人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
この話が一話目です。


254話 脳と占い

 午後

 

 ~病室~

 

 頭に取り付けた機材や質問を変えながら、色々と調べて日も暮れかけた頃。

 

「次は占いをして頂きます」

「占い?」

「葉隠さんはアルバイトで占い師をされているとか、一部では有名ですよね」

「ええ、まぁ……」

 

 Be Blue Vのバイトに行くと、占って欲しいと言うお客様は大勢いる。

 以前動画の取材が着た後からテレビにも出始めて、興味を持ってくれたのだろう。

 

「実はこれまでの検査で少々、いえかなり興味深いデータがとれていまして、占いをしている時の脳の状態も調べさせていただきたいのです」

「そうですか。分かりました。道具は……」

「こちらに」

 

 日本人ドクターの後ろから出てきた近藤さんが、見慣れたタロットカードを差し出す。

 

「必要かと思い、Be Blue Vのオーナーから借りてきました」

「流石近藤さん。道具についてはこれで問題ありません。誰を占えば?」

「占っていただくのは5人、我々医師団やスタッフの中からくじでランダムに選びます。何か占われる側にしてもらいたいことはありますか?」

 

 占って欲しいことが事柄について、普通の人に相談するように、できるだけ具体的に教えて欲しいとだけ伝える。

 

 そしてくじが引かれ、最初の相手は……

 

「よろしくお願いします」

 

 “ヘルスケア24時”の撮影スタッフであり、“アフタースールコーチング”でも何かとお世話になっている、ADの丹羽さんだった。

 

「よろしくお願いします。えーっと、占うのは恋愛運について」

「はい……私ももうそれなりにいい年ですし、同級生が結婚したり、両親から相手はいないのかと言われたりすることもあります。でもあまり出会いがある職場でもないですし、何より忙しくて……」

「そうですよね。僕もいつもお世話をしていただいてますし、撮影中とか休憩中にも走り回っていただいたり……いつもありがとうございます」

「いえいえ」

 

 スタッフとして撮影に携わっているものの、自分が映るのはあまり経験がないらしい。

 かなり緊張気味の丹羽さんに軽い雑談でリラックスしていただき、占いを始める。

 

 集中してカードを操り、出たカードの意味を読み取る。

 

「……丹羽さん」

「はい」

「……もしかして、彼女に振られたばっかりだったりします?」

 

 近い過去を示す位置に逆位置の恋愛が出たのを見て、直感的に思い浮かんだ。

 それをそのまま聞いてみると、答えは言葉にする前から明らかだった。

 

「実はそうなんです……2年前から付き合っていた彼女に先月、フラれました……」

「その原因はあなたにあるみたいです。……心当たり、ありますね?」

 

 オーラの色が冷静な青。今を表すカードも冷静さという意味のある女教皇。

 きっと自覚はあるはずだ。

 

「仕事が忙しくて、会えない時が多かったです」

「もっとありますね」

 

 嘘ではないけど、全ては語っていない感じだ。

 忙しさが元だとすると、

 

「デートでドタキャンとか、遅刻とか」

「……すみません。そういう事もしょっちゅうです……でした。記念日とかもすっぽかす方が多くて……」

 

 予想が当たった。

 

「さっきも言った通り、個人的に丹羽さんが忙しそうな所は見てます。それに仕事熱心で真面目な人なのも分かってます」

 

 だけどそれだけに、仕事を任されるとNoと言えない。

 つまり彼は仕事を優先するあまり、ついつい彼女をほったらかしにしてしまう人のようだ。

 

 そこまで言うと観念したのか、丹羽さんは聞いてもいないことまで語り始めた。

 生真面目すぎて色々とタイミングがつかめないとか。

 2年付き合って性行為どころかキスもしてないとか聞いてないから!

 つか撮影中なの忘れてない!?

 

 もう手遅れ感がするけれど、一度落ち着かせて占いの続き。

 というか……

 

「もう自覚あるみたいですから多くは言いませんが、今ある問題をちゃんと見据えて改善していかなければ今後も、出会いがあったとしても結果は変わらないでしょう」

「そうですか……」

「ただしこちら、未来のカードは法王のカード。このカードは慈愛の心や寛大な精神。人と人との関係を示唆するカードで……復縁の可能性が」

「本当ですか!」

 

 それが一番腑に落ちる解釈だ。

 

「……2年も放っておいて、またやり直してもらえるでしょうか」

「僕も年齢=彼女いない暦なのであまり偉そうには言えませんが……好きでもない相手にそれだけ放っておかれて、2年も関係が持つものでしょうか?」

「それは……」

「何より一番の理由は相手ではなく、貴方の心を表す正義の逆位置。意味は“迷い”。貴方が振られてしまったのは事実として、原因が自分にあることを冷静に理解した上で、仕方ないことと受け止めた。

 しかしながら、まだ2年間付き合いのあった女性を忘れることはできていない。新しい出会いを探しているようで、実は未練が残っている」

 

 丹羽さんは肯定も否定もせずに、じっと俺の言葉を聴いている。

 

「で、あるならば。一度その迷いを解決してはいかがでしょうか? 迷いを持ったまま次の誰かと関係を持っても、余計な問題を抱えるかもしれません」

「問題の改善と、迷いの解決……」

「まだ1人分の時間には少し余裕がありますし、仕事の問題について、改善方法を占って見ましょうか」

 

 その結果、改善方法はもっとオープンに、堂々と付き合う事、となった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 五人目。

 

「……目高プロデューサー、カードには見当違い、心配すべきは出世ではなく、もっと別の事と出ています」

「ええっ!? 具体的には?」

「たぶん体だと思います。ほら、未来のカードが死神ですし」

「縁起悪っ!? ……冗談だよね?」

「いや、冗談でもなんでもなく。一度先生方に診て貰ったらいかがですか? というかプロデューサー、僕が見た限りいつもろくなもの食べてないでしょう。こんな番組も作ってるのに」

「それは~まぁ、そうだけど……具体的にどこが悪いんだい?」

「どこがって……」

 

 そういえば以前、動画投稿者の又旅さんの体調を気の巡りで判断したっけ。

 やってみよう。

 

「ちょっと座っていてくださいね」

「え、うん」

 

 精神を集中。さらにコンセントレイトを発動。

 ……プロデューサーの気の流れが徐々に分かってきた。

 全体的に気の巡りが悪いな……

 

「全身……慢性的に疲れてたりしません? 特に目と肩」

「……何で分かるの? 肩こりは合ってる。目も元々ドライアイ、あとテープチェックとかパソコン作業とかやった後は辛い」

「でも一番気になるのは胃の辺りですね。こっちは……」

「……こっちは何!? 急に黙らないでくれないかな!?」

 

 流れは遅いし、何より乱れているような……

 

「良く分かりませんが、一度検査を受けた方がいいと思いますよ?」

「……考えてみるよ」

 

 最後におまけで軽く肩をマッサージ、と見せかけて気功治療を施した。

 目と肩は一時的かもしれないが、それだけでかなり改善が見られた。

 しかし胃の方は暖簾に腕押し。気の操作をやめるとすぐにまた乱れてしまう。

 いったい何なのだろうか……もう一度検査を薦めておこう。

 

 こうして占いは全て終わった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~病室~

 

 装置が全て運び出された病室で、先生方から結果を聞く予定だったが……

 

「中止ですか」

「色々と興味深い結果が出たようで」

 

 何でも俺には“サヴァン症候群”の疑いがあるらしい。

 

 サヴァン症候群とは自閉症や発達障害、事故などで脳に障害を抱えた人々の一部が驚異的な能力を発揮できるようになること、またはそういう人……を指す言葉なのだが、実は正式な病名ではないらしい。

 

 また、サヴァン症候群には その人の知的発達レベルから想定される以上の能力を特定分野で示す“有能サヴァン”(障害の有無に関わらない)と、障害を抱え特定の能力に驚異的な能力を持つ反面、得意分野以外では足し算すらできないなどアンバランスな能力を持つ“天才サヴァン”という分類がある。

 

 そして俺のケースはというと……

 

 能力を見ると、天才サヴァンと同等の能力を特定分野で発揮している。

 しかしそれ以外の能力が低いという訳ではなく、全体的に能力が高い。

 自閉症や発達障害を抱えているとも言いがたい。

 有能サヴァンであり、その能力が天才サヴァンの域に達しているだけではないか?

 幼少期の悪夢など、極々軽度の自閉症を抱えていたのではないか? 等々……

 

「先生方の間でもまだ結論が出ていない状態です」

 

 先生方は俺たちがこうしている今もずっと会議をしているらしいけれど、この分だと入院期間が終わるまでに話がまとまればいいぐらいの紛糾ぶりだそうだ。

 

「脳については、9日のスタジオ撮影まで保留ということでよろしくお願いいたします」

「仕方ありませんね」

「代わりと言ってはなんですが、Ms.アレクサンドラから。ダンスの振り付けが追加で2曲分、DVDで届きました」

 

 追加のダンス! 先に受け取っている2曲と合わせて4曲。

 

「前回のようにアンコールが来ても、これで安心ですね」

「なんとか間に合わせていただけましたね」

 

 時間も空いたことだし、早速練習だ。

 

 新しいダンスの練習を行なった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 11月4日(火)

 

 午前

 

 ~ダンススタジオ~

 

 今日は昼までみっちりと、ダンスの練習時間をとっていただけた。

 おかげで受け取ったばかりの振り付けも大分自然に動けるようになった。

 技術だけならもうほぼ合格点をだしてもらえるだろう。技術だけなら。

 

 ここからさらに、Ms.アレクサンドラの言うハートを加えていく。

 ステージで使う音楽を流し、歌詞の意味を熟考して、自分の想いと重ね合わせる。

 自然と歌を口ずさみながら、さらに踊り込む!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~検査室~

 

 今日は呼吸器と循環器の検査が中心らしい。

 階段の昇り降りや、酸素マスクのような機材をつけてルームランナーの上を走った!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~病室~

 明日は午前中にボーカルレッスンの予定が入っている。

 先生は一流だけれど超厳しいと有名な人らしい。

 ダンスの合間にも練習をしたけれど、もっと練習しておこう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~病室~

 

 入院中はタルタロスに行けないので、バイオリンを弾きながらのんびりと過ごす。

 “毎日弾く”という契約は検査入院中でも例外ではない。


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