人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回は二話を一度に投稿しました。
この話が一話目です。


257話 便利なツール

 夜

 

 ~自室~

 

 ベッドで横になりながら、考えるのは明日のステージについて。

 明日に備えて体を休めるつもりだが、なんだか落ち着かない。

 

 前回のように色々とプロデュースされたステージではないからか?

 それとも純粋なステージではなく、エネルギー回収計画の事もあるからか?

 

 そんなことを考えていると、携帯に着信が入る。

 見覚えのない番号だ……

 

「もしもし?」

『もしもしタイガー?』

 

 この声、それにこの呼び方……

 

「もしかしてロイドか?」

『ザッツライト!』

「どうした? 直接連絡してくるなんて、珍しいな」

『タイガーが送ってきた“コードキャスト”の話とか、直接話した方が早いと思ってね。時間は大丈夫?』

 

 なるほど。あの思いつきを本部はどう受け止めたか。ぜひ話を聞きたい。

 

『えっと、まず現状の説明からするね。例の話はこっちでも面白いアイデアだって評価されてる。ルーン魔術とコーディングは確かに“目的を記述して実行する”って点は同じだよね。実用化するには研究が必要だけど、そのためにもまずタイガーの方で色々と実験して欲しくて、そのための簡単なプログラムを作ってみたんだ。今メール見られる?』

「見られるよ」

『じゃあメール送るから、書かれたURLからダウンロードして、タイガーのPCにインストールして。簡単なプログラムだからそんなに時間も取らないはずだし』

「了解」

 

 言われた通りにインストールすると、デスクトップ上に“Rune Maker”というアイコンが作られる。

 

「インストール完了。ルーンメーカー?」

『名前は適当。まず起動して。説明は操作しながらするから』

「了解」

 

 起動すると、シンプルな作りの画面が開いた。

 画面上部には表計算ソフトのような3つのタブが並んでいて、“変換”、“魔法円”、“コーディング”と書かれている。

 画面上部をクリックすれば切り替えられるようだ。

 

『最初は“変換”のタブが開かれているはずだけど』

「確認した。ちゃんと開けているよ」

『OK。見たらわかると思うけど、そこは“アルファベットをルーン文字に変換する”機能が使えるよ。よくある翻訳サイトと同じ感じで使ってもらえば大丈夫。長くて複雑な内容でも、英文なら一発でルーンに変換できる。尤もドッペルゲンガーがあるタイガーには必要ないかもだけど、次の“魔法円”と組み合わせればそれなりに使えると思う』

 

 さっさと次に進み、開かれたのはこれまたシンプルな画面。

 

「……パソコン買ったらデフォルトで入ってるお絵かきツールみたいな感じだな」

『作りは似たようなものだからね。普通のソフトと違うのは、ツールバーにある“魔法円”をクリックして』

「……なんか色々出てきたぞ」

 

 円、五芒星、六芒星、三角形、四角形、五角形、六角形……

 ポップアップする画面と様々な形状のアイコン。

 適当に円をクリックしてみると、サンプル画像が表示された。

 何の変哲も無い、円。……? 複数選択可能。

 もう一度円を選ぶとサンプル画像が二重の円に。

 さらに五芒星を選ぶと内側の円の中に五芒星が描かれる。

 

『デフォルトでは外側から内側へ順に描画される設定になってるけど、上の方に選択した図形が順番に並んでるでしょ? その右側の“…”をクリックすると順番を入れ替えるのも、個別に大きさや位置を調整するのも自由自在。もちろん手書きもOKだから、慣れれば複雑な魔法円でも簡単に書けるはず。

 ちなみにツールバーの“ルーン記入”を選択すると、図形に沿ってルーンも書き込める仕様になってるから、さっきの“変換”で変換した文章をコピペしても良いし、ツール内の言語設定をルーンに対応させて直接入力もできるよ。もちろん文字の大きさや位置は変更可能。どっちでも使いやすい方を選んでね』

 

 これは……魔法円を描くのが捗りそうなシステムだ!

 

『魔法円のデザインを具体的にしやすいし、データは保存できるから、魔術のトライアル&エラーがしやすくなったってアンジェリーナからは好評。タイガーも何か気づいたり要望があったら言ってね。技術発展のためのサポートツールとして、これもより良い物に改善していく方針だから』

「……ロイド。素朴な疑問なんだけど、これで描いた魔法円はプリンターがあればプリントできるのかな?」

『? そんなの当然でしょ。魔法円を描く事に特化した機能を追加しただけで、ベースはネットで探せば無料で手に入るような描画ソフトだし。そのくらいの機能は当然ついてるよ』

 

 ……ヤバくね?

 

 ルーンを描ければ普通のメモ帳とマジックペンのインクでも魔術は発動できる。

 コピー用紙とプリンターのインクでも発動可能なんじゃないだろうか?

 例えばNARUTOの起爆札みたいに“爆発を起こす”魔法円を描いてプリントしたら……?

 

『……NARUTOのキバクフダが何か知らないけど、言いたい事は分かったよ。気をつけて使ってね!』

「お、おう。分かった……」

『じゃあ最後の“コーディング”だけど、ここは単純なテキストエディタとコーディングのためのツール詰め合わせ。ルーンも入力できるけど、普通のプログラミング練習にも使えるよ。

 “モニター上で記述したルーンでも魔術を使えるのか”とか、タイガーも色々思いついた事を試して結果を教えてほしい、って研究チームの人が言ってた』

「了解、こっちでも色々やってみるよ」

『お願いね! ところでそっちは最近どう? 僕の方はもう毎日滅茶苦茶忙しいよ! このままじゃアメリカ人なのに過労死しそう』

 

 仕事が終わったとばかりに話題を変えたロイド。

 微妙に日本的なことを言いつつ、アメリカ人らしく仕事のオンオフはハッキリしている。

 

「そっちはそんなに忙しいのか?」

 

 確か……自分の五感で得た情報をデータ化できる能力が見つかって、味覚のシミュレーターとか色々な技術開発に利用できないか調べていると聞いていたけど。

 

『あー、それはだいぶ前に終わった。グレムリン(僕のペルソナ)の能力が思った以上に現代社会じゃチートでさ。今はグレムリンを通して、僕の運動能力をコンピュータの内部に送ってデータ化してるところ。それを元にすれば人型ロボットの制御プログラムや、脳波で装着者の自由に動かせる義手や義足の開発が大きく進展するんだって』

機械鎧(オートメイル)みたいだな」

『Auto…What?』

 

 また元ネタの分からない事を言ってしまった。

 

「俺の前世の漫画にあったんだ。手術をして、機械と神経をつなげて自在に動かせる義手や義足が。現実でもそういう研究はあったよ」

 

 手術の他にもさっきロイドが言ったような脳波で動くタイプだったり、筋肉からの電気信号で動くタイプだったり。どこの世界も科学技術を使ってやろうとする事は同じなんだと思う。

 

「まぁ、完成したら大勢の役に立つんだ。頑張れよ」

『わかってる。タイガーも頑張って』

 

 ついつい長話をしてしまったが、用件も済んだし明日ステージならこの辺にしておこうという話になる。

 

 俺としてはまだ話していても良かったのだけれど……

 

 ロイドとの電話を終えた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 11月8日(土)

 

 朝

 

 ~月光館学園・中等部校舎~

 

 文化祭開始の放送と同時に校門が開かれ、大勢の一般客がなだれ込んでいく。

 

「とりあえず何か食うかな……」

 

 変装して人の流れに混ざっていると、“1-Aのお好み焼き”という看板が目に入る。

 まだ始まったばかりとあって、人も並んでいない。ここにしようか……

 

「すみませーん」

「いらっしゃ……」

 

 ? 受付の女子生徒が固まってしまった。

 どうも緊張しているようだ。

 

「えっと、注文いいかな?」

「あっ! は、はい!」

「よかった。豚玉、ネギ玉、えび玉。それぞれ1枚ずつお願いします」

「かしこまりましたッ! 1枚300円にゃ、なので1000円ですッ! 横にずれてお待ちくださいッ!」

「あ、はい……」

 

 ……勢いに飲まれてはいって言っちゃったけど、900円だよね?

 しかし女子生徒はすでに、大慌てで教室内に作られた調理場へ飛び込んでいる。

 どうやら注文をクラスメイトに伝えているようだけど、それだけではないようだ……

 

「ねぇちょっと! 今注文した人めちゃイケメンなんだけど!?」

「え~、マジ? どれよ……うっそスゴッ」

「カッコイイ……ハーフ? 外国人? もしかしてモデルとか?」

 

 どうやら変装したこの(ヒソカ)のせいらしい……

 慣れすぎて忘れていたけど、これは無駄にイケメンに作った顔だった。

 

 ちなみに地下闘技場やその近辺ではすでに噂が広がり、“顔はいいけど喧嘩にしか興味がない男”として見られているらしく、声をかけようかと迷う女性はいない。

 

 そう考えると彼女達の反応はある意味新鮮だ。

 

「ところでさ、なんであの人立ってるの? 席あるんだから座ってもらえばいいんじゃん」

「!! あたし、横にずれてお待ちくださいって言っちゃった」

「あとさ、お好み焼き3つってここで食べてくの? それとも持ち帰り?」

「!! ……聞いてない、テンパッちゃって」

「も~、何やってんの~」

「いや、だって……振り向いたらいきなりアレだったんだもん。てかあたし、めっちゃ噛んでたし……恥ずかしい……」

「いくらなんでもテンパりすぎっしょ。私、聞いてくるよ」

 

 思いっきり聞こえてるけど、知らん顔しとこう。

 

「すいませーん。そこのお兄さん」

「僕ですか?」

「あーっと……さっきの注文、持ち帰りですか? それともここで?」

「ああ……」

 

 ……視線を集めている。あまり落ち着けなさそうだし、

 

「持ち帰りでお願いします」

「あざーっす」

 

 女子生徒は調理スペースに戻る。

 

「やっべーわ。正面から見るとオーラが半端ない。芸能人オーラバリバリ」

 

 芸能人オーラ、出ているんだろうか?

 色々とやってきたし、魅力のステータスが上がっていてもおかしくない。

 いまいち実感なかったけど、昨日もキャーキャー言われたし……

 

 ……あまり調子に乗らないでおこう。

 

「お待たせしましたぁ~。豚玉、ねぎ玉、えび玉のお持ち帰りでぇす」

「ありがとうございます。お会計お願いします」

「えっ? あ、まだ終わってなかったんだ。すみません!」

「大丈夫ですよ、これお代です」

「1000円のお預かりで100円のお返しです」

「まだ始まったばかりですし、気を楽にして頑張ってくださいね」

「はい……ありがとうございます……」

 

 目が合った女子が顔を赤くしている……

 

 これはアレだな。ただしイケメンに限る! と言うやつだ。

 素顔ならここまでの反応は無いだろう。

 実際、今でも素顔の時にちょっと話したくらいで顔を赤くされた事なんてないし……

 

 イケメンは人間関係上の便利ツール。

 異論は認めるが間違っているとは思わない。




影虎は魔法円描画ツール“Rune Maker”を手に入れた!
影虎の魅力が密かに上がっていた!
変装用の顔(ヒソカ)の魅力も上がった!
なお隠密行動には向かない模様……

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