人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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221話 鶴亀の影響

 影時間

 

 ~神社~

 

「って事なんだけど、ッ! ……どう思う?」

「どう思うって聞かれても……絶対に普通の方向に進んでないことだけは間違いないだろうなー、としか」

「どんな感想だよ……っと!」

 

 蹴りをギリギリで避ける。今のは少し危なかった。

 

「……先輩、さっきから一人で何やってるんですか?」

「組手だよ。ドッペルゲンガーと」

 

 忍者の姿で召喚し、俺は天田と同じ探知対策のシャドウ服を着て、2人で組手をしている。

 見て分からないか?

 

「いや、それ先輩のペルソナなんだから結局一人でしょう? というかそもそも、意味あるんですか? 先輩の指示で動かしてるんでしょ?」

「それはそうなんだけどなッ! こう……」

 

 アナライズの処理能力と合わせて、どう攻めたらどう返すかを瞬時に判断して対応させる。

 その反撃をまた瞬時に判断して対応する。

 これを繰り返すことで自分自身の動きの隙を発見・改善に役立てろ。

 

「って、魔力の件と一緒にドッペルゲンガーに教わった」

 

 これが意外と便利で、自分の演技や歌を本当に客観的に見ることも可能。

 

「それにほら、俺はいつ先輩方に怪しまれてもおかしくないからな。自由に動かせれば囮に使えるかもしれないし」

 

 加えてもう一つ。万が一俺がペルソナ使いとばれた場合に備え、彼らが“翁”と呼ぶ存在が俺だとバレないように、ペルソナを偽装する準備をしておけとも言われた。

 

 その準備とはどうも“演技”の練習を続けた成果らしく、事前に偽装するペルソナの名前、姿、アルカナ、耐性、戦闘スタイルなどを細かく決め、キャラクターを作っておくことで、ドッペルゲンガーをさも別のペルソナのように召喚する事が可能らしい。

 

 ペルソナチェンジではないが、別人を装うことはできそうだ。

 

「天田、荷物の準備はしてるよな」

「はい。万一の場合に備えて、旅行で使ったリュックサックに必要最低限のものを入れてあります」

「よし……正直、俺はいつ疑われてもおかしくない。上手くごまかせても来年、全てが終わるまで隠し通すのは難しいだろう」

 

 成り行きだけれど……俺は希少なペルソナ使いを2人も部活に引き入れている。

 天田と山岸さんがペルソナ使いとして認知されれば、戦力強化に貪欲な桐条先輩のことだ。

 藁にもすがる気持ちで、俺に目をつけても不思議ではない。

 すでに現在進行形で怪しんでいると考えるべきだけど……

 

 俺としてもできれば適性やペルソナは隠しておきたい。

 しかし、こだわりすぎて生き延びるための行動が制限されては本末転倒。

 そこは間違えてはならない。

 

 今のうちに時間稼ぎをしつつ、どこまで自分にとって有利な状況や立場を確保できるかが勝負だ。そう考えると今回の件は頭を切り替えるいい機会だった。それに、

 

「場合によってはアメリカに一時避難か、適当な所に潜伏する。……そうなった場合、特別課外活動部の情報は頼むぞ。危なくなったら逃げてもかまわない。勿論、俺もできるだけ助けに入るが」

「わかってます。任せてください」

 

 この選択ができるのは天田がいるから。

 

 ごまかせるならごまかし通す。

 バレるにしても、少しでも都合の良い状況を作る。

 全ての疑いを引き受けてでも、天田は疑いの目から逃がす。

 

 ドッペルゲンガーとの組み手を続け、今後の活動に思考を巡らせるうちに、影時間の終わりが近づいてきた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 9月30日(火)

 

 昼

 

 ~生徒会室~

 

「こうなりましたか……ははっ」

 

 いきなり呼び出された生徒会室では、重苦しい雰囲気の桐条先輩と理事長が待っていた。

 何事かと警戒しながら席に着き、伝えられた内容に乾いた笑いが漏れる。

 

「我々としては申し訳なく思う……」

「本当にすまない」

 

 内容は昨日発売された鶴亀の影響。

 基本的に俺の印象は悪くならずに済んだ。

 ネットでは昨日よりも俺を否定する声が少なく、擁護派の声が大きい。

 鶴亀の記事をきっかけに、流れはむしろ評判を高める方に向いている。

 予想以上に良い結果だが……残念なことにそれでも“アンチ”的な人は存在する。

 そんな人が在校生の保護者や理事会にもいたようで……

 

「つまり、これまでの俺の好成績は全てカンニングによるものだと」

「PTAから、そうではないかという訴えが結構来ているんだ……僕はそうは思わないんだけどね」

「私もだ。君の仕事を覚える早さと処理能力を見れば、不正などせずとも良い点は取れるだろうと思う。だが、そう思わない者もいるということだ」

 

 鶴亀の記事に踊らされて、世間の印象を悪くしないように努力した結果……

 最も鶴亀の記事に踊らされたのは、一番身近な学校の関係者だったようだ。

 

「それで、どのような処分に?」

「来月の定期考査では別室で試験を受けてもらう。また、試験監督の教員が前と後ろで2名つく」

「それでも好成績を残せれば、疑いは完全に晴れるさ」

「結果を残せば無罪放免。それは当然として、残さなかった場合は?」

「それでも処分はしない方針だけど、結果次第では……」

「学園側の対応よりも、まず生徒の間に不信が広まるだろう。悪い結果が明確に出てしまえば、不満を抑えることは難しい」

 

 学校生活に何の得もねぇな……

 

 というか、マスコミ対応とか今回の撮影とか。毎度毎度やることは結果が出るし、順調そのものなのに、その後で変なところから問題が沸いてきてないか……? どうなってんだ俺の運。

 

 ……まぁ、いいだろう。

 勉強にペルソナは使えるし、要は良い成績をとればいいのだ。

 ただ釘だけは刺しておこう。余計な詮索がしづらくなってくれれば御の字だ。

 

「試験中に妨害されたり、カンニングをでっち上げられたり、採点の段階で正当な評価を与えてもらえない、なんてことはありませんよね?」

「それは当然だよ! 生徒にも学校にも不正は許さない。テスト結果に手を加えるなんてもってのほかだ。こんな話をしておいて、こう言うのもなんだけど……そこだけは安心してほしい」

 

 幾月の顔が、最近ようやく健康になりつつあった顔が、また疲れた表情に変わっている……しかもオーラが分かりやすい。この件について嘘はないようだ。

 

「わかりました。その言葉、信用させていただきます」

「すまないね。僕はそもそも別室で受験させることにも反対なんだけど、最近理事会での発言力がなくてね……」

「……お二人に言うのはお門違いかもしれませんが、こういうのはこれっきりにしてもらいたいですね」

 

 夏休み前ならいざ知らず、今となってはコールドマン氏との契約がある。彼は自分のプロジェクトのため、サポートのしやすいアメリカを活動の拠点として欲しいと語っていた。そのためなら衣、食、住に学校など、必要な様々なものを手配してくれると約束されている。

 

 あまり不当な評価や疑いばかりを押し付けてくるのならば、そちらへ移っても構わない。

 

 牽制の意味で明確に、だけど可能な限りやんわりと伝えておく。

 

「承知した」

「話が以上なら、失礼してもよろしいですか? 勉強時間を確保するためにも、近藤さんに連絡しておきたいので」

「ああ、突然呼び出して悪かったね。頑張ってね」

「ありがとうございます」

 

 携帯を片手に、生徒会室を後にした……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~教室~

 

 さて、どうしようか……

 テストのための準備をしたいが、過去のテスト用紙や教科書の類はすでに記憶してある。

 

「問題集でも探してみるか……あっ」

 

 考えながら教室を出ると、山岸さんが通りかかった。

 

「山岸さん、今帰り?」

「うん、葉隠君も?」

「その前にちょっと、巌戸台の古本屋に寄ろうと思ってる」

「古本屋さん?」

 

 昇降口に向かいながら、昼のことを話す。

 

「そうなんだ……なんか、酷いね……」

 

 山岸さんは自分のことのように落ち込んでいる……

 

「まぁ、結果さえ出せば何もないらしいから。問題集でも探そうと思ったんだ」

「そうなんだ……あ、その本屋さん、私もついていっていい? 私も探してる本があって」

「それは勿論」

 

 断る理由もない。

 一緒に本を買いに行く事になった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~古本屋・本の虫~

 

「こんにちはー」

「こんにちは……」

「いらっしゃい。おや! 虎ちゃんじゃないかい!?」

「こんにちは、文吉お爺さん」

「よく来たのぅ。最近、色々なところで話を聞いとるよ。婆さんや! “大すたぁ”がきとるぞー!」

「ちょっとちょっと」

 

 大スターっておかしいだろう……

 

「あ、あの~」

「おや? ……虎ちゃんの彼女かい?」

「彼女!? い、いえ! 違います!!」

「そこまで力強く否定せんでも……」

「あっ! ご、ごめんなさい。いきなりだったから……」

「ほっほっほ。若いのぅ」

「お爺さん、若い子をからかっちゃいけませんよ」

 

 光子お婆さんも奥から出てきた。

 

「すまんすまん。それで今日は何の用じゃったかいのぅ?」

「俺は勉強用の問題集を探してて……山岸さんは?」

「私はパソコンとか、機械関係の本を」

「そうかい。じゃったら婆さん」

「はいはい。あなた、お名前は?」

「山岸風花です」

「風花ちゃんね。機械の本はこっちよ」

「虎ちゃんの参考書はこっちじゃぞい」

 

 俺は文吉爺さんに、山岸さんは光子婆さんに案内してもらうことになった。

 

「ここじゃ、この棚は全部、高校生の参考書と問題集じゃよ」

 

 かなり多い……

 棚に並べられているだけでなく、その上の隙間にまで詰め込まれた本の数々。

 足りないということはないだろうけど、どれを選んだらいいのだろうか……

 適当に買うか? しかし全教科だと1、2冊ずつでも結構な量になりそうだ……

 お金足りるかな?

 

「一冊いくらですか?」

「そうじゃなぁ……虎ちゃんの“さいん”をくれたら、10冊でも20冊でも持って行っていいよ」

「サインなんて、価値ないですよ。作ってもいませんし」

「謙虚でよろしい! さすがは月光館学園の生徒さんじゃ! だったらタダで、持って行っても構わんよ」

「いやいや」

 

 商品だし、これがお爺さんの仕事でしょ。

 俺がそう言うと、文吉爺さんは天井を見上げた。

 

「実はこの店をりふぉーむ(リフォーム)しようと思っていてのぅ」

 

 そういえばそんな話もあったな……

 

 文吉爺さんの話によるとリフォーム作業は数ヶ月で済むが、その間は店の本を全てどこか別の場所に移さなければならない。そのために倉庫を借りる予定だが、予算の都合上借りられる倉庫では店の本を収めきれない。その場合は古すぎる本や売れない本を選別して数を減らすしかないらしい。

 

「それにしても仕事が増えてしまうし、何よりもったいない。本も捨てられるより、必要としている人が持って行ってくれた方が喜ぶじゃろ」

 

 ……そういうことならまとめ買いさせてもらおう。ただしサインはないのでお金は払う。

 

 ということになったが、次から次へと文吉爺さんから本をすすめられ、最終的に1000円という激安価格で30冊の問題集と参考書を手に入れた!

 

 ……本を処分したいとはいえ、文吉爺さんの値下げが激しすぎる……




影虎はドッペルゲンガーを使って組手をした!
演技を身に着けた結果、ペルソナチェンジ(偽)が可能になった!
天田を仲間にしたことで、選択肢が増えていた!
鶴亀の影響で、カンニングの疑いをかけられた!
次回の試験は別室で受ける事が決定した!
影虎は問題集を買うことにした!
山岸と一緒に古本屋を訪れた!
古本屋のリフォーム計画が始まっていた!
影虎は大量の本を手に入れた!
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