人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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228話 魔法円

「先輩! どうしたんです、ッ!?」

 

 追いついた天田が息を飲むのも無理はない。

 俺から見ても、目の前に広がる光景は異質かつ不気味な状況だった。

 

「先輩あれって」

「……とにかく近づく。ここにいても仕方がない」

 

 道の先には一軒の和風建築と、その前でうずくまる男性に寄り添うコロ丸の姿が見えた。

 シャドウに襲われている様子はないが、苦しみ続ける男性の体のいたる所から、黒い液体のようなものが流れ出しては蠢いている……

 

「コロ丸!」

「バウッ!? キャン! キャン!」

 

 意思疎通の魔術を使わなくても分かる。

 コロ丸もこの状況に戸惑い、必死に助けを求めていることが。

 

「先輩、これってどういう状況なんですか?」

「心当たりはある、けど確証はない」

 

 たしか桐条先輩の過去、彼女が総帥と初めてタルタロスに踏み込んだ日。

 適正の開発が不十分な護衛の一人が突然苦しみ始めるシーンがあったはずだ。

 後日談で、桐条先輩のペルソナ覚醒イベントとして。

 だが、その後の護衛の末路は……

 

「とりあえず、効果のありそうな事をやってみるしかない。天田とコロ丸は下がってろ。場合によってはシャドウが飛び出てくる。俺は治療に専念するから、何かあれば頼む。後天田には回復魔法をかけてもらうかもしれない。とにかく神主さんの生命維持を最優先に考える!」

「了解!」

「バウッ!」

 

 返事をした二人が後ろへ下がる。

 

 素直に従ってくれて助かるが、正直、何が正解か分からん。

 行き当たりばったりで治療なんか、と悩んでいる暇もなさそうだ。

 シャドウに襲われたなら、討伐や傷の治療と対処法も明確なのに……?

 

 漏れ出している液体から魔力と気を感じる。

 これはドッペルゲンガーに近い状態か?

 流れ出ているのがシャドウになりかけの気と魔力なら……やってみるしかない。

 

 夏休み、アンジェリーナちゃんが魔力を暴走させた際に使った魔術を即興でアレンジ。

 魔力を減衰させる部分を削除。

 植物の成長を助ける魔法にも用いたLIF(生命)の単語を採用。

 生命のエネルギーとして気の流れを整える文章を加え……完成したルーン魔術をメモに記入。

 

「これで何とか……頼む!」

 

 効果が発揮されることを願い、魔術を発動。

 

「うっ! あ、ぐっ、いが、あぁあああ!!!」

「!!」

 

 途端に苦悶の声が大きくなった。

 魔術の効果はちゃんと発揮されている。

 しかし、落ち着かせようとする俺の魔術に反抗するような動きが感じられた。

 結果的に魔力と気が体内で暴れ、彼の負担が増しているようだ。

 一旦中止に、

 

「!」

 

 突如反応する警戒スキル。

 慌てて魔術の中止を(・・・)中止。

 一拍置いて、判断が正しいことを悟る。

 

 そうか。

 二つの力が拮抗した状態で、突然一方の力がなくなればもう一方が……

 魔術の中止は一気に状態を悪化させる可能性が高い。

 肉体の保護、生命維持、その手の効果がまだ不十分。

 

「しまった……」

 

 落ち着け……

 ルーンを改善すべきだが、現場この魔術を止めることはできない。

 片手も塞がっている。

 天田に指示をして新しく書いてもらう?

 いや、そんな悠長な事をしていたら、魔力が尽きるか集中力が途切れる。

 考えている時間もない。

 

 一か八か……違う。

 魔術の腕もドッペルゲンガーの操作能力も前より確実に向上している。

 今ならできるはずだ!

 

「先輩!?」

 

 全身を包むドッペルゲンガーを霧に戻した。

 影時間中の屋外で素顔を晒すのは、ペルソナに目覚めた夜以来。

 微妙に冷たく感じた空気が心を澄ませてくれる。

 

「コロ丸、自慢の鼻でも耳でもなんでも使って周りを警戒してくれ。今、誰かに姿を見られたら俺がマズイ」

「バウッ!」

 

 頼もしい返事。

 信用しないわけではないが、昨日の捜索用シャドウにも見張りを任せる。

 

 後は集中だ。

 霧に変えたドッペルゲンガーを地面に降ろして変形。

 イメージは“黒いインク”。

 

 ……完成したそれは奇しくも、目の前の男性から流れ出る液体と酷似している。

 

 ここから……

 

 ドロドロした液体が俺の意思に従って地を這い回り、軌跡が二重の円となる。

 さらにその内に線を引き、五芒星とルーンを配置。

 

 ルーン魔術、そしてペルソナの操作。

 両方に慣れ親しんできたおかげか、思いのほかスムーズに動き魔法陣が描かれた。

 

「天田! こっちに注意!」

「はい!」

 

 警戒を促した上で魔法陣を発動。そしてメモを用いた魔術を停止。

 

「!!」

「ッ!」

 

 魔術行使を切り替えた瞬間、男性の体が大きく跳ねて黒い液体が迸る。

 その勢いはすぐ元通りに収まるが、俺の体は一瞬にして不快感に包まれた。

  幸い、顔や体へ降り注いだ液に毒性はなさそうなのが幸いだ。

 

「先輩! 今ので仮面が出てます! 腰の辺り!」

「腰!?」

 

 なんでそんな所から!?

 と思ったが、確かに小さく弱弱しい、それでもシャドウと見て間違いない仮面を確認。

 

「出てくるな!」

 

 とっさに伸ばした左手。

 

 “邪気の左手”発動。

 

 禍々しく変貌した左手が、仮面を握り砕く。

 

 と同時に、

 

「うぉっ!?」

「先輩!?」

 

 突然、ずっと感じていた魔術への抵抗感が消えた。

 体内の魔力や気が急速に安定していく。

 神主さんの表情にも、先ほどまでの苦しみはないようだ……が、

 

「大丈夫だ。それより回復!」

「ネメシス! ディアラマ!」

 

 召喚されたネメシスが放つ、柔らかい回復魔法の光が男性を包む。

 ……呼吸がだいぶ落ち着いた。

 

「クゥ~ン……」

「安心しろ、コロ丸。今はもう魔術を止めたけど、暴走する気配は無い。……ひとまず峠は越えたと思う」

 

 というか収まってくれ。

 こんな行き当たりばったりの治療、もう二度とやりたくない……

 

「! ハッハッハッハッ!!」

「ぬわっ、やめろ! こら舐めるな! うぇっ!」

「ははっ、コロ丸嬉しいんだ。そうだよね」

「見てないで何とかしてくれ、ってか誰もいないか周囲を警戒してくれよ!」

「ワフッ!」

 

 ? 一鳴きしたコロ丸は、ひらりと身軽に家の玄関先へ行ってしまった。

 

「ワフッ!」

「先輩、あれ“中に入れ”って言ってるんじゃないですか?」

「それっぽいな。……この人も休ませるなら中の方がいいだろうし、お邪魔するか」

「ですね」

 

 コロ丸の誘いに乗ることに決め、神主さんを担いでいく……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 10月8日(水)

 

 朝

 

 昨夜、影時間が終わってすぐサポートチームに連絡。

 病院は説明が難しくリスキーなので、神主さんのお宅にサポートチームが集合。

 Dr.キャロラインの診断によると、神主さんは過度の疲労で寝ている状態。

 脈拍などは正常で、特に治療を要する状態ではないらしい。

 手の施しようがない、とも言う。

 

 現在は本人のご自宅で彼らが様子見。

 サポートチームの方々がお邪魔することについては、コロ丸から同意を得た。

 

 コロ丸は飼い主の窮地を救ったとして俺と天田、さらに万が一が無いように様子を見ているサポートチームの方々にも感謝をしてくれているようで、“倒れた飼い主を助けるために家を飛び出して、たまたま神社を訪れていた人を連れてきた”という事にしてくれるそうだ。

 

 ストーリーを考えたのも、説明をするのも近藤さんだけど、そういう美談も無いことはない。

 神主さんが目を覚ましてからの説明は任せておけばいいだろう。

 あの人なら最悪の場合、金の力にものを言わせてでも丸く治めてくれそうだし。

 

 ……影時間については、本人が影時間の出来事を覚えているかどうかを確認してから。

 

 そして俺と天田は一旦、無関係と言うことで普段通り生活することになった……が、昨夜のアレは精神的、肉体的に負担だったんだろう。

 

 朝起きると“疲労”になっていた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午前

 

 ~保健室~

 

 ホームルームで担任の宮原先生に体調不良を訴え、保健室へとやってきた。

 

「江戸川先生、いらっしゃいますか?」

「ヒヒヒ……待ってましたよ。さぁ、こちらへ」

 

 保健室のベッドを借りる。

 

「大変でしたねぇ」

「どうしてか予想外の事態ばかりが続いてる気がします……」

「ヒヒヒ……まぁ、あまり抱え込みすぎないことです。君は君があの場でできることをやったのですから、後はサポートチームの方々にお任せしましょう。何かあればあちらの方から連絡が来るでしょう」

「そうですね。今日はしばらくお世話になります」

「構いませんとも。ところでこちら、今日のお薬ですが飲みます?」

「いただきます」

 

 差し出された試験管の中身を嚥下する。

 

「……自分で言うのもなんですが、私の薬を躊躇なく飲むのは影虎君くらいですよ。ええ」

「もう慣れましたから……それに先生の薬は効果が出る時はハッキリ出るので分かりやすいですし」

 

 効いてるのか効いてないのか分からない薬よりも、スッキリする。

 即死はさすがに注意して作ってるだろうし、毒ならポズムディで解毒すればいいわけだし。

 

「……ところでこの薬、想定している効果は? なんだか以前飲んだことがあるような気がするんですが」

「ヒッヒッヒ。飲んだだけで当てるとは、影虎君も分かってきましたねぇ! その通り、その薬は以前君に飲んでもらった薬を改良したものなんですよ。確か記念すべき一回目でしたね」

 

 一回目と言うとあれか。まだ高校生活が始まって間もない頃、体調を崩して目をつけられた。

 

「確か“ツカレトレールXYZ”とかなんとか名付けてたやつですか。あの時の症状は強烈な眠気がきて、放課後まで居眠りでしたっけ? 体調はきっちり治りましたけど」

「ええ。効果は十分だったので、成分を調整して副作用をマイルドにすることを狙いました。また、ソーマやプチソウルトマトから検出された成分の他、新しく配合した薬品により短時間の睡眠で効果的な回復効果を得られるように調整できているはずです。君の新陳代謝や自然治癒力を考慮して作っているので、現状では、ほぼ君専用の薬ですねぇ」

 

 文化祭の時に、Dr.キャロラインと共同開発してるって話してた薬か。

 

「それは是非成功してほしいですね……って、話しているうちに眠くなってきました」

「おや、そうですか。想定よりも早いですねぇ……」

「……いきなり予想外ですか?」

 

 でも確かに前ほど強烈な眠気ではない。

 あの時は周りや先生の声が聞き取れないくらいになった。

 それを考えればマイルドか?

 

「なるほどなるほど……吐き気などはないですね? よろしい。とりあえず影虎君はそのまま寝ていてください。効果を調べるためにも、疲労回復のためにもね」

「そうします……」

 

 布団に潜り込むと、ゆっくりと意識が閉じていくのが分かった……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「……ん?」

「おや、目覚めました?」

「江戸川先生、今は何時ですか?」

「2時間目が終わったところですよ。もうじき3時間目が始まりますねぇ。どうですか? 体調は」

「………………」

「影虎君?」

「体調は良いです。すごく。頭もスッキリしてるんですが……手足が動きません」

 

 前にもこんなことあったなぁ……1回目の勉強会の時に。

 

「それも間違ってませんね。配合した成分の一つがあの時の飲み合わせでできた物ですから」

「何でそんなもの入れたんですか……」

「あれはあれで優れた回復効果があったんですよ。コールドマン氏と契約したおかげで、これまで調べられなかった情報まで得られるようになりましてねぇ……ヒヒッ。あの成分について、海外では先行研究があったんです。

 そして私の計算では眠りから覚めるまでに副作用は消えてしまうはずだったのですが……体質ですかねぇ? 睡眠導入成分の方が速く抜けてしまったのかもしれません……とりあえず3時間目も休んで様子を見て見ましょうか。しばらくしたら動けるようになると思いますから」

 

 そう言われたので、解毒せずに待つことにした……

 

 …………しかし、指一本動かせない状態では起きていると暇だ。

 もう一度寝ようにも全く眠気がわいてこない。

 ……そうだこの際だから、魔術の話をしてみよう。

 

 つい昨日、ドッペルゲンガーで魔法円を描いた話をしてみた。

 

「ほう……なるほど考えましたね」

「あの時は単なる思いつきでしたけど、思ったよりイメージも変形もさせやすいんですよね」

「魔術師として順調に成長しているようで何よりです。ではせっかくですし“魔法円”について少しお話をしましょう」

 

 先生が講義モードに入った。

 

「まず“魔法円”とは、西洋の儀式魔術や魔女術において、儀式の際に術者が入る円のことです。主に床や地面に描かれますね。敷物などに描いても問題ありません。……さて、この魔法円。一口に魔法円と言っても様々な種類がありますが、共通して魔法円を用いた儀式では術者が円の中に(・・・・)入ります。これは先程も言いましたね?

 昨今、世間一般の方々は“魔法陣”と混同していますが、これは大きな間違いです。あれはゲームや小説など様々な物語に取り上げられ、改変されたフィクションですから。本来の魔法円ではありません」

 

 魔法円と魔法陣……正直、俺も混同していた。

 

「違う物だったんですね」

「ふむ、そのあたりは詳しく説明していませんでしたか」

 

 先生はどこからか小さなホワイトボードを取り出して簡単な絵を2つ描く。

 一つは魔法円の上に人が立っている様子。もう一つを魔法円のそばに人が立っている様子。

 

「右が“魔法()”、左が“魔法()”の図です。どちらも似たような図形が描かれていますが、こういったものを用いる話の代表例は悪魔召喚ですね?」

 

 確かにその手の話は多そうだ。

 

「そこでまず違いがあります。魔法陣の場合はよく魔法陣から(・・・・・)悪魔などが呼び出されるとされますが、本来の魔法円では円の外に(・・・・)悪魔などが呼び出され、先ほど言いましたように円の中に術者が立ちます。何故ならこの時の魔法円の役割が、悪魔からの防護円、身を守るための結界であるからです」

 

 この話は前にも少し聞いた覚えがある。

 

「夏休みに先生が参加しようとしたオフ会で使っていた魔法円に欠けていた機能でしたよね?」

「よく覚えていましたね。その通りです。悪魔にしろ天使にしろ、人間とは別格の超常的な、友好的とは限らない存在を呼び出すのですから、悪魔召喚に際して魔法円は必須と言ってよいでしょう。

 しかし魔法円の役割はそれだけではありません。“魔術師は神殿の中で作業する”という言葉があるように、召喚に限らず儀式を行う魔術で魔法円を利用するのは物理的にも霊的にも、外部から邪魔が入るのを防ぎ、自らの作業をより完全な状態で行えるようにする。そういう目的もあるのです。

 ですから昨夜君がやったように、魔法円の上で作業をするというのは基本であり、魔術の効果を高めるために理にかなっているのです。……欲を言えば魔法円を描く前にやっておいた方が良い儀式もありますがね。ヒヒッ!」

 

 魔法円について詳しい説明を受け、知識を手に入れた!

 その結果、

 

「……先生、“魔法円”ってスキル習得したんですけど」

「ほう、それは実に興味深い。魔法円について、正しい知識を得たからですかねぇ? ヒヒヒ……」

 

 ついこの前、天田にも言ったけど、スキルって唐突に変なタイミングで習得するよな……

 というかこのスキル、3のスキルだっけ?

 どこかで見た覚えがある気はするけど、何かが違うような……まぁ、使えるなら何でもいいか。




影虎は神主の窮地に遭遇した!
影虎は神主の治療に成功した!
神主の意識は戻っていない……
影虎は疲労になった!
影虎は保健室で薬を飲んだ!
影虎は体が動かなくなった!
江戸川の授業を受けた!
魔術の知識が深まった!
“魔法円”を習得した!


※魔法円
任天堂3DS用ソフト、ペルソナQに登場するスキル。
効果は“条件付きで”体力小回復。
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