人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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223話 大誤算

 翌日

 

 10月3日(金)

 

 放課後

 

 ~部室~

 

 昨日番組が放送されたからだろう、今日はクラスメイトを含む生徒の反応が激しかった。

 皆の囲いから抜け出すだけで一苦労。

 その反動か、部室で一息つこうとお茶を飲んだらそのまま気が抜けてしまった。

 

「今日は部活お休みかな?」

「和田と新井もいないしな」

「たまにはいいんじゃないですか? それに先輩、明日からまた撮影でしょう?」

 

 満場一致でゆったりすることに決定……そんな時だった。

 

「はい、もしもし」

「葉隠くん! 今大丈夫!?」

 

 慌てた様子のオーナーから電話がかかってきた。

 

「大丈夫です。どうしたんですか?」

『さっき、ゆかりちゃんがシフトじゃないのにお店に来てね……思いつめた表情だったし、ちょっとお話をしたの』

 

 最近オーナーを気にしていた件か!

 

『残念だけど今は答えられない内容だったから、できるだけやんわりと伝えたつもりだったんだけど……思った以上に興奮していて、お茶を入れようとした隙にいなくなっていたの。任せてと言っておきながら、ごめんなさい。失敗したわ。

 放っておけないから探してるんだけど、葉隠君も手伝ってくれないかしら』

「わかりました。心当たりを探します」

 

 さらに数回言葉を交わし、電話を切る。

 しかし心当たりを探すとは言ったものの、その心当たりがない。

 店じゃなければ女子寮くらいしか……

 

「先輩?」

「どうしたの?  何かトラブル?」

「…………あ!!」

「えっ!? 何!?」

「山岸さん、前にダウジングでオーナーのバイオリンを見つけたことあったよな? それで岳羽さんを探せないか?」

「ゆかりちゃんを?」

「最近悩みがあったらしくて、オーナーに相談してちょっとトラブルがあったらしい。詳しくは俺も知らないが、店を飛び出して行方が分からなくなったそうだ。お願いできないか?」

「どうだろう……物なら何度も練習してるんだけど、人は探したことなくて……」

「それでいい。やってみてもらえないか?」

「……うん。わかった」

 

 山岸さんは鞄から地図と振り子を用意し、速やかにダウジングを始める。

 

 頼んでおいてなんだけど、律儀に練習続けてたのか……

 ハーブティーとか色々勉強しているのは知っていたけど、

 

「ん……いつもと感触が違う。何と言うか、ここって場所が定まらないみたいな……」

「大体の場所でも助かるよ。心当たりが全くない状態なんだ」

「なら、この辺かな?」

 

 そこは街のど真ん中。

 ただし、ポロニアンモールの近くではある。

 場所が定まらない、もしや移動中……!!

 

「ありがとう、山岸さん。岳羽さんが向かってる場所、分かったかもしれない」

「えっ!? 本当に? こんな、外れてる可能性の方が高いと思うけど」

 

 彼女について原作知識を持ってなければ、俺にも分からなかったと思う。

 

「自信を持ってくれ、前にバイオリンを見つけたときも思ったけど、やっぱり山岸さんは凄いよ」

「ええ……?」

 

 本人は釈然としない様子だが、山岸さんの探知能力は信頼できる。

 

「天田、後を頼む。俺は行くから、山岸さんが落ち着いたら、念の為に女子寮を探してもらえないか? さすがに女子寮は男じゃ入れないから」

「人使いが荒い先輩ですね。分かりました。こっちはなんとかします」

「頼んだ!」

 

 言うが早いか、俺は部室の外へ駆け出した。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~ムーンライトブリッジ・歩道~

 

 10年前、アイギスと大型シャドウの不完全な集合体である“デス”が戦い、原作主人公の中に封印された場所。そして来年も特別課外活動部とストレガの戦いや最後の大型シャドウ戦など、とにかくよく戦いの舞台になる橋の上。

 

 冷たい風が力強く吹き抜け、車道を走る車の騒音も酷い。

 開通当初ならまだしも、今はモノレールもある。

 この橋をわざわざ歩いて渡る人はほとんどいないが……彼女は来た。

 

「……どうして、君がここにいるの?」

 

 山岸さんが指定した道は、ここに続く大きな通りだった。

 そしてムーンライトブリッジは、彼女の父である岳羽詠一郎氏との思い出の場所だ。

 橋の開通式で買ってもらった編みぐるみのストラップを、今も携帯につけているくらい。

 

 ……全速力が速過ぎて、待ち構えていたみたいになったけど……

 

「オーナーから連絡を受けた。岳羽さんが急に消えたって聞いて」

「そっか……そういえば私、何も言わずに出てきちゃったんだっけ」

 

 力なく呟かれた声は、周囲の音にかろうじてかき消されずに耳に届く。

 

 表情とオーラに浮かぶ後悔の色。どうやら我を忘れての行動だったらしい。

 

 しかし俺がそう感じた瞬間、彼女のオーラが目まぐるしく変化する。

 悲しみ、怒り……完全に冷静さを見失っているようだ。

 

 一体何があったのか。

 

 彼女がここまで取り乱す内容なんて、俺が考えられる限りひとつしかない。

 

「お父さんの事で何かがあったか」

「!」

 

 返答はない。

 硬直した体と明確なオーラの変化が図星だと示している。

 

「なんで……なんであなたが知ってるの!?」

 

 目に危険な光を宿した彼女は赤黒く濁った怒りのオーラを纏い、距離を詰めた勢いのままに掴みかかってくる。女性としてはかなり強く、弓道で鍛えられた指が服と肉に食い込む。

 

 しかしこれまで続けてきた訓練の成果か、振り払うのはさほど難しくもない。

 

「!」

「落ち着いてくれ」

 

 強引に拘束を抜け出し、たたらを踏んだ彼女にパトラをかける。

 冷静さを失っている相手にはやはり効果覿面だ。

 

「ッ!!……ごめん。私……」

 

 勢い余って人を殺しそうな状態から急激に冷静になったせいか、自分の行動に対して動揺しているようだ。もう一度パトラをかけておこう。

 

「……落ち着いた?」

「……たぶん」

「よければ何があったか聞きたいんだけど」

「オーナーから聞いてないの?」

「オーナーもかなり慌てていて、細かい説明を受けてない。お父さんのことは直感だ」

「そっか……」

 

 彼女は俺の隣まで近づいて、橋の手すりに体を預ける。

 そして広がる海を見ながらぽつりぽつりと話し始めた。

 

「葉隠君は私のお父さんのこと知ってるよね? 10年前に亡くなったってことも」

「知っている」

「それでさ。“イタコ”っているじゃない? 死んだ人の霊を呼び出して話をさせてくれるって言う……私ね、オーナーにそういう事ができる人を知らないかって相談したの。お父さんと話したくて。……オーナーならもしかしたらと思って」

 

 結果はダメだったんだろう。

 

「知り合いにいるらしいけど、今の私には紹介できないって。理由は私がイタコや霊を信じてないから。本当にお父さんと話したいって気持ちを持っていることはわかるけど、それだけじゃダメなんだって。

 ちゃんと受けられる心の準備ができていないと意味がない、本物のイタコに本当にお父さんを呼び出してもらえても、信じることができなければお互いに不幸になるだけなのよって……今はなんか落ち着いたから分かる。もっと優しい言い方してくれたし。だけど、さっきまでは何か、受け入れられなかったって言うか……」

「なるほど……でも、どうしてこんなに急に?」

 

 岳羽さんがオーナーに何か相談したがっているのは感じていたけれど、我を忘れるほど急いでいるような気配はなかった。そこが不思議だ。

 

「葉隠君もわかってたんだね。オーナーも私が聞きたいこと、話す前から分かってたみたいだったし」

「細かい内容まで知らされてなかったけどな」

 

 彼女はわずかに微笑んだかと思えば、まっすぐに俺を見据えてきた。

 急に目に力が……何だ?

 

「昨日。君の出てる番組を見て思い出したの。私達、前にもこうやって話したよね。あの時は校舎の裏だったけど」

「……ああ。あの時も中間試験の前だった」

 

 あれは皆で勉強会を開いた初日の事……

 それをこのタイミングで持ち出してくる事に、悪い予感を禁じ得ない。

 

「テレビで流れた葉隠君の“夢でこの街のことをずっと昔から見てた”って話……私、一学期に君のお母さんがこっちに来た時、私一回会っててさ。最初は息子がこっちでちゃんとやれてるか心配って話だったんだけど……その流れで聞いた。その時は予知夢なんて全然信じてなかったけど」

「……だからあの日、俺がお父さんを恨んでるんじゃないかって話になったんだよな」

「そう。その後に君、言ったよね? 私に対する態度が変だったのは予知夢に関係してるって」

 

 ……言った。確かに言っていた。そしてすっかり忘れていた!

 あの時の俺も冷静ではなかったのだろう。

 思い出した言葉は、明らかな失言だった。

 

 それで変に刺激……これオーナーの所を飛び出したのも俺が原因か!

 

 真田や桐条先輩なら想定していたけど、岳羽さんが反応するとは想定外。

 今思えば何であんなことを口にしたのか……頭を抱えたくなるが、ぐっとこらえる。

 あの時は彼女が予知を“信じていなかったから”、そしてその後の事でうやむやになった。

 そうでなければあの時に、さらなる追求を受けていただろう。

 それが今ここに来ただけだ。

 今よりも技術も心構えもない、あの時に追及されるよりもマシなはず。

 

 頭を切り替え、心を落ち着ける。 動揺を抑え込み冷静を保つ。

 

「悪いけど、オーナーと似たことを言うよ。これも岳羽さん自身に信じてもらえなければ話しても意味のないことだ」

「信じるよ」

 

 間髪入れずに 答えが返ってきた

 しかし、オーラは真剣かつ冷静そのもの。

 誤魔化すなと激昂するかと思ったが……

 

「理屈は……通ってると思うんだ。もし私のお父さんと君が死んじゃうって話が繋がってるなら、私の事を最初から知ってたのかもしれない……それに何より、あの時君は立てないくらい気分が悪そうになってた。……あれが一番、演技とは思えないの」

 

 パトラを2回もかけたから?

 これまでにないほど冷静に、岳羽さんは話を進める。

 表情にも変化が乏しい。

 

「……わかった。まず始めに、岳羽さんの予想は正しい。俺から訂正することはないよ」

「そっか。前もそうだったけど、やっぱり否定しないんだね。あの時は勘違いだったけど」

「俺もあの時は途中まで勘違いに気づかなかったよ。……次に何を話せばいい?」

「どこまで知ってるの? まずはそこから」

「と言われても、大体のことは知ってるよ。一つずつ話してたらキリがないくらい」

「じゃあ……お父さんの事について。前に葉隠君は言ってくれたよね、私のお父さんは悪くないって。お父さんが何をやってたか、知った上での言葉なんでしょう?」

 

 一度頷いて肯定する。しかしそれは知るだけでも危険な情報だ。

 覚悟はあるかを聞いてみると、当然のようにあると答えた。

 

「……岳羽詠一郎氏の研究は、本来あんな被害を出すためのものじゃない。細かいことまでは俺にもわからないけど、タイムマシンのような物の研究をしていたはずだ。そのために必要な手がかりを桐条グループは持っていて、研究員をあつめて研究をさせていた。岳羽詠一郎氏もその一人で、事件当時は研究主任を……これは知ってるな」

 

 1つずつ慎重に説明していく。

 

 最初はまだ健全な研究だった事。

 それが当時の桐条グループ総帥である“桐条鴻悦”によって歪められた事。

 桐条鴻悦のカリスマは研究員の心を掴み、歪んだ思想に引きずり込んだ事。

 最終的に研究の目的が完全に変わってしまい、研究成果ではなく滅びを求めていた事。

 そして……大事故の原因となった実験が成功していた場合、失敗よりも多くの被害が出た事。

 

「じゃあ、お父さんは……」

「……岳羽詠一郎氏は、桐条鴻悦に逆らって一人で実験を中断した。この点に関して彼が事故の原因とは言える。だけどそれは決して彼の身勝手や暴走ではないと、俺は思ってる。彼は研究に関わる人間の暴走を土壇場で食い止めた。代償は大きかったけれど、被害を少なく抑えたのは間違いない」

 

 俺がそう告げると、目を潤ませていた岳羽さんは我慢の限界が来たようだ。

 手すりに乗せた両腕に顔を埋め、押し殺した鳴き声が風に吹き消されていく……

 

 俺はそんな彼女に何も言わずにこっそりと、ドッペルゲンガーで周辺警戒。

 そして車道から彼女を隠すように勤めた……




番組放送により学校が騒がしくなった!
影虎はゆっくり……できなかった!
影虎は54話でミスを犯していた!
放送された番組の内容が岳羽ゆかりを刺激した!
影虎は10年前の真実を語った!
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