人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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235話 抜き打ちテスト

 10月11日(土)

 

 朝

 

 ~教室~

 

「それはこのページを参考にして。そっちはxの値を代入すればいい。あとこっちは……」

 

 昨日の今日で、試合結果について聞いてくる生徒が多いので、断る理由に勉強会を開いた。

 いつものメンバーはもちろんのこと、他のクラスメートまで巻き込んで真剣に勉強をしている。

 無関係な話をしづらい空気と状況を作りあげ、面倒な質問を回避することに成功した!

 

 ただし、

 

「葉隠ーこっち教えてくれー」

「ごめん、私もお願い」

「私も!」

「助けてくれ……」

「順番に回るよー!」

 

 違う意味で忙しく、そして自分から始めたため、逃げるわけにもいかなくなった……

 まあ自分の復習にもなるし、人にものを教える訓練にもなるから良いけど。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~生徒会室~

 

 今日は生徒会の仕事に参加。

 桐条先輩と二人で書類整理を行っている。

 しかし……

 

「? どうかしたか?」

「こちらの書類、全部まとまりました」

「相変わらず仕事が早いな。次はこっちを頼む。やることは同じだ」

「お任せあれ」

 

 ……なんだか桐条先輩の態度が違う。

 最近は俺が予知の話をしたからだろう、疑われているような視線を感じていた。

 一緒に仕事をしていても家を気にしている様子があったけれど、今日は全くない。

 

 どうしたんだろう?

 考えられるとすれば、疑いが晴れたのだろうけど……どうしてかがわからない。

 まず桐条先輩がペルソナ使いの可能性がある人間を気にするのは分かる。

 そしてそれを放置するとは思えない。

 何らかのアプローチをしてくるか、あるとしたら現状維持で様子見だと思っていた。

 まさか俺の知らない間に何かの検査をされた?

 

 ……だとしたら俺がペルソナ使いであるということはバレたはず。

 この場でなくても、どこかに呼び出すには今が絶好のシチュエーション。

 何より新たなペルソナ使いは何としても確保したいはずだし、オーラに出るはず。

 それが全くない……いったい何があったのか?

 

「葉隠、ちょっといいか?」

「はい」

 

 呼び出しか?

 

「来週の試験後のことだが、芸能活動に重点を置くという話を聞いた。それに伴って欠席をする機会が増えるとも」

「ああ……そうですね。進級に影響の出ない範囲で時間を芸能活動に当てていくつもりです。現状は“アフタースクールコーチング”だけですが、他の番組からもお誘いをいただいてまして。

 あと今月末頃、例のプロジェクトがアメリカで正式発表されることになります。そうなると俺もまたマスコミ対応をする必要が出てくるでしょうし、少しでも経験値を積んでおかないといけないので」

 

 今朝には近藤さんから“正式発表の後、日本での取材が一段落したら、プロモーションと体のデータを取るために一週間ほどアメリカに来てほしい”とコールドマン氏から要請があったとのメールが届いていた。

 

「例のプロジェクト関係はビジネスの側面もありますし、適度に休息する時間も確保しないとさすがに体を壊す可能性もあります。そうなると放課後と休日だけでは時間が足りなくなりそうなので」

「そうか……葉隠なら心配はいらないと思うが、一応学生の本分は勉学だ。おろそかにはしないように。成績を一定以上維持できていれば、出席日数はこちらでも取り計らおう。補習での単位取得や、そのスケジュールの調整ならある程度協力できる」

「それはありがたいです」

 

 でも、何故?

 

「なぜかと聞かれると、色々だ。まず一つは単純に私の応援したい気持ち。一つは君の入学以来の出来事を思い返すと、学園の不甲斐ない対応でかなりの迷惑をかけているという点で私と理事長の意見が一致した。

 さらに君はこれまで定期テストで全教科満点で1位という素晴らしい結果を残し、運動能力も高い。クラスや全校生徒の前で演説を行い、文化祭の成功に大きく寄与した実績がある。コミュニケーション能力も高く、まさに文武両道」

 

 やたらと褒めちぎられたかと思えば……

 学校としては一人でも優れた卒業生を多く輩出したい。

 それが学校の実績となり、将来の入学希望者数に大きく影響する。

 そんな生々しい言葉が続いた。

 

「多少融通を利かせる程度で君が籍を置き続けるなら、学校経営にはプラスになると大人は考えているのさ」

「下心バリバリですね」

「そういうものさ。綺麗事で取り繕えるのは表面だけだからな。だが君を応援したいという気持ちに嘘はない。会う機会が減ってしまうかもしれないが頑張ってくれ」

「ありがとうございます」

 

 ただ、割とちょくちょく来ると思うんだけどね……

 午前中を仕事に使うから授業に参加できないだけで、部活や放課後には顔出すつもりだし……

 でも、なんとなくそれが言い出せない雰囲気がここには漂っていた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~自室~

 

「今日の動画も良い感じだと思うよ、こうして話してる間にも再生回数がじわじわ伸びてるし」

『よかった。残りの“試験前日の応援メッセージ”は明日投稿しておくからね』

「よろしく」

 

 山岸さんと動画投稿の打ち合わせを行った!

 

 そして電話が切れると、間髪入れずにまた着信。

 何か忘れていたことがあっただろうか?

 

「もしもし?」

『こんばんはー』

「あ、中村さん」

 

 苗の注文を引き受けてくれている、愛家の看板娘。

 “中村あいか”さんだった。

 

「いつもありがとう。今週の注文?」

『それもあるけど、販売元から伝言がある』

「伝言」

『“新商品を販売する準備が整いました”』

「!!」

 

 新しい苗が手に入るのか!

 期待して続きを待つと、新しい苗は“開錠ムギ”と“ヒランヤキャベツ”だそうだ。

 

『買う?』

「お願いします。最初は少量で、いつもの苗もいつも通りお願いします」

『まいどー』

 

 “開錠ムギ”は鍵のかかった宝箱を開けるムギ。こちらは正直そんなに意味がなさそうだけど、もう一方の“ヒランヤキャベツ”はダウンと戦闘不能以外の状態異常を回復させる効果がある有用な野菜だ。

 

 利用方法はおそらく食用、料理に使えるかもしれないし、先生に預ければ薬品の材料になるかもしれない。届く日が今から待ち遠しい!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~神社~

 

 今日からタルタロスに復帰しようと思ったら、

 

 “疲れているように見える。今日は体を休めた方がいいだろう”

 

 コロ丸がそう意思表示をしたきり、断固として神社を動かなくなった。

 決意は堅く、俺のことを考えてくれている気持ちも感じるので、今日も体を休めることにする。

 

 そんなに疲れて見えるのかな……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 10月12日(日)

 

 午前

 

 ~○○テレビ~

 

「おはようございます!」

「おはようございまーす」

「おはようっす」

 

 今日はスタジオ撮影日。

 もう顔見知りになったスタッフさんと挨拶を交わし、近藤さんと一緒に控え室で待っていると。

 

「おはよう葉隠君!」

 

 プロデューサーがやってきて、今日の打ち合わせが始まる。

 そしてこんな相談を受けた。

 

「ドッキリの仕掛人を僕が?」

「そうなんだ。一緒に撮影するのがまたIDOL23の別メンバーでさ。前回と似た感じで彼女たちの素顔を映したいんだ。前回同じグループのメンバーに仕掛けたドッキリと同じ状況を作って、あえてドッキリを疑わせる。そして彼女たちがどう動くのかを見てみようっていう企画なんだけど」

 

 以前の撮影でアイドルグループの先輩2人がやっていたように、骨伝導マイクとイヤホンをつけて、指示を受けながら動けばいいようだ。

 

「何も知らないふりをして、前回もこんなことがあったっていうことを意識させてくれれば基本的にOK。+αでいくつかやってもらおうと思うけど、前と同じでゆるい感じでいいから、バレても気にしないで」

「やってみたらどうかな? 葉隠君」

 

 せっかくのご指名だし、低いリスクで芸能活動の経験を積むチャンスだ。

 近藤さんも進めているし、やってみよう。

 

 ドッキリに同意して、さらに打ち合わせを継続。

 ドッキリと通常の収録、どちらも細部を詰めていく。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 そして収録。

 

『エーッ!!!!!』

「……これマジなん?」

「はい。暗記は得意なので!」

「いやいやいや。辞書と教科書丸暗記して習ったことない中国語身につけるって……もう得意とかいうレベル違うって! ほんまは昔からちょっとずつ習ってて得意だったって……何? この件の真偽を確かめるために、テストを用意してます?」

「テスト?」

「Если вы терпите неудачу, это лжец」

 

 どうぞ? って言ったのかな?

 突如スタジオに入ってきた銀髪の女性から差し出されたのは、ロシア語の辞書と日本製の指南書。なるほど、察した。

 

「この場でやってみせろと?」

 

 目高プロデューサーが、両腕で大きな丸を作って返答。

 

「読むのに10分ぐらい時間いただきますよ? あ、その間ひな壇でトークしてるからOK、ですか。では始めます」

 

 周りがざわめく中で速読&暗記。

 内容を整理して、実際にさっきの女性と会話をしてみせる。

 発音が問題で伝わらない場合は筆談も交え、5分ほどの会話で短時間での語学習得が可能であると証明した。

 

「というか最初の一言、“失敗すれば嘘つきです”ってひどくないですか? もー」

 

 かなり驚かせたようだが、信用されたようなので問題ないだろう。

 

 気を取り直して撮影は続く。

 

「試合中にダンスのステップを組み合わせるとか、ようやるなぁ」

「体の動かし方とか重心の移動とか、勉強になるところが多いと思ったんです。それに僕は元々“カポエイラ”をやっていたので、自分の中でしっくりきました」

「でもそれを試合で使える所まで持っていけるってのは、ねぇ。大したもんだと俺は思うわ」

 

 入念な打ち合わせのおかげで、収録は滞りなく進む……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 収録後

 

「お疲れ様でした!」

「お疲れ様ー」

 

 特に問題はなく、前回と同じように収録は終わりを迎えたが、

 

「目高プロデューサー? ロシア語の件、聞いてませんでしたけど」

 

 ドッキリの仕掛け人をやった事が、俺を油断させるための作戦に思えてきた。

 

「待って待って、ミニコーナーの方とは完全に別の話だよ。それに君の語学力をあのやり方で派手に証明しようって提案したのは近藤さんだからね!」

 

 ……近藤さんが?

 

「はい、あれは私の発案です。葉隠君は本当にできるのですから、カメラの前でも全く問題ないと確信していました。それに驚異的な学習能力を持ち、語学に堪能であることは確実に後々の利益へ繋がります」

 

 曰く、コールドマン氏のプロジェクトは規模が大きく、参加希望者は大勢いる。

 それこそプロの世界でしのぎを削り、輝かしい功績を残してきた人々も集まってきた。

 結果的にそんな彼らを押しのけるように、俺は大プロジェクトのテストケースとなる。

 発表後には疑問の声や、“コネで登用”等の誹謗中傷が来ないとも限らない。

 そうでなくとも俺の評価を高めておくことは俺自身にも、プロジェクトにもプラスになる。

 ……ということらしい。

 

「事前に一声かけて欲しかったとは思いますが……」

 

 目的や理由は理解できなくもない。

 そしてこの人、俺のできる事できない事をきっちり見極めて暗躍したようだ。

 近藤さんは味方であれば頼もしいが、敵に回すと厄介そうだ……

 

「納得してもらえたところで葉隠くん。近藤さんから聞いたんだけど、芸能活動に力を入れていくらしいね?」

「はい、そのつもりです」

「じゃあもしよかったら僕の番組にも出てくれない?  アフタースクールコーチング以外にもいくつか番組やっててさ……“ヘルスケア24時”って知ってる?」

「あ、知ってます!」

 

 芸能人が様々なメディカルチェックを受けてその結果から病気や治療法、予防法などを紹介していく番組だったはず。

 

「そうそう。葉隠君なら健康かもしれないけど、運動能力や記憶力の秘密に迫る! とか面白い企画が作れそうなんだよね」

「なるほど……」

 

 その内容はちょっとリスキーな気がする。

 どこで検査するか知らないが、桐条グループと関係する施設であれば危ない。

 それに、

 

「近藤さん」

「そうですね。良い企画だとは思いますが、葉隠くんの身体データは我々のプロジェクトにとっても重要なものでして、本部と相談の後に返答させていただきたく……」

「それはもちろん! もし可能であればで構いませんから。考えていただけるだけで十分こちらとしてはありがたいですよ」

 

 目高プロデューサーはそう言って笑い、仕事に戻っていく。

 その笑顔とオーラから、俺の芸能活動を応援してくれている事を強く感じた!

 

 しかし気のせいだろうか……

 

「近藤さん。なんだか俺が思っていた以上に、芸能活動に乗り気ですね」

 

 プロジェクトのため、サポートの一環と思っていたけれど、前より熱心になっている気がする。

 

「そうですね……仕事に対するやりがい、というのでしょうか? だんだんと面白く感じていることは否定しません」

「? なるほど……」

 

 赤と青が混ざったオーラが迸る。

 そこまで気合が入るほどなのか……とりあえず熱意はあるようだ。

 それにしても急な気がするが、ここはそっとしておこう……

 

 なおこの後、帰る途中で近藤さんが多国籍料理店に連れて行ってくれた。

 何であんな店を知っていたのか、いつ調べたのかは知らないが、滅茶苦茶美味かった。


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