人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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214話 動き始めた鶴亀

 夜

 

 ~自室~

 

「ん……また電話か。もしもし?」

『あ、葉隠? 俺、俺だけど』

「……詐欺か」

『違う違う! 中川だよ!』

「中川、ああ!」

 

 中学時代のクラスメイトだった。

 しかし何の用だろう? こいつはクラスが同じだっただけで、別に仲良くはない。

 

『思い出したか』

「思い出した思い出した、で、どうした?」

『なんか最近凄いらしいじゃんお前。テレビとかニュースにバリバリ出ててさ、これからも出るんだろ? こっちにも取材がバリバリ来ててさ』

「取材? そうなのか?」

『ああ、もうバリバリよ。どこの雑誌かは忘れたけど、俺も矢口って記者から取材受けてさー』

 

 軽い語り口から、聞き逃せない名前が出てきた。

 

「矢口? 記者の名前は矢口で間違いないのか?」

『え? ああ、間違いないぜ。今の彼女と同じだったから、それは覚えてる。何、知り合い?』

「前に取材を受けたことがある。その人、中川にだけ取材したのか?」

『俺以外にも声かけられたってやつ結構いるぜ? 基本、中学のクラスメイトだと思うけど。どんな生徒だったかとか、仲の良い奴とか聞かれたし。あ、もちろんめちゃ持ち上げといてやったぞ?』

 

 矢口が俺の地元で、俺の中学時代を探ってる……これは悪い予感がする。

 

『でさ、もしよかったらなんだけど、今度合コンしねー? 俺とお前でかわいい子集めて』

「ゴメン。これから色々あるから、そういうのダメなんだ。テレビ出演は短い間だけど問題があるとまずいからさ」

 

 中川の提案は柔らかく、だがきっぱりと断る。

 

『あっそ……んじゃまた機会があったら、ってことで。その気になったら教えてくれよ』

 

 電話が切られた……

 

 そういえばあいつチャラ男だった。 まぁまぁイケメンで、女子には人気があって。だから中学時代地味なグループだった俺とは全くと言っていいほど関わってない。

 

 なのに突然連絡してきたと思えば、女の子を集める口実にしようとしやがったな。

 

 有名税ってやつなのかな……それはともかく近藤さんに連絡しておこう。

 

 中学時代のクラスメイトに裏取りもしないと……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 9月24日(水)

 

 放課後

 

 ~部室前~

 

「配線はこの通りに設置すればいいんだね?」

「うん、細い長さとかも書いてあるから。それじゃ私、行くね? 手伝えなくてごめんね」

「監視カメラの設置は任せきりになるんだから、遠慮しないで」

「ヒヒヒ……後で和田君と新井君も来ますし、大丈夫ですよ」

「力仕事は僕たちに任せてください!」

「ふふっ、ありがとう」

 

 山岸さんは手を振りながら、校舎へと向かっていく。

 

「……さて、始めますか」

「そうですね」

「和田君と新井君が来るまでに済ませてしまいませんとねぇ」

 

 バイトに行く前に、部室周りの掃除という名目で畑を作る。

 山岸さんから預かったメモを確認し、周辺把握と距離感をフル活用。

 今後監視カメラをつけるための配線の位置、 畑を作る位置を確認。

 さらに周囲に関係者以外誰もいないことを確認した上で魔術を発動。

 

 “掘削”

 

 瞬く間に地面がめくれ上がり、深めの溝と土の山を作り上げていく。

 

「夏休みの逃走劇以来ですよね、この魔術」

「使いどころがなかったからな」

「こういう時は便利ですねぇ。ところで魔力は大丈夫なんですか?」

「問題ありません」

 

 俺も成長して魔力量が増えているのだろう。

 もうルーンを使った魔術なら日中でも平気だ。

 それにオーナーから貰った“激魔脈の指輪”のおかげで負担がさらに減った。

 魔力2割増しは大きい。

 

「まぁ、手早く終わらせるに越したことはありませんが」

「ヒヒッ、では天田君、始めましょうか」

「はい!」

 

 俺が魔術で溝や穴を掘る。そこへ先生と天田が山岸さんのメモに従って設置した配管に配線を通す。魔術と作業の分担で、地下に配線を通す作業がサクサクと進んでいく……

 

「……配線用の溝はこれで全部か」

 

 なら次は畑作り。ここも掘削の魔術を活用するが、ついでに大きな石や雑草を取り除いておこう。

 

 林の木々を利用してドッペルゲンガーをテントのように張り、全体を網の目に変える。

 その上に土を流し入れ、揺らして土だけをふるい落としていく……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「うおー!」

「すっげー!」

 

 な、なんとか畑作りは間に合った……

 

「お疲れー」

「兄貴! すいません遅れました!」

「もう終わっちまったんすか?」

「まだここからビニールハウスを建てるから、それを手伝ってくれ」

「「ウッス!」」

 

 パルクール同好会の男子全員で、サポートチームに用意していただいた“ビニールハウス建築キット”を組み立てていく。普通に人が入って作業できる程度の大きさがあるので、組み立て作業は大変だが、構造と組み立て方は詳しい説明書がついている。

 

 人数もいるので作業は順調に進み、慣れてくると雑談をする余裕も出てきた。

 

「あ、そうだ兄貴。申し訳ないんすけど、俺ら10月から11月の頭まで、あんまり部活に参加できくなるかもしれないっす」

「そうなのか。何かあるのか?」

「中等部でも文化祭の準備が始まるんですよ。本番は11月ですけど、兄貴達、高等部の文化祭に行って、俺らも全力でやろう! って感じに今なってて。10月は試験もあるし、息抜きがてら少しずつ企画を詰めて行こうって話になって」

「そういえば職員会議でも話題になってましたねぇ……今回の文化祭は大盛況で、影響を受けた生徒達に中等部の先生方が戦々恐々としているとか」

「うちのクラスの担任からも、熱中しすぎないよう念押しされたっす。特に俺ら、成績あんま良くないし、文化祭実行委員なんで」

「マジで? そりゃ忙しくなるわ」

「うっす、もう色々と提案やら相談が来てます」

「部活を優先したいから、仕事の少ない委員になったつもりだったんすけどね……」

「普段はそうでも、時期が来たらすごく忙しくなるタイプじゃないですか」

「先輩の言う通りっす……」

 

 和田と新井も大変そうだ……

 

「まぁ頑張れ。こっちも準備の時に結構手伝ってもらったし、少しは協力するからさ」

「ヒヒヒ……気軽に相談してくださいね」

「僕もできることがあれば手伝いますよ」

「「あざっす!」」

 

 みんなで仲良くビニールハウスを組み立てた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~アクセサリーショップ・Be Blue V~

 

 閉店後の応接室で、オーナーのアクセサリー製作講座が開催された。

 参加者は予定していた二人に加えて島田さん、そして幽霊の香田さんもこっそり混ざっている。

 

「それじゃあ実際に作りながら勉強しましょうか」

 

 簡単なビーズアクセサリー作りを通して、ビーズアクセサリー作りの基本を学んだ!

 さらにそこから独自のデザインにも挑戦することになったが……

 

「葉隠君、センスが微妙……」

「微妙? 結構自信あったんだけど」

「わかる。悪くはないんだけど、なんかフツー」

 

 岳羽さんと島田さんから微妙との評価を受けた。

 

「綺麗にまとまっているけど、もうちょっと冒険心があるといいかもしれないわね。たとえば……」

 

 島田さんのネックレスを指差すオーナー。

 初心者にしてはかなり複雑で大きなペンダントヘッドを作っているが、確かに目を引く。

 

「デザインは……松ぼっくり?」

「もうじき9月も終わりだし、あっという間に12月になりそうだからね~。こういうのもいいんじゃないかと思って……あれ? 今いくつ通したっけ……」

『……3つ……』

「島田さん、3つみたい」

「3つ? ……本当だ、ありがとう」

「いえいえ」

 

 俺じゃなくて香田さんだ。

 すごいか細い声だけど、微妙に彼女の声だけは聞こえるようになってきた。

 

「む、難しい……」

「もっと簡単なやつにすればよかったんじゃ」

「分かってないなぁ。せっかく自分で作るんだから、自分の欲しいものを作らなきゃじゃん。自分でこんなのが欲しいって感じるものを形にしたいの」

 

 しかし作業を見ている限り、残念ながら彼女お世辞にも手先が器用とは言い難い……デザイン画は色使いまで気を使って、すごく綺麗なのだけど……

 

「デザイン画()本当にすごいな」

「うまいよね。島田さんの絵」

「そういうの書くの好きだからね~……アクセとか見てると、ここはこうなってたらもっといいなって思ったりするし。そういうのなら結構あるよ。ほら」

 

 おもむろにポケットから取り出した携帯をいじり、こちらに向ける。

 

「あら、いいじゃない」

 

 スライドされていく画面には色鉛筆やボールペン等、様々な筆記用具で思い思いに書かれたアクセサリーの絵が大量に映し出されていた。

 

 島田さんの意外な一面を知った……

 そしてまた少し、オーナーやバイト仲間が打ち解けられた気がする!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~長鳴神社~

 

「力が入りすぎ」

「はいっ」

 

 神社の警備3日目。

 全くシャドウが来る気配がないので、天田と格闘技の訓練を行った!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月25日(木)

 

 夜

 

 ~中華料理店・煌々楼~

 

 スタジオでの撮影。そして次回の打ち合わせを行うために、中華料理店へやってきた。

 前回もそうだったけど、高そうな店だなぁ……目高プロデューサーも緊張してる。

 

「えー、ではまずこちらの資料を」

 

 プロデューサーが配る資料を見ると、どうやら次の課題は“中国拳法”のようだ。

 目高プロデューサーは格闘技系の課題を入れる約束を守ってくれた。

 しかし相手先の名前として、“中国武術基金会”と書かれているのは……

 

「“基金会”とは中国語で“財団法人”という意味になるのです」

「へぇ……」

「近藤さんのおっしゃる通りです。この団体は中国武術を日本に広めていこう、という目的を持っているそうですが、基金会という点で誤解を生んでいるようで、現状ではほとんど入門者がいません。その辺りの宣伝を兼ねて、葉隠君への指導を快く受け入れていただけました」

 

 この団体には中国本土でも有名な指導者の方が大勢所属していて、しかも各々が複数の流派を習得しているため、超一流の多彩な技を学べるらしい!

 

「この団体はこちらの企画に全面協力していただけるとのことで、課題を流派ごとに分けて複数回この団体の方に教えてもらおうと考えています。あまり中国拳法ばかり続くとマンネリ化で視聴者に飽きを感じさせる可能性もあるので、他の課題も挟むと思いますが、タイミングはまだ検討中です。

 そして次回の課題について。葉隠君には“翻子拳(ほんしけん)”を学んでいただきます」

 

 この段階で課題を発表していいのかと思いつつ、続く説明を聞く。

 するとその拳法は中国の北部に伝わる武術で、 主に拳での連続攻撃が特徴。

 故に中国拳法の中では最も、技術体系がボクシングに似ていると言われているらしい。

 

「そこで相談なんだけど、次回の締めくくりに、君の学校の真田君と試合をしてくれないかな?」

「2年の真田ですよね?」

「うん。両者の合意があればの話なんだけど、格闘技を勉強した成果は実際に誰かと戦ってもらうのが視聴者に分かりやすいと思う。それに以前の君達の試合は大きな話題になってたし、注目度抜群だと思うんだ。君の企画は最終的にプロと戦ってもらうわけだから、なるべく試合の経験を積んでおいてほしいしね」

「なるほど……こちらは問題ありません。もともと近いうちに、どこかで試合をしようという話にはなってましたから」

「本当かい!?」

 

 学校の幽霊騒ぎから目線をそらすための口約束だが、あの男は忘れていないだろう。学校のファンサービスには使えなくなるけど、それならそれで何か別の企画を用意すればいい。

 

 真田がテレビでやる気なら、受けて立とう。

 それよりも懸念が一つ。

 

 一通りの話を済ませてから話題にする。

 

「実は一つ、気になっている事がありまして」

 

 週刊“鶴亀”の動きについて、分かっていることを説明する。

 

「あの雑誌の記者が、君の地元に」

「はい。昔の学校の友達に聞いたところ、どうも俺の過去を探っているようなんです」

 

 元クラスメイトにメールを送り情報を集めたところ、すでに小学校時代まで遡っていると見て間違いない。

 

 そして小学校時代の俺は、あまり評判の良い子供ではなかった。

 俺は全く気にしていないが、父親が元ヤンということもある。

 悪く書くためのネタには困らないだろう。

 

「元ヤンや元問題児の芸能人、特に芸人さんには珍しくもないけど……あの雑誌の記者は小さなことを脚色するからねぇ……分かった。今度の撮影にもできるだけ配慮するよ。トーク中に過去話は控えめにしておこうか?」

「いえ、我々は逆に話題にしていただきたいと思っています」

「……え?」

 

 近藤さんの言葉に軽く驚いた様子のプロデューサー。

 しかしこれが俺と近藤さんの相談の結果だ。

 

「いいのかい?」

「鶴亀がどんな記事を書くか分かりませんが、事実の隠蔽は不可能ですし、それが良い結果に繋がることは無いでしょう。近藤さんと相談して、先手を打って事実を伝える方針で進めたいと考えています」

 

 世間の注目を集め続ければ、いつかは知られる事と割り切ろう。

 注目を集める撮影であえて過去の話を出し、帰国後のようにマスコミ対応をする。

 

「鶴亀がどのタイミングでどのように記事にするかは不明ですが、できるだけ早く、可能ならば鶴亀よりも前に情報を発信し、無用な騒動の種を潰したいですね」

「今回の問題は幼少期に周囲との不和があっただけで、犯罪に手を染めたという事実はありません。丁寧に対応すれば“ヤンチャな子供だった”で済む可能性が高いと我々は考えています。

 話題の詳細については別途ご相談させて頂ければ幸いですが……この方針は目高様から見ていかがでしょうか?」

「こちらとしては特に。鶴亀のようなモラルの欠如したやり方はしませんが、視聴者の興味を引ける話題は番組的にも助かります。遠慮せずに聞いていいのであれば、尚更に」

 

 提案を受け入れてもらえた。番組的には問題ないのだろう。

 しかしプロデューサーは個人的に俺のことを心配してくれているようだ。

 

「ご心配ありがとうございます。今回は近藤さんの補助もありますから、きっと大丈夫ですよ」

「現在、鶴亀が記事にするであろう部分をこれまでの記事の傾向から分析していますので、明日、分析結果を元に番組中で使う話題を選びましょう」

 

 分析できるのか、すごいな……と、俺とプロデューサーは感心しきりだ。

 堂々とした態度がとても心強い。

 

「それでは、えー……これで一通りの打ち合わせは終わりましたね。ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました」

 

 それから俺たちは高級中華料理に舌鼓を打ち、解散となるが……

 帰る直前、近藤さんに呼び止められた。

 

「葉隠様、こちらを」

 

 紙袋を渡された。

 

「今度共演する方々の資料です。芸能人にはあまり詳しくないとの事でしたので、基本的なプロフィールをまとめた書類だけでなく、ライブ映像なども用意させていただきました。主に“IDOL23”の方々の物ですね」

「人数が多いですからね、あのグループ。ありがとうございます。こんなに集めるの大変だったでしょう」

「IDOL23に関しましては、本部に熱烈なファンがいたので。どちらかといえば揃っていた情報を取捨選択する方に時間をとられましたね。基本からマニアックな情報まで、何一つ無駄なものはない! とその情報提供者が譲らなかったもので……」

 

 近藤さんが苦笑いをしている。

 でもそれだけ資料には期待できそう。

 

「あと、こちらもよろしければ」

「……カラオケのタダ券?」

「ハンナが商店街の福引で当てたのですが、我々は苦手で……。共演者の歌を覚えておけば、会話の種になると思います」

 

 共演者の資料とカラオケのタダ券を手に入れた!




影虎は中学時代のクラスメイトから連絡を受けた!
悪徳雑誌記者・矢口の動向を知った!
関係各所に連絡した!
影虎は部室横に畑を作った!
ビニールハウスも設置した!
影虎はビーズアクセサリー教室に参加した!
影虎は打ち合わせを行った!

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