人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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245話 トーク番組

「本日のゲストはこの4人でーす!!」

『キャー!!!!』

 

 本番開始とともに湧き上がる歓声。

 Bunny'sの2人、久慈川さんに続いて俺も、ピンクが基調のかわいらしいセットに上がる。

 

「昨今話題の新人アイドルが勢ぞろい!」

「だけど新人さんはまだデビューして間もないよね?」

「どんな子なのか、よくわからな~いって人も多いんじゃないかな?」

「今日はそんな4人の素顔を探っていくよっ!」

「まずは今Bunny's事務所一押しのこの2人!」

 

 光明院君と佐竹の紹介に挨拶のような軽いトークが始まる。

 

 ……素顔を探るという名目にはなっているが、イメージが重要なアイドル業界。事前の打ち合わせは当然。さらに所属事務所はキャラ作りに余念がない。そんな2人のトークは予定通りに進む。

 

 佐竹は生来の性格か自信満々で堂々とトークをこなす。

 光明院君は気合の入れすぎが原因と思われるミスを何度かしていたものの、些細な事。

 ちゃんと反応して、声も出る。

 スタッフさんのオーラを見るに、十分合格点をとれているようだ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 アイドルとしてデビューした感想や、印象に残っている思い出などをテーマにトークが続く。

 

「葉隠君は結構行き当たりばったりと言うか、お任せとか無茶振りをされてる印象が強いよね」

「そうですね。アフタースクールコーチングではだいたいそんな感じで、それがほぼ唯一の出演番組だったので。そういうイメージがあるのかもしれません」

「それってぶっちゃけ大変じゃない?」

「楽、ではないです。ただ僕はそのおかげで助かっている部分もあると思ってます」

「ほうほう? それはどうして?」

「僕はこうしてテレビに出させて頂いていますが、どこかの事務所に属しているわけでもないので、先ほどまで皆さんが話していたような練習、先輩からのアドバイス、あと“下積み”がないんです。出来る限り情報を集めるようにはしていますが、やっぱり業界の常識も知らないことがあったりします。

 無茶な事を言われるときは駄目で元々、ウケれば儲けというか……こう言うと語弊がありますが、ある程度のミスは許容していただけるじゃないですか。それでいてやるべきことの方向性はしっかり示してくださる。だから精神的に助かる部分があると思ってます。」

「あの……私、緊張とかしやすくて、そういうのうまく対応できないんですけど、そういう時に緊張とかそういうのはないんですか?」

「緊張やストレスはありますよ。それはそれで当然。でもいつもより傷は浅いと思って」

「もう傷はつく前提なのね?」

「常に体当たりなんだね!」

「私思ったんだけど、葉隠君ってお笑い芸人さんみたい」

 

 お笑い芸人!?

 

 俺の驚きをよそに、周囲からは納得の声が次々と上がっている。

 

「初めて言われました。具体的にどのあたりが?」

「えっとね、その前のめりになった姿勢とか」

「姿勢?」

 

 言われて自分と他のゲスト3人を比べてみると、確かに俺だけ前に出ている。

 

「若手芸人さんとお仕事するとあんな感じだよね」

「そうそうそう! 何かあって、オイ! みたいな感じで前に出て来る感じ?」

「というかそれ、葉隠君もアフタースクールコーチングでやってた気がする」

「……確かにやった覚えがあります」

 

 自覚はある。芸人さん以外はしないのか?

 

「どうだろう……人によると思うけど、モデルさんとか俳優さんはしないよね」

「私はアイドルだけどするよ?」

「ミミはバラエティ番組のオファーが多いからじゃない? 私は全然オファー来ないし、前に頑張ったら“そういうのいらないから”って言われたよ」

 

 特に意識していないが、俺は芸人さん風の行動をしているようだ。

 改めて自分の行いを振り返ってみる。

 

「……あっ!」

「どしたの?」

 

 思い出した。

 俺が最初にテレビに出たのは、夏休み前に撮影したプロフェッショナルコーチング。

 芸能人とは無縁の俺が一番最初に出会い、アドバイスを貰った人は他でもない。

 お笑い芸人である“ピザカッター”の2人だった。

 

『それだ!』

「芸人さんのアドバイスを参考にしてたから無意識に……そういうことね」

「真面目に学び取った結果なんだね!」

「葉隠君はバラエティー向きかな?」

「みんな別人で性格も違うからね~、それが葉隠くんのキャラなんだよ。きっと」

 

 確かに、Theイケメンアイドルな光明院君と同じ活動をしろと言われたら困る。

 若くてもプロ、学べることが多い……

 

 プロと接して、知らないうちに身についていた行動。

 そして自分自身のキャラクターへの理解が深まった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「そろそろお別れの時間が近づいてきました」

「残念だけど最後の話題に行きましょう!」

「最後の話題は“今後の活動”でーす!」

 

 今後の活動、つまるところ宣伝だ。

 光明院君、佐竹君、久慈川さん。

 それぞれ自分が出演する番組やライブなどについて、順番に情報を公開している。

 

 というかBunny'sの2人はデビューしたばかりでもうドラマ出演の予定まであるのか。

 しかも光明院君に至っては、結構重要な役を任されたっぽい。

 事務所で行っていた演技の練習を、打ち合わせに来ていた監督が見ての大抜擢だとか……

 謙遜した風な事を言っているが、内心ではこのチャンスを絶対にモノにすると息巻いている。

 すさまじい熱意、もはや執着と言うべきか? 粘着質に感じるオーラが肥大化している。

 

 そしてその隣で、これまたどす黒いオーラを肥大化させている佐竹……

 打ち合わせの時の寛容さが行方不明。

 ちょっとはいい所もあるのかと思ったけど、今は嫉妬の炎が見えそうだ。

 

「葉隠君はライブとかやらないの?」

 

 残念ながら、今の俺には宣伝すべき予定がない。

 超人プロジェクトの情報はアメリカでの正式発表待ち。

 動画サイトでの活動は続けていく予定だが、公共の電波で予定は発表しない。

 テレビ番組のオファーはあるが、事務所に所属していないため発表しづらい。

 ライブなどの予定もない……が、ここでの回答は用意してある。

 

「今度行われる中等部の文化祭でダンスをしてくれないか? というような相談がくるようになりましたね」

 

 俺一人だけ“何もありません”で終わらせるのは盛り上がり的によろしくない。

 そこでこの前の話を出すことにした。

 まだ調整中の部分は多いが、実験のためにも実現させる方向で動いている。

 ちゃんと話題として使う許可も取ってある。

 

「前回と違って楽曲一つでも選択から用意まで、学校の補助もありますがほとんど自分で用意することになっていて。この際だからプロに依頼してオリジナル曲とダンスを作るか! なんて話も出てきたり、忙しくも楽しくやってます。さすがに完全オリジナルはスケジュール的に無理そうですが、もしよろしければ学園祭に来てください」

「……カット!」

 

 話し終えたところで収録が一旦止まり、全体のチェックが入る。

 

「OK!」

 

 問題はなかったらしい。

 これで残るはエンディングの撮影だけ。

 さらに俺はエンディングで特に任された役割もない。

 仕事は終わったようなものだけど、ミスをしないように気を引き締める。

 あと一息だ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 腹に響くような低音。

 掻き鳴らされるエレキギター。

 やけに鋭い印象の曲にのり、光明院君の声がスタジオ中に轟く。

 

「うっわ、やっぱBunny'sの今イチオシって看板背負ってるだけあるなぁ……」

「確かに」

 

 歌もダンスもレベルが高いだけでなく、異様なまでの気迫を伴っている。

 きっと相当な練習を重ねてこの場に立っているのだろうし、苦労したのだろう。

 誰にも負けないという彼の気持ちが出ているようだ。

 それは歌詞や曲調と合っているけれど、どうも好きになれない。

 

 以前から刺々しい態度ではあったけれど、新曲発表の場になって一層増した。

 オーラがまるでウニのように刺々しく、他者を拒絶する殻にも見える。

 言葉にすれば、まさにプライドと執着の塊。

 正直、見ていると凄さよりも痛々しさを感じてしまう。

 

 ……信用できる人とか、悩みを相談できる仲間とかいないのかな……

 

 今日の収録で彼の苦しみが少しだけ分かった気がした。

 

「!!」

 

 また、この痛みか! 撮影中なのに……?

 

 表情に出さず堪えていると、なんだか毎回似たようなタイミングで痛む気がした……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 収録後

 

 ~前室~

 

『お疲れ様でした!』

 

 撮影が無事に終了し、出演者とスタッフさんたちが至る所で言葉を交わしている。

 俺も声をかけてくるIDOL23の皆さんの対応をしていると、

 

「お疲れ様です」

「あっ、近藤さん」

 

 カメラが止まったので近藤さんも舞台上まで上がってきていた。

 

「どうでしたか? 今日の撮影は」

「上々といったところでしょう。先ほどこちらの番組プロデューサーから、また機会があれば別番組にも出てみないかとお誘いを頂きましたよ。感触は悪くありません」

 

 それなら確かに上々だろう。

 事務所に所属していない素人の俺と、有能だけど日本の芸能関係者ではない近藤さん。

 業界の知人やコネは事務所所属の人とは比べようもないほどに圧倒的な差がある。

 だからこそ現場で繋がる縁は貴重だ。

 

「お話中すみません!」

「「?」」

 

 周りにいたアイドルの一人が緊張気味に声をかけてくる。

 

「はい、何でしょうか。佐々木さん」

 

 緊張しているようなので、気持ちを和らげやすいように声をかける。

 “相手の苗字や名前を呼ぶ”という行為は、相手に肯定感を与え、距離を縮める手がかりになる。

 ただしやりすぎは禁物だ。

 親しくない間柄でいきなり名前呼びは“馴れ馴れしい”。

 苗字でも口を開くたびに繰り返せば“うざい”、という印象になってしまう。

 

「葉隠君はフリーなんですよね?」

 

 そう言いつつ、目がチラチラと近藤さんの方を向いている。

 どうやら無所属なのにマネージャーのような人がいるのが不思議なようだ。

 近藤さんも察したらしく、先んじて俺のスポンサー経由でマネジメントを委託されたと説明している。

 

「やっぱり芸能活動を一人ですべて行うというのはとても難しいことですから。近藤さんにはいつも助けていただいています」

 

 こうして撮影できてテレビに映るアイドルだけでもたくさんいるが、その事務所にはさらにたくさんの候補生、そして事務所に入ることすらできない人々も大勢いる。

 

 中には自腹を切って、プロデュースはもちろん機材や衣装、場所の手配まで自分の手で行い活動するアマチュアアイドル。通称“地下アイドル”まで存在するけれど、業界の力関係もある以上、普通なら無所属での芸能活動はほぼ無理。活動だけならまだしも利益を出すとなると非常に困難となる。

 

 芸能界に生きる彼女たちにはよく分かるようで、マネジメント担当者を用意したことについてはすんなりと納得したようだ。

 

「ちょっと先輩。話しちゃっていいの?」

 

 前々から事情を聴いている久慈川さんがひっそりと確認に来る。

 

「大丈夫。例のプロジェクトの正式発表はまだだけど、俺にスポンサーがいることだけなら明らかにしても問題ないんだと」

 

 そもそも俺の役割は広告塔なので、注目は集める方がプロジェクトにとって好ましい。

 俺にスポンサーがいる、それは一体どこの企業だ? なんて噂が広まれば、それはそれで情報が完全に公開された時に広まりやすくなるかもしれない。

 

「帰る前にとある出版社に立ち寄って取材を受けるんだけど、そこでも話す予定だから。平気平気」

 

 大体そんな初歩的なミスをあの人はしないだろう。

 

 そんな話をしていると、

 

「そうだ! もうお昼だし、よければみんなでランチしない?」

 

 元気な女子のノリで昼食に誘われた。

 

「すみません。予定が詰まっていまして」

「残念だけどまた今度」

「失礼します」

 

 Bunny'sの3人は早々に去っていく。

 人付き合いとしてはそっけないと思うが、スキャンダルを警戒してなら正しい行動なのか。

 

「まだいまいちよくわからないな……」

「別に食事くらい普通だって」

「さすがに2人きりとかは駄目だけどね。大人数でなら問題ないっしょ」

「打ち上げとか普通にあるしね」

「先輩からのお誘いだぞ~」

 

 ファンからしたら羨ましいどころではないお誘いだ。

 

「スケジュール的にどうですか?」

「大丈夫です。もともと食事の時間は長めにとってありますので。健康維持のために」

 

 ということで、ご一緒させていただくことにした。

 

 

 

 なおその後、

 

 

 

「うそっ、いつもそんなに食べるの?」

「そんなに食べてよく太らないね」

「羨ましい……」

「てか肌つやもスゴくない?」

「ちょっと失礼……うっわ何これ!」

「スベスベ! プルプル!」

「色々とずるい!!」

 

 俺の食事量と体質、ソーマ美容液の効果を知った女性陣の好感度が著しく下がりかけた。

 近藤さんのフォローもあり挽回できたが、摂取したエネルギーを全て使い切った気がする。

 

 

 “疲労”になった……


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