人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は三話を一度に投稿しました。
前回の続きはニつ前からです。


256話 検査入院終了

 11月6日(木)

 

 朝

 

 ~病室~

 

「……」

 

 腹が減った……

 

 胃カメラ撮影のために、昼まで食事ができない。

 

 しかも検査のためとはいえ空腹状態なので、激しい運動は控えるようにとの注意が出ている。

 つまりトレーニングもできない。ぶっちゃけ暇。

 アンジェリーナちゃんの動画もまだ数が少なく、見終わってしまった。

 昨日話して許可の出た、自分のサインを考えているが……空腹だと頭も働かない。

 

 だがそれでも他にすることがないので、考える。

 アメリカでは契約書とか、サインはどの道必要らしいし……

 

 ハンドレタリングの本や、Be Blue VでのPOP書きの経験を反芻。

 さっさと書けるように漢字はやめよう。画数が多い。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「書きやすく、派手すぎず、それっぽくて無難」

 

 アルファベットで葉隠のHを大きく書き、その横棒を右に長く伸ばす。

 その上にKagetoraと書く。文字は筆記体で、ハンドレタリングの技術を応用。

 

 何十回も試作を行い、納得できるサインが完成した!

 

「……まだ時間あるな……」

 

 テレビをつけてみる。

 ……あまり面白そうな番組がない。

 何か、気を紛らわせる物はないか……

 

「……! 本があったはず!」

 

 荷物を入れている戸棚をあさると、本を詰め込んだ袋が目に付く。

 

「あった!」

 

 そうだよ、こういう時のために持ち込んであったんだ。

 割と忙しくてすっかり忘れていた。

 さて、何を読もうか……

 

「ん~、おっ“プログラミング超入門”」

 

 これは山岸さんから貰った本だ。

 プログラミングと書いてあるが、パソコンの基礎知識から説明されていてわかりやすいらしい。

 これを読んでみよう。

 

 ソファーに腰掛け、ペラペラとページをめくり、内容を頭に入れる。

 

「あっ……これぜんぜん時間潰しになってない……」

 

 空腹でややスピードが落ちているけれど、それでも数分で一冊読み切ってしまった。とりあえずパソコンに関する基礎知識、そしてプログラミング言語についての基礎知識は身についた気がするが……これでは時間つぶしにならない。

 

 新しい本を読んでも同じだろうし、このまま同じ本をじっくり読んでみるか……

 

 再び“プログラミング超入門”に目を通す。

 

 パソコンの基礎知識からプログラミングの話に。

 プログラミングに必要な準備、関数、繰り返し、条件分岐、アルゴリズムとは何か。

 そしてコマンドプロンプトに“Hallo World”と表示するだけの基本的なコード例。

 

 ……思いのほか面白い。

 やりたい事やその方法を、“文字で記述して”、最終的に実行し、実現する。

 これはルーン魔術に近いものを感じる。

 

 ……プログラミングの技術をルーン魔術に活かすことはできないだろうか?

 

「繰り返しや条件分岐だけでも組み込めれば……」

 

 それだけでもより複雑な魔術が使えるか?

 

 さらに思考をめぐらせると、古い記憶に引っかかる物があった。

 

 “Fate/”シリーズの“コードキャスト”

 あれも事前にコード(プログラム)を予め用意しておき、魔力を用いて起動させるという設定だったはず……

 

 完全に同一の物である必要はない。

 しかし魔力の供給源は魔術師だけでなく、魔力を込めた物体を電池のように使ってもいい。

 

 プログラミングとルーン魔術の融合。

 うまくやれば自由度の向上、魔術の簡略化、あるいは補助的な装置を作れるかも?

 

「問題は実現方法だな……」

 

 ……思いつきはしたが、具体的にどうすれば実現できるかがわからない。

 俺にはまだプログラミングの知識と技術が足りない。

 

 ……近藤さんに経緯と概要を話して、ロイドや本部の知識層に聞いてもらおう。

 あと俺の勉強用に関連書籍を手配してもらおう。

 

 そう心に決めたところで、病室の扉がノックされた。

 

「はい! どうぞー」

「葉隠さん、お待たせしました。そろそろ検査の順番になりますので、準備をお願いします」

「わかりました」

 

 ……いつの間にか目的を忘れていた……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~レコーディングスタジオ~

 

 胃カメラが終わり、いつも以上の食事を摂って歌の練習へ。

 病院の近くですぐに練習ができる場所を用意していただいたが、どうやらただ練習するだけではないようだ。

 

「最後にCDを作るためのレコーディングを行うと」

「ダンスの振り付けやボーカルレッスン等に経費もかかっていますし、何よりも文化祭のステージ一度きりで終わらせてしまうには勿体無い“商材”ですからね。できる限り商業ベースにのせていく方針です。動画サイトを利用した宣伝やダウンロード配信も予定しています」

 

 やれる事は徹底的にやっていく方針だそうだ。

 

「CDは多く作れば一枚あたりの単価が安くなりますので、葉隠様のファンクラブの方々には入会特典として配るのもよろしいかと。今後大事なお客様になることも考えていますので」

 

 抜け目がない。

 

 まあとにかく俺がすべきことは、練習をしてクオリティを上げることだ。

 昨日受けたボーカルレッスンを思い出し、早速練習に入る。

 

 ものまねではない。自分の声で、自分の思いを歌に乗せていく。

 回数を重ねるごとに、心の底から叫ぶ!

 

 ……気づいたら撮影スタッフが合いの手を入れて熱狂していた。

 

 歌の練習とレコーディングを行った!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 11月7日(金)

 

 朝

 

 ~病室~

 

「おはようございます」

 

 検査入院、最終日。

 

 近藤さんが今日の予定を確認に来た。

 

「疾病関係の検査は昨日の段階で終了。本日の午前中は現在の身体能力を測定します。この測定ですが、種目が多くややハードな撮影になりますので、バテないように食事はしっかりと摂っておいてください。

 測定の会場は辰巳スポーツ文化会館、以前葉隠様が撮影を行った場所ですね」

 

 懐かしいな……俺のテレビ出演、記念すべき1回目の場所だ。

 

「測定後は現地解散。ヘルスケア24時の検査入院も終了となります。葉隠様のお荷物はこちらで預かりますので、こちらに戻る必要はありません。検査にご協力いただいた病院関係者の方々への挨拶回りは、早いうちに済ませておきましょう」

「そうですね」

「昼食後は明日のステージに関する最後の打ち合わせとリハーサル、こちらは月光館学園の中等部で行います。その後男子寮へ帰宅。明日に向けてゆっくりお休みください」

 

 一日の予定を確認した!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午前

 

 ~辰巳スポーツ文化会館~

 

「400m走、45秒51!!」

 

 夏休み前に出した自己ベストは、46秒27。

 これまで学んだ事や経験は、確かに自分の力になっている。

 身体能力テストは他の種目でも軒並み良い結果が出た。

 当然、強化魔術は使っていない。

 

 自分の成長を実感した!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~月光館学園・中等部~

 

 文化祭前日。

 派手に飾りつけられた校舎内には、まだ準備に追われている生徒の姿が多く見られる。

 

「あっ! あれ葉隠先輩じゃない!?」

「マジじゃん!? 一緒にいるのって、先生と誰?」

「マネージャーじゃない? ……うわ、めっちゃ芸能人っぽい!」

「こんちはー!!」

「応援してまーす!」

「ありがとー!」

『ワー!!!』

「はは……」

「人気者だね、葉隠君」

「ありがたいことです」

 

 実行委員の会議室に向かうだけで、絶え間なく声がかけられる様子に中等部の先生は苦笑い。

 文化祭を明日に控えた興奮もあるのだろうけれど、ここまでの歓声を受けるのは初めてだ。

 

「こちらです。どうぞ」

「失礼します」

 

 案内された部屋にお邪魔すると、

 

「「兄貴!」」

 

 真っ先に和田と新井が声を上げる。

 

「元気だったか?」

「ウッス!」

「俺らは健康な体だけがとりえッスから!」

「自分で言ってて悲しくないか……?」

 

 まぁ、元気そうで何よりだけど。

 それはそれとして、

 

「実行委員の皆さん、初めまして。……でもない人もいますが、葉隠影虎です。明日のステージに出演させていただく事になっていますが、本番を明日に控えた今日まで、直接こちらに伺えなくて申し訳ありませんでした」

 

 二人のように気軽に声をかけらないようで、部屋の隅で固まっていた実行委員に頭を下げる。

 

「あ、えっ?」

「いやいや! 全然、なぁ?」

「そう、ですよね! 先輩」

「はい! こちらこそ、お忙しい中ありがとうございます?」

 

 実行委員は全員中学生。年上にはなかなか声をかけづらいという子もいるだろう。

 腰を低く、演技力を活用して意図的に話しかけやすそうな雰囲気を作る。

 

「……拍子抜け……」

 

 中学生の塊からそんな言葉が聞こえた。

 同時に周囲の視線が1人の男子に集まる。

 

「す、すいません! 悪い意味じゃないんです! ほら、葉隠先輩って真田先輩に勝ったり、昔はめちゃ喧嘩してたとか。そういう物騒な話ばかり聞いてたんで、てっきり怖い人かと」

 

 焦りまくっている男子に軽く笑って返す。

 

「なんか……思った以上にとっつきやすそうな人だな」

「そう、だね。ちょっと安心したかも」

 

 よし。成功しているようだ。

 

「てか兄貴と近藤さん。いつまでもそんなとこ突っ立ってないで、椅子どうぞ」

「ありがとう、新井」

「失礼します」

 

 高等部の文化祭準備の折、何度か近藤さんとも会っている2人は慣れたもので、遠慮なく声をかけてくる。そんな平常運転の2人を見てか、他の委員もだいぶ落ち着いてきたようだ。

 

「えー、じゃあ葉隠先輩が来て下さったことだし、ざっと自己紹介してステージの話をしようか」

 

 そう切り出したのは、以前軽く剣道の試合をした、女子剣道部主将の爽やかボクっ娘。

 名前は確か、

 

矢場(やば)真琴(まこと)さんだよね? お久しぶりです」

「ボクの事覚えてたんですか?」

 

 中等部の桐条先輩的存在だし、個人的にわりと印象は強かった。

 たぶんドッペルゲンガーが無くても忘れはしなかったと思う。

 

「矢場さんもだけど、そっちの彼女とその2つ隣の彼女はあの時剣道部にいたよね。名前は知らないけど、お菓子受け取ってくれた子。あとそちらの1年生の子は前に一緒に写真を取った記憶がある」

 

 この3人は完全にドッペルゲンガーがなければ忘れてた。

 けど覚えていた事にして好感度アップ!

 

 実行委員の輪に入りスムーズに会話を進め、自己紹介から肝心のステージの話に移る。

 

「葉隠先輩のステージは約40分。電話で連絡いただいていた通りに、アンコール含めて5曲分と合間に軽いトークをしていただくなら十分だと思います」

「出番は一番最後っす。他のステージ使う連中の意見も聞いた結果、前回あんだけ盛り上がらせた先輩の直後は嫌だって事なんで、最後ビシッと決めちゃってください!」

 

 和田め、さらっとプレッシャーかけてきやがった。

 でもまぁ、期待されているならやるしかない!

 

「あと質問なんですけど、兄貴は当日の衣装とかセットとかどうするんです?」

「そのあたりは何もいらない。ステージは踊れるだけのスペースがあればいいし、衣装は学校指定のジャージでやるから」

「ジャージでいいんですか?」

「せっかくのステージなのに、ちょっとダサくないですか?」

 

 実行委員から意見が出てくるがこれは想定範囲内。

 

「大丈夫。今回用意してもらった曲に関係するんだけど、ダサくていいんだ。むしろ変にかっこつけるほうが曲に合わない」

 

 前回はしっかりした衣装を着て、しっかりした演出のもとにステージに上がった。

 だけどそれは前回、テレビ撮影の一環としてだ。今回は違う。

 

 演出も何もなく、等身大の自分の技術と思いのみでぶつかる。

 それが今回使わせていただく楽曲に最も合うと思うし、今後のための試金石にもなる。

 

 とはいえ彼らにとってはステージのトリを任せるわけだし、不安もあるだろう。

 だったら、百聞は一見にしかず。

 

「この後ステージでリハーサルをさせていただけると聞いていますが、もしよければ皆さん実際に見てみますか?」

「いいんすか!?」

 

 実行委員の彼らは本番当日にゆっくりステージを見ている暇はないだろうし、どのみちリハーサルはやらせていただくことだ。それにいくらか観客がいてくれた方が当日の感覚も掴みやすいだろう。近藤さんにも確認してOKを貰った。

 

「じゃあ……」

「せっかくだしね!」

「そういうことならお言葉に甘えて」

「ならこの件はまた後でという事で。他には何かあったかな――」

 

 実行委員との打ち合わせを行った!

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