人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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267話 意気消沈

 2時間後

 

「流石に88人も連続で相手すると、それなりに良い運動になるな」

「マジの化け物かよ、テメェ……」

 

 アジトの中庭に息を切らして転がる男達が多数。

 88人一通り実力を見た後に、悔しがる元気のある連中全員とやった結果だ。

 俺的には、思ったよりも彼らには将来性がありそうなのでラッキー。

 

「OK。とりあえず今日はここまで。この先いくらでもチャンスはあるから、まだ気に入らないって人はそっちで、何度でも頑張って。

 それで明日からの話に移るけど……鬼瓦。今日は集まってもらったけど、普段は違うんだよな?」

「ああ、全員集合は日曜の夜か緊急召集かけた時だけだ。俺らもバイトとかあるからな」

「了解。その辺はそっちの自由で構わない。ただ練習内容はこっちで指定するぞ。その上でまず最初に、皆には8つの班に分かれてもらう。1人ずつ名前を呼ぶから、呼ばれたら来てくれ」

 

 不良たちはだいぶ素直に、俺の指示に従った。

 おかげで88人を8つの班に分けるのにも時間はかからなかった。

 

「気になる班分けの基準は、俺から見た“各個人の得意・不得意”だ! 例えば1班はパンチが上手い奴、2班はキックが上手い奴。ってな具合な」

 

 同じく3班は足を止めて打ち合うのが得意な奴。4班は逆に身軽で小回りの利く奴。

 5班は思い切りが良い奴。6班は冷静に戦う奴。

 7班は戦闘中に相手に集中できる奴で、8班は周りが見える奴だ。

 

「1班から6班までは個人戦を前提とした視点で。7,8班は集団戦を考えた時の視点で。それぞれ特に“良さそうだ”と俺が判断した順に8人ずつ割り振った」

 

 アドバイスやコーチングといったペルソナのスキルはもちろん。

 鍛えた感覚でオーラや体内の気の動きまで徹底的にデータを収集、分析して割り振った。

 俺としてはこれ以上の適材適所は無いと思う。

 

 そして今後の指導方針はズバリ! 各個人の長所を伸ばす!

 

 そう宣言すると、微妙な反応が返ってくる。

 今回は反抗ではなく、理解できない感じだ。

 

「長所を伸ばす。何故ならそれが一番早く、各々に何か1つ“武器”を作れると思うからだ」

「武器?」

「俺ができる限りの格闘技術を教えてもいいが、それを身に着けて実線で使えるレベルにするのには長い時間がかかる。それなりのレベルでも、格闘技を身に着けるなら最低でも数年は必要だと思ったほうが良い。……分かってそうな奴もいるな」

 

 たぶん何かの経験者だろう。納得した様子の奴が増えてきた。

 

「それでも! 少しでも強くなるつもりなら学ぶ内容を得意な1点、才能があると思われる1つに絞り込んで重点的に鍛え上げる! 一言で言えば“必殺技”だな」

 

 理解が進んだ事に加えて全員男だ、必殺技と言う単語に少なからず思うところがあったようだ。ざわめく声が僅かだが明るくなっている。

 

「必殺技を第一に、それを相手に当てる練習、あとは短所を補う練習も少し。この3つが俺の方針だ。共通することは一気に教えやすいよう班にまとめたが、様子を見ながらそれぞれの配分を変えたり、個人に合わせてアドバイスもしていく」

「一つ聞いて良いか?」

「鬼瓦か。もちろんだ。他のも疑問があったらすぐに聞いていいからな。で、何が聞きたい?」

「必殺技とか言ってたが、俺ら8班、あと7班は具体的にどうすんだ? 集団戦を考えたって言ってたが」

「基本的にはそれぞれ個別に、他の6班と同じ内容で適していると思うアドバイスをする。それと+αでクレイジースタッブス対策だ。目下の相手が集団戦を得意とするチームである以上、周りを見て状況判断ができる奴がいた方がいいに決まってる。

 俺はお前らより相手を知らないし、武器を頼りに正面からくるか、罠を張って少しずつ削りにくるか……手段も選ばないとなると何を仕掛けてくるかわからない。だから状況に合わせて柔軟に動けるようにしてもらいたい。例えば各班から1人ずつ出して11チームを作るとか」

 

 それでいくと1~4班は純粋な戦闘要員。

 5班と7班は一番槍、あるいは相手に惑わされない仲間内の精神的支柱。

 喧嘩で心が折れたら勝てるものも勝てない。

 

「8班は指揮官役で、6班は可能ならその補佐も、ってところだな。正直負担は他より増えると思うが、必要な役割だと思ってる」

「……ややこしいな、オイ。つかお前、マジで色々考えてたんだな……」

「最初から本気だって言ってるだろうが」

 

 ぶっちゃけ不良グループの勢力争いには微塵も興味ないけど、上手くやれば自分の練習相手ができるかもしれない。体の事も判明した今、何か更なる進歩が一つでも欲しい。そう考えれば自然と力も入るし、本気にもなる。

 

 ……あれ? 自分と戦う相手を育てるって……よく考えたら元ネタと同じ思考?

 

「悪かった。理由はともかく、お前が本気で俺らに教える気なのはもう疑わねぇよ。お前らもいいか?」

『ウス!!』

「あ? ああ、そうしてくれ」

 

 思考の邪魔をされたが……力強い同意。

 どうやらグループ全体からある程度の信用を得られたようだ!

 

「!! やっぱりな……」

 

 来ると思ったよ、この痛み……

 

 直前に予測できたので耐えられた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~自室~

 

 連中との話が長引いてしまった……

 タルタロス探索の準備をすべく、急いで帰宅。

 

 すると、部屋の外に昼間一度帰ってきたときには無かった荷物が置かれていた。

 送り主は母さんだし、周辺把握で中身が数冊のノートの類だと分かる。

 不審物ではないけれど、送られてくる予定も無い。

 

 突然なんだろう?

 

 疑問に思いながら封を切り、出てきたのはかなり古い“おえかきちょう”。

 

「どこかで見たような……」

 

 ここで手紙が同封されていることに気づく。

 

『物置の整理をしていたら出てきました。ペルソナの事が書かれているから、きっと虎ちゃんのでしょう? 何か役に立つかもしれないのでそちらに送ります』

「……!」

 

 思い出した! 俺が昔、覚えている限りの情報を忘れないように書き留めたやつだ!!

 まだ自我が完全に芽生えてから間もない頃。混乱しながらまず始めにやった事。

 手元にあった“おえかきちょう”に、クレヨンで書き綴った前世の記憶。

 

 “おえかきちょう”に目を通すと、原作開始から始まるイベントの数々にシャドウの情報等々。俺が忘れていた事も書き連ねられている! これは控えめに評価してもお宝だ!

 

「近藤さんに……先にまとめないとダメか?」

 

 かなり動揺しながら手当たり次第に書いたようで、非常に読みにくい。役に立ちそうな漫画の事も当時から考えていた、というか数撃って1つでも役に立てばいい、くらいの気持ちで必死に書いたんだろう。色々と滅茶苦茶だ。

 

「いくらなんでも桃白白の真似は無理だろ……てか懐かしすぎる」

 

 他に出てきたのはラッキーマン……あれ運が良いだけでそれ以外なんの能力も持ってないのに……運のパラメーターに極振りで一縷の望みに賭ける?

 

 あとクレヨンしんちゃん。ケツで歩く以外に思いつかないけど、あれは劇場版だと滅茶苦茶冒険してるしまだいい。けど、サザエさん。ちびまる子ちゃん。このあたりはどう活かせと!?

 

「ん? 次のページに続いて……なるほど、いつまでもループする世界に入って時間を稼ぐ。死ぬよりはマシかぁ……じゃねぇよ!」

 

 できるか! ……だいぶ追い詰められてるな、当時の俺……

 

 しかし役に立ちそうな内容もある。

 

 漫画“メルヘブン”の“ARM(アーム)

 魔法によって作られた、様々な特殊能力を持つアクセサリーの事。

 なんとなーく俺の作ってるアクセサリーに近い? 気がしないでもない。

 漫画に登場したのはもっと派手ではるかに強力だと思うけど……

 頑張れば再現できるか? イメージ的に、参考としては良いかもしれない。

 

 漫画“NARUTO”に登場する“忍術”

 術の名前が羅列されているだけだけど、それだけである程度思い出せた。

 ルーン魔術で頑張ればいくらかは再現できそう。

 今の段階でも水遁・水鉄砲くらいは楽勝だろうし……

 

 まぁ全部今だからこそ、できそうと思える事だけど。

 そう考えると、努力してきてよかった。

 

「……いかん。のんびり読んでる時間無かった」

 

 早く準備しないと、天田たちが待ってる。

 しかしやはり気になるので、内容は速読で頭に叩き込んでおく。

 

「……ん!?」

 

 今、見逃せない記述が……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 1時間後

 

 ~タルタロス・16F~

 

「先輩……」

「ワフゥ……」

「言うな……何も言わないでくれ……」

 

 全身に虚脱感が満ちている。

 2人の言いたいこともよく分かる。

 だが、それを言われたら立ち上がれなくなるかもしれない……

 

「はぁ……それはそうと、不気味な所ですね。この奇顔の庭アルカ(・・・・・・・)って。壁に顔が一杯なんて、血痕より気持ち悪いですよ」

「まぁ、そういう階層だからな……」

 

 天田の不満も分かるが、それがここ16Fから64Fまでの特徴だ。

 

 ……こうしていても仕方が無い。無理にでも気持ちを立て直そう。

 俺たちはとうとう、15階で阻まれていた壁を越えることに成功したのだから!

 

「とりあえず探索始めるか。ちょっと回ってみた限り、まだこの辺は下とそう変わらないけど、敵は徐々に強くなるし、状態異常を使ってくる奴も出てくる。1階ずつ確実に慣れて行こう」

「はい!」

「ワン!」

 

 天田とコロ丸の元気な返事を聞き、歩き始める。現在位置はタルタロスの端。

 16Fに進入したのがタルタロスに空いた窓のような部分なので、内側へ向けて探索を行う。

 

 ……思い出したらまた気が重くなってきた。マジで何で忘れていたんだろう……

 

 “タルタロスには窓がある”

 山岸風花保護のイベントで真田が月を見ている事から確実。

 “幾月がタルタロス展望台から転落する”

 地面に落ちているようなので、空中に障害などは無い?

 

 上記の2点から、

 

 “外から上れば階層の壁関係ないんじゃない?”

 

 母さんから送られてきたノートに書かれていた可能性を試してみたら、あっさり成功。

 召喚したヴィーナスイーグルを飛ばしたり、念には念を入れて危険を探しても全く無反応。

 足場になる凹凸も多く、鍛えた身体能力と魔術の強化で進入余裕でした。

 

 ……これまで壁をどうにかしようとしてた努力は何だったんだよ!?

 壁を拳で打ち抜いた時点で手ごたえ感じて嬉しかったのに!?

 

「外から入れるならもっと早い段階でも入れたよ……」

 

 よりによってそんな簡単な方法で突破とか、なぜ忘れていた?

 そうでなくても何で思いつかなかった?

 あの神、俺の思考を操作でもしていたんだろうか?

 ぶっちゃけ今回ばかりはそうであって欲しい……

 

 いや、もっとポジティブに考えろ。

 あれはあれで格闘技術の向上に役立ったじゃないか!

 あの壁に挑むことには十分な意味がある!

 これからは探索を終える時に、毎回突いて帰ろう!

 

 ……

 

 この後、惰性で探索した。

 外から進入したことで特別な異変が起こることもなく、次の壁のある40階まで到達。

 難なく人工島計画文書02を回収し、転移装置も問題なく使えた。

 本当に何の問題もなかった。

 

 

 “疲労”になった……




影虎は不良グループに指導方針を伝えた!
影虎は少し信用を得た!
影虎は母からの荷物を受け取った!
影虎は“おえかきちょう”(過去の記録)を手に入れた!
影虎はタルタロスの壁を越えた!
影虎は“奇顔の庭アルカ”に到達した!
影虎は落胆している……



壁()はトレーニング器具になった!

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