人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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242話 農家の息子の依頼

「力を貸してほしい?」

 

 いったい何をすれば良いのか……自然と手紙に目が落ちる。

 

 少なくともこの手紙のルーンを見る限り、

 

 ・魔術師、非魔術師の判別

 ・文章、ルーンを含むデザインの不可視化

 ・代替メッセージの表示

 ・上記魔術の隠蔽

 

 以上4つの効果はあるはずだ。

 

 近藤さんと同時に見た時に、俺だけにあの文章が見えていたことを考えると、実際に文字が消えていたわけではない……デザインの内、それらしき部分にシゲル(太陽)のルーンが見える。前後の文字からこれを()と捉えて光の屈折を操れば……? 不可視化と代替メッセージの表示は1つで可能なのか? それにルーン魔術を解除? した時の呟き、あれはまさか……

 

 ……とりあえず言えることは、このルーン魔術が俺の魔術より複雑かつ難易度の高い術であるということ。そして同時に魔術師としての腕前は彼のほうが高いという証明だ。

 

 それに彼が纏う雰囲気……なんとなく、彼一人で大抵の事はできてしまいそうな気がする。

 

 そう伝えると、彼は大きく首を振った。

 

「確かに魔術は使えますが、それだけではどうにもなりません。僕の希望は葉隠さんの動画で、うちの苗や野菜の知名度を上げていただく事です」

「……なるほど」

 

 まだ理解できる。

 良くも悪くも騒がれている俺の動画内で紹介すれば、多くの人の目に触れるだろう。

 

 さらに聞けば彼は彼でWebサイトを開設するなど、知名度を挙げる活動はしているらしい。

 しかし10年ちょっと前とは違って、今はサイトの数も爆発的に増えた。

 Webサイトなんてありふれた現代では、開設しただけでは顧客は増えない。

 

 教えてもらったサイトを俺たち3人の携帯で見てみると、

 

「サイト自体はしっかりしていますね」

 

 普通にちゃんとしたサイトに見える。

 苗のページを見れば値段などの基本的情報はもちろんのこと、育て方の丁寧な解説もある。

 どうしてもという時はメールでの無料相談も受け付けているようだ。

 また、野菜のページにはみずみずしい写真がそれぞれ用意されていて食欲をそそる。

 ……全てにおいて、製作者の熱意が見えるようなWebサイトだ。

 

「情報は分かりやすく、利用者のことが考えられている構成。これはプロに依頼して?」

「自作です。あまりお金がかけられないので、本で勉強してここまで作りました」

「私が思うに、サイト自体は十分に良い出来だと思います。ただ問題は」

「閲覧者数」

「ですよねぇ……」

 

 サイトに関しては近藤さんやチャドさんの評価もすごく高い。

 しかし問題は閲覧者数。サイトがどんなに素晴らしくても、見てもらえなければ意味がない。

 それは彼も自覚があったようだ。

 

「サイトの開設から半年ほど経ちましたが、閲覧者数が20人を超えた日はありません。また、売上への影響もほぼありません。お客様が多少増えている気はするのですが、誤差の範囲と言っても良いくらいで」

「広告や宣伝は?」

「検索結果の上位にサイトを表示できる“SEO対策”を、無料でできる範囲で試していますが、成果が出ていません。今はSNSを試そうかと考え、その手の知識を集めています」

「専門の業者に依頼するという手は」

 

 近藤さんの質問に、彼は言い淀むことなくはっきりと答える。

 

「そこまでの資金力が僕にはありません。そこが葉隠さんにお願いすることを決めた一因でもあります」

 

 曰く、

 資金力が無いのでお金のかかる広告は出せない。

 動画投稿者や芸能人など、誰か影響力のある人に依頼しようにも報酬が用意できない。

 しかし苗を大量購入する俺が、テレビに映る姿を見ていて、もしかすると……と思った。

 

「葉隠さんの協力に対して、僕が用意できる報酬は2つ。

 1つは今後の取引について。動画の成果にもよりますが、苗の代金を一部割引させていただきます。さらにご注文いただければ、苗だけでなくこちらで実らせた野菜をお送りします」

 

 苗の割引はどこまでか明確にされていないが、割り引かれて困ることは無いな。

 特に俺は今後も大量に頼むし……野菜は作った物を送ってくれるなら手間も省ける。

 

「そしてもう1つ。僕の持つ魔術の知識と技術を提供いたします」

 

 それは……

 

「いかがでしょう? きっと葉隠さんの必要としている物だと僕は思っています」

「それはどうしてか、聞かせてもらえませんか?」

 

 迷いなく言い切れる理由を聞きたい。

 さらに俺には師匠もいるが?

 

「テレビで過去の夢についての話を聞きました。世間では子供の頃の思い出だったり、キャラ付け程度に思われているようですが、僕は全部事実だと感じたんです。そして……アフタースクールコーチングで格闘技を学び続けるという選択が、悪夢の行き着く先はまだ先にある。そんな風に見えたんです。

 それから僕は葉隠さんの師匠になるのではなく、僕が独自に開発した魔術を教えるだけ。参考書のような物だと考えてください。葉隠さんにルーン魔術の知識がなければ、一から教えさせていただくつもりでいましたが……どうやらその必要はなさそうですし」

 

 まさか俺も自分と同じルーン魔術師だとは思っていなかった、

 まるで奇跡か運命のようだ、と笑っている彼。

 

 ……魔術以外に何か能力を持っていると見ておこう。

 手紙に仕掛けをしたのは魔術が対価になるかを判断する意味もあったのかもしれない。

 

「……食えない中学生だ」

「こちらとしても真剣なので」

 

 苦笑いを浮かべる、その顔が年相応に見えない。

 

「もう一つ聞かせて欲しい」

 

 どうしてそこまでして苗を売りたいのか?

 もちろん家業が繁盛するに越したことはないだろう。

 しかしこれまで話を聞いていて違和感がある。

 こういうことは普通、家族全体で。両親が主体となって取り組むのではないだろうか?

 両親はパソコンが苦手で、一番得意だから手伝っていると言うなら分からなくもない。

 だけど今の彼は、親の援助もなく孤軍奮闘しているようにしか見えない。

 

「ご推察の通り。両親はそんな事をする必要はないと話していますし、実際そこまで切羽詰まった経営状況というわけでもありません。ですが将来を考えると、僕はこういったことを少しずつ、今からやっていかなければならないと考えています」

 

 そして彼は言葉を選びながら語りはじめた。

 

「時代の流れ……でしょうか? 昔は今より農業を営む方も多く、さらに炭鉱もあり、このあたりはだいぶ栄えていたと聞いています。しかし今では自然の豊かな田舎町……将来への不安を抱き、あるいは時代の流れから取り残されたように感じ、他所へ移り住む人も少なくありません。特に農業を止めてしまう農家さんや、若い世代の流出が顕著でした」

 

 そんな状況が続き、ここ数年八十稲羽では急速に近代化を進めようという動きが出ているらしい。その代表的な例が“ジュネスの誘致”。

 

「住民の大多数から喜びの声が出ている一方で、我々のような地元の農家や、商店街にお店を構えている経営者の方々は戦々恐々としています。

 ジュネスができれば一気に便利になるのは間違いありません。……でも、そこに並ぶのはどこかで作られ、運ばれてきた商品。ジュネスに人が流れた分だけ、我々の商品は売れなくなってしまう。“売る機会”そのものが無くなってしまう。そうなってから慌てていては遅いんです!」

 

 だんだんと言葉にこもる力が強くなり、とうとう彼は声を上げた。

 彼が八十稲羽の行く末を真剣に考えていることが、純粋に伝わってくる……

 

「声を荒げてすみません……とにかくこのままではダメだと僕は思うんです」

「なるほど」

 

 彼には確信があるようだ。

 それが魔術や未知の能力によるものか、はたまた単なる先見の明かは分からない。

 しかし、ペルソナ4の原作開始時点では商店街に閉店した店が目立っているはず。

 そう考えると彼の予想は正しく、対策を練るのは妥当な判断だろう。

 

 本人は食わせ者な気がするし、魔術による仕掛けや確信の話がどこまで本当か分からない。

 しかし、自分の全てを賭けてでも事を成そう、そんな強い熱意と覚悟は感じる……

 ある意味で信用できそうだとも思う。

 そして何より、野菜と新しい魔術知識は俺にとって魅力的。

 どうやってかは知らないが、俺が何を求めているかは理解して話を進めているのは分かる。

 

「近藤さん、俺が彼の申し出を引き受けることに問題は?」

「今のところ競合するスポンサーとの契約はありませんから、普段通り投稿する動画の内容に注意をし、情報共有を密にしていただければ。細かいフォローは我々が担当いたします」

「ありがとうございます。……霧谷さんのお気持ち、よく伝わりました。また報酬も十分に価値のあるものと私は考えます」

「では……」

「これからよろしくお願いします」

「ありがとうございます!」

 

 苗の宣伝を引き受けることに決め

 

「うっ!?」

「葉隠様!?」

「どうしました!?」

「あ……大丈夫です」

 

 スキルを習得するのに似た感覚、だけど違う。

 何が身についたか分からない上に、体中に電気が流れたような痛みが走った……

 

「ちょっと体の中が引きつったみたいな痛みが一瞬。でももう消えたので」

「そうですか……?」

 

 何だったんだろう、今の痛み……

 

 気にはなったが、とにかく依頼を引き受けることにした!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~メゾン・ド・巌戸台~

 

 時間の許す限り今後について霧谷君と話し合い、巌戸台へ帰ってきた俺は、サポートチームのDr.キャロラインと江戸川先生の診察を受けた。

 

 結果は……

 

「原因不明ね」

「スキルを習得する感覚があった、ということですし、ペルソナに起因する症状だと考えられますが……」

「少なくとも肉体的な異常は発見できないわ。心理的要因で引き起こされる痛みか、あるいはまた別の何かだと思うわ……」

 

 原因は分からなかった。

 しかし二人は俺の症状について議論を交わしている。

 どちらの意見も推測の域を出ないようだが……2人の真摯な思いを感じた……

 

「っ!?」

「! 影虎君!?」

「……大丈夫です。体の痛みがまた……」

「もう一度調べてみましょう。発作の直後なら何か違うかもしれないわ」

 

 再度メディカルチェックを受けた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 時計の前に座り込む俺、天田、そして俺の召喚したシャドウが3体。

 

「……天田、頼むぞ」

「はいっ」

 

 天田が先日収穫したヒランヤキャベツを抱えているのを確認し、実験を開始する。

 

「こい!」

「!」

 

 合図と共に、1体のシャドウが俺にポイズマを放つ。

 それを抵抗せずに受け入れると、途端に気分が悪くなる。

 

「毒状態だ」

「先輩!」

 

 すぐさま千切って差し出されたキャベツの葉を口に詰め込む。

 

「……」

 

 苦い。ヒランヤキャベツは市販のキャベツよりも甘みが少ないのか……?

 しかもエグミがあるというか、吐きそうにはならないけど、生で食べるには向かないかも。

 食べ進めていくうちに慣れ、だんだん気分も楽になり味わう余裕が出てくる。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ、もう平気だ。どうやら一個丸々食べなくても回復はできるみたいだな。念のためもう一枚くれ」

「どうぞ。これで六枚目です」

「なら一回に五~六枚ってとこか? ……普通のキャベツより葉が薄いみたいだな。やわらかくて歯ごたえもいい。回数を重ねると腹が膨れるだろうけど、とにかく効果はあるみたいだ。この調子で他の状態異常も全部確認するぞ」

「お腹は平気ですか?」

「食いきれると思う。それより天田も一度は全部の状態異常を受けておけよ?」

 

 上に行けたら、普通に使ってくるシャドウもいるはずだ。

 その時になって慌てないための練習にもなるだろう。

 

「分かりました。ところで、回復魔法の練習も必要ですよね?」

「……もしかして野菜嫌いなのか?」

「きっ、嫌いじゃないですよ! ただその、生は苦手と言うか、ちょっと食べにくいと言うか……」

「まぁ今回はそれでもいいけど。今度料理で何とかならないか試してみるよ。江戸川先生も色々試すって言ってたし」

 

 回復魔法の練習も必要ではあるけど、魔力を温存しておくことも必要になると思うからな。

 

「わかりました」

「とりあえず今日は俺が実験台だ。次もフォロー頼むぞ」

「あ、はい!」

 

 ヒランヤキャベツの効果を検証した!




影虎は苗や野菜の宣伝を頼まれた!
霧谷は自分の事情と八十稲羽の将来を熱く語った!
霧谷は野菜と魔術を対価に提示した!
影虎は宣伝を引き受けた!
影虎は謎の痛みに襲われた!
影虎はヒランヤキャベツの実験を行った!

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