人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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218話 悪印象

「そういうことでしたか……」

 

 ドッキリの撮影が終わり、控え室にやってきたプロデューサーと近藤さんから事情を聞いた。

 

「放送していいかな?」

「近藤さん、何かまずい部分とかありましたか?」

 

 成功の基準がいまいちよくわからないけど、特に問題になるような行動はなかったと思う。

 

「……あ、でも上島さんにダンス教えてもらったり、ファンからしたら非常識かも」

「その辺りは全然平気だよ。突然女の子の中に放り込まれて、必死で会話してる感じがしたからね」

「私も思いましたぁ」

「ぶっちゃけ助かったよ。ごめんね、本当なら私たちがリードしないといけないのに」

「すごく私たちをフォローしてくれるので、途中から葉隠さんを先輩方と同じ仕掛け人だと思ってました……」

「ドッキリはよくわからなかったけど、お話できて楽しかったです!」

 

 なら、まぁいいか。

 それにしても、分かりきったドッキリを続けるのがこんなに辛いとは思わなかった。

 少し腹も減ってきた。

 

「この後の予定は」

「もうしばらくしたら光明院君が来る時間だから、まだ待機でお願い。彼の到着後、改めて段取りの確認をして本当の控室に案内するから」

 

 弁当持参なんだけれど、ここで食べていてもいいだろうか?

 

「もちろん構わないよ。皆も収録中に力尽きないように、何か食べておくといいよ」

 

 許可が下りたので、持ってきていた弁当箱と魔法瓶をテーブルに出しておく。

 すると、

 

「お弁当が大きい! しかも複数!?」

「細く見えるけど、男の子だね」

「男子にしても多すぎるような……」

「彼女の手作りですかぁ?」

 

 それを見たアイドル4人がそれぞれ感想を口にする。

 

「一般的な人よりは食べると思いますね。あと、残念ながら自作です」

「葉隠君は料理が得意だったよね」

「それなりに。ちなみに今日の弁当はこんな感じです」

 

 “グリルチキンとカエレルダイコンのパワーサラダ”

 “ボリューム抜群生姜焼き弁当”

 “プチソウルトマトのポタージュ”

 “サクサクアップルパイ”

 

 パワーサラダとは野菜、フルーツ、タンパク質食材、トッピングを組み合わせたアメリカで人気のサラダ。バランスよく栄養を摂るという点に優れている。生姜焼き弁当は普通に生姜焼き。甘辛のタレがよく絡んで飯が進む一品。

 

 しかし今日のメインはポタージュだ。

 

 先日からプランターで育てているプチソウルトマトが新しい実をつけたので、収穫したばかりのプチソウルトマトを大量に使用。さらに保存してあったプチソウルトマトのドライトマトも加え、凝縮された旨味をプラス。丁寧に裏ごしをしたことにより非常に滑らかなスープに仕上がった。おまけに魔力の回復効果がかなり高い。

 

 アップルパイは例によってMr.アダミアーノのレシピを参考にしている。もちろんパイ生地から作った……

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 気づけば弁当箱に5人分の視線が降り注いでいる。

 

「おっと失礼、料理ができる子は羨ましいね。はは……」

「目高プロデューサー、もしかしてまた飯抜きですか」

「食べてはいるけど店屋物ばかりさ」

 

 アイドル4人が持っているのは……

 

 “菓子パン”

 “コンビニのおにぎり”

 “コンビニ弁当”

 “エネルギーゼリー”

 

「……少し食べます? アップルパイは切ってありますし、他のも取り皿か何かあれば……」

「いいの!?」

「食べられないものとか、貰い物を口にしてはいけない規則があるとか、問題がなければ。量は見ての通りたっぷりありますし、遠慮なくどうぞ」

 

 関係者の食生活が不安になった……

 なお、味は好評だった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「光明院君が到着しました」

 

 慌ただしく働くスタッフさんたちをよそに、まったりしていた俺たちの所へADの丹羽さんがBunny's事務所の二人、に加えて見知らぬ男性と男の子を一人連れてきた。彼らは……まあ後で紹介されるだろう。

 

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

 

 部屋に入るや否や、爽やかなイケメンスマイルでの挨拶。

 どうやら既に撮影モードに入っているらしい。

 

「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」

「葉隠君、こうして会うのは2回目だね。よろしくね」

 

 表情と声色は非常ににこやかだが、オーラはかなり刺々しい。IDOL23の四人もほぼ同時に挨拶をしたのに、真っ先に俺に話しかけてくるあたり相当意識されているようだ。

 

 やはり前回、俺が木島プロデューサーのスカウトを受けたから……もっと言えば自分の活動の邪魔になることを懸念しているのではないだろうか?

 

 俺としては彼の邪魔をするつもりはないけれど、俺が番組に出ることで誰かの出演の機会を奪うことにはなるか……

 

「初対面の方も二人いらっしゃいますので、まず簡単にご紹介させていただきます」

 

 目高プロデューサーがそれぞれの所属や名前を紹介していく。

 

 それによるとBunny's事務所の四人は、

 まず今回の参加者である光明院君。

 光明院君を擁する男性アイドルグループ担当の木島プロデューサー。

 初対面の二人は光明院君と同じアイドルの“佐竹健治”と、マネージャーの“山根”。

 

 彼らのグループはIDOL23と同じく大人数のメンバーが所属しているため、今後は基本的に山根マネージャーかその他のマネージャーが収録についてくる。しかしこの山根マネージャーは先ほど収録したドッキリの件でミスをした人でもあり、謝罪のために今日はプロデューサーが同行しているという訳だ。

 

 木島プロデューサーからは丁寧な謝罪をいただいて、そのまま収録の流れの確認に入ったが……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~控え室~

 

「どう思いました?」

 

 個別に与えられた本当の控え室で、近藤さんに彼らの印象を聞いてみる。

 

「率直に申し上げますと、プロデューサー以外はあまり良い印象がありませんね。

 マネージャーは明らかに新人で教育にも甘さを、男性アイドルの二人からは我々への敵意のようなものを感じましたね。攻撃的な言動を表面に出さない程度の自制心はあるようですが、内心を隠しきれてはいませんでした。三人とも、いささか経験不足な印象が拭えません。葉隠様はどうですか?」

「似たようなものですよ」

 

 まず光明院君。彼のオーラは驚いたことに紫色だった。

 真っ黒かと思っていたが、実際に見てみたらエリザベータさんや久慈川さんと似た感じ。

 しかし若干赤みが強く、全体的にくすんで暗い色合いになっている。

 やる気とプライドの高さが、悪い方に向かっているような印象だった。

 

 そして他人の出番の話題になるたび、オーラが激しく揺らぐ。

 特に本来自分が出るはずだったドッキリの話になると、悔しさと怒りが渦巻いていた。

 打ち合わせが終わると、最初の愛想の良さは何だったのかと言いたくなるほどの決まりきった挨拶と適当な相槌で、自分の控え室へ向かってしまった。

 

 俺のことは気に入らないようだが、問題も起こしたくないのだろう。

 根は悪い子ではないのかもしれないが……やはり面倒くさいことに変わりはないな。

 プライドが悪い方向に高そうなだけに、芸能活動に対し下手なことを言ったらキレそうだ。

 関わらないでいられるなら関わらないに限る。

 

「仕事上の付き合い以上になる必要もないですし。お互いに問題を起こさないよう上手くやっていければと思います。ただ、もう一人の佐竹君。彼とは仕事でもあまり関わり合いになりたくないですね」

 

 “佐竹健治”

 彼は爽やか系の光明院君とはまた違う、クール系のイケメンだ。

 ただしオーラが鶴亀の矢口に負けず劣らずどす黒い。

 光明院君と違い、打ち合わせの後で積極的に話しかけてきたから色々と分かったけど……

 その時の話題がまぁ……自慢ばかり。

 

 彼は所謂“二世タレント”らしく、両親が有名なタレントであることを前面に押し出してくる。

 事務所内でのダンスや歌の評価、これまでの経歴等々、よく喋っていた。

 そして最後に必ず聞く。

 

 “君は?”

 

 と。

 

「本当に笑顔でサラッと言うので、普通に雑談してるように聞こえましたが……オーラを合わせて考えると、俺の両親はこんなに立派なんだ。俺はダンスも上手い。歌も歌える。で? 君はどうなの? 俺以上なの? って感じでしたね。無意識かもしれませんが」

「私も横で聞いていて同じ感想です。注意すべきは光明院君よりも彼ですね。幸い今回はただの見学ということですし、あまり気にせず必要以上に関わらない方向で行きましょう。

 それから彼らの事務所について、目高様から新たな情報を聞きました」

 

 情報を共有してもらおう。

 

「現在Bunny's事務所では大きな方針転換をしているようです」

「具体的には」

「IDOL23のような大人数グループのプロデュースです。従来の方針は厳しい基準をクリアした者同士でさらに切磋琢磨し、一握りの少数精鋭を世に送り出すと言うやり方でしたが、近年は業績が低迷気味。そこでIDOL23のやり方を模倣しようとしています」

 

 IDOL23はその人数の利を十分に使うことで、全国ネットだけでなく地方のローカル局やイベントへの参加率を高め、IDOL23というグループの知名度を上げている。

 

「ですが、これまで少数精鋭主義を貫いてきたBunny's事務所には大人数グループを結成し運用するためのノウハウが不足しています」

「光明院君のグループは、本格的な方針転換を行う前のテストケース……だいぶ前の話ですが、スカウトを受けた天田と事務所を訪ねた時。木島プロデューサーから新しいプロジェクトが進行中と聞きました。……考えてみると、あの時から事務所の雰囲気は悪かったですね」

「候補生からすれば、デビューの間口が広がった訳ですからね。いつまで続くかもわからないプロジェクトですし、早いうちに自分の席を確保しておきたいと考えるのは無理もないかと」

「確かに。……ところで近藤さん、やけに内部事情に詳しいですね」

 

 目高プロデューサーがそんなに話してくれたのか?

 

「独自に調べてもいますから」

「……どうやってとは聞きませんが、気をつけてくださいね」

「承知しております」

 

 ……俺の周りで一番の謎って、芸能事務所でもタルタロスでもなく、この人の情報網だったりしないかな……




ドッキリが終わった!
影虎は弁当を食べた!
共演者との距離が縮んだ!
影虎は“光明院 光”と再会した!
しかし避けられた!
意識はされているようだ……
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