以前思い付きで書き始め、長らく放置していた別作品の続きを書きたい。
そんな欲求が沸いてきたため、そちらを書いていました。
すみません。
夜
~自室~
「……お怒りですか?」
謎の痛みの正体が判明し上機嫌で部屋に戻ると、部屋ではバイオリンケースが倒れていた。
それも部屋のど真ん中、入り口から入れば真っ先に目につくあたりに。
俺はこんな所に置いた覚えはないし、ケースからは仁王立ち? しているような圧力を感じる。
倒れてるけど。
そういやここしばらく、忙しくてバイオリン弾いてなかった……
なぜか何も言っては来ないが、弾けと要求されているのは間違いないだろう。
荷物を置いて弾くことにするが……
「……あ、天田? ごめん、今日のタルタロス中止で頼む……」
弾いているうちに
不満は分かったし、しばらく弾いてなかったのも悪かった。
だけど突然“魔王”とか無理難題ふっかけるのはやめてほしい。
一応、機嫌は直してもらえたのが幸いだ。
トキコさんの音楽に対する熱意は……!
疲れた頭がふと閃く。
トキコさんはオーナーから預かっているバイオリンに憑いている幽霊。
その正体はおそらくバイオリンの元の持ち主で、演奏技術はとても高いと思う。
つまりトキコさんはバイオリニスト、ひいては音楽家なわけだ。
さらに付け加えると、トキコさんは俺の記憶にある曲が分かるらしい。
バイオリンを介して、俺にとり憑いているようなものだからだろうか……
申し訳ないことに忘れていたけど、作曲ソフトを使って出力せずに共有できる唯一の存在。
音楽のプロとして俺の前世の楽曲の再現に協力してもらえないだろうか?
名案か、それとも疲れていたからか。
俺は思いついたままをトキコさんに相談した。
すると……どうも乗り気ではなさそうな雰囲気が漂ってきた。
盗作に協力しろと言っているのだから、プライドのある音楽家としては当然かもしれない。
しかし明確に拒絶を示さないところを見ると、可能性はありそうだ。
言葉ではなく感情のような物を送ってくるからわかりにくい……粘り強く説得を試みよう。
……
…………
………………
深夜
「ありがとうございます!」
説得に次ぐ説得により、条件付きでトキコさんの協力を得られる事になった!
条件は2つで、1つめは毎日のバイオリン練習。
最初の要求は1日5時間だったが、2つ目の条件を飲むならばと毎日1時間以上で合意。
また、2つ目の条件は“動画サイトへの動画投稿”なので、特に問題もない。
楽曲の再現について、心強い味方ができた。
それと同時に、トキコさんが“演奏”と“発表の場”を求めている事が分かっ!?
「うっ……」
またあの痛みだ。
どうやら、トキコさんとのコミュも隠されていたらしい……
……
…………
………………
翌日
10月29日(水)
朝
~部室~
「凄いな……」
バイオリンを隣に置き、トキコさん監修の下で、入力していた楽曲を再度見直した。
その結果、昨日までは分からなかった問題点が次々と発覚。
記憶にある音楽に限りなく近い、そのままと言ってもいい曲が次々と完成していく。
そしてその度に、
『報酬を忘れるなよ?』
という感じの圧力が降りかかる。
あと数曲、入力作業を済ませたらバイオリンの練習に入ろう。
「もう弾ける曲は今日中に撮影しますから。もうちょっとお願いしますね」
『……』
……
…………
………………
放課後
今日は水曜日。授業の終わりが早く、テレビの撮影までに時間がある。
ということで、
「準備OKだよ!」
「始めよう」
山岸さんと合流してバイオリンを演奏する動画を撮影した!
選曲は“カントリーロード”と“情熱大陸”。
「どうかな?」
「うん。ちゃんと撮れてる!」
夏休みから習得していた曲なので、だいぶリラックスして弾けた。
「急だったのに、ありがとう」
「ううん、私も新しい編集テクニックを試したかったところなの。でも、どうしていきなりバイオリンを?」
「いや、まぁ、試験以降動画の更新をしてなかったからね。毎日更新とはいかないけどそろそろ何か投稿しておいた方が良いかと思って」
実際に今月末から一週間は学校にも来れないのでさらに間隔が開いてしまう。
そう考えると霧谷君からの依頼も撮っておきたい。
けど、まだ満足できる料理ができてないんだよな……
昨日のヒラン焼きそばパン。
あれは美味しいけれど、よく考えたら焼きそばパンは家でわざわざ作るような料理ではない。
動画にして紹介したところで、実際に作る人がどれだけいるか。
もっと簡単に、手軽に作れる料理の方がよさそうだと思う。
……
「そうだ、山岸さん。もう少し時間ある?」
「あるけど」
山岸さんに一緒に料理を考えてもらえないかと頼んでみる。
彼女の驚くべきアレンジ精神が何かのヒントになるかもしれない。
シャガールで働き始めてからはハーブ系に凝っているし……
それに最悪の場合でも、今なら被害は俺一人で済む。
先生から貰ったカプセル剤もあるし、大丈夫なはずだ。
「う~ん……このヒランヤキャベツを使ったお料理……絶対にこのキャベツを使わないといけないの?」
「いや、地域独特の野菜を紹介するためだから、厳密にはキャベツにこだわる必要はない」
使うのはプチソウルトマトでもカエレルダイコンでも、開錠ムギでもいい。
ただ俺としてはキャベツが色々な場面で使えるため良いのではないかと思う。
「それなら産地が同じ野菜を組み合わせてみたらどうかな? ほら、地元の物を使ったなんとか! とか、そういうのって特別感があるよね」
「なるほど。言われてみれば確かに……」
八十稲羽市の野菜だけというのは難しいが、組み合わせるのはアリだ。
「あとは最近寒くなってきたし、温かいお料理がいいよね。この時期だとお鍋とかどうかな?」
「良いね。それならある程度準備すれば調理は簡単だし、種類も豊富だ」
寒い季節にぴったりな、野菜をたっぷり摂れる健康的な鍋……
そこに薬膳の知識を合わせて……なんだかイメージが湧いてきた!
「あっ、隠し味にガラムマサラとかどうかな?」
イメージが瞬時にカレーへと変化した……それはちょっと違うんじゃないだろうか。
とにかく山岸さんと語り合うことで、おぼろげながらメニューが見えてきた。
「あっ、そうだ葉隠君。もしよかったらこの本読んでみて」
「"プログラミング超入門”?」
「プログラミングと書いてあるけど半分はパソコンの基本的な知識とかだから。前にそういう本を探してたよね。私は読み終わったから、どうかなと思って」
「ありがとう。入院中に読んでみるよ」
山岸さんから、プログラミングの本を貰った!
……
…………
………………
夕方
「今日からは内家三拳最後の1つ、八卦掌を学んでいこう!」
扣歩、擺歩、さらには泥歩と呼ばれる基本的な“歩法”から指導が始まり。
次に円を描くように歩く“走圏”。そして八母掌や連環掌といった套路を学ぶ。
八卦掌は円運動を基調として体を捻るような動きが多く、やや複雑。
その中には掌による打撃のみならず、足技や投げ技なども含まれ変化に富んでいる。
しかし足から体、そして腕へと動きが一致しなければ威力が出ない。
太極拳のようにゆったりとした動きでないため、これまでで一番難易度が高く感じる。
だけど今日までの練習の成果か、なんとか指導について行けた……
そして今日の中華料理は蒸し物。
食べながら語られるテーマは、“八卦の思想”と風水や占い等“人々の生活と八卦の関係”だった。
……
…………
………………
夜
~自室~
「明後日、10月31日に撮影。問題がなければ編集が終わり次第動画サイトに投稿する予定です。動画内での紹介はわざとらしくない程度に止めますが、同日にこちらの都合で一つ。世間への重大発表が控えていますので、その関係でまた騒ぎが起こります。ニュースや葉隠影虎個人について、興味本位で検索する人も一時的に増える見込みですから、関連動画として人目に触れる可能性は高いと思います」
『ありがとうございます! ではこちらも魔術をいくらか書類にまとめておきます。葉隠さんの実力が分かりませんし、術の数も多いので、まずは簡単で使えると便利な魔術から。段階を踏んでいこうと考えていますがよろしいですか? もちろん最終的に報酬として満足いただける量と質を用意します』
段階的にというのは理解できるが、少しこちらからも要望を出しておこう。
“封印”やその手の魔術や知識があれば優先してほしい。
そう伝えると、彼は意外そうな声を出した。
『あれ? 葉隠さん、そっち方面の知識がお望みでしたか?』
「……というと?」
『葉隠さんはなんというか、何かと戦う時に使えるような魔術を求めているかと思っていたんですが……いえ、僕の勝手な思い込みです。すみません』
いや、その予想も外れてはいない……
『でもそれなら良かった! 僕、何かを傷つけたりする派手な術より、もっと細々した術の方が得意分野なんですよ。封印もそれなりに知識はあると自負しています』
マジか!? まさかの封印の専門家?
『いえいえ、専門家というほどでは……そうだ。つかぬ事を伺いますが、もしかして葉隠さん、誰かに変な呪いか何か、かけられたりしてません? あの、この間お会いした時の痛みとか』
「……そこまで分かりますか?」
『なんとなく、あの時何か変だなと思ったんですよ。ただほんの一瞬だったので、あの時は気のせいかと。今封印の知識が欲しいと言われて、もしかしてと考えた次第です』
相変わらず驚かされる。
「詳しいことは分かりません。いつの間にかかけられていたので。霧谷さんは何か分かりませんか」
『一瞬でしたし……呪いだけでなくそれを隠す術が重ねがけされているか、隠す術が呪いそのものの一部として組み込まれてるんじゃないかとは思います。それ以上はなんとも……
もしお時間があれば、今度またこちらにお越しください。呪いがある、隠されていると分かっていれば術で調べることもできますし、可能であればその場で解きましょう』
「解けるのか!?」
あまりにもあっさりと言ってのけた彼に、驚きを隠せない。
『僕の力で対処できる範疇であれば、ですね。どれほどの呪いか分からないので、お約束はできませんが……期待させたようで申し訳ない』
「ああ、いや、大丈夫です」
期待してないと言えば嘘になるが、彼の言葉ももっともだ。
俺も結論を急ぎすぎた。
「可能性があるだけで十分です。とりあえず今すぐに命に関わるような物でないのだけは確かなので」
『わかりました。こちらでも用意をしておきますから、都合のよい時にまたお越しください』
「ありがとうございます。術の方も楽しみにしていますので、よろしくお願いします」
『はい。それではまた。動画を楽しみにしています』
霧谷君との連絡を終えて、一息。
「……本当に何者なんだ」
味方であれば心強いけど、得体の知れないところがある。
……誠心誠意協力し、できるだけいい関係を築いておこう。
……
…………
………………
深夜
~駅前広場はずれ~
「……」
霧谷君といい関係を作っておこう。
そのために、投稿する動画の質を高めよう。
動画にする料理は決まっているから、解説をもっと良い物にしよう。
そのために知識をもっと仕入れよう。
……ということで、駅前の書店で野菜や近代栄養学の本を購入。
その帰り道、またいつぞやの不良グループの男が立ちはだかり、ついてくるよう強要された。
どうもこの前の鬼瓦という男が、俺を見かけたら連れてくるように言っていたらしい。
補導対策としてヒソカの顔に変装していたのがマズかったか……
「なぁ、まだか?」
「もう少し先だ」
ここまでくれば喧嘩には問題ないだろうに。
何か罠でも張ってるんだろうか?
さらに男の案内で路地を抜けていくと、放置されて長そうなボロボロの廃ビルに行き着いた。
なかなか大きいビルだ。周辺把握によると高さは3階+屋上ってところだが、横に広い。
中庭もあるらしく、一階だけでも30人弱の人間が動いているのが分かる。
もっと大勢で攻めれば何とかなるって腹積もりかな?
一度全力(強化魔法フル活用)で徹底的に締め上げた方が後々面倒が無いかもしれない。
乱闘になる可能性を考えつつも、気楽にビルへ踏み込んだ。
エントランスには大勢の不良がたむろしていて、暗い建物の中では彼らが使う携帯や懐中電灯の明かりがちらほらと見える。
「お、おい、あれって……」
「何でここに連れて来てんだよ」
? ざわめく周囲の声を聞く限り、俺を袋叩きにするために集められたわけではないらしい。
だとするとなぜ俺は連れてこられたのか、一気に謎が深まる。
「こっちだ。おい、道あけろ」
案内の男は不良グループの中でそれなりの地位にいるらしく、人だかりが左右に分かれる。
その先にあった扉をくぐると、 部下らしき男たちに囲まれてソファーに座る鬼瓦がいた。
「鬼瓦さん、連れてきました」
「ご苦労。……また会ったな、ヒソカ」
「前回で終わったと思ったんだけどね。また戦いたいのかい?」
「……ああ、もう一度だけ戦ってもらいてぇ。今度はここの中庭で、俺の仲間全員が見てる前でだ。勝敗に関わらず、仲間には一切手出しをさせない」
「つまり一騎打ち?」
「そうだ」
仲間を集めるにもかかわらず一騎打ち。
鬼瓦がこの短期間で、勝てるほど強くなっているとは思えない。
何かせこい手を使うのかと思いきや、鬼瓦の今のオーラは紫。
不良でも不良なりにプライドがあるようだ。
もっともそのプライドが“何をしても勝つ”という執念になり手段を選ばない可能性もあるが……
少し興味が湧いた。
「いいよ。挑戦を受ける。いつにしようか」
仲間を全員集めるなら日を改める必要があるだろう。
と思ったら、
「そっちの都合がよければ1時間ほど待ってくれ。それだけあれば全員集まる。……声をかけても来ないような奴は、もう皆チームを抜けちまったからな……」
「……分かった。一時間なら問題ない」
鬼瓦は気落ちしていたようだが、俺の返事を聞くとすぐに立ち直り、部下に指示を出す。
「おいお前ら、今すぐ召集かけろ。チーム全員、1人残らず1時間以内に集まれってな」
『ハイ! 鬼瓦さん!』
「ヒソカ、あんたは……加藤、あんたを案内してきた男をつける。適当にどこでも好きなところで待っててくれ。仲間が集まったら加藤を通して連絡する」
「分かった」
「加藤、任せるぞ」
「ウッス!」
こうして俺はしばらく待つことになった。
……
…………
………………
~廃ビル・中庭~
「フゥ~……!!」
案内してもらった中庭で、準備運動がてら五行拳の練習を行う。
「ー! ー! ー! ー!」
……アドバイス、コーチング、アナライズ。
一度拳を放つ度に問題点が炙り出されては修正を繰り返す。
おかげで短期間ではあるが、中々いい感じになってきた。
この分なら今夜あたり、チャージを併用して練習してもよさそうだ。
今のこの打ち方とそこから生まれる威力。
さらにチャージの効果が加われば、おそらくあの壁は貫ける。
問題は、チャージを使った状態で
……
「ッ!!」
チャージは物理攻撃力を二倍以上にするスキル。
さらに補足すると……“体内の気を活性化させる魔法”だ。
以前の渾身のパンチ力を1とすれば、今の力は2と少し。
それがなぜかと言えば、気の力をうまく使えているから。
威力=一撃に込められる気の量と考えてもいい。
形意拳の打ち方を学ぶことで、全身に流れる気を効率的に集められた結果だ。
それに対してチャージは、魔力によって気を活性化させることで結果的に威力を高める。
全身から気を集めて拳の気を倍にする“技術”。
全身の気を倍にして拳の気も倍にする“魔法”。
同じ“攻撃力を倍にする”結果を求めていても、アプローチの方法が違うのだ。
攻撃力を上げるための2つのアプローチを組み合わせれば……
魔法で全身の気を増幅し、技術で効率的に運用した一撃。
それができれば、さらなる威力を生み出すことが可能だろう。
単純計算で倍の倍で4倍。
「ふう……」
ただし、そのためには問題が1つ。
チャージを使えば気が活性化するのは良いが、その状態では気の流れが変わる事。
魔法で無理やり活性化した事により、気は通常よりも力強く、速く流れる。
だから“感覚が狂う”。
そして体の動きと気の流れに齟齬が生まれてしまえば、4倍どころか倍にもならない。
試してみた時は、へろへろでガタガタな一撃になってしまった。
だからこそ、まずはこの打ち方に一定以上慣れるべきだろう。
魔法で活性化された気の流れに負けないように、スムーズに体が動くように。
気の変化に対応できるだけの腕を身に着けるために、チャージを使わずに練習を続ける。
能力の恩恵で技術習得は効率化されている。
こうしている間にも、腕は磨かれていく。焦る必要はないだろう。
この空いた時間はみっちり基礎練習に使い、チャージとの組み合わせは影時間に練習しよう。
影虎はトキコさんに怒られた!
トキコさんとの関係がリバース状態になっていた!
影虎は言われるままにバイオリンを弾きまくった!
リバース状態から復帰した!
影虎はトキコさんに作曲への協力を求めた!
トキコさんと契約を結んだ!
トキコさんとのコミュを発見した!