人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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212話 神社の警備

 影時間

 

 ~長鳴神社~

 

 サポートチームから、原作では亡くなるはずの神主が生きているという事実を聞いた。

 いつ襲撃が行われるかわからないので、とりあえず天田と様子見に来たけれど……

 今のところ目に見える異変は無いようだ。

 周辺把握にも今のところ、俺たち以外に動くモノの反応は無い。

 

「……天田、動きにくくないか?」

「背中が少し突っ張る気がします。でもそんなに問題はないと思いますよ。足元はしっかりしてますし」

「ん~……一応サイズは余裕を持って作ったと思ったんだけど。やっぱりコントロールがまだ甘いか」

 

 天田には装備の上から服の型で(・・・・)召喚した偵察用シャドウを着てもらっている。

 全身を包むツナギに覆面をかぶせたようで、不恰好だが効果はちゃんと出ている。

 目的は桐条先輩の探査妨害。

 タルタロスよりも巌戸台分寮が近いので、より一層の注意が必要だ。

 

「そんなに気にするほどでもないですよ。足元はしっかりしてますし。今度からタルタロスに行く時もこれでいいんじゃないですか?」

「ストレガには俺が誰かと行動してると知られたくない。棺桶ならまだ人攫いで通じる」

「それで通じるんですか?」

「影時間使って人殺しをしてる奴らだ。否定はしないだろうし、できないだろ。やる事は違っても、同じ穴の(むじな)になったと思わせておけば良い。合うたびに俺を観察している節はあるけど、犯罪行為にそれほど興味を持つとも思えない」

 

 幸いサポートチームの方々から色々と便利に使えそうな、嘘の仕事内容を教えてもらった。

 使わないのが理想だけど、言い訳はある。

 

「先輩、ちょっと変わりましたね」

「……それ桐条先輩にも言われたんだけど、そんなにか?」

「変わってますよ。はっきり感じたのは帰国してからですけど……たぶん、ルサンチマンを使ってから。なんだか良い方向にも悪い方向にも躊躇が無くなってる気がします。……ルサンチマンの後遺症ですか?」

「後遺症、というのは少し違うかな」

 

 結局のところあれも俺自身。

 ドッペルゲンガーに戻っても、消えたわけじゃない。

 進化をさせたあの時、あの瞬間に生まれたわけでもない。

 昔から今までずっと俺の中にあるんだと思う。

 ただそれを自覚したことで、多少素直になった可能性はある。

 

 でも何も知らない振りをして桐条先輩の動向を探ったり、地下闘技場に通ったり。

 ルサンチマンを使う前から悪事に手は染めていたし、必要と思えば嘘もついてきた。

 

「元からこんな感じだった気がするから、やっぱりそんなに変わった実感はないんだよな……」

「……そこまで考えこまなくても。というか、僕が言えることでもないですよね」

「確かに天田の目標は明治6年から法で禁止されてるが……犯罪行為に対して疑問を抱くのは間違ってないと思うぞ」

 

 天田のぺルソナは“義憤”の女神、アルカナも“正義”だ。

 復讐を望んでいても、犯罪に対する忌避感、正義感は常識的なものを持っているんだろう。

 

 気まずい沈黙が流れる……

 しかし、天田が心の内に抱える迷いに気づけた。

 天田との関係が少し深まった気がする……!

 

「天田、動くモノを感知した」

「! 敵ですか」

「いや、この大きさと形は犬だ」

 

 影時間に動ける犬といえば一匹しか知らない。

 もう適性を持っているとは思わなかったけど。

 

「向こうはこっちに気づいてるらしい。慎重に近づいてきてる。できるかぎり友好的に接触するけど、気をつけろよ。最悪ペルソナの魔法が飛んでくると思え」

「はいっ!」

「ッガウッ!」

 

 天田の声に応じるように、公園横の茂みからコロ丸が飛び出してきた。

 

「グルルルル……」

 

 牙をむき出して唸るコロ丸に正面から相対。

 ゆっくりと手を広げ、武器を持っていないことをアピール。

 

「夜遅くに失礼。だけど敵意は無い」

「グルルルル……」

 

 ルーンの力を使う必要も無く、オーラだけでその感情がわかった。

 警戒は募るばかり。そして、

 

「ガウッ!」

 

 飛びかかるコロ丸。

 牙が、爪が、前に出た俺の喉に迫る。

 

「っ!」

 

 それをあえて避けずに腕で受けた。

 

「グフン!?」

「先輩!?」

「……結構痛いな……」

 

 牙は届かないが、強く圧迫される。

 コロ丸の顎の力は思いのほか強かった。

 しかしその代償として、コロ丸の機動力が大きく削がれている。

 この隙に、パトラを使用。

 

「!? ……? ……??」

 

 おっ? 自分に何かされた、ということは自覚できたようだ。

 ただ、何も変化が無いのに戸惑っている?

 とりあえず、

 

「少し落ち着いてくれたかな? こちらに君と戦う意思はないんだ。コロ丸。もちろんここを荒らすつもりもないし、人に危害を加えるつもりも無い」

「……」

 

 コロ丸はそっと口を離してくれた。

 しかしまだ警戒は解かれていない。

 まぁ、顔も見えないこんな格好(忍者装束)じゃ仕方ないかもしれないけど。

 

「先輩、怪我は?」

「大丈夫。ドッペルゲンガーの下に防具を着込んだ上からだから」

 

 噛まれた腕部分を露出させ、天田に無傷だと示す。

 すると、

 

「……クウン?」

「おっ、何だ? ちょっ」

「フンフンフンフン!!」

 

 コロ丸が腕の匂いを嗅ぎ始めた。

 そして、

 

「フンッ」

 

 綺麗なおすわり。警戒も解かれたようだ……

 

「どうした? 急に」

「ワフン」

 

 ?

 

「敵じゃないって分かったんじゃないですか?」

「匂いで? ……あ! まさか」

 

 コロ丸とは何度か会った事がある。

 もしかしてその時の匂いを覚えてるのか?

 

「ワフッ」

 

 当然! とでも言いたげだ。

 

「じゃあ、僕も分かるかな?」

 

 天田も右手だけシャドウの服から出してみた。

 

「フンフン……!! ハッハッハッハッ!!」

 

 コロ丸は嬉しそうだ!

 

「だいぶ懐かれてないか?」

「先輩に会う前までは、学校帰りにここに来る事も多かったんです。それで時々給食の残りのパンとかあげたりしてたから」

「ああ、なるほどな」

 

 天田のおかげで警戒が解けたので、落ち着いて事情を説明。

 

 すると驚いたことに、コロ丸は影時間やシャドウの存在を知っていて、説明すればあれの事かとすぐに理解した

 

「いったいいつから」

「ク~ン……」

「先輩、何て言ってるんですか?」

「……魔術の効果がまだ弱いのか、雰囲気しか分からない。けどだいぶ前から知ってたみたい」

 

 だからコロ丸は影時間になると、神社周辺をこっそりとパトロールするのが日課だったらしい。

 

 確かにコロ丸が具体的にいつから適性を持っていたか、という情報はなかったけど……でも、影時間とシャドウを知っているなら話が早い。

 

 俺達はシャドウを倒すために活動している。

 近いうちにここにシャドウが現れる。

 ある程度予測ができるとコロ丸に伝えたところ……

 

「ワフッ」

 

 ここを守るのは自分の仕事だ。

 

「と、言いたいようだ」

「でも……」

「分かってる」

 

 こうしてしばらく交渉を続けた結果、俺達が影時間の神社に来るのは認めてくれた。

 しかし仲間になるわけではないので、そこは今後の努力が必要。

 ひとまずは俺と天田の存在を他言しないよう、口止めをしておいた。

 

 他言も何も、こんなこと誰に話せばいいんだ……的な目を向けられたけど。

 

「俺達にとっては重要なんだよ」

「ワフゥ……」

 

 真剣に念押しすると、分かってくれたようだ。

 とりあえずこの件については協力者が増えた、ということでいいだろう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月22日(月)

 

 朝

 

 ~教室~

 

「おは……何やってんの?」

 

 クラスメイトが教卓の前に集まっている。

 そこに集まられると座れないんだが……

 

「あっ、葉隠君来た!」

「影虎ー、またなんか騒がれてるぜ。マスコミって人の事をすぐネタにするのな……」

 

 ややうんざりした顔の順平が持ってきたのは、

 

「げっ、週間“鶴亀”じゃん」

「今回は文化祭の事がネタにされてる。ほとんど演劇の事だけど」

 

 ……本当だ。西脇さんの言う通り、ほとんど演劇の事しか書かれていない。ダンスについては最後にほんの少しの情報が付け加えられているだけ。それも相変わらず俺のことを褒める方向の記事で、雑誌全体の雰囲気から若干浮いている。

 

「あんだけ盛り上がってたんだし、Ms.アレクサンドラとかカメラが来てたのにな」

「テレビ番組の撮影だから、配慮したとかじゃない? ほら、ネタばれにならないように、とか」

 

 憶測が飛び交う教室で、目に留まるのは演技をしている俺自身の写真。

 

「どうした? まだ変なところがあったか? 悪口とか」

「宮本……いや、書かれていることは特に変じゃないんだけど」

 

 問題は掲載されている写真。

 角度からして、どう見ても講堂の客席から撮られた写真だった。

 

「演劇に関しては文章も臨場感たっぷりに書いてあるし、たぶん鶴亀の記者があの場にいたんだなと思ってさ。名前は……“北川”らしい」

 

 文末に名前が書かれている。

 写真のポーズから撮影されたシーン、そして時間の割り出し。

 当時の俺の立ち位置を把握。さらに取られている角度から講堂のどのあたりかを確認。

 演技中に見えた観客席の記憶と照らし合わせ、撮影者候補の顔と背格好も特定した。

 これと名前があれば、サポートチームの方々なら特定できるだろうか?

 とりあえず先輩やサポートチームに報告して、要注意対象としておこう。

 

「まぁ、特に悪いことが書かれてるわけでもないし。この記事で炎上とかはないだろ」

「どっちかっつーとテレビ出演の方がよっぽど騒がれてるよな」

「だよねー」

 

 みんなが笑っている。

 どうやら記事の内容には誰も興味が無かったようだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~教室~

 

「起立! 気をつけー、礼!」

 

 今日の授業が終わった。

 

「だはーっ! つっかれたー!」

 

 先生が教室を出ると同時。

 順平が机に突っ伏した。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫……じゃねぇかも……」

「おいおい……」

「なんかさー、今日の授業、急に難しくなった気がしねー?」

「“授業が難しくなった”と言うよりも、“進行速度が上がった”って感じはしたな」

 

 文化祭準備で遅れた分を取り戻すためだろう。

 

「10月中旬にはまた定期考査があるしな」

「定期考査……ガクッ」

 

 あ、順平の心にクリティカルヒットした。

 そういえばこいつ、前回のテストが散々だったっけ。

 

 ……色々思い出した。

 

「夏休み前に“教科書ガイド”を薦めたり、速読の本貸したりしたよな? あれで勉強とか復習は」

「……」

「……三日坊主か」

「部屋のどっかには、あると思うな……ハハハ……あ、話変わるけど、今日暇か?」

「ああ、部活は休みにしたから時間はあるけど」

「よかったらちょっと遊び行かねー?」

 

 順平はやっぱり順平のようだ。

 

 でも誘いには乗ることにした!

 

「おっし! んじゃ着替えてから巌戸台な。新しいゲーセンができたんだってよ」

 

 順平は良くも悪くも明るく笑っている……




影虎と天田は長鳴神社の警備を始めた!
天田との関係が深まった!
影虎と天田は警備初日からコロ丸と遭遇した!
コロ丸と協力することになった!
週間“鶴亀”の記者が文化祭に紛れ込んでいた!
影虎は順平と遊ぶことにした!

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