人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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265話 契約締結

『特別課外活動部と葉隠様。岳羽様がどちらの味方に付くことを選んだとしても、おそらく協力を持ちかけられるでしょう。葉隠様が持つ“未来の情報”は情報の価値を理解していればまず間違いなく、そう簡単に手放そうとは思いません』

 

 故にこちらから引き止める必要はない。

 むしろ情報確保のためにがっつくような態度を見せれば、足元を見られかねない。

 それよりこちらから先に特別課外活動部を選んでもいい、気にすることはない、等々……

 相手に対して理解を示すような態度を見せておくべき。

 勧誘された翌日に連絡をしてきた事といい、岳羽さんは感情で動く傾向が強い。

 ならば相手の感情に訴えかけて、味方であるように見せておけば後々の利に繋がりやすい。

 感情で動くタイプの人間にとって、人の印象はその関係性と対応に大きく影響する。

 自分では理性的と思っても、冷静に判断しているつもりでも、無意識に思考へ食い込む。

 人は、自分で一度信じたことを疑うのは難しいのだ。

 

 自分は敵ではない。味方にもなれる。

 そうやって歩み寄る姿勢を見せれば、十中八九彼女の方から協力を提案してくる。

 

 俺から伝え聞いたこれまでの言動と、昨日少し顔を合わせたときの印象から予想したと近藤さんは言っていたが……完全に彼の予想通りに話が進んでいる。

 

「個人的に協力というと?」

「この前みたいに、知ってる事を教えてほしいの。先輩の力になりたいとは言ったけど、どこまでできるかはまだ分からないしさ……情報があればできる事も増えるかと思って。もちろん桐条先輩たちに葉隠君の事は話さないで、私の意見とか適当にごまかしてうまく使う。そのあたりの言い訳も一緒に考えてくれると助かるかな」

「確かに後々始めるであろうタルタロス探索は危険だ。事前情報があるだけで安全度は段違いになると思う。個人的に特別課外活動部のメンバーには怪我なく帰ってきてもらいたいから、情報提供はしたいけど……」

 

 岳羽さんが疑われないとも限らないし、回数を重ねるだけ俺にとってのリスクにもなる。

 

「その点については……特別課外活動部の状況を話す。で、どうかな? その方が何かアドバイスもらうにも良いと思うし、葉隠君も気にはなると思うんだけど……」

 

 妥協点を探っている事が表情や声に出すぎだ。

 しかもオーラの弱弱しさを見るに、行き当たりばったり。

 彼女個人の判断と努力で提示できるメリットは他に考えていないようだ。

 

 が、今はそれで良い。

 相手の手札が心もとない今ここで畳みかける!

 

「分かった。その条件でお願いするよ」

「いいの!?」

「岳羽さんが特別課外活動部の状況を話してくれる代わりに、俺は俺のやり方で岳羽さんをサポートする。契約成立だ」

「うっ、罪悪感が……なんか私ばかり得してる気がする」

 

 そう思ってもらわなければ困る。

 

「さっきも言ったけどあまり気にしなくていいよ。確かに特別課外活動部の動向は気になるし……そうだ」

 

 個室の角に置いていたボストンバッグから、“ガラスの一輪挿し”と小さな箱を取り出す。

 

「まずは契約後初ということで、サービス。お近づきの印にこれをどうぞ」

「え、いきなり何これ?」

「10月に誕生日なかった? すっかり忘れてたけど、何週間か遅れの誕生日プレゼントー……って名目で渡そうと思ってた便利グッズ。花は岳羽さんに監視がついていた場合にデートか何かに見せかけられるかと思って買ったやつだから、迷惑なら捨ててもいいよ」

「色々と突っ込みたいけど、まず便利グッズって何よ」

 

 少々あきれた様子で小箱を開けた岳羽さんは、俺がだいぶ前に作った“イエロートルマリンネックレス”をそっと取り出した。

 

「ネックレス? 随分シンプルな……まぁ悪目立ちもしなさそうだけどさ……」

「デザインに関してはひとまず置いておいて、ペルソナにはそれぞれ特徴や弱点があるのは聞いたか?」

「少しだけ。私のペルソナはまだわからないけど」

 

 なら、まずは簡単に岳羽さんのペルソナについて情報提供。

 

「“イオ”と“イシス”……それが私のペルソナ……」

「進化のタイミングは分からないが、風の攻撃魔法と回復魔法が得意で、電撃が弱点なのは変わらない。そしてそのネックレスには、弱点である電撃の威力を軽減する効果がある」

「!? それって滅茶苦茶重要じゃない! シャドウってのと戦うなら、てか何でそんなの葉隠君が――待って。ネックレス? よく見たらなんか、手作りっぽいし見覚えが……」

 

 流石に気づくか。

 

「お察しの通り、それはオーナーから作り方を学んで俺が作った」

「やっぱりオーナーと君が裏で作ってお店に並べてるやつだよね!?」

「オーナーはシャドウやペルソナ使いとは何の関係もない一般人だけど、特殊なアクセサリーを作る能力を持っていた。……人とは違う能力があることは薄々感じてたんじゃないか?」

「君にオーナーからヒーリングを学べ、って言われて……最初は半信半疑だったけど、最近はちょっと。でも、こんなの作れるなんて」

「あの人、何も言わずによくある怪しい感じのお守りとして売ってるからね……ただあれ本当に効果があるんだよ。俺はそこに目をつけて、弟子入りした。格闘技以外にも自己防衛手段が欲しくて。

 今では暇を見て独自に対シャドウ装備としてのアクセサリーを研究していて、これがその成果の一つ。電撃が軽減されることはスタンガンと自分の体で試してある。時々メンテナンスのために見せてほしいけど、身に着けることでデメリットはない。だから安心して使って欲しい。そして無事に帰ってきて欲しい」

 

 ネックレスの効果と無事を願う気持ちに嘘偽りはない。

 演技などで培った伝達力を発揮して、真剣に相手へ訴えかける。

 

 ……ん? なんだか岳羽さんの顔が赤いような……

 

「「……」」

 

 変な沈黙が続く……ちょっと待てよ? 今の状況を冷静に見てみると、

 

 ・狭い部屋

 ・密室

 ・男女が二人きり

 ・花とアクセサリー(プレゼント?)

 ・無事でいて欲しいと真剣に訴える

 

 ……!?

 

「あ、いや、違うからな。勘違いしないで欲しい。別にそういう意味で言ってるのでは」

「バッ! そういう意味ってどういう意味よ!? バカじゃないの、てか、バカじゃないの!?」

「ああ……ぐっ!?」

「!? どうしたの!?」

「大、丈夫だ。何でもない」

「何でもないって、今」

「最近よくあるんだ。急に体が痛むこと。でもほんの一瞬だから」

「そうなの? 怪我とか……」

「検査では特に異常はないし、少し疲労が溜まってるのかも」

 

 偶然だが、変な空気がうやむやになった。

 初めてこの痛みに感謝する。

 

「そうそう、アクセサリーのデザイン気に入らないなら言ってほしい。今回はとりあえず手元にあった物を持ってきただけで、希望があれば考慮して作り直せるから。むしろその方が効果が上がるかも。これ作ったの結構前だし。

 とにかくそんな感じで、影ながらサポートさせてもらうよ。その代わり秘密は守って、情報提供も頼むよ」

「……うん、分かった。これからもよろしくね」

 

 岳羽さんと俺は、どちらからともなく差し出した手を強く握り合う。

 

「さて、じゃあそっちの話は終わりということで。せっかくカラオケに来たんだし、何か歌ってく?」

「そうだね。お金も払っちゃったし、時間まで使わないともったいなくない?」

 

 残りの時間、2人でカラオケを楽しんだ!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~駅前広場はずれ~

 

 岳羽さんとのカラオケに思いのほか熱が入り、終わる頃には外は薄暗く……

 別れてから近藤さんに電話で報告を入れていたら、すっかり日が落ちた。

 

 補導対策に変装し、夜風に当たりながら気の向くままに歩いていると、

 

「ここは……」

 

 いつぞやの不良グループのたまり場の近くに来ていた。

 

 ……そういえばヒソカの名前を貸すとかいう話になっていたっけ……

 

 少し気になり、様子を見ていくことにする。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~廃ビル(出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のアジト)~

 

「うらぁあああ!!」

「どうしたぁ!? 当たりが弱えぇぞ!」

「どらっしゃアアアッ!!」

「もう一丁!!」

 

 ……何だこれ?

 

 例の集会場に着く前から、やけに殺気立った声が響いていた。

 喧嘩ではないようだけど……チームの連中が集まって、トレーニング? をしているようだ。

 

「ちょっとごめん、何この状況」

「ああん!? ってヒソカ!? 失礼しました!」

「おい皆!」

 

 中に入って一番近くにいた男たちに声をかけると、一気に俺が来たことを周囲に広めてくれた。

 おかげでさっきから聞こえていた声が一斉に俺への挨拶に変わって襲ってくる。

 やかましい事この上ない……

 

「ヒソカの旦那! どうぞこちらへ!」

「ああ……」

 

 加藤、だったっけ? 以前会った男が出てきて、俺をリーダーである鬼瓦の部屋へ案内してくれた。

 

「今日はどうした?」

 

 顔を合わせるや否や、そう聞いてくる鬼瓦。

 

「後ろ盾に名前を貸した手前、どうしてるかと思って来てみただけなんだけどね……お前らこそどうした?」

「近いうちに抗争が始まりそうでな、その準備さ」

「……俺の名前は意味がなかったか?」

「いいや。おかげでちょっかい出してくる連中は減ったよ。ただ俺らが落ち目なのは事実だしな。状況が読めねぇ馬鹿も多いし、多少のいざこざはいつもの事さ。でかいチームがアンタを警戒して俺らへの手出しを控えたみたいだし、それだけでも十分助かるってもんだ」

「ふーん。興味本位で聞くけど、今狙ってきてるチームは? あとヤバイの?」

「お前、ホント何も知らねぇのな……」

 

 鬼瓦は呆れたように座れと一言、椅子を勧めてくる。

 

「今一番手を出して来そうなのは“クレイジースタッブス”ってチームだな。人数は俺らの半分にも及ばねぇが、連中はすぐキレる。すぐ武器を持ち出す。そのうえ喧嘩は集団で少人数の相手を徹底的にボコるのが基本で、闇討ちも平気でやりやがる。早い話が手段を選ばねぇ」

「……改めて無法地帯だな。そんな連中が大手を振って歩けるのか」

「実際は腰抜けの集まりって話だぜ。声と態度は大きいが、そこまで大きな問題は起こさねぇ。常に10人前後でつるんで行動してるし、喧嘩のやり方はヤバく見えるが、“武器と仲間がいないとできない”っつー事の裏返しさ。

 自分たちより大きなチームに喧嘩売ることもまず無かったんだが、落ち目の今なら付け込めると思ったんだろうなぁ……アンタの名前が出てから大慌てらしいが、その前に少しばかり大口を叩き過ぎた」

「勝手に後に引けない状況を作ったのか」

「マジで面倒臭ぇが、そういうことだ」

 

 鬼瓦は本気で嫌そうだ。

 

「だから特訓中ってわけ?」

「当たり前だ。名前は借りたが、それだけに頼りきるわけにいくかよ」

「なるほど。……なら、少し教えようか? 喧嘩の仕方(・・・・・)

 

 俺がそう言うと、鬼瓦は怪訝なものを見る目になる。

 

「……お前が楽しめるような奴はいねぇぞ?」

「何の話だよ」

「喧嘩がしてぇのかと思って」

「……俺のことをどんな目で見てるの?」

「イカレかけた喧嘩馬鹿。この辺の不良はそう認識してるぞ。だからこそ名前だけで抑止力になるんだろうが」

「酷っ!?」

 

 天田にも教えているし、思いついただけなのに。

 てかチラッと見た感じだと小学生の天田にも負けそうな連中ばかりだ。

 彼らとは戦っても練習にならなそうだし。

 

 そこまで考えてふと気づく。

 

 出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)の不良を鍛えて強くしたらどうだろうか?

 天田は事情が特殊だし、ペルソナ使いだ。

 しかし格闘や武器、さらに得意分野に絞って学べばどうだろう?

 天田と同等の実力をつける奴がいるかもしれない。

 天田ほどの成長力が望めなくても、体だけは出来上がった男たちがここには88人。

 それが訓練でそこそこの実力をつけたとして、それを一度に相手すれば?

 

「……悪くない」

「おい、いま何を考えた」

「最近、地下闘技場に飽きてきた所だったんだよ。勉強になる相手がいなくてさ」

 

 そうだよ、相手がいないなら、相手を作ればよかったんだ!

 

出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)を鍛え上げて、俺は練習相手を得る。良いアイデアだと思わないか?」

「お前やっぱ頭おかしいだろ……」

 

 出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)を鍛えることを決意した!


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