人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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25話 誤算

「ってことで、友近君が食べるのは自分が買ってきたタマゴサンドだけ」

「葉隠君が買ってきたパンに手を出したらダメだからね」

「えー。島田さん、一つくらい……いえ、なんでもないです」

「よろしい。これは友近君への罰なのです。何が悪かったかは……自分で気づかないとダメー」

「あのー、オレッチは……?」

「んー? 伊織くんかー……今回は悪くないみたいだしいいかな? 買ってきた葉隠君がいいって言えば」

「別にいいよ。俺が食べる分は確保させてもらうけど」

「サンキュー!」

 

 岩崎さんを除いた女子のお裁きを受けた友近がうなだれ、許された順平が対照的に喜ぶ中、携帯にメールが届いた。送り主は江戸川先生。

 

 また手伝いを頼まれるのか? と予想しながら確認すると、内容は大きく外れていた。

 

 ……あの約束、フラグだったかなぁ……

 

 メールには昨日の事故で搬送された少年が、助けてくれたお礼をしたいと言っていて、今日の放課後パルクール同好会の部室に先生同伴で来るので、時間があればその場に来てほしいと書かれている。

 

 ……まぁ、行こうか。理由をつけて避けることもできそうだけど、顔を繋いでおく良い機会だ。

 

 前向きに考えて携帯を閉じる。すると順平が話しかけてきた。

 

「影虎はどれ食べんの?」

「ん、俺は……」

 

 パンの詰まった袋から特濃マヨサンドのパックを三つ、コロッケパンとあんパンを一つずつ取り出して残りをよせた机の真ん中に置く。

 

「結構食うな、お前」

「運動してるからな」

 

 特に最近はタルタロスやペルソナのせいか、食事の量が増えてきている気がする。って、そういや天田少年が来るのって何時なんだろうか? なにか用意しておくべきか?

 

 メールを再確認するが、放課後としか書かれていない。

 

「何かあったの?」

「! いや、なんでもないよ岳羽さん」

「? そう?」

「そうそう、ちょっと江戸川先生から連絡が来ただけだから」

「えっ、あの先生から? って、そういえばキミって江戸川先生と新しい部を作ったんだっけ。呼び出し?」

「いや。昨日の部活中に事故に遭遇して、助けた子がお礼を言いに部室に来るって連絡」

「それって昨日ランニング中に見かけたって事故の?」

「おっ! あいつ無事だったのか?」

「何それ? 西脇さんと宮本も知ってんの?」

「私は直接見たわけじゃないんだけど、陸上部の男子が話してたの。小等部の生徒が倒れてたって」

「その子、大丈夫だったの?」

「お礼に来るって言ってるから大丈夫だと思う」

「そっかぁ、良かったね。ところでさ……江戸川先生との部活って実際どうなの?」

「っ! 高城さん、それ聞いちゃダメ!」

「……何かまずいの?」

「友近、そんな言い方だと変な誤解を生むだろ? 些細な事に目をつぶれば特に問題ないさ」

「普通の部活は目をつぶらなきゃならない事なんて無いっての!」

 

 友近の言葉を聞き流し、特濃マヨサンドを一つ開けて一口。

 

 ……

 

 …………

 

「なぁ、これ誰か食べないか? できれば何かと交換で」

「それ特濃マヨサンド!? 食べたい! 食べないの!?」

「う、うん……高城さんはこれ好きなの?」

「前に姉さんから貰って、高等部に来たら食べたいと思ってたのよ!」

「高城さんのお姉さんって、弓道部の八千代先輩だよね?」

「そうそう。姉さんにまた買ってきてって頼んでも、たまたま手に入っただけだから無理だって言われちゃうし、私は足遅いからいつも買えなくて」

「なら、どうぞ」

 

 俺は手元の開いてないパックを二つとも高城さんの前に差し出す。

 

「ありがとう! じゃあこれ、チキンサンドとミックスサンド。まだ手をつけてないから」

「なんかすげー喜んでるな。美味いのか?」

「食べてみるか? たぶん好きな人は好きだと思う。俺はここまで濃厚なマヨネーズは求めてないけど、まずくはない」

 

 要は好みの問題だ。人気商品、だから口に合うとは限らない。

 一パックに三つ入りで、俺が口をつけた以外にも開けたサンドイッチは二つ残っている。それを皆の前に出すと、高城さんと友近以外が少しずつ分けて試食を始めた。

 

「あっ、美味しい」

「うめぇ! 来週はこれ買う!」

「たまに食べる分には良いかな」

「俺は好きだけど影虎の言いたいことも分かる。何個もとなるとマヨラー向けだな」

「なんだろう、具材の味が全部マヨネーズの引き立て役になってる感じ?」

「私はパス。カロリー高いよぉ」

 

 岩崎さん、宮本、西脇さん、順平、岳羽さん、島田さん、と口々に感想を言いあう。それがまた新たな話題のきっかけになり、どんどん話が広がっていく。女三人で(かしま)しいと言うが、五人とお調子者(順平)がいると話が途切れない。

 

 それはパンを食べ終わっても続き、時間の流れも止まることがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みが終わり、授業が終わり、ホームルームも終わってとうとう放課後。いつ天田少年が来るか分からないので真っ直ぐに部室へ向かうと、校門の前で山岸さんと遭遇した。

 

「山岸さん」

「あっ、葉隠君。丁度良かった。昨日の子がお礼に来るって聞いたんだけど、これから部室に行くの?」

「耳が早いな」

「ホームルームで担任の先生から言われたの。都合がよければ行ってあげなさいって」

「なるほど、じゃあ山岸さんも部室に?」

「うん。お邪魔じゃなければ」

「なら行きますか。邪魔なんてとんでもない」

 

 俺は山岸さんと部室に向かう。

 

「そういえば、山岸さんって部活は? 写真部って言ってたけど、今日活動日じゃなかった?」

「私? 私はほら」

 

 山岸さんがカバンから古めのカメラを取り出して見せてくる。

 

「今日は校外の風景を撮ってくるって言って抜け出してきちゃった」

「いいの?」

「帰りに葉隠君の部室のまわりをちゃんと撮っておけば大丈夫。コンクールが無いと校内を歩き回って撮影して、たまに現像した写真について意見交換するだけって先輩に言われてるから」

「そうなのか」

 

 適当な話で間を持たせながら歩いていると、部室とその前に立つ人影が目に付く。

 

「おや、来ましたね。お二人揃って」

「江戸川先生、昨日の子は」

「もう来ていますよ。小等部は高等部より授業が早く終わったそうで。問題がなければこのまま会えますか? 少年はともかく、先生の方が少々緊張しているようですので……」

 

 先生が? まぁ、聞くより見たほうが早いか。

 

 山岸さんも問題ないようなので江戸川先生についていくと、今日は江戸川先生の研究室で話をするようだ。

 

 ……もうこの時点で分かった。先生の緊張は絶対部屋の内装が原因だ。

 

「失礼します。……やっぱり」

「……!!」

 

 扉を開けると室内は初日の三割り増しで混沌としていた。たぶん昨日の片付けが終わってないんだろう。ホルマリン漬けの標本やオカルト本がいたるところに、見える場所に乱雑に置かれていて、それがまた不気味さを際立たせる。このままお化け屋敷の一部にできそうな状態だ。

 

 部屋の中心部には物を適当にどかした机の前に座る天田少年と女性教師の姿があるが、小等部の先生は落ち着かない様子周りの標本を見回し、顔色が良くない。きっとこういうのが苦手なんだろう。

 

 後ろから部屋を覗き込んだ山岸さんも息を呑んでいるが、この部屋の主はそんな事を気にしない。

 

「お待たせしました。彼らが例の生徒です」

「……お二人が僕を助けてくださったんですね?」

「俺は高等部一年の葉隠影虎。俺は救急車を呼んだだけで、先に助けたのはここにいる山岸さんだけどね」

「いえ、そんな……私は葉隠君と同じで高等部一年の山岸風花。君は天田君、だよね? 怪我は大丈夫?」

「はい、天田乾です。この度は気を失っているところを助けていただいてありがとうございました」

 

 天田少年はこの内装が平気なようで、付き添いの先生より先に会話に加わった。

 その言葉遣いは年の割にしっかりしているようだけど、昨日の話を聞いた俺には作り物のように感じてしまう。

 

「傷は問題ないそうです。元々ただの擦り傷でしたし、検査では脳にも異常は無いそうです。でも当分は激しい運動はしちゃいけないって。ですよね? 菊池先生」

「そうね、最低一週間は見学よ。そのくらいで済んでよかったわ。……江戸川先生に聞きました。山岸さんが迅速に処置をして、葉隠君が通報してくれたんですってね。貴方たちが居てくれなかったら、もっと酷い事になっていたかもしれない……本当にありがとう」

 

 菊池先生はそう言って深々と頭を下げた。こう改めて丁寧に言われると気恥ずかしくなってくる。それは山岸さんも同じだったようで、先生が顔を上げても無言の時が過ぎていく。

 

 だが、その時間は悲鳴と共に終わる。

 

「ひぃっ!?」

「……ああ、こういう物(標本)は苦手ですか?」

「ごめんなさいね……うぅ、目が合った……」

「あの、聞いてもいいですか?」

 

 江戸川先生の私物に怯える先生を横目に、おずおずと天田少年が口を開いた。

 

「何? 答えられることなら答えるけど」

「ここは部室だって聞いたんですけど、どんな活動をしているんですか?」

 

 部屋を見回しながら聞いてきた天田少年の表情は、心なしかさっきまでよりやわらかい。これは興味本位の質問なのか?

 

「うちはパルクール同好会。パルクールっていうスポーツで体を鍛える部活さ」

「鍛える? じゃあこの部屋は?」

「ここは顧問である私の部屋、そして保健室ですよぉ?」

「保健室!?」

「……江戸川先生の私物が多いけどそういうことになってるし、実際そういう設備もある。ですよね?」

「勿論ですとも。手術が必要でない怪我なら、何にでも対応して見せますよ。ヒッヒッヒ」

「だそうだ、他に何か質問は?」

「……そのパルクールってどんなスポーツなんですか? あと、パルクールをやったら強くなれますか?」

 

 ん? この質問、上手くやれば……

 

「パルクールは簡単に言うと走ったり跳んだり登ったりして、目的地へより早く安全に向かうスポーツさ。よくアクロバットを加えたフリーランニングと間違われるけど、パルクールは純粋に移動の速さを求めるスポーツって感じかな?

 それから強くなれるかって質問だけど……なれる。そう断言するよ」

「本当ですか? 絶対に?」

 

 俺は無言で頷き、言葉を続ける。

 

「天田君がどんな結果が出れば強くなったと言えるのかは分からないけど、元々パルクールはどんな場所でも自由自在に移動するための訓練を通して肉体と精神を無理なく鍛えることが目的なんだ。だからパルクールをやれば筋肉や体力をつけて“体を強くする”ことはできる。

 もし天田君の望む強さが“腕相撲やスポーツで勝てる強さ”だとしても、パルクールで身につけた体力や筋力があれば有利になる。

 それから格闘技(・・・)でも基本は体作りから。パルクールにはいろんな強さの基礎を身に付けられる、そういうスポーツだよ」

 

 天田少年は母親を殺した相手への復讐のため、強さを求めていた。だから強くなれるの一言で注意を引き、話をするきっかけになれば……

 

「だったら、僕を入部させてもらえませんか!?」

 

 …………は?

 

「パルクール同好会に?」

「ダメですか……?」

「いや、ダメと言うか、小等部の生徒が高等部の部活に入れるの?」

「部の顧問と部長さんの許可を貰えれば入れます!」

 

 勢いのある天田少年の発言の真偽を二人の先生に尋ねると

 

「可能よ。人数の少ないマイナーな部活の部員確保、何らかの理由で顧問が居なくなった部活の救済措置、上級生と下級生の活発な交流の促進などいろいろ理由はあるけれど、月光館学園では小等部・中等部・高等部、合同で部活動を行う事を認める制度があるの」

「もっとも運動部だと年齢差や体の成長具合における指導内容の調整が必要になるので、長期休暇中に教師が交代で休みを取ったり、交流戦などの合同練習などの機会に一時的に使われるくらいですが……天田君の言った通り顧問である私と、部長である影虎君の許可があれば、練習に参加させることはできます」

「お願いします! 僕、強くなりたいんです!」

 

 深く頭を下げる天田少年。

 

 ……どうやら俺は、彼の興味を引きすぎたらしい。




影虎は天田と遭遇した!
天田は部活に入りたそうにしている。
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