放課後
~部室~
「はいっ、今日の分はこれで終了です♪」
“葉隠影虎が教える高校1年の数学・方程式と不等式(基礎)その1”
“葉隠影虎が教える高校1年の数学・方程式と不等式(基礎)その2”
“葉隠影虎が教える高校1年の数学・方程式と不等式(応用)”
“葉隠影虎が教える高校1年の日本史・飛鳥時代”
“葉隠影虎が教える高校1年の日本史・奈良時代”
“葉隠影虎が教える高校1年の日本史・平安時代”
“葉隠影虎が教える高校1年の世界史・ヨーロッパ世界の形成”
“葉隠影虎が教える高校1年の世界史・イスラーム世界の形成と発展”
山岸さんと動画の撮影をした!
無理はしてない、のかな?
とにかく楽しそうな気持ちが前面に出ている。
「葉隠君、昨日撮影した分は全部投稿してあるから、時間があるときに確認してみてね。あと、今回の動画につける問題集だけど」
「それならこのUSBの中だ。各教科に分けてファイルを作ってある」
「ありがとう! 動画だけじゃなくて、この問題集も好評なんだよ」
山岸さんは嬉しそうに動画の評判を語っている。
体調を崩している風でもないし、本当に大丈夫なのかな……
……
…………
………………
夕方
~校舎裏~
「今日から“対練”を始めることにしましょう」
周先生から新たな練習が発表された。
「対練とは、二人一組で行う練習です。試合とは違いお互いの動きは決まっていますが、技のかけ方、防ぎ方を学びます」
空手における約束組手と考えて良さそうだ。
「相手は私がやりますね。で勉強した基本の動き、それと呼吸。今度はもっと動きながらできるようになりましょう」
「よろしくお願いします!」
翻子拳の練習を行った!
しかしその途中、
「えー……このね、この時の手臂……ちょっと待ってくださいね……腕の動きが」
これまでわりと普通に話していたけれど、だんだん先生が言葉に詰まることが増えてきた。
周先生は日本語にまだ不慣れなのかもしれない。
……帰りに中国語の辞書買って帰ろう。
……
…………
………………
影時間
~長鳴神社~
「……?」
いつものように神社の境内へ来てみると、コロ丸の姿が見えない。
「天田、出ていいぞ」
「はい……あれ? コロ丸いないんですか?」
擬装用の棺桶型シャドウから出てきた天田も気になったようだ。
「最近はいつも出迎えてくれてたのにな……」
「何かあったんでしょうか?」
「……分からない」
境内はやけに静かだ。
とりあえず戦闘が行われている様子は無いけれど……
「探してみませんか?」
「待った。適当なシャドウを召喚するからそれに探させよう。ひょっこり顔を出すかも知れないし」
外だし、空から探せるといいな。
ヴィーナスイーグルをベースとして、隠密と周辺把握を持たせたシャドウを3匹召喚。
「俺達以外に動く存在を見つけたら戻ってこい」
シャドウは不気味な月明かりに照らされた空へ舞い上がる。
そしてそれぞれ3方向へ散り、一匹がすぐに戻ってきた。
「おっ、もう見つけたのか」
境内につながる階段を降りる……途中で警戒スキルが発動。
「やべっ」
「むぐっ!?」
天田を引っつかんで逆走。
急いで神社の軒下へ潜り込む。
「な、なにするんですかいきなり」
「静かにっ」
黙らせて息を潜めた直後。
薄暗い境内に新たな影が躍り出た。
「……何か物音がしたような気がしたが……気のせいか?」
『先輩、この声……』
『真田だ。見つけたのはこいつだったらしい』
意思疎通のルーンを使って会話。
“俺たち以外の動く存在”という指定が原因の人違いだ。
確証はないようだが、気配か何かを察知したのかもしれない。
真田は境内を歩き回っている 。
『先輩、どうするんですか?』
『影時間に会ってもデメリットしかないからな……』
とりあえず息を潜めている。
俺の能力を探知系の能力もなしに見破るのは難しいはずだ。
しかしこんな時にもしコロ丸が顔を出せば、コロ丸の存在が認知されてしまう……
「ほう? そんな所にいたか」
「「!?」」
真田の声が境内に響く。
『バレたんですか!?』
『……いや、俺たちじゃないっぽい』
声がこっちに向けられたようで、驚かされた。
しかし周辺把握が伝えてくる真田の顔は、俺たちが隠れている軒下ではなく屋根の上を向いている。
「……随分とおとなしいシャドウだな?」
『真田が見ているのはさっき俺が召喚したシャドウだ。俺たちが見つかったんじゃない』
『なんだ……』
『好都合だ、あいつを囮にしよう』
意思疎通のルーンで指示を出す。
「チッ!」
飛び立ったシャドウの嘴をサイドステップで回避する真田。
最初は動きがないシャドウを観察していたようだが、戦闘態勢に入ったようだ。
狛犬の上に止まったシャドウを睨みつけ、拳を構えている。
「今日はロードワークだけのつもりだったが……イレギュラーを見てしまった以上は仕方ないな。さぁ来い!」
と、意気込む真田だが……
「なっ! ど、何処へ行く!?」
シャドウを境内の階段に向けて飛び立たせる。
「待てっ! 逃げるのか!?」
……真田はシャドウを追って走り去った……
「……もういいぞ」
「ふぅ……なんとかなりましたね」
「立場的にイレギュラーを放置はできないだろうしな」
基本的にシャドウは好戦的だが、圧倒的な実力差を感じれば逃げる。
厄介な能力を持つやつはいても、人間みたいに作戦を練ったり罠を仕掛けたりもしない。
なまじシャドウとの戦闘経験がそれなりにあるだけに、疑いも持たなかったようだ。
そのまま警戒しつつ影時間を過ごしたが……囮に使わなかったシャドウだけが帰ってくる。
今日は真田が戻ってくることも、コロ丸が姿を見せることも無かった……
……
…………
………………
10月7日(火)
朝
~自室~
登校する前に、近藤さんからの連絡が入った。
『コロ丸様と神主の榊様の無事が確認されました』
「ひとまず無事で良かった……」
いつのまにか親交を深めているサポートチームの方々が、お土産のお菓子を受け取った際に聞いた話によると、先代の神主さんのお墓参りに行っていたようだ。本来は日帰りのつもりだったが、車の調子が悪くなりその近場で一泊してきたそうな。
どこかで危ない状況になってないかと……あれ?
シャドウが神社に現れるとすると、むしろ神主さんは外出したほうが安全……か?
今夜コロ丸と会ったら相談してみよう。
……
…………
………………
放課後
~部室~
“葉隠影虎が教える高校1年の国語(現代文)その1”
“葉隠影虎が教える高校1年の国語(現代文)その2”
“葉隠影虎が教える高校1年の国語(古文)その1”
“葉隠影虎が教える高校1年の国語(古文)その2”
“葉隠影虎が教える高校1年の物理・力と運動”
“葉隠影虎が教える高校1年の物理・仕事と力学的エネルギー”
新たな動画を撮影した!
「何か特別に強調すべき点はある?」
「今回の動画は基本的に読解の時短や回答のテクニックのまとめだから……」
現代文は日ごろから漢字の意味を知り語彙力をつける事が重要。
そのへんの知識がないと厳しい部分はある。
だけど今からでもやらないよりはやった方がいいのは間違いない。
できる限り語彙力を付けるよう頑張ってほしい。
頻出する語彙は問題集と一緒にまとめておいたから、それを参考にしてもらえればと思う。
「あと“現代文はセンスで解け”なんて言うけど、試験である以上必ず成績をつける基準がある。動画ではそのポイントを説明したから、そこを押さえてほしいね。
それから古文は基本的に1つの文が短いから、それをしっかり訳していくこと。文法を意識してしっかり意味を掴んでいけば、必然的に読解問題も楽になるはずだから。
物理は――」
山岸さんと編集内容の打ち合わせを行った!
……
…………
………………
夕方
~校舎裏~
撮影準備を整えて、昨日の帰りに買った中国語の辞書を読んでいると……
「おはようございます」
スタッフさんに挨拶する周先生の声が聞こえた。
よし、さっそく挑戦してみよう。
「
「? おお、
いきなり中国語で話しかけたからか、少し驚いたようだ。
「
「理解,只是有点不同的发音」
分かってもらえた。
しかし最後の一言は、発音に問題があると言うことかな?
「
「正しいです! その通り! 葉隠君は中国語喋れましたか?」
翻子拳を学んでいて興味が出たので少し勉強してみた、と説明。
母国語を会話のきっかけにしたおかげか、いつもよりも少し弾んだ会話をしていると、
「葉隠君!」
「あっ、目高プロデューサー」
最近見なかったけど、今日は来ていたようだ。
「いやーごめんね、他の撮影とか色々あって。周先生もお久しぶりです」
「お世話になってます」
「こちらこそ。それにしても葉隠君、中国語喋れたの?」
挨拶を交わしてすぐさま本題に入るプロデューサーに同じ説明をした。
「興味が出たので少し勉強したんです」
「少し? 結構ちゃんと話してなかった?」
「それは……ほら、前回の撮影でも暗記が得意だって話したじゃないですか。それで」
辞書を暗記することで語彙力をつけ、基本的な文法を学習し読み書きを可能に。会話は辞書に書かれている発音記号を参考に発音したり、相手の発音を話の流れや文脈も併せて考えて意味を推測している。
「……本当に?」
「暗記が得意なので」
ただ問題はある。それが周先生にも指摘された“発音”。
先ほども話した通り、俺の発音は辞書の単語に付随したアルファベットと発音記号だけが頼り。
ネイティブの発音を知らないので、リスニングもスピーキングも完璧には程遠いのだ。
「だから周先生と話して、ネイティブの発音を勉強させてもらおうかと」
「本当に、少しずつ良くなってますよ。この子の発音……」
「それはもう暗記が得意というレベルじゃない気が……いや、これは……うん! その特技もっと前面に押し出していこう!」
「押し出す?」
「ストイックに体を鍛えて格闘技を身につける少年。その隠された能力が明らかに! ……面白いと思わないかい?」
また騒がれそうだけど、それはもう……なんか今更になってきた。
これが流れて、俺の学習能力に疑いを持つ声が減ればそれはそれで助かる。
コールドマン氏の超人プロジェクトにとってはプラスになるだろうし……
話の流れで、今日の撮影で記憶力や語学能力を取り上げることが決まった!
……
…………
………………
影時間
~長鳴神社~
「ほい、到着っと……」
昨日召喚したシャドウ2匹が、神社の屋根にとまっている。
そしてまたコロ丸はいない。
今日は何処に行ったんだろうか?
昨日のことがあったので、気楽に考えて天田を背中から下ろした。
……そんな時だった。
「……………ォー…………ワォー……………」
「何だ?」
「これ、コロ丸の声?」
どこからか犬の遠吠えが聞こえる。
「天田、行くぞ!」
「は、はい!」
この時間に活動する犬といえばコロ丸。
そしてコロ丸は基本的に静かな犬だ。
敵と勘違いされて吠えられたことはあるが、敵でないことを理解してからは吠えなくなった。
遠吠えが異常事態と結びつくのは一瞬。
「こっちか?」
「先輩! あそこに道があります!」
本殿の裏に、木々で囲まれた細い小路を発見。
躊躇無く道へ飛び込む俺と天田、遅れてシャドウが2匹飛んでくる。
どうやら普段からこの道は使われているようだ。
枝や草木が邪魔になることは無く、一目散に遠吠えの聞こえる方向へ駆ける。
「ォーン!! ワン! ワンッ!? グルル……」
「う……ぁあっ! ぐ、うぅ……」
だんだんとはっきりと聞こえてくるコロ丸の声。
そこに混ざる、男性のものと思われるうめき声。
脚に力が入り、天田とはやや距離が離れてしまう。
しかし、
「!! 嘘だろ……?」
その光景を目にしたその時。
俺は予想外の状況に、つい脚を止めてしまった。
影虎は動画を撮影した!
影虎は翻子拳の練習をした!
影時間の長鳴神社にコロ丸の姿がなかった……
代わりに真田がやってきた!
影虎は危うく遭遇しかけた!
コロ丸は無事だった!
影虎は中国語(普通話)を覚えた!
神社に異変が発生したようだ……