人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
この話が一話目です。


251話 入院生活の始まり

 11月1日(土)

 

 朝

 

 ~病院内・大会議室~

 

「それでは皆様、今日から一週間よろしくお願いいたします」

『よろしくお願いします』

 

 今回の検査入院で俺の検査をしてくださる先生方との顔合わせが行われた。

 

 その内訳は……

 “ヘルスケア24時”に出演および医学的な解説を監修している各分野の専門医が13名。

 “超人プロジェクト”から同じく各分野の専門医+そのサポートスタッフが15名。

 検査に協力してくださるこの病院の医師、看護師、その他検査関係の技師が合わせて12名。

 合計40名の医師団が俺の検査のためだけに集まっていることに、少々気圧されそうになる。

 おまけにコールドマン氏が財力で集めた医師団には世界的に有名な名医もいたらしい。

 日本人の医師団にも妙に緊張した雰囲気が漂っている。

 

「一部検査の内容によって制限もありますが、葉隠君は基本的に普段生活しているように生活してください」

「分かりました」

「こちらが本日のスケジュールですので、よろしくお願いします」

 

 何々……まずは身体測定と問診に採血。

 その後はポータブル心電図を取り付けて、ヘリで昨日の発表に関する記者会見の会場へ。

 日本国内・国外へ向けて記者会見を行い、昼食を食べた後にMs.アレクサンドラと面会。

 先日提出していた楽曲はもう彼女に送ってあったそうだが、なんと振り付けも完成したらしい。

 そのままダンスの指導を受けて、病院へ戻るのは夜。

 眼科検診を行って1日目が終わる。

 

 記者会見は内容こそ同じでいいそうだけど、日本語と英語で2回やらなければならない。

 さらにダンスの練習も加わるとなるとだいぶ忙しくなるな。

 これは気合を入れていかなければ!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午前

 

 ~某ホテル~

 

 記者会見。

 以前学校でマスコミ対応をした時とは報道陣の質も量も大幅に違っていた。

 サポートチームの入念な準備による対応の検討と、スムーズな進行に助けられている。

 だけど記者1人1人の質も高く、鋭い質問が頻繁に飛んでくる。

 

 気は抜けないが、鶴亀のような記者がいないだけマシではある。

 

「葉隠さん。あなたはコールドマン氏から直接スカウトを受けたそうですが、貴方にとって彼はどんな人ですか? 同じ目標へ向かうパートナー、あるいはビジネスの関係?」

「そうですね……更なる成長を求める私と、それを見たいという彼。同じ目標を目指せるパートナーであると同時に、ビジネス的な側面があることも否定しません。ですが……」

「ですが?」

「彼がどんな人か、それを私個人の視点で感じたままに表現するのならば。……私にとって彼は“イタズラ好きなお爺ちゃん”ではないでしょうか?」

 

 外国人記者の集まる会場が大きくざわめいた。

 

「お、お爺ちゃん、ですか? コールドマン氏が?」

「ああ、念のために言っておきますが、血縁関係はありませんよ? 私が彼に抱くイメージの話です」

 

 あの人はこっちが驚くほど金のかかる支援を次々としてくるからな……まるですぐに小遣いを渡す、孫に甘い祖父母のように。実際かなりの年であることは間違いないし、親しみやすくはあるけれど、昨日の様に突発的にこっちのハードルを上げてくる。イタズラ好きの爺さんで間違いないだろう。

 

「……!」

「?」

 

 ステージの端で、近藤さんが笑いを堪えている……

 

『近藤さん、何を笑ってるんですか?』

『ボスを“お爺ちゃん”だなんて、そんなことを言った人は葉隠様が初めてでしょう』

『まぁ、偉い人ですしね……でも利害関係だけと言うわけでもないですし、それなりに親しげにしていただいてると思いますが……訂正しますか?』

『いえ、別に構わないでしょう。そのまま続けてください』

 

 ざわめきの中から新しい質問が出たので、魔術での密談をやめて質疑応答に戻る。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~ダンススタジオ~

 

「リズムに乗ってーハイ1,2,3,フォー!」

 

 いつにもましてテンションの高いMs.アレクサンドラから、ダンスの指導を受けた!

 

「オッケー! フリは一度で覚えると思ってたけど、なんだか体の動きが良くなってるわね。前とは一味違う感じ」

 

 体の動かし方という点では、中国拳法の練習が影響しているかもしれない。

 特におとといまでは内家拳で、気と体の動きを調和させる練習をしていたばかりだ。

 

「エクセレンッ! 一週間あれば新しい2曲も十分磨きあげられそうね。それはそうとこの2曲、とってもいい曲じゃない。いったいどこから手に入れたのよ。全然聞かないアーティストだけど」

「スポンサー経由でちょっと」

「ん~、色々と大変そうだけど、いいスポンサーと作曲家さんを見つけたわね。私も一曲お願いしたいくらいよ」

 

 楽曲に対するMs.アレクサンドラの評価は高い。

 

「ところでこの2曲、歌詞ついてるけど本番では歌うの?」

「そのつもりです」

 

 ダンスを学んで身に着いた“セクシーダンス”。

 その後に独学でカラオケに没頭し身につけた“演歌の素養”。

 上手くできれば、歌と踊りの相乗効果で観客をより惹きつけられると思う。

 あと個人的に曲と歌詞が大好きだからか、歌も入ってこそ真の完成な気がする。

 

「だったら、念のためそっちのレッスンも一度やっておく事をおすすめするわ。よかったら時間がある時にでもこの人を尋ねてみて。いろんなアイドルの指導をしてるから、ステージで踊りながら歌う事に詳しい人よ。私もよく一緒にお仕事するの。厳しいしお金もかかるけど、スポンサーのいるあなたなら大丈夫だと思うわ」

 

 Ms.アレクサンドラから、ボーカルレッスンの講師を紹介していただいた!

 

「ありがとうございます」

「いいのよ。より素晴らしいパフォーマンスを期待しているわ。それじゃ練習に戻りましょうか! 時間は有限、ビシバシ行くわよっ!」

「はい!」

 

 さらにダンスを磨き上げた!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~病室~

 

「葉隠様、少々よろしいでしょうか」

 

 着替えていると、カメラと6名のドクターを引き連れた近藤さんが部屋にやってきた。

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

 室内に招き入れ、ソファーに座ってもらう。

 眼科検診はもう少し先の予定だったはずだけど、何かあったのだろうか?

 

「今朝採血させて頂いた検査結果が出ていまして、それを受けていくつか質問をさせて頂きたいことがあるそうです」

「もちろん構いません。問題でもありましたか?」

 

 同行していた医師の方々に問いかけると、中年の男性ドクターが代表して答えた。

 

「まだ問題かどうかはわからない。ただ君の血液を検査した結果、気になる点がいくつか見つかってね。君の主治医のDr.キャロラインはすでに確認しているようですが、我々にも一度確認させてください」

「わかりました」

「では検査の結果について、簡単に説明させていただきます」

 

 別のドクターが、持っていたファイルから様々な数値が書かれた紙を取り出す。

 

「全体的に見るととても良い結果なので、そんなに心配せず答えてください。まずこちら、血液中のヘモグロビンの値を示す数値なんですが、これが葉隠さんの場合かなり高いんですね」

 

 血中のヘモグロビンは酸素を全身に運ぶ働きがあり、低下していると貧血の可能性あり。

 運動時の持久力にも関係していて、低下すると平常時よりも30%以上持久力が落ちるという。

 俺の数値は高いけれど、それはそれで“多血症”という病気の可能性があるらしい。

 

「葉隠さん、最近高地トレーニングをしたとか、ないですか? ヘモグロビンが上がる要因になりますが」

「……高い所というと、精々学校の裏の高台くらいですね……」

 

 タルタロスに登ってるけど、それ効果かな?

 そういえばタルタロスの16階って高さは何メートルぐらいになるんだろう?

 まさか高地トレーニングができるぐらいの高さになってるとかないよな?

 ……常識では考えられない建物だし、絶対にないとは言い切れないかも……?

 

 その後もドクターの質問に答えていくと、やがて問題なさそうだという話になった。

 よし今度は血液の成分に関する話が続く。

 

「血液の成分を精査したところ、多量のヒスチジンとβアラニンが検出されました」

「……それはどういった成分なんでしょうか? 何かあってはおかしい成分ですか?」

「どちらもちゃんと栄養を取っていれば体の中で作られる成分なのでおかしくはありません、ただその量が普通の人と比べて非常に多いんです」

「βアラニンは脳や筋肉に送られるエネルギーの材料となるため、エネルギーの不足による筋肉や骨の分解を抑え、筋肉の疲労を軽減する。また、肝臓の保護やアルコールの代謝などにも効果的な成分だ。ヒスチジンは成長促進や神経機能の補助、脂肪燃焼に効果がある。しかしこの2つは体内で“イミダペプチド”に変化する」

 

 興奮を抑えているような口ぶりで、外国人ドクターが語ったイミダペプチドとは、

 βアラニンとヒスチジンを原料に、体内で合成される成分。

 高い疲労回復効果があり、鳥の胸肉などに豊富に含まれる。

 

 その最大の特徴は、疲労した部分にピンポイントで効果を発揮すること。

 βアラニンとヒスチジンは血流とともに全身を巡る。

 そして疲労した脳や筋肉には2つの成分をイミダペプチドに合成する酵素が多く含まれている。

 だから疲労した部位に材料が届き、ピンポイントでイミダペプチドが合成されるのだそうだ。

 

「しかしイミダペプチドを作る力は加齢とともに衰える。イミダペプチドを外部から食事などで摂取すればβアラニンとヒスチジンとして蓄えることもできるが、君はそれを超える量のβアラニンとヒスチジンを常に自分の体内で作り続けている。さらに先ほどのヘモグロビンの値……それは君の持久力の高さと回復力の高さの証明に他ならない!」

 

 説明、というよりも一方的に情報を口にし、結論とともに笑顔を浮かべている。

 この先生、若干マッドな気配がする……

 

 しかし言いたいことはわかった。

 俺の持久力と回復力の高さは驚くほど高い。

 “治癒促進”と“気功”の影響だろうけど、体にはそういう変化が出ていると言うことか。

 

 その後も日本人医師の説明と質問を受けながら、若干マッドそうな外国人ドクターに観察された。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~病室前の廊下~

 

 眼科検診でも異常が発見され、思わぬ手間がかかってしまった。

 

「葉隠君の視力は……7.3です……」

 

 すっかり忘れてたけど、視力が異常に良くなっていた。

 医師団がさっきからあれやこれやを喧々囂々、議論が続いている。

 

 正直、ドッペルゲンガー召喚して“望遠”を使えばもっと圧倒的に遠くまで見える。

 しかし、裸眼でここまで見えるようになっていたとは思わなかった。




影虎は医師団と顔合わせを行った!
影虎は世界のメディアから注目を浴びている!
影虎はダンスの振り付けを覚えた!
影虎は検査を受けた!

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