかり怖がってくれてる。運営側としてはすごく嬉しい」

 

 それはそうかもしれないが、あまりやりすぎも困る。

 

「ちょっと入ってみてもいい?」

「もちろん。まだ並んでないし、すぐ入れるよ」

 

 ということで、実際にB組の教室に入ってみると、

 

「……」

 

 一歩踏み込んだ瞬間から空気が変わった……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「……ただいま」

「あっ、おかえり。すごいね、叫ばず出てきた人は初めてだよ。怖くなかった?」

「慣れてたからね……ところでさ、所々に置いてあった人形とか置物とか、用意したの岳羽さん?」

「人形? そうだけど。良く分かったね。バイト先から借りてきたんだって」

「うん……だと思った」

 

 そうじゃなかったらオーナー呼ぶところだ。

 ここにいたのはそんなに危なくなさそうだけど。

 幸か不幸か、色々な意味で話せる(・・・)方々だった。

 

「とりあえず事故のないよう気をつけて」

「うん。葉隠君も演劇頑張ってね」

 

 岩崎さんと別れ、見回りに戻る。

 ……しょっぱなから凄く疲れた気がする……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 廊下

 

「あ、岳羽さん」

「え? ……ああ、分かった。なにしてんの? こんなとこで」

「午前中はフリーなんだよ。岳羽さんは?」

「私も担当は午後だから、ブラブラしてるだけ」

「……一人で?」

「最初は弓道部の友達と一緒だったけど、彼氏と一緒に回るんだって。てか、君も人の事言えないでしょうが」

 

 それもそうだ。

 

「そういえばB組の出し物、見に行ったよ。オーナーから色々と借りたんだね」

「あれは借りたと言うか……葉隠君、ちょっと時間いいかな? 相談したいことがあるんだけど」

 

 珍しいな。

 特に用もないので了解すると、

 

「じゃあ廊下で立ち話もあれだし、風花のとこ行こうか」

 

 E組のカフェへ行くことになった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~一年E組~

 

「いらっしゃいませ~。あっ、ゆかりちゃん。それに葉隠君も」

「お疲れ~、風花」

「お疲れ様。良く分かったな」

「だってそのTシャツ。うちのクラスかA組の人にしか配ってないもの。それに部活でよく見てる体格だから」

 

 ノータイムでバレたのは初めてな気がする。

 

「席は2人席でいいかな? まだ誰か来る?」

「二人で大丈夫」

「あー! ゆかり誰その人! 彼氏?」

「ばっ、違うって!」

 

 名前も知らないE組の女子生徒が茶化して、岳羽さんに怒られている……

 岳羽さんは相手の首根っこを掴んで、かなり真剣に怒っている……

 家庭の事情で恋愛話が嫌いだとは知っているけど、そこまで否定しなくてもよくない?

 

 茶化した女子生徒も慌てているし……

 

「山岸さん、先に席に案内してもらえるかな」

「えっと、ほっといていいの?」

「どうせすぐに気が済むでしょ。それに本当に付き合ってるわけじゃないし。何か珍しく岳羽さんが俺に相談したいみたいなんだよ」

「ゆかりちゃんが?」

「何の話なんだろうな……」

 

 席に案内してもらい、適当に紅茶を頼むとすぐに用意が整う。

 山岸さんの接客はかなり慣れた様子だった。

 きっとバイトで鍛えられたんだろう。

 

 そんなことを考えているうちに、誤解も解けたようだ。

 

「お疲れ様。さっきの人、友達?」

「部活関係のね。まったく、すぐそっちに結びつけるんだから」

「興味があるんでしょ。で、相談は?」

「そうだった……今更だけどさ、私たちのバイト先っておかしくない?」

 

 バイトの件か……

 

「言いたい事は分かる。ちょっとどころじゃなく変わってる」

「やっぱりそうだよね……」

「そもそも江戸川先生の紹介で働き始めたお店だし。でもお店の人は皆、いい人たちだろ?」

「うん。それには同意する。けど……」

 

 ……何かがあったのは間違いなさそうだ。

 

「うちのクラスのお化け屋敷に、人形が置いてあるの知ってるでしょ? あれ、本当は借りてきたんじゃないんだよね」

「?」

 

 借りてきたんじゃない。しかし勝手に持ち出したとは思えない。

 まさか……

 

「もしかして勝手についてきた?」

「いつのまにか部屋にあったの……」

「あー、あるある」

「あるある~じゃないって!」

「ちょっと、声、声」

 

 他のお客様が何事かとこちらを見ている。

 それに気づいたのか、彼女はきまずそうに周囲へ頭を下げる。

 

「……でね、その次の日にバイト行ったらオーナーが人形探してて」

「それでオーナーの持ち物だと発覚したわけね」

「……葉隠君もあったの? こんなこと」

「前話したことなかったっけ? 俺の場合はバイオリン」

「……思い出した。まだ真田先輩と試合する前だっけ? よくある迷信だと思ったのに……」

 

 岳羽さんは幽霊とか苦手なんだよな。言ったらムキになられて面倒になるから言わないけど。……でもそう考えると、よくバイトを続けてるな。夏休みは責任感と意地でなんとか押し通したとしても、夏休みが終わった今でも働いてるし。

 

 そもそも仕事ぶりを見る限り、霊とかそういうことに関係しない範囲では、特に無理をしているようにも見えない

 

 そこのところを聞いてみると、

 

「自分でもよくわからないけど……別に不満があるわけじゃないんだよね。前に話したっけ? 私、自立したいの。だからアルバイトは続けたい。今の仕事も楽しいよ。アクセサリーとか好きだから。

 それにオーナーは変わってるけど悪い人じゃないし、それに棚倉さんと三田村さんもいい人じゃん。だから本当に不満はないの。普段はふつーに居心地いいっていうか。ただ時々、どうしていいかわかんなくなる。特にその、そういうことの話になると……だから葉隠君はどうしてるのかな? って。人形の事があって、急に聞きたくなった感じ? ……こんなこと急に言われても困るよね」

「難しいな……そもそも俺の場合は、最初からオーナーの人となりをそれなりに知った上でバイトすることを決めたから」

 

 俺にBe Blue Vを紹介したのは江戸川先生だと教える。

 

「そうなんだ……」

「参考になるかわからないけど、俺の場合は一歩踏み出してみた。占いを習ってみたり、アクセサリーの作り方を習ってみたり」

 

 本当はそちらがメインの目的だけど……嘘も方便ということで。相手を理解しようとする姿勢や、コミュニケーションを円滑にしておくこと。これらはどこの職場でも大切になることだろう。

 

 ごく一般的な内容を自分の行動と絡めて話す。

 

「確かに葉隠君って、オーナーと色々やってるよね」

「……岳羽さんも何か習ってみたらどうかな? 例えばビーズアクセサリーなら手軽だし、趣味にもできると思う。そういうとこからゆっくり、少しずつ話を聞いてみたら?」

 

 ビーズでもアクセサリー作り、主にデザインの勉強にはなる。

 必要なら俺が間に入ってもいい。

 

「ん……じゃあ、今度お願いしていい?」

「わかった。それじゃ俺からオーナーに話してみるよ。ビーズアクセサリーでいい?」

「うん、それでおねがい」

「なら、少しは何か食べようか?」

「紅茶だけで長居するのもあれだしね。あ、すみませーん」

「はーい」

 

 岳羽さんの相談は一段落した。

 

 しかし、最後の方の反応が気になる。

 オーラを見るに、オーナーたちに悪い感情を持っていないのは事実らしい。

 しかし幽霊とかそっち系の話になると恐怖とか負の感情も混ざる。

 

 そして最後、オーナーとの勉強会については不思議な色のオーラをしていた。

 今もポジティブな明るい赤に加えて、ネガティブな暗い赤と青が混ざっている。

 特に暗い赤が何を意味しているのかがよく分からない。

 明るい赤は歩み寄ろうとする意思。

 青はそれでもやっぱり怖いのかな? と、ある程度推測できるが……

 オーナーにはついでに相談しておこう。

 

「葉隠君何にする? 話を聞いてくれたお礼に、ここは私がおごるよ」

「だったら……このケーキにしようかな」

 

 今は食事を楽しむことにした!




影虎は生き残った召喚シャドウ11体を回収した!
日中は16Fで待機させるようだ……
文化祭が無事開催された!
影虎は岳羽から相談を持ちかけられた!
岳羽には複雑な気持ちを抱えているようだ……
発表の時間が刻一刻と迫っている!!


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