人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
前回の続きは一つ前からです。


252話 検査入院・2日目

 11月2日(日)

 

 朝

 

 24時間、定期的に自動計測を行う血圧計を体に取り付けられた後、1日の予定を確認。

 

「本日のご予定は午前中にダンスの練習。午後2時からは○○テレビでアフタースクールコーチングの撮影。こちら八極拳と内家拳の2本撮りです。夜にはレントゲンとMRIを用いての検査の後、運動時の血圧などを計りますので、普段通りのトレーニングをお願いします」

「分かりました」

「それからマスコミ対応の件ですが、概ね順調です。国内外のメディア数社が更なる取材を求めていますが、葉隠様は検査入院を第一に。取材は我々が対応いたします。ちなみに……昨日の“お爺ちゃん”発言が何かと話題になっているそうですよ? 特に海外で」

「そんなに、ですか」

「今でこそ第一線から退いたボスですが……かつては、それはそれは厳しい経営者でしたから。ボスの不興を買う、それ即ち業界からの追放。そのように考え恐れている業界人はいまだに多く居ます。ボスは単なる金持ちではなく、政財界へも太いパイプがありますからね」

 

 そういやそんな話をどこかで聞いた気がする。

 初めて勧誘された直後だったかな。

 

「ちなみに例の発言後に行われたボスへの取材では、早くもその話題が飛び出したそうですね。本人は大笑いして“なんなら本当に孫になるかい? 孫娘には浮いた話が一向にないんだ”と話していたそうですよ」

「それ絶対後で怒られるやつ!」

 

 エリザベータさんから「巻き込むな!」とでも苦情が飛んできそうだ……

 

「既に届いております。アメリカでは既に公共の電波に乗っていますから」

「あ、そうですか……」

「ボスと葉隠様がただビジネスだけの関係ではなく、親密であることをアピールできたので良しとしましょう。ボスと親密だとはっきりさせておけば、桐条グループも迂闊に手を出せませんよ」

 

 確かに。それはコールドマン氏と契約する目的のひとつであり、メリットだ。

 

「さて話は変わりますが、昨夜霧谷様から私の方にメールが届いておりました」

「霧谷君から?」

「動画の効果が出ているらしく、苗の注文が急激に増えているそうです」

 

 それは良かった! と思いきや、

 

「サーバーが落ちた?」

「原因は過剰なアクセスの集中。事前に対策はしていたようですが、おそらくプロジェクトの正式発表と重なったためでしょう。料理に限らず葉隠様の出ている動画には、プロジェクト発表後からコメントが急増。特にこれまで少なかった海外ユーザーからのコメント増加が顕著ですね。桐谷様はおそらくそのあおりを受けてしまったと思われます」

 

 苗の注文や国内外からの問い合わせ急増。

 ウェブサイトの復旧・対策強化など。

 彼の仕事が増えてしまったため、報酬の引き渡しが一部遅れるらしい。

 

 なってしまったものは仕方ない。

 原因はこちらにもあるし、どのみち入院中はカメラがあるし、魔術の練習はできない。

 一時的に止めることはできるけれども、あまり好ましくはない。

 

「それに全部遅れるというわけではないんですよね」

「すでに結構な書類データを、ファイル転送サービスを介して受け取っています」

「ならそちらから使いこなせるようにしていきましょう。退院後には向こうの状況も落ち着いているかもしれませんし」

「かしこまりました。では私どもからの報告は以上です。今日も1日よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 入院生活二日目が始まった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午前

 

 ~ダンススタジオ~

 

 翻子拳を参考に、激しい動きでも呼吸を乱さないように。

 太極拳の要領で、体内の気の流れを把握。

 形意拳の要領で、一つ一つの動きをシンプルに、丁寧に整える。

 そしてそれらを、八卦掌が得意とする連続攻撃のように繋げる。

 六合大槍を操るが如く、体の勢いを自分の力に変えて。

 劈掛掌の激しさ。そして、しなやかさを取り込む。

 

 これまでに学んだ中国拳法を参考に、動きを見直しながらダンスの練習。

 少しずつ。だけど回数を重ねるたび、確実に動きのキレが増していく!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~テレビ局・スタジオ~

 

「OKです! お疲れ様でした!」

『お疲れ様でした!』

 

 2本撮りの1本目が終了。

 次の準備が終わるまでの間、出演者にはここでしばらく休憩が入る。

 

「ティーッス! “虎”お疲れ~」

「お疲れ様です。磯野さん」

 

 前室へ向かっていると、唐突に後ろから声をかけられた。

 

「固いな~、歳の差とかメンドイし、俺の事は磯ッチでヨロ!」

 

 チャラい。実にチャラいが、このイケメンは本心から気軽に接してほしいようだ。

 

「了解。磯ッチ」

「おっ! 何々、虎って案外話わかるジャ~ン。てか虎も前室?」

「あんまりのんびりできるほど時間はないらしいし。特に楽屋に戻る用もないからね」

 

 出演者の方々とコミュニケーションもとっておきたい。

 

「んじゃ一緒行こうぜ!」

 

 こうして気さくに誘ってくれる彼は、Bunny's事務所の新人アイドル。

 それも光明院君や佐竹と同じグループの1人だったりする。

 

「どしたん? 俺の顔、なんかついてる系?」

「いや、正直に言うと磯ッチが親しみやすくて驚いてた」

「何それ~って、あー……光明院と佐竹? あいつらは特別よ。確かにうちのグループ、ピリッてるやつ多いけど」

「そうなんだ。失礼だけど全員あんな感じかと思ってた」

「ははっ、そんなんだったら俺とかやってけねーわ。あいつら以外はそれなりにグループ内外で仲良い奴とつるんでるって」

 

 あいつら、グループ内でも孤立してるのか……

 

「そういやあの2人、やけに虎を敵視してたっけ」

「あ、俺がいない所でもそうなのか?」

「もうバリバリ、てか本人の前でもそうなん?」

「一応隠してるつもりみたいだけどね」

「そりゃ災難。でもまあ、敵として見られてるだけいいんじゃね? 俺たちなんか、味方とも敵とも思ってねーみたいな感じだし」

「……そういえばそっちの事務所の方針は少数精鋭だとか……」

 

 ……気になったのでそれとなく続きを促してみる。

 すると鬱憤がたまっていたのか、磯野は愚痴をこぼし始めた。

 

「そうそう。今はどんどん送り出してく感じの波が来てて、皆乗るしかねーって雰囲気なんだけどさ。それでもやっぱランキングみたいなのがあるわけよ。んで皆一位を目指すみたいな。

 そういう意識が一番強いのが光明院で、目指すのはもっと上、同じ新人の俺たちは眼中になし。佐竹はそもそも、親がタレントだから俺たちと一緒にすんなって感じ?」

 

 彼らは全く相手にされず、完全に別のグループのような扱いらしい。

 

「敵意向けられても困るだろうけどさ……そうやって睨まれてるのは、あいつらが“自分の邪魔になる”って、虎の実力とか才能とか、そういうのを認めたって事だと思うんだわ」

「……」

 

 グループのメンバーを通じて、二人の新たな一面に触れた気がした……

 

「ツッ!?」

「うぉっ!? どうした!?」

「あ、ああ、いや、練習中に痛めた所があってさ」

「あ~……そういやさっきのVTR、めちゃ爺さんに殴られてたっけ。体張るなぁ」

 

 なんとかごまかせたけれど、いつもの倍くらいの痛みが走った……

 十中八九、光明院君と佐竹の2人分だろうな……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~病院・リハビリセンター~

 

 レントゲンやMRIでの検査で時間を潰し、人がいなくなってから運動のできる場所を使わせていただく。

 

「では、まずは站樁(たんとう)から」

 

 30分ほどやった後に、これまで習った拳法の型を全て復習しよう。

 内家拳で培った事を、各拳法の技でも行えるようにする事を目標に。

 

 夜遅くまで、トレーニングを行った!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~自室~

 

 ……眠れない。

 タルタロスに入っていないからか、体力にまだだいぶ余裕がある。

 

 せっかくなので、今度の文化祭で使う曲の歌詞を脳内で見直そう。

 

 もっとダンスや歌の完成度を上げられるように、曲への理解度を深めた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 11月3日(月)

 

 朝

 

 丸1日つけていた血圧計が外され、予定の確認。

 

「本日は外出するお仕事はありません。様々な角度から脳の検査を行います」

「脳ですか……」

 

 今のところ特に問題はないが、夏休みには脳の異常発達が確認されている。

 

「そのこともあり、特に重点的に検査を行う予定となっています。しかし昨夜MRIで撮影した脳の画像を見る限り、常人より発達している以上の異変はなかったそうです。血圧や血管の状態も健康的だそうですし、過度に心配する必要はないでしょう」

「……ありがとうございます」

 

 気遣い上手な近藤さんはさらに話を続ける。

 

「ここからは連絡事項です。まず1つ目に、Ms.アレクサンドラに紹介していただいたボーカルレッスンの先生と連絡がつきまして、明後日の午後に2時間。レッスンをしていただけることになりました」

「よかった。急な事だからどうかと思いましたが」

「Ms.アレクサンドラの方からも事前に連絡をしていただいたようです。少々電話口での言葉は荒く聞こえましたが、経歴や評判を調べたところ一流と言って良い先生でした。紹介がなければまず間違いなく不可能なタイミングだったでしょう」

「Ms.アレクサンドラに感謝ですね。今度改めてお礼をしましょう」

「こちらでも何か手配しておきます。

 次は……新しく入ったお仕事の依頼について。先日の発表を受けて、ワイドショーなどから出演依頼が多数舞い込んでいます。こちらは後でリストを用意しますので、確認の上で出演希望、NGの指示をお願いします。そのうえで調整しつつ、業界でタブーとされている“裏かぶり”(同じ日時に放送される複数の番組に出演すること)に注意して仕事を入れます」

 

 さらに話を聞いていくと、ワイドショー以外にも依頼が増えているようだ。

 

「バラエティー番組が中心ですが、1つだけドラマのお仕事が」

「ドラマ!?」

 

 予想外。まったく考えていなかったというか、予兆すらなかった方向から依頼が来た。

 

「いったいどこからそんな依頼が」

「私も昨日初めて聞いたのですが、新人からベテランまで、アイドルを大勢起用した学園ドラマの制作が始まるそうです。放送は来年4月からの予定で、現在は先日までの超人プロジェクトと同じく、正式発表を控えた段階。

 男子生徒はBunny's所属のアイドルを中心に。女子生徒はIDOL24を中心になるが、それ以外の事務所も参加する。事務所の垣根を越える合同企画……そこに葉隠様もゲスト出演をしないかと」

 

 ドラマか……準備と撮影にどれだけの時間が奪われるか。

 しかし、あまり重要な役を任されるというわけでもないらしい。

 

「撮影地とか、分かりますか?」

「都内とだけですが、交通網は整っているそうなので日帰りも可能でしょう。演技についてはその場で指導もあるようですし、あまり心配はいらないとのことです」

「……だったら経験と人脈のために、いいかもしれませんね」

 

 ドラマについて前向きに検討した!

 

「そして最後に、本部のアンジェリーナ様からメッセージが1つ」

「久しぶりだなぁ」

 

 ロイドからはメールとかバーガーのレシピとか貰ってるけど……何だろう?

 

「こちらはメールをプリントアウトしてきました。どうも本部で日本語の勉強をしているらしく、その練習も兼ねているようです」

「おお、ひらがなオンリー……」

 

 少々読みづらいけど、ちゃんと理解できる文が書けている。それによると、

 

「へー。アンジェリーナちゃん、動画投稿始めたんですね」

「葉隠様に触発されたようです。先に見せていただきましたが、自分の歌や家族と楽器を演奏している動画がいくつかありましたね」

「安藤家は一家揃ってルックスは良いし、歌も楽器も上手いから人気出そうですね」

 

 まだ続きがある。何々……

 

 こちらは元気でやっているので、タイガーも頑張ってください。

 よかったらタイガーも動画見てみてください。

 日本やタイガーの世界の曲も聴いたり歌ってみたい。

 できたらこっちにも送ってください。

 

 ……か。

 

「ありがとうございます。動画は夜にでも見せてもらうとして、曲は何か適当に彼女のイメージに合いそうなのをリストアップしておきます。向こうに伝えるのは退院後と言うことで」

「かしこまりました」

 

 さて、応援もされたし今日も頑張ろう!


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