人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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ペルソナ3ダンシングムーンナイト&ペルソナ5ダンシングスターナイト本日発売!
個人的にお祝いの気持ちを込めまして、今回は四話を一度に投稿しました。
前回の続きは三つ前からです。


234話 知らぬは本人ばかりなり

 同日

 

 夜

 

 ~メゾン・ド・巌戸台~

 

「……私は直接その様子を見てないけれど、可能性は十分にあるわね」

 

 この日の夜。

 サポートチームの拠点では、サポートチームのリーダーを務める近藤。

 医療関係を担当するDr.キャロライン。そして江戸川の3人で密談が行われていた。

 

 その内容は、試合後の影虎の様子。

 

「では、現在の葉隠様には“バーンアウト”の可能性あり。本部にもそう連絡させていただきます。しばらくはこれまでよりも慎重に様子を見ましょう。本人への説明は本人が自分で気づいた時、あるいはその必要が認められた場合とします」

「異存ありません。そのうちに治る軽度の可能性もありますし、ヘタをすれば余計な努力をしてしまいかねませんからねぇ」

「でもちょうど芸能活動に力を入れようという話になったんでしょう? 格闘技以外の仕事も入ったとか。普段やらない事をやるのも治療には有効よ」

「活動の幅を広げる中で解消されれば良いのですが……一時的に本部での活動も視野に入れておきましょう。選択肢は多い方がいい」

 

 こうして本人のいない所で、影虎のバーンアウト治療計画が話し合われている。

 

 “バーンアウト”

 

 それは日本では“燃え尽き症候群”などと呼ばれる症状。

 “大きなストレスを持続的に受ける事による衰弱”

 “精力的に活動していた人の突然の無気力化”等々……

 スポーツにおいては試合後の選手が罹り、復帰の遅れや引退に繋がる事も多い。

 

「……彼が悪いわけではないけれど、来年へ向けての準備段階でこれは不安要素ね」

「確かに。ですがある意味当然かもしれません。影虎君は16年間、そのほとんどの時間を一人でやがて来たる理不尽な死を見据えて生きてきたのです。唯一の可能性は“力”……

 そして真田君は彼の知る未来で、シャドウに対抗しうる人間の1人。彼への勝利……それも対等な条件の下、正面から余裕を持って。これはすなわち影虎君が、彼らと対等以上にシャドウに抵抗できる力を手に入れているという証明……そう考えて差し支えないでしょう」

「資料によりますと……彼のペルソナが“ルサンチマン”と変化した折、“力はもう十分に備えただろう”と語りかけられた、とありました。そして本日、十年来の目標を明確な形で達成してしまった」

 

 “暴走”

 

 3人の頭にその一言がよぎる。

 

「……問題はそれだけじゃないわ。Dr.江戸川、こっちのデータに間違いはありませんね?」

「ええ、間違いありません。彼に新しい薬を投与した際の観察結果に、本人からの感想です」

「何度見てもおかしいわ。疲労回復効果はちゃんと出ているのに、どうしてこんなに睡眠時間が短いの?」

「薬剤耐性が徐々に強化されているようですねぇ……代謝の活発化、細胞レベルでの抵抗性の増大。この辺りが可能性としては高いかと」

「疲労回復の効果はそのまま、睡眠の副作用だけ? ……結果は結果として冷静に受け止めるけれど、個人的な意見を言わせて頂戴。都合が良すぎるわ」

「ヒヒヒ……今に始まった事じゃありませんねぇ。食事量の増加。体脂肪の減少。脳の異常発達。この一年で色々と確認してきました……気になるというだけなら語れる点はまだまだありますが、彼はペルソナという非常識かつ未知の存在をその身に宿している。どんな影響があってもおかしくはありません」

「そうかもしれないけれど……」

「お気持ちはわかります。私も現場を離れたとはいえ医師のはしくれでしたから……検査で十分に患者の状態が把握できなければ、致命的な異変が起こった場合の治療が難しくなりますからねぇ……」

 

 Dr.キャロラインは黙して頷き、近藤へ視線を向ける。

 

「検査と治療の拠点を用意すると聞いていたけど」

「医療関係は手続きも複雑化していまして……企業立病院の新設、既存の病院の買収。様々な方面から準備を進めていますが、流石にまだ用意に時間がかかります。どんなに早くとも11月頃まではかかるでしょう。今ある機材でどうにかなりませんか?」

「残念だけど無理ね。私たちが調べた範囲では体に異常は見つからないの。簡易の機材じゃ無理よ。葉隠君だけでなく、天田君にも急激な運動能力の向上が確認されているけど……そちらも健康状態と検査結果、共に異常は出てこないわ」

「おそらく、夏休みに影虎君が入院した病院と同程度の専門的な設備が必要でしょう。脳の発達はMRIで本格的な検査をしたところ確認できましたし。十分な機器を使えば発見できる事もあると思います。桐条グループも、かつて人工島に巨大な研究施設を作っていたという話ですからね」

「……でしたらスケジュールを調整し、本部が手を回している病院に検査入院させましょう。一週間程度であれば空ける事は可能です。あちらなら機材は揃っていますし、安全も確保されています」

「お願いするわ。悪いけど。手元にある機材だけじゃどうにもならなそうだから」

 

 こうして3人は、本人の知らぬところで心身についての相談を続ける……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~巌戸台分寮・作戦室~

 

 一方その頃、影虎に敗北した真田とセコンドを勤めた桐条。そして特別課外活動部の顧問であり、理事長でもある幾月修司の3人が寮の作戦室へと集まっていた。

 

「来たか、明彦」

「遅くなってすまん。病院の検査が長引いてな」

「体調は大丈夫かい?」

「平気ですよ幾月さん。病院の先生も問題ないと言っていました。まぁ、一週間ほど練習は控えるようにと言われましたが……ところで今日は何が? わざわざ集合をかけるなんて」

「……その件を話す前に、私は1つ謝らなくてはならない。まずは座ってくれ」

「美鶴……?」

 

 桐条の様子に疑問を抱きながら、気を引き締める真田。

 作戦室の机を挟み、桐条と対面する席に着く。

 

「突然謝ると言われても見当がつかないが……」

「もちろん説明からさせてもらう。以前、葉隠がペルソナ使いの素養を持っている可能性があるのではないか? と話した事を覚えているか?」

「そんな事もあったな。根拠も証拠もなく、予知能力などの信憑性の低い話があるだけだったはずだが……まさか本当にペルソナ使いなのか!?」

「落ち着いてくれ。それはまだ分からない。それを確かめるために、私は今日の試合を利用した」

「具体的には」

「影時間の適正とペルソナの素養を調べるには二つの検査がある。一つは対象者の細胞サンプルを用いて解析する検査。もう一つは特殊な測定機器により、対象者が保持しているエネルギー量を計測する検査だ。

 私はそのエネルギー測定機器を昨夜のうちに試合会場の出入口に設置させ、入場の際に葉隠のデータを採取させた。もう1つの検査は通常血液で行うが、多少精度が落ちて良いのであれば毛髪でも可能らしくてな。撮影のために葉隠を担当したメイクの道具から隙を見て毛髪も採取させた」

 

 桐条が包み隠さずに事実を淡々と言い終わると、作戦室に沈黙が流れる。

 

「……それだけか?」

「それだけだが……怒らないのか?」

「確かにそういうやり方は好きじゃない。が、シャドウに関する美鶴の熱意は十分に知っているつもりだ。ペルソナ使いの重要性も、この特別課外活動部が慢性的な戦力不足だという事もな。

 思うところがないとは言わないが、試合内容に影響がなければまだ許せる……それとも何か妨害になるのか?」

「それはないと誓う。毛髪の採取はもちろん、計測機器も心身への副作用がない事を事前に私自身が確認している」

「なら、やかましくは言わん。だが、次にそういう事をする時は事前に一声かけてくれ。裏でこっそりやられるのは気分の良いものじゃない」

 

 そう言う真田を驚いたように見つめる桐条。

 

「本当に物わかりが良くなったな……約束しよう。次からはちゃんと話してから実行する」

「ならこの話はこれで終わりだ。……で、結果はどうだったんだ?」

「それはまだわからない。採取したデータと毛髪はラボに送ってある。そろそろ解析が終わって結果も出るはずなんだが……理事長」

 

 返事の代わりに機材を操作する幾月だが、

 

「……まだみたいだね」

「そうですか」

「血液じゃなくて毛髪を使って検査してるからね……」

 

 血液を使う検査法は、桐条の研究員が研究を重ねて完成させた最も効率が良い方法。

 そして現在の主流である。

 対して毛髪は使えはするが最先端とは言い難く、手間もかかる。

 

 幾月はそう説明しながら両手を軽く上げ、待つしかないとおどけてみせた。

 

「それにしても驚いたね……こんな言い方はどうかと思うけど、真田君がまた負けるとは思わなかったよ」

 

 言われた真田は苦笑する。

 

「俺も勝つつもりでしたが、あいつの方が一枚も二枚も上手でした。必死に食らいつく俺に対して、あいつはまだ余裕があった」

「……信じられないね。あの試合から真田君は急成長したのに」

「成長したのはあいつも同じでした」

 

 戦い方の変化。

 変わらず堅牢な防御。

 織り交ぜられたダンスのステップ。

 さらに速く、持続する連続攻撃。

 真田は自分の感じたすべてを語る。

 

「試合前に“学んできた全てを使って戦う”とは言っていたが、まさかダンスまで加えてくるとは思わなかった。試合の後で聞いたら、2ラウンド最後のアレも“パンケーキ”とかいうダンスの技だったらしい。あの時は咄嗟だそうだが」

「ははは……彼は真田君とはまた違った方向で貪欲だね」

「結果次第だが、葉隠が仲間になってくれれば心強いな」

「しかし美鶴、どうやって勧誘する気だ? こちら側に引き込むなら事情を説明をして、密かに適性検査を行った件も話さなきゃならないだろう? 信じがたい話はお互い様としても、無断でやったのはやはり悪印象じゃないか?」

「そう、だな。確かにそうだ。疑惑を確かめる事ばかり考えていた」

「……美鶴。今だから言うが、お前もシャドウが関わると割と冷静さを失うよな?」

「くっ、他人の事は言えんか」

「まぁまぁ、っ! 桐条君、結果が届いたよ!」

 

 音を立てた機材に注目が集まる。

 

「そっちの画面に表示するよ。えっと……まずは比較対象として、桐条君。そして真田君のデータだ」

 

 幾月がファイルを開くとともに、画面に溢れ出すグラフの数々。

 そして最終的に2つの数値が表示された。

 

 “桐条美鶴 影時間適正値・75 ペルソナLv.16”

 “真田明彦 影時間適正値・73 ペルソナLv.25”

 

「私もそれなりに鍛錬は積んでいるつもりだが、やはり明彦には敵わんな」

「桐条君はペルソナを使わない活動にも時間を裂いているからね、それでこの差なら十分じゃないかい?」

「美鶴、この数値はどう見たらいい?」

「おや真田君は初めてだったか、ここは僕から説明しよう。

 まず左の影時間適正値。これは読んで字のごとく影時間への適性の高さを表す数値だ。基準としては40台後半で影時間を知覚し始め、50以上になると影時間での活動が可能になる。ただしそれは影時間に出入りできるというだけで、ペルソナ使いになるには60以上の適正値が必要と考えられているよ」

「なるほど。では“ペルソナLv.”とは?」

「そっちは機材で計測した体内のエネルギー量の事だね。ペルソナを召喚したり、魔法や技を使う時には必ずエネルギーを消費する。それをどれだけ持っているかをペルソナの強さを図る基準としているんだ。ペルソナによって得意不得意、使える魔法の属性、技は千差万別だからね。エネルギー量を基準とする事でそういった差異に関係なく、特殊なペルソナ使いの力も平等に測るんだ。

 ちなみにLv.1に満たないエネルギー量だとペルソナの召喚はできない。つまりペルソナ使いとしての条件は“適正値60以上、Lv.1以上”となるわけだね。それを踏まえて……これが葉隠君のデータだ」

 

 画面上に表示されたファイルの上にカーソルが移動。

 作戦室に緊張が走る。

 

「開くよ?」

 

 そしてファイルは開かれた。

 

「!!」

「こ、これは……」

「理事長、この結果に間違いは無いのですか?」

「検査は十分に信用に足る精度だよ。検体の取り違えの可能性もないだろう。僕が直接ラボまで持って行ったからね。これは正真正銘、葉隠君のデータだと思っていい」

 

 “葉隠影虎 影時間適正値・22 ペルソナLv.41”

 

「レベルが私の倍以上、明彦でも16の差があるだと……」

「葉隠はそれほどに強いという事か」

「ん~……これはあくまでエネルギー量の計測結果だから純粋な戦闘能力とはまた違うけど、彼が膨大なエネルギーを秘めている事は間違いないね。その量は十分にペルソナを召喚し、戦闘タイプなら大きな戦力になるだろう。ただし、それはペルソナが召喚できればの話だ」

 

 幾月は適正値の項目を指し示す。

 

「影時間の適正値が22というのはかなり低い、一般人でも大体30が平均だからね……これだとペルソナの召喚は疎か影時間を知覚する事もできない。言い方は悪くなるけど、宝の持ち腐れだよ」

「葉隠に適正はない、と」

「残念だけどその通りさ。適正値を上げるトレーニング方法もあるにはある。でもここまで低いと影時間を知覚できるようにするだけでかなりの時間がかかるだろうし、適正値が低くてレベルが高い人は暴走のリスクが高いんだ」

 

 “暴走”

 

 その言葉を耳にした二人の表情が強張った。

 

「レベルが高ければ召喚したペルソナはまず強力になる。だけどそれ相応に制御も難しくなってしまう。それを安定させてコントロールする能力、それを表すのが適性値でもある。適正値とレベルの乖離が激しくなるほど暴走しやすいと考えてほしい。

 この結果を見るに……彼は適正値が低過ぎてペルソナを召喚できないだろうから、そっとしておく分には問題ないだろうけどね。……ただ、下手に訓練を受けさせて万が一使えるようになれば」

「暴走する」

「その通り。そうと決まったわけじゃないけど、荒垣君よりもその可能性は高そうだね……レベルを見てからだと非常に残念だけど、彼を引き入れるのはリスクが高い。僕たちにも、彼にもね」

「……」

 

 肩を落として黙り込む桐条。その後ろから真田が問う。

 

「単純な疑問ですが、適正値が低くてレベルだけ高いという事は、よくあるんですか?」

「レベルが召喚可能に達してる人は珍しくもないよ。体内のエネルギー量は心と体を鍛えていれば高められるみたいでね、桐条の警備部の人員も必要量に達している人は多いし」

「なら葉隠のレベルが高くても変ではないのか……」

「ここまでのレベルだと珍しくはあるけど、彼は色々あったようだしね……彼が本気で体を鍛えていることは疑いようがないし、実際に真田くんに二度勝利していることを考えると、不自然な結果とまでは思わない」

「……やはり、命がけで鍛錬をすると伸びるのだろうか」

「おい待て明彦、今何を言った? タルタロスの探索は許さないぞ。そうでなくても危険なトレーニングは禁止だ」

「分かっている。ただ今日の試合で“スレッジハンマー”という新しいスキルが身についてな。あいつと本気で戦うとその度に成長を感じられる。だから全力とか、死ぬ気でやるとか、そういう事が何か急成長に関係があるんじゃないかと気になっただけだ」

 

 訝しむ桐条と苦笑いで弁解する真田。

 二人は既に“影虎を特別課外活動部に入れる”という考えを捨てていた。

 そうと決まれば、それ以上話す事は多くなく、

 

「葉隠君への勧誘は取りやめ、この件については黙っておく。という事でいいかな?」

「葉隠に適性がないとわかった以上、妥当でしょう。反対はあるか? 美鶴」

「無いな。私も暴走のリスクが高いと分かっていながら引き入れようとは思わん。我々の事情とは無関係でいる方が彼のためにもなるだろう」

 

 満場一致でこの日の集まりは解散となる。

 

 だがその後、

 

「桐条の特殊工作チームを急遽動かしてまで検査をしたというのに、素養があるかと思わせておいて期待はずれ。何だろうね……彼が関わる度に面倒事が増えている気がするなぁ……数値の傾向はまるで“人工ペルソナ使い”だし……被験者でない事は間違いないけれど……エネルギー量については気になるな……やっぱり君とは実験素材として会いたかったよ……」

 

 一人になった作戦室でそう呟き、機材の電源を落とす幾月がいた……




江戸川・近藤・Dr.キャロラインは秘密の会合を開いた!
影虎にバーンアウトの兆候が見られた……
影虎の体質に変化が起こっているようだ……
サポートチームには医療機材が不足している。
影虎の健康に疑いが持たれている……

桐条は影虎の適性検査を秘密裏に行った!
影虎が強いエネルギーを保持していることが発覚した!
ただし影虎に適性は無い……??
影虎はペルソナ使いとバレずに済んだ!
影虎のペルソナは暴走しやすいらしい……


※今回の“影時間適性値”や“ペルソナLv.”はオリジナル設定です。
 特にレベルはゲームのレベルを無理やり当てはめました。
 公式設定ではありませんので、ご注意ください。

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