人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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261話 情報交換

 影時間

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 一週間ぶりに天田とコロマルを連れてタルタロスを訪れた。

 トレーニングもしたいけれど、まず行うべきは情報交換だ。

 

「まずは俺からでいいか?」

「どうぞ」

「ワフッ」

「じゃあ早速、まずは今日行ったエネルギーの回収について。結論から言うと、エネルギーの回収には成功した。ただし、改善すべき点も多く見つかった」

 

 問題その1“エネルギーの回収量”

 

「早い話が、観客からエネルギーを吸い過ぎた。範囲を広く、威力は絞ってほんの少しにしたつもりだったが、一般人相手だとまだ多かったらしい。天田は見てたと思うけど、結果は数人だけど失神者を出してしまった。幸い被害者は全員影人間にはならず、あのあと意識が戻ったらしい。ほんの一時的な意識喪失と少々疲労感を訴えただけで、それ以外の異変を訴えた人もいない」

 

 有名歌手のライブで失神者が出るという話は聞くから、今回は何とかごまかせそう。

 しかし何度も続かせるわけにはいかない。

 無関係な人の被害は避けるべきだし、今後の活動にも影響する。

 

「それにもう1つ。いや2つか。回収したエネルギーを貯めておく水晶とその安全装置を兼ねた台座の強度、あるいはルーンの改善も課題だ」

 

 言いながら水晶の破片を取り出すと、2人はそれだけで理解してくれた。

 

「壊れたんですね」

「可能性としては考えていた。何度か体験してるが、多すぎるエネルギーを無理やりねじ込まれるのはかなり苦痛だからな。それをうまくやるために、腕輪型の台座にはルーンで保護の術式が刻まれてたんだが……しばらくは持ったけど、最後まで負荷に耐え切ることはできなかった」

 

 エネルギーの吸収速度と量をもっと抑えていればまだ持ったかもしれないけど……

 とりあえず強度を上げられるなら上げておいて損はない。

 

「最後にもう1つ。ステージ中の体力・魔力の消耗の対策だ。40分間のダンスと歌、そしてステージを盛り上げるために使った魔法、全部合わせるとかなりの負担でな……中断こそなかったけど、終わる頃は正直バテバテだった」

 

 もう人並みはずれた体力が身についている。そのくらい体力に自信はあったのに、ステージの消耗は俺をだいぶ追い込んだ。今後もエネルギーの回収を続けていくなら、効率化か体力・魔力の強化を考えるべきだと思う。回収したエネルギーで回復してもいいけど、休めば回復するのでそれは少々もったいなく感じる。

 

「と、こんな具合に課題は多いけど、エネルギーの回収という一点を見れば大成功だ」

 

 明るい話もしようと、懐から水晶の破片を取り出して見せる。

 

「この破片、元は台座に複数つけていた水晶の1つなんだが、これでも体感で20%くらい魔力を補充できそう。壊れずに完全な形でエネルギーの蓄積ができた物に関しては比較にならないほどだ」

「月光館学園は設備が凄いですからね……体育館は800人以上収容できるって聞いたことある気がします。前方や中央部にスタッフさんや関係者席があったとしても、今日はギリギリまで観客が入ってましたし……」

「ああ、出入りも激しくて具体的な人数は分からない。けどそれだけの人数から集めたエネルギーだ。1人や2人を回復するには十分すぎる量になったよ」

 

 エネルギーがたっぷりと詰まった水晶。

 気が蓄えられた破片でも、復活アイテムの“地返しの玉”としては使えそうだ。

 体力や魔力を仲間全体へ、一気に補充できるルーンができれば“宝玉輪”の代わりにできるかも。

 

「課題は多いが、エネルギー問題が解決すればそれだけできることが増える。それを再認識できる結果だった。個人的には満足かな。

 あとは……そうだ、今後の芸能活動について少し。まだ確定じゃないんだが、天田。テレビに出る気はあるか?」

「僕がテレビに?」

「まだ可能性の話なんだが、実はヘルスケア24時の検査で俺の脳機能がかなり発達していることが分かってさ……十中八九ペルソナの影響だろうけど、次回の放送では俺がものすごい天才! みたいな感じで放送されることがほぼ確定したらしい。それに伴ってちょっとした懸念が目高プロデューサーから出てる」

 

 なんでも俺が天才という扱いになることにより、アフタースクールコーチングの評判が心配らしい。

 

「あの番組は参加者がプロの指導を受けて、努力して技術を身につけて、課題を達成する。そこまでの過程を楽しむバラエティー番組だけど、ドキュメンタリー的な部分もある。

 で、俺が天才として何でも簡単に覚えるって話になると、できる奴ができる事やって何が面白いの? ってなことで面白さが半減するかもって話でさ」

「……そうですかね? 正直僕としては先輩がいろいろ覚えてくのとか今更ですし、他の視聴者も立て続けに成功させてるのを見たら同じじゃないですか? 僕はそれでもつまらないと思ったことはないですけど」

「可能性の話だからな。何も変わらない可能性もあるし。ただプロデューサーとしては視聴率とかいろいろ気になることもあるんだろう。

 基本的に俺は年末のプロとの試合に向けて努力する、そういう長期企画ということで動いてるから、これまで通り続ける方針。だけど場合によっては普通は無理な課題を与えられたり、テコ入れがあるかもしれないって話」

「そのテコ入れが僕?」

「だいぶ前にBunny's事務所からスカウト受けてたろ? あれをプロデューサーが知っててさ、もう素人チームって事で一緒に出る? とか言い出した」

 

 努力と感動は天田に任せて、俺はひたすら進行と結果で視聴者を驚かす役割に徹する。

 そういう役割分担はどうだろうか? という提案をされたんだよな……

 

「思いつきを口にしただけだろうけど、そういう話があったんだ。で、その場合は一応出演料も出るだろうし、芸能事務所は親から許可をとって預かった子供に仕事させてるわけだろ? それと同じように、保護者役をサポートチームが代行できれば後々の自由度も増えるかと思ってさ」

 

 天田の現在の保護者は、天田の芸能活動に反対していなかったはず。

 というかそもそも、天田に興味を持っていないらしい。そこに付け込む。

 

「まぁ可能性の話だし、ちょっと考えておいてほしい。あと念のために言っとくと、俺みたいに色々やる必要は無いからな? 本気でやるなら俺も教えられる事は教えるけど」

 

 ぶっちゃけ小学生なら学業優先で当たり前だろう。

 勉強に関しては俺やサポートチームで助けることもできる。

 あとは天田が動きやすくなれば儲けもの、くらいの気持ちだ。

 もちろん仕事は真剣にやってもらわなければ困るけど、今後の人生を決めるほどではない。

 

「分かりました。少し考えてみます」

「頼んだ。……もうすでに色々頼んでるけど」

「平気ですよ。あと何も無ければ、僕も報告して良いですか? スパイとしての初仕事」

 

 天田は若干楽しそうだ。

 スパイとかカッコ良さげなものは嫌いじゃないのだろう。

 

「特別課外活動部の様子はどうだった? 緊急事態を知らせる合図は無かったけど」

「皆さん普通に文化祭とステージを楽しんでいました。先輩がステージで使った魔法に気づいたり、怪しむ様子も特になかったです。強いて言えば、ゆかりさんが少し体調不良気味と話していた程度ですね」

「そうか……既にペルソナ使いの先輩3人、あと山岸さんには気づかれるかとヒヤヒヤしてたんだが……」

 

 本音を言うと今回は彼らに見に来てほしくなかった。

 バレた時のためにいくつか言い訳は用意していたが、確実性に欠ける。

 しかしアプリ上でそういう話題になっていたので、無理矢理やめさせるわけにもいかず。

 そこで特別課外活動部のメンバーを他と分け、天田が監視することになった。

 

 でも天田がそう言うなら、杞憂だったのか?

 

「そもそも魔力の感知ってどうやるんですか? ペルソナで魔法を使うと何かが勝手に抜ける感じはしますけど、普段から感じるのは」

「改めて聞かれると……慣れとしか言えないな。俺の場合は瞑想、あと吸血や吸魔のスキルもあったし、実際に魔術を使いながらだんだん慣れて。……そういう修行をしてないと分からないか」

 

 天田はどちらかというと、成長が実感しやすい槍や格闘技が興味の中心だしな……

 それに今回使ったのはセクシーダンス、吸血、吸魔。

 魅了の効果はステージの興奮が良い隠れ蓑になったか?

 

 ……長々考えても意味はなさそうだ。

 天田を信じて、今回は無事にやりすごせたということでいいだろう。

 

「他には?」

「ステージの後、近藤さんが先輩に不思議な力がある事を皆さんに話してましたけど、いいんですか?」

「それは聞いてる。例の検査で結果が出たからな。ペルソナとか超能力ではなく脳の機能、人体の神秘! って形で一部公表する形になった。芸能活動のキャラ付けにもなるしな」

「そうですか。じゃあ次が最後です」

 

 そして天田は簡潔に告げる。

 

「現地解散の後、桐条先輩がゆかりさんを呼び止めて高等部の校舎の方へ連れて行きました」

「……どんな感じで?」

「文化祭を楽しむような雰囲気じゃなかったです。桐条先輩は周りを気にしていたみたいでしたし、ゆかりさんはそれを理解したみたいに。二人揃ってそそくさと歩いていきました」

「追いかけたか?」

 

 天田は首を横に振る。

 

「丁度山岸さんに捕まってて、それにバレて怪しまれる危険を考えたので」

「良い判断だ」

 

 岳羽さんは先日病院で検査を受けたらしいし、桐条先輩に呼び出される理由は想像がつく。

 想像通り特別課外活動部への勧誘なら、人目のある場所ではしないはず。

 話の内容は彼女に直接聞けばいい。様子がおかしいとでも言えば怪しまれないだろう。

 天田が無理をして怪しまれる必要性はなかった。

 

「岳羽さんに関しては近藤さんにも連絡して、近いうちに俺の方で探りを入れておく。天田は引き続き何も知らないフリをしておいてくれ」

「わかりました」

 

 今日の情報交換はこんなところか。

 

「それにしても、人間関係が随分と変わったな……」

「ワウッ?」

 

 黙って話を聞いていたコロマルが、疑問の視線を送ってきた。

 

「俺の知ってる未来だと、特別課外活動部のメンバーはそこまで仲良くなかったんだ」

「そうなんですか?」

「仲が悪いわけじゃないけど、お互いに遠慮したり、時に嫉妬したり、会話や説明が少なかったり、遅かったり。もっとちゃんと話し合えば避けられるような諍いもあって……仲間なのに壁がある、どこかお互いを信じきれない感じが結構続く。天田も復讐心をひた隠しにして参加してたはずだ」

「……ちょっと信じがたいですけど、先輩に会わなかったら確かにそうなってたかも、って思います」

「うん……自分で言うのもなんだけど、俺が色々動いた影響だと思う。いざ事が始まったときに探りを入れられるような関係を作っておこう、そう考えてそれぞれと交流を持っていたけど、それが結果的にお互いの間を取り持つ形になった……仲良くなること自体は悪くはないんだが、未来が大幅に変わる可能性が出てきたな……」

 

 来年から始まる原作は、原作通りとはいかないかもしれない。

 特別課外活動部の動向に関する情報はより重要性を増すだろう。

 

「天田。コロマル。これからもよろしくな」

「はい!」

「ワウッ!」

 

 情報交換を行い、2人との団結を強めた!

 

「うっ!?」

「先輩!?」

「バウッ!?」

「大丈夫、いつものやつ……」

 

 コミュが上がったらしく、2人分? の激痛が走った……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 11月9日(日)

 

 午前0時30分

 

 ~自室~

 

 帰宅後、1週間ぶりのタルタロス探索と戦闘で目が冴えてしまった。

 せっかくなので、霧谷君が送ってきていた魔術の書類データに目を通してみたが……

 

「多すぎるだろ……」

 

 送られてきたデータには、“生活魔術”と題された膨大な数の魔術が書き連ねてあった。

 その内容は、

 

 ”曇ったガラスをピカピカにする魔術“

 ”部屋に篭った空気を入れ替える魔術”

 “排水溝の掃除を触れずに行う魔術”

 “沢山の卵をすばやく割る魔術”

 “玉子の白身と黄身を分ける魔術”

 “メレンゲをふんわりさせる魔術”

 “道具がなくても焼き魚を作れる魔術”

 “コタツから出たくない時に便利な魔術”

 

 等々……掃除、洗濯、料理、その他生活に便利そうな魔術がずらりと並んでいる。

 家業が忙しくなったため、手元にあるのは全体の一部らしいが……

 

「正直いらねぇ……卵に関する魔術だけで64個もあるし……」

 

 俺が求めているのはこういう術じゃない! あれば便利だろうけど!

 

「というか霧谷君、こんな事にいちいち魔術を使ってるのか?」

 

 料理とか掃除とか、魔力の消費が少ない物でもこんなに使っていたら魔力がいくらあっても……!!

 

「まさか……」

 

 データを最初から見直す。

 するとだんだん、最初は分からなかった霧谷君の意図が見えてきた気がする。

 

 日常生活を送っていればよくあるちょっとした仕事を行う便利魔術。だけどそれを乱用していたら魔力が足りない。……言い換えれば魔力を鍛えるための鍛錬にもなる。日常生活に密着した魔術だけに、日々の生活に取り入れることも簡単。ご丁寧に魔力消費の少ない簡単そうな術から順に並べてあるので、自分の力に合わせて調整もできそうだ。

 

 おまけにこの書類データは同じような術がまとめられ、その最初に共通する説明がある。

 さらに1つ1つの魔術に詳細な説明が付く。

 

 たとえば洗い物に関する魔術なら洗い物に関して。

 まず洗うとはどういうことか? そのために使う水とは何か? どのような性質を持つか?

 汚れの成分は? その性質は? 効果的な落とし方は? 水以外の汚れの落とし方は?

 

 ……魔術を用いる前提として、科学的で非常に詳細な知識を与えてくれている。

 

 洗い物で水。

 乾燥の魔術で風。

 料理では火と熱に冷気と氷。

 農作業に関する魔術には土、光、もちろん水も。

 

 日常生活に関連させて、様々な力を操るために応用できそうな基礎知識が詰め込まれている。

 もはや単なる魔術の資料ではなく、優れた魔術の“指南書”に見えてきた!

 

「これで“一部”……まさか続きが来ないのは、これを身につけろって事なのか?」

 

 ……彼の意図は分からない。

 それ以上に彼が何者かもいまいち分からない。

 しかし、このデータは俺にとって大変価値があるものだと理解した。

 そして彼と俺の間にある、知識と実力の差も感じる……

 

「まだまだ遠い。つまり成長の余地もある!」

 

 魔術習得へのモチベーションが上がった!

 

「!? 痛ぇ……」

 

 コミュが上がった証拠らしいが、何とかならないものだろうか……

 耐えられないほどではないけど、地味に苦痛……しかも徐々に強まってる気が……


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