人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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222話 山岸風花の発見

「よっ、と」

「ごめんね、葉隠君」

「いいって、俺も大量に買ったし」

 

 会計の後で合流した山岸さんもリフォームの話を聞いたらしく、丈夫な紙袋いっぱいの本を買っていた。パンパンに詰まった紙袋は重そうで、俺が一緒に持つことにした。

 

 そして本の虫から一歩出ると、香ばしいソースの香りが漂ってくる……

 

「帰る前にたこ焼き食べていかない?」

「いいよ。じゃあ私、買ってくるね」

「あ、ちょっ」

 

 自分でお金を払おうと思ったが、本を抱えていたせいで山岸さんの方が速く、彼女はもう店の前で注文を始めている。

 

 仕方がないのでゆったりと、目の前の飲食スペースで席を取る。

 

「はい、葉隠くん」

「ありがとう。お金……」

「大丈夫! 前は私が奢ってもらっちゃったから」

「前? ……ああ。そういえば最初に会ったのもここだったな。生活費の入った封筒を落として探してて」

「うん。あの時は生活費のことで頭がいっぱいだったけど、後で考えてみたらジュースとかたこ焼きももらってたんだよね……結局封筒も見つけてもらったし、あの時は初対面だったのに、ありがとう」

「いやいや」

 

 俺は知ってたし……とは言えない。

 

「こちらこそ、いつもマネージャーの仕事や機械関係の相談に乗ってくれて、助かってるよ」

 

 そういえば、山岸さんと二人で話す機会って珍しいな……

 

「クラスが違うし、会う時はほとんど部活だから。どうしてもそうなるよね」

 

 ……会話が止まってしまった。

 

「……そうだ、チラッと見えたんだけど、プログラミングや動画編集にも興味あるの?」

 

 山岸さんが買っていた中に、そんなタイトルの本がいくつかあった。

 それもかなり専門的で、タイトルから理解できない内容の本がたくさん。

 

「ちょっと勉強してみようと思って……動画の編集は、葉隠君の型やスピーチを撮影して、動画サイトに投稿したよね。あれの感想にね、もっと見たい! とか、見やすい編集ありがとう! とか……そういうコメントを見てたら嬉しくなったの。

 他にもこうしたらいいんじゃないか? っていう意見もあって、ああ、そうかって思ったり……それが楽しいの」

 

 山岸さんは語り始めた。

 自分の家が代々医師の家系であること。

 自分の両親だけが医師ではないこと。

 両親に将来は医者になるように期待されていること。

 そして両親には成績ばかりを評価されること……

 

「だからかな。たくさんの人に自分が編集した動画を見てもらって、自分の関わった部分を褒めてもらえた事がすごく嬉しかった。学校の成績なんて関係ない所で。将来ために役立つことじゃないかもしれないけど、人を楽しませることができたなら……そう考えると楽しい、もっと知りたいって思っちゃって」

「なるほど」

「それに、葉隠君もいたから」

「俺が?」

「葉隠君、最近は歌やダンスもやってるじゃない。そんな姿を見てたらね、私もやりたいことをやってみたいって思って……つい、いっぱい買っちゃった。使う予定もないのにね」

 

 山岸さんは楽しそうだ。

 

 ……そういうことなら、今後も無理のない範囲で動画投稿を続けてみてはどうだろうか?

 

「えっ!? でも、何の動画を作ればいいのか……前は色々理由があったからできたけど」

「最近よくあるじゃない。“歌ってみた”とか“踊ってみた”とか」

「私、カメラの前で歌ったり踊ったりはちょっと……」

 

 そうだろうか……?

 あれ? でもペルソナシリーズの音ゲーがあった、てかどんどん増えていたはずだ。

 最初は4から始まって、3と5も後からどんどんと。確か3のタイトルは……

 

 P3D-ペルソナ3ダンシングムーンナイト 2018年5月発売予定!!

 

 ……間違えて何かの広告まで思い出した。けど、音ゲーが出るのは間違いない。

 ということは山岸さんも踊れるはず、なんだけど……絶対無理! という顔をしている。

 

 まぁ無理にとは言わない、代わりに俺が歌ったり踊るのはどうだろうか?

 

「……葉隠君が?」

「演技とかダンスとか。色々習ってみてこれからも続けたいとは思うんだけど、特に発表する場所もないしさ。それだったら俺が出演、山岸さんが撮影と編集の担当ということにすれば、お互いにやりたいことができるんじゃないか?」

 

 特に俺の場合は歌やダンスを使って人を、エネルギーを集められる。

 今後の活動に活かせる可能性が出てきた。

 まだオーナーや近藤さんに相談をしている段階だけど、可能であれば動画は役に立つ。

 世間では動画投稿者が開くイベントも増えてきているし、カモフラージュに使えそうだ。

 

「一応学校や関係各所には話を通しておくべきだと思うけど、それには江戸川先生や俺のサポートをしてくれる人たちが協力してくれると思うし、どうだろう?」

「いい、の?」

「実際に活動できるのは許可が出てからだけど……山岸さんにその気があるのなら、俺は応援したい。そして俺にも山岸さんの力を貸して欲しい」

 

 そう伝えると、彼女は真剣な表情で考えてみると言ってくれた。

 そこから先は口数が減ってしまったが、オーラに悪い感触はない。

 後は彼女の考えがまとまるのを待とう。

 

 そう決めて荷物を抱え、山岸さんを女子寮の前まで送ることにした……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 買い込んだ問題集を全て記憶。

 脳内でほどほどに予習復習を行った!

 

 しかし、時間的に余裕がある……

 

「そういえば」

 

 以前登録していた翻訳の仕事、しばらくやってないな……

 引き受けた仕事は全部片付けたし、当分受けられないとは連絡しておいたから向こうからも何も言ってきてないけど……この際やっておくか。

 

 久しぶりに翻訳の仕事をした!

 

「ふぅ……前より翻訳がスムーズかつ自然になった気がする。やっぱりアメリカで本場の英語に触れたからかな……」

 

 そんなことを考えつつ会社のサイトを見ていると、

 

「そういえばここ、英語以外も翻訳の仕事あったんだっけ……俺にもできるかな?」

 

 エリザベータさんの課題で読んだ本の山には、様々な言語の本が混ざっていた。

 それを読むために各言語の辞書を記憶し、内容を頭に叩き込んだ……

 今なら他の言語でも翻訳の仕事ができるかもしれない。

 

「ここって確か試験があったはず……あった!」

 

 フランス語

 イタリア語

 スペイン語

 

 3ヶ国語の翻訳試験に申し込んでみた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 10月1日(水)

 

 朝

 

 危ないところだ……

 食堂で警戒スキルが警鐘を鳴らしてくれなかったらスルーしたかもしれない。

 

 今日から冬服に衣替えだった。

 

「もう10月か……」

「1年ってあっという間だよな~」

「本当に一年なんて……いや、考えてみたらもう入学から3年くらい経ってる気が……そのくらい高校生活が濃かったって事か?」

「……色々巻き込まれてたもんな……お前」

 

 珍しく早めに登校している順平と友近から、哀れみの混ざった視線を送られた。

 

 ……それにしても、衣替えだ。

 実際に冬服を着てみたが、衣替えの必要性をまったく感じない。

 確かに気温は下がってきているとは思うけど、別に夏服でも寒いとは感じなかった。

 冬服に替えた今も、特に暑いというわけではない。

 何だろう、いまいち季節感がない。

 

 去年まではもっと気温の変化を疎ましく思っていた気がするけど……

 

 もしかして、ペルソナの影響か?

 火耐性や氷耐性があるから暑さや寒さに強くなったとか。

 テキサスではそれなりに暑さを感じたし……“耐性”だから気温の影響が緩和された?

 そういう事もありえるのか……後でサポートチームに連絡しておこう。

 本部の研究班が調べてくれるかもしれない。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~アクセサリーショップ・Be Blue V~

 

「例の件だけど……可能ね。エネルギーを溜める前の水晶なら量産は簡単よ。エネルギーを溜めるのも、今の貴方ならできるでしょう。ただし、膨大なエネルギーを扱う時は注意が必要よ」

「具体的には」

「そうね……銀粘土で台座を作りなさい。そこに防壁とか、エネルギーの逆流防止。そういった安全装置の役割を果たせるルーンを刻みなさい。余裕があれば、貴方に渡した指輪と同じ、エネルギーを増幅するルーンを刻むこともできるわ」

「!! それを使うと、膨大なエネルギーがさらに?」

「理論上は可能よ。ただ、先に安全をしっかり確保しないと危険が増えるだけだから……」

「確かに……なら銀粘土の材料も補充しないといけませんね。最近、影時間は神社でしたし」

「頑張って頂戴。材料があれば準備だけは私にもできるわ」

 

 ドッペルゲンガーが提案したエネルギーの回収方法について。

 オーナーと技術的な相談を行った!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~自室~

 

 近藤さんと翻訳の会社から連絡がきた。

 

 近藤さんはエネルギーの回収方法について、最大限協力してくれるそうだ。

 その一環として動画サイトへの動画投稿やイベント開催もOK。

 本部からもGOサインが出ているらしい。

 また、コールドマン氏の超人プロジェクトに関する正式発表も今月末には行うとのこと。

 知名度を今のまま、あるいは良い方向に上げておいてくれれば、都合が良いそうだ。

 俺たちの目的は一致している。

 学校側への対応も考えているとのことなので、段取りはお任せしよう。

 

 ついでに次回の課題である“翻子拳”。

 練習開始が“4日から”という確認もあったが、こちらも問題なし。

 警戒スキルで脳内にリマインダーを設定し、体調もしっかり整えておこう。

 

 続いて翻訳の会社から。

 昨日送った試験の申し込みが無事に受理されたらしい。

 早速3ヶ国語、各2つずつの試験問題を片付ける。

 

 ……

 

 動き出した手は止まらない!

 

「良い感じ」

 

 1時間半で6つの記事を翻訳終了。

 原作さえ乗り越えれば、食うに困ることはなさそうだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 次の日

 

 10月2日(木)

 

 朝

 

 ~自室~

 

 昨日質問した耐性の影響について、早くも検証をしてくれたようだ。

 

 簡易的な調査だが、火耐性を持つエレナがロウソクの火に指先を近づけたところ、サーモグラフィー(温度センサー)が熱量の減衰を確認したとのこと。また、この結果は熱源や条件を変えても変化はなかったらしい。

 

 現在アメリカのペルソナ使い全員の協力を得て、他の属性の調査も続けているが、今のところそれぞれ類似する結果が出ているらしい。

 

「耐性スキルは所有者の意識の有無に関係なく、まるで全身を不可視の薄い膜が包み込んでいるようだ。認識できない攻撃であっても、対応する属性の耐性を持っていれば威力は減衰する。ただし減衰効果が及ぶ範囲は多少の個人差もあるが、体表からほんの数センチ程度である……か。なるほどね」

 

 また、この検証結果から“打撃耐性”に敵を素手や素足で攻撃(打撃)した際に、手足にかかる負担を軽減する効果が期待できると判明した。無茶は禁物だが、打撃耐性を持っていれば拳が潰れるような怪我はしにくくなるらしい!

 

「良い情報だ。感謝のメール送っとこう」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 昨日の翻訳の仕事が早くも認められ、英語に加えてフランス語、イタリア語、スペイン語の翻訳ができるようになった。嬉しくて、そのまま早速仕事をしていると、

 

「そろそろか」

 

 警戒スキルが“アフタースクールコーチング”の放送時間を知らせてくれた。

 翻訳の仕事は急ぐ必要がないので、一時中断。

 テレビをつけて、仲間との連絡用アプリを起動した携帯片手に、自分の出演番組を観賞。

 

 ……

 

 ドッキリ撮影の時はもう少しうまく誘導できなかっただろうか?

 あの時はもっと別のコメントにすればよかった。

 テレビを通して見返すと、撮影中は気づけなかった反省点が見えてくる……

 

 しかし全体的に話の流れを止めたわけでもないし、反省点は次回に活かそう。


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