人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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249話 人工島の黒歴史

「すいやせん!」

「遅いぞ! 鬼瓦さん、こいつで最後です。出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)87人、一人残らず集まりました」

「ああ……始めようか。準備はいいよな」

「いつでもどうぞ。それにしてもこのチーム、結構な数がいるんだねぇ」

『ああん!?』

 

 ……俺は何か言ってはいけないことを言ったようだ。

 

「てめえらは黙ってろ。何も知らねえんだろうよ、こいつは喧嘩しかしてねぇんだ」

 

 そう言って部下を諌めた鬼瓦は、俺の方に向き直る。

 

「……少し前までこの倍はいたんだよ。それが足を洗うか、よそのチームへ行くかでここまで減っちまった。俺の前のボス、俊哉があんたに負けた頃からな。その後で俺が負けて、ダメ押しだ」

「……それはそれは……」

 

 び、微妙に気まずい。

 俺のせい、ではないだろう。挑んできたのはあっちだし。ただし無関係とも思えない。

 

「あんたを責める気はねぇよ。ただ、こっちにも都合と面子ってもんがあるのさ。……おい、一切手出しはするなよ! どっちが勝ってもだ! いいな!」

『ウッス!』

「加藤! 合図出せ!」

「分かりました! いきます……開始!」

 

 やや短めの溜めの後、喧嘩が始まる。

 

「オオオッ!!!」

 

 合図を聞くや否や、正面から突っ込んでくる鬼瓦。

 小細工抜きで拳を叩き込もうとしているのが分かる。

 突き出された拳には、当たれば中々の威力があっただろう……

 

「ガフッ!?」

「お、鬼瓦さん!?」

「ボスっ!?」

 

 しかし残念ながら、鬼瓦の拳は届かない。

 変装目的でも、ドッペルゲンガーを呼び出していれば周辺把握が効果を発揮する。

 さらに打撃見切りやカウンタ、鬼瓦が真っ直ぐに挑んできたこともあっただろう。

 彼の一挙手一投足は完全に把握できていた。

 

「何だ今の?!」

「殴りかかった鬼瓦さんの方がぶっ飛ばされたぞ!?」

「つか今飛ん、軽く浮いてなかったか!?」

 

 相手の動きが分かれば余裕も生まれる。

 その余裕は技への集中を可能にした。

 

 つい先ほどまで練習していたこともあり、型通りに放った炮拳。

 それは鬼瓦の突進を止めるに留まらず、決して貧弱ではない鬼瓦を後方へ突き飛ばした。

 そしてそんな一撃を受けた本人は、顔中に脂汗を浮かべて蹲っている。

 

 誰がどう見ても、勝負は決した。

 

「嘘だろ……」

「鬼瓦さんが一撃って」

「う……ぐ……」

 

 これまでの練習の成果を実感できる良い一撃だった。

 しかし……大丈夫だろうか?

 ちょっと強く入りすぎた気が……

 

「大丈夫か?」

「あ、あうぶっ!?」

 

 気丈に返そうとしたのだろう。

 しかし鬼瓦は口を開いた勢いで、胃の中身をぶちまけてしまった。

 その途端、

 

「鬼瓦さん!」

「野郎! よくもやりやがったな!」

 

 鬼瓦の状態を見た一部の男たちがいきり立ち、怒鳴りながら腰を上げる。

 

「やめろ! っ……!」

 

 それを制する鬼瓦の声。

 

「そいつは、卑怯な手を使ったわけでもねぇ……正々堂々、タイマン張って、俺が負けた……ただ、それだけ、だろうが! 結果がどうでも手出し無用。いまさらグチグチ言うんじゃねぇ!」

 

 痛みと吐き気を堪えながらの訴えは、今にも殴りかろうとしていた男たちの動きを止めた。

 さらに、

 

「鬼瓦さんの言う通りだ」

「だよな……」

「何があろうと手出ししないってのは最初に鬼瓦さんが約束したことだろ。お前ら勝手に動いて鬼瓦さんの顔に泥塗る気かよ」

 

 血の昇っていた頭を冷やした者、鬼瓦の意思に従い止めに入るものが続々と出てきた。

 

「……慕われてるじゃないか」

「ああ……残ってくれた連中は、な……」

 

 ここで鬼瓦は居住まいを正す。

 蹲っていた体を起こし、そのまま地面に跪く体制に。

 

「何のつもり?」

「俺はあんたに二度負けた。どっちも俺が、一方的に挑みかかって、そして一方的に」

 

 痛みが治まってきているようだ。

 しかしまだ苦しいことに変わりはないだろう。

 それを押して、彼は頭を下げた。

 

「恥を承知で頼む! あんた、いやヒソカさん! 俺の代わりにうちのチーム、出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のボスになってくれ!」

 

 一瞬の静寂。

 

『……はぁっ!?』

 

 俺と周囲の心が1つになった。

 

「待て! 何でそうなる?!」

「そうっすよ鬼瓦さん!」

「俺らのボスは鬼瓦さんっしょ!」

「そうだそうだ!」

「お前らは黙ってろ!!!!」

 

 鬼瓦の一喝で男たちは口を噤む。

 だが俺は説明を求める。

 鬼瓦はそれを当然のように受け入れた。

 

「ヒソカさんは」

「“あんた”でいいよ。今更畏まられても気持ちが悪いし」

「……あんたはこの辺に来て数ヶ月。目的は地下闘技場。それだけで、俺ら不良グループの縄張りや力関係は何も知らない。だよな?」

「間違いない。君たちの社会には全くと言っていいほど関心が無いね」

「だろうな」

 

 彼は独り言のように呟いて、話を続ける。

 

「それでも“駅前広場はずれ”は不良どものたまり場。そのくらいは聞いたことあるだろうし、何度も来てればここがどんな場所かは大体分かるだろ?」

「夜は完全な無法地帯。昼は夜よりはマシだけど、それでもガラの悪い地域だ」

「俺も先輩から聞いた話なんだが、ここがこんな状態なのは桐条グループのせいらしい」

「桐条グループの……?」

「この人工島、そもそも桐条グループがスポンサーになって作られたのは知ってるか? 俺らみたいなのには想像もできないような金を出したんだと」

 

 さらに島だけでなく学校やポロニアンモールなどの商業施設も作られる。

 

「そのうち人工島を縄張りにしようとするヤクザも出てきて、邪魔だったんだろうよ……桐条グループは警察と手を組んでそいつらを一掃したって話だ。桐条から膨大な寄付金が出て、警察は装備も人員も大幅増員。徹底的に治安維持をしたんだと。おかげで当時この辺の不良は相当肩身の狭い思いをしたらしい」

 

 初耳だ。

 それに警察と桐状グループの関係。

 正規の手続きに則ったものか、それとも違法な癒着か。

 当時の事は知らないが、そんな情報をどうして不良グループのボスが知っている?

 

「うちは俺で13代目。警察がまだ厳しく取り締まってる頃から細々と続いてたグループなんだよ。それで色々と伝もあるし、昔話も語り継がれてる。それに……いや、後で分かる。

 話を戻すぞ。この辺の状況が変わってきたのは10年くらい前。理由は分からないが、桐条からの寄付金が減ったんだと。それでもしばらくはどうにか維持してたらしいが、10年前に桐条のナントカって研究所が起こした大事故が決定打になった」

 

 世間からの批判が集まり、賠償などで大金が必要になった桐条グループ。

 そこにそれまでと同じように寄付をする余裕はなく。

 桐条からの寄付金が断たれた警察は、必然的に規模を縮小せざるを得なくなった。

 

「それまで幅を利かせてた警察が一気に弱くなった。警察が幅を利かせてた間に、ヤクザなんかは徹底的に駆逐されていた」

「後に残ったのは肩身の狭い思いをしながら息を潜めていた当時の不良」

「抑圧されてた分、暴れっぷりも酷かったらしいぜ」

 

 毎日のようにグループ同士の抗争が勃発し、手も目も足りないから警察も止めきれない。

 そんな状況が続き、やがて警察と不良グループの間にある暗黙の了解が生まれた。

 

「一言で言うと“住み分け”だな」

 

 その一言で内容はだいたい理解できた。

 

「警察のパトロールが来ない地域。不良グループが存在し活動をしやすい地域。そういうのをあえて作っているわけか」

「正式には認められてないけど、駅前広場のあたりはその代表格さ。他にも“白河通り”とかそういう場所がある。警官はそこを切り捨てて、他を重点的に守ってる。お互いがお互いの縄張りに入らなければ面倒も無い。少なくとも場所を選んでいれば、悪さをしてもお咎めなしって訳だ」

 

 なるほど。この辺が漫画みたいに荒れてるのはそういう事情があったのか……

 

「で、それが俺にボスになれって話に繋がるんだな」

「簡単な話さ。あんたも言ったろ? ここは警察も近寄らない無法地帯だ。おまけに縄張りにできる場所は限られてる。だから弱い奴、弱いグループは良いカモになっちまう」

 

 その言葉に怒りはなく、ただただ深い悲しみが込められていた。

 

「……つまり俺をボスにして、グループの面目を保とうって事か」

「足を洗うか逃げたいって奴はもうここにいない。だが、あんたみたいに一人で自由にやっていける奴はいない。俺も含めて潰されちまう」

「そんな事ねぇよ!」

 

 黙って話を聞いていた男たちの中から声が上がる。

 

「俺らのボスは鬼瓦さんしかいねぇ! そうだろテメェら!」

『おう!』

「鬼瓦さんは俊哉がケツまくって逃げそうな時に、汚れ役を買って出てくれた!」

「そうだそうだ! あいつを追い出した後はない頭振り絞って俺らのことを考えてくれた!」

 

 鬼瓦のボス在留を望む声がどんどん大きくなる。

 どうやら鬼瓦は仲間に対しては面倒見のいい男だったらしい。

 

「皆こう言ってるけど? もう一度言うけど意外と慕われてたんだな」

「やめろ……お前ら現実見て考えろ! 俺だってタイマンでそう簡単に負けるとは思ってなかった! 今だって相手がこいつじゃなきゃ負ける気はねぇ! だけどな、俺くらいの奴は他所にもいる! こいつみたいに、頼めば条件を合わせてくれるような奴ばかりじゃねぇ! そこんとこ分かってんのか!?」

 

 鬼瓦は叫ぶが、彼以外から立ち上るオーラで形成された場の空気に変化はない。

 

「彼らの意思は固いらしいね。というか、僕もボス就任は断るよ。その地位に興味ないし、こんな空気で引き受けても誰もついてこないだろうし……違うか!?」

『違わねぇ!』

「お前になんか従うかバカヤロー!」

「とっとと帰れ!」

 

 周囲の男たちに問いかけてみれば、予想通りの答えと余計な罵声が返ってきた。

 俺は連れてこられた側だっつの!

 

「言われなくても帰りますよ、ったく」

「お、おい待ってくぅっ!」

「まだ痛むなら無理するなよ……」

「待ってくれ、もう少し話を」

 

 くいさがる鬼瓦をどうしたものかと考えていると、ふと先ほどの話を思い出した。

 

 要は仲間の安全のために後ろ盾が必要なんだろう?

 だったら俺は鬼瓦のチームを傘下に入れたという事にすればいいんじゃないだろうか?

 その上で俺は俺で好きなように動き、このチームは鬼瓦がこれまで通りまとめればいい。

 

「どうだろうか?」

「文句はないが、虫が良すぎないか……? 俺たちばかり得してるぞ」

「だからって部下ごとボスの座を渡されても困るんだよ……これでもそれなりに忙しい身でね、集会だのなんだのやってられないんだよ」

 

 来月からはさらに忙しくなるし、余計な仕事を増やしてたら時間が足りないよ。

 

「どうしてもと言うなら……基本的に何かを要求するつもりはないけど、さっきみたいなこの辺のローカルな歴史は興味深い。そういうのは教えてくれると嬉しいね。あと仕事の都合上、噂や情報を集めたい時がある。そういう時にグループ全体で手を貸してくれるなら、こちらは名前を。可能な範囲で手を貸してもいい」

 

 先ほどの桐条グループの動向などは興味深かったし、地元に根ざした情報源はあって困らないだろう。この顔(ヒソカ)の表向きの仕事は“探偵”という設定になっているし、いずれ何かの役に立つかもしれない。

 

 ……まぁ、一番の理由は面倒だからだけど。

 

「提案に対するボスの答えは? 部下の思いを踏みにじるだけの選択肢を選ぶかい?」

『鬼瓦さん!』

「……分かったよ。ボスは俺が続ける!」

 

 周囲から上がる歓声を一身に受けた鬼瓦。

 彼は周りを取り囲む男たちを眺めては、あきれたように。

 それでいて、肩の荷が下りたような笑顔を浮かべていた。

 

 ……かと思えばこちらを振り向いた。

 

「これまで身勝手に絡んで迷惑をかけた俺たちへの温情、心から感謝する……俺を含めて出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)88人は、今からあんたの傘下に入らせてもらう……以後、よろしく頼む!」

『よろしくお願いします!』

「あ、ああ……」

 

 周囲から拍手され、兄貴! とか、旦那! とか呼ばれ始めた。

 ……あれ? なんか前にもこんな事があったような……デジャブ?

 流れで変な決定しちゃったようなっ!?

 

「どうかしたか?」

「いや、なんでもない。虫か何かが目元を横切っただけだ」

 

 また痛みを感じた……こいつらもコミュの対象なのかよ……




影虎は不良グループとのコミュを築いた!

駅前広場はずれの歴史についてはオリジナル設定です!
公式設定ではありませんので、ご注意ください!
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