人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

271 / 338
270話 襲撃

 11月14日(金)

 

 夜

 

 ~鴨山ジム~

 

 体勢を崩された事を想定し、不利な体勢から寝技に持ち込まれそうな時の対処の練習。

 

 不安定ですぐ倒れそうな状態だが、無理に立ち上がろうとはしない。

 勿論元通りに立ち上がれればベストだが、試合中の相手はそれを許してくれない。

 次善の策として素早く膝立ちになり、百人一首の要領で体を安定させる。

 そして相手に抵抗。受け止め、あるいは流し、隙を見て一気に立ち上がる!

 

「っ!!」

「そうだ! 抑え込まれるな! チャンスがあれば自分から寝技に持ち込んでもいい!」

 

 百人一首の体の使い方が総合格闘技にも活かせた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~駅前広場はずれ~

 

「だからさ……」

「それで大丈夫なのかよ……」

「おい」

 

 ? 何かをこそこそと話し合っていた男達がいたが、俺を見て逃げるように立ち去った……

 

「追ってみるか」

 

 適当な路地で姿を消して追ってみると、どうやら彼らは例の敵対グループ。

 クレイジースタッブスのメンバーのようだ。

 会話内容は俺達を襲撃する方法。

 主に俺の対策について考えているらしい。

 どうもこいつらは下っ端らしく、リーダーが決めた作戦に不満があるらしい。

 ただそれを口にはできないので、下っ端仲間で話し合っていたようだ。

 

 しばらく話を聞いてみたところ、やはり奇襲をしてくるらしい。

 向こうは俺たちがアジトでトレーニングをしている情報を掴んでいた。

 襲撃はなんと明日。

 その作戦はざっくりしたもので、俺が鬼瓦たちの指導に行く道で俺を襲撃。

 アジトで合流できないように足止めをしておいて、別働隊が鬼瓦たちを襲撃するらしい。

 

 しかし下っ端の話を聞く限り、クレイジースタッブスにはそこまで人手が無いはず。

 ただでさえこちらより少ない戦力を分けて勝てるのか。

 おまけに誰が俺の足止めをする役割になるかも当日まで不明。

 リーダー格の人間数名が全部決定しているようで、下っ端は捨て駒にされないか不安そうだ。

 

 ……聞いていた通り、小物臭い連中だ……

 しかしこいつらの不安も納得。リーダー格のやつらは何か策があるのか?

 鬼瓦たちと相談して注意しよう。

 

 ……そうと決まれば大体の状況も聞けたし、練習に行くか。

 しかし襲撃まで早かったなー……

 付け焼刃にしても短いし、ここは罠でも仕掛けさせるか……

 

 

 

 なお、この後の練習中に向かうと、遅くなったことに文句を言われた。

 やたら積極的で技や練習方法に関する質問が次々と来るし、不良連中がやけに明るい。

 一体どうしたんだろうか……?

 

 それはそれとして、言われっぱなしは気に食わないのでクレイジースタッブスの事を話す。

 すると流石は探偵! と手のひらを返されて滅茶苦茶賞賛された。

 単純で現金な奴らだ……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・エントランス~

 

 明日の掃除に備えて、岳羽さんに見せてもいい内容を確認した!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 11月15日(土)

 

 放課後

 

 ~校門前~

 

 部活でランニング中。

 

「1、2!」

『1、2!』

「1、2!」

『1、2!』

「でさー、あっ……」

「ん?」

 

 何だ? 中等部の帰宅部だろうか? すれ違った生徒達が慌てて顔を背けていた。

 後ろを見ると、和田と新井の表情が暗い。

 

「今の知り合いか?」

「元チームメイトっすよ」

「ああ、サッカー部の?」

「あいつら、やっぱ練習してないのか……」

「どう見ても練習中には見えませんね」

「俺も正直、帰宅部かと思った」

 

 和田と新井は悲しそうだ……

 サッカー部にまだ思うところがあるのだろう。

 あまり触れずにきたけれど、もう年末も近い。

 2人は来年、高校1年からどうするか、近いうちに話をしてみようか……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~アクセサリーショップ・Be Blue V~

 

 想定外の事件発生。

 地下室を召喚シャドウと霧谷君の掃除用魔術で片付けていたら、岳羽さんが突撃してきた。

 どうも俺がここを修行場にしていると知り、ペルソナ使いとして役立つと感づいたらしい。

 

 彼女は前に一度、知らずに手伝いを申し出て痛い目にあったそうで、自分から近づくことはこれまで無かった。だから今後もないと油断していた。今夜の襲撃のことを考えて油断していたのも悪かった。

 

 警戒が反応して接近に気づいて慌てて隠そうとするも間に合わず……

 全てばっちり見られてしまった!

 

「……なにこれ?」

「何って、掃除に決まってるだろ。修行を兼ねた」

「ありえなくない……?」

 

 現在俺達の目の前には、室内を駆け回る小人たちがいる。

 彼らは赤・青・黄と色とりどりの体色を持ち、共通して頭から植物の葉を生やしている。

 彼ら1匹1匹は小さく力も弱いが、集まり協力して荷物を運んでくれる。

 妖精風雑用処理シャドウ“ピクミン”である。

 

 モチーフはその名の通りの有名なシリーズ。

 あの“おえかきちょう”のおかげでイメージに使えるネタが一気に増えた。

 

 そして荷物が運ばれ空いた隙間に、魔術で起こした風が吹き抜ける。

 強めのそよ風と言えばいいのか、肌に触れると爽やかで心地よく感じる程度の風力。

 荷物に積もる埃は絡め取られ、床の塵やビニールの切れ端と共に一箇所へ集まっていく。

 

 空気が美味しく感じるのは、風に混ぜられた弱い雷。

 即ち静電気により空気中に漂う微細な塵埃まで回収されているからだろうか?

 味の変化は流石に気のせいか。

 

「オ~ナ~、なんなんですかこの状況~……」

「葉隠君とその“使い魔”がお掃除をしてくれている状況、かしらね?」

「意味が分かりませんって~!」

 

 半泣きで同じ事を何度も聞く岳羽さん。

 追ってきたオーナーの懐に顔を埋める。

 いい加減に邪魔なんだけど……あ、これ違った。

 

「オーナー、岳羽さん憑かれてました。そっちのせいかと」

「あらほんと。ただ驚いてただけじゃなかったのね。ごめんなさい」

 

 人形の姿の小さな霊をオーナーが追い払う。

 あれが憑いたままじゃ混乱が収まるわけも無い。

 俺の方に許可を求める感じの視線を送ってきたので断固NOの意思を持って見つめ返す。

 

「あ……」

 

 しぶしぶ霊が離れていくと、岳羽さんは正気に戻ったようだ。

 

「大丈夫か?」

「なんとか……落ち着い、てはいないかもだけど、何を話してるかは聞こえてた。……はぁ……マジ、滅茶苦茶じゃん。綺麗になってくけど」

「とりあえず今日のところは帰れ。ここでのことは他言無用な?」

「わかった、そうする……」

 

 疲れた様子で帰っていく岳羽さんに、付き添うオーナー。

 混乱して素直に帰ったが、落ち着いたらどうなることか。

 魔術はまだしも、召喚シャドウまで見せるつもりは無かったんだけどな……

 戦闘用の人型でなかったのがせめてもの救いか。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~鴨山ジム~

 

「監督。少し時間いただけますか?」

「お? ああ、ちょっと待て。葉隠君!」

「はい!」

「ちょっと他の連中を見てくるから。それ終わっても戻ってこなかったら、少し一人で自由に練習しといて。もう時間も時間だし、軽く流す感じで」

「分かりました!」

 

 離れていく鴨山監督を見送りつつ、与えられたサーキットトレーニングを黙々と行い、終了。

 監督はまだ戻ってこないので、自主練に移る。

 

「軽く流す感じでと言われたし……」

 

 空いていた鏡張りの壁の前へ移動し、パンチのフォームチェック……否、改良を行う。

 

 まずは内家拳で学んだ站樁(たんとう)の体勢。

 立禅……立ったまま、瞑想の要領で心を落ち着ける。

 そして思い浮かべるのは、シンプルな突きの動作と鴨山婦人の腰の切り方。

 この2つを合わせて、より速く力強い一撃を打てるようにしたい。

 

 そのために、反復練習だ。

 

 站樁(たんとう)から構え、打つ。

 イメージと体の動きに齟齬を確認。

 站樁(たんとう)に戻り、落ち着いて問題点を明確にし、再度構えて打つ。

 今度はイメージ通り。ただし、まだ足りない。まだ腰の切り方が甘い。

 結果から問題点を見つけ出し、修正して放つ。

 その結果からさらに改善を繰り返す。

 

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 站樁(たんとう)、構え、打つ。

 

 ……まるでハンター×ハンターのネテロ会長の修行のようだ。

 

 流石にあれほどではないが、継続すれば継続するほど拳は確実に鋭さを増していく。

 站樁(たんとう)から構えへの移行も速やかになる。

 ……いや、それ以前に站樁(たんとう)の立ち方を通常の構えに応用できるのでは?

 

 やってみよう。これも改善の一環だ。

 

 猫足立ちのまま站樁(たんとう)を行う時のように、体内の気を観察。

 呼吸を整え、重心を安定させる。下半身に力を入れ、上半身から無駄な力を抜く。

 ……いける。構えのまま、站樁(たんとう)を行い心を落ち着け……!!

 

「……今のだ」

 

 脱力状態から完璧なフォームで放たれた拳の速さは、それまでとは一線を画していた。

 体の動きが音、ではなく体内の気の流れを置き去りにしていたため威力は低いだろう。

 しかしながら、打った自分でも驚くほどの驚異的な速度。

 

 あとは気と体の動きを統一すれば……

 

 興奮を抑えて猫足立ち。そして心を落ち着けて打つ。

 祈りはしない。ただ冷静に、構えて、打つ。

 改善のみを頭に、構えて、打つ。

 

「葉隠君」

 

 ひたすらに突きを続けていると、鴨山監督の声が聞こえた。

 いつの間にか戻ってきていたらしい。

 

「はい、監督」

「随分と集中してたな。軽くと言ったのに」

「あ……」

「今日は来たときからそうだが、何かあったのか?」

「? いえ、特には。何か変でしたか?」

 

 いつもと違う事に心当たりはないが。

 

「なんとなく試合前の選手みたいな集中の仕方をしていた気がしたんだが……気のせいならいいんだ。それより今日はこれで終了! やる気は買うけどオーバーワークは厳禁だ!」

 

 練習が強制終了された!

 

 監督の言葉……この後の事を無意識に気にしてたかな……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~路地裏~

 

 暗く人気の無い道で足を止める。

 どうやら情報通り、来たようだ。

 

「用があるなら出てきなよ」

 

 声をかけて数秒。

 待ち構えていた男たちは一部が動揺したように顔を見合わせた。

 しかし、

 

「気づかれるとはねぇ……ん~、予定が狂った。気持ちが悪い」

「中々カンがいいじゃないか。思ったよりも楽しめそうだ」

 

 前後の集団から1人ずつ男が出てきた。

 前にはプロレスラーのようなタンクトップのガチムチ野郎。

 後ろには緩めのTシャツ、ズボンに無精ひげのやる気なさげな男。

 

 ……どちらも思ったより強そうだ。

 やる気なさげな方もそれなりに体は鍛えているし、本格的なアタックナイフを所持。

 何よりこれまでの不良とは雰囲気が違う。

 

「君たち、どちらさま?」

「わからないのかい?」

「今のタイミングだと出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)を狙ってるクレイジースタッブスかと思ったんだけど……どうも聞いてた話とは別人みたいだからね」

 

 そう言うとガチムチ野郎が大声で笑う。

 

「良く分かってるな、お前。あんな連中と一緒にされてたらマジギレしてたぜ」

「んじゃまぁ自己紹介からって事で……俺らは“金流会”だよ」

「……えっ、それだけ?」

「は? ……もしかして金流会を知らない感じ? うわメンドクセェ……この辺で金流会っつったら大抵話は終わりだっつーのに。お前モグリかよ」

「申し訳ないんだけど、この辺の不良の力関係にはあまり興味なくてね」

「マジか……任した」

 

 やる気の無い男は説明をガチムチ野郎に投げたようだ。

 

「金流会はこの辺で1番デカイチームさ。メンバーの数も、1人1人の強さも、そこらのチームとは質が違うぜ」

「何でそんなチームがここに? クレイジースタッブスと手を組んだのか?」

 

 こいつらの他に集団はいない。

 タイミング的に別働隊ってのはこいつらで間違いないだろう。

 

「ちょっと違うな。俺らは連中に雇われたのさ。金流会は“金と暴力”が方針だ。多少のいざこざなら迷惑料を払えば許してやるし、今回みたいに力を貸してやったりもする」

「傭兵というか、ヤクザっぽいな」

 

 思った通りの事を口にすると、またガチムチ野郎は大笑い。

 

「言いたい事はわかるぜ。俺も同感だしな。だからお前に恨みはない。だけど金をもらってる以上はお前を叩き潰さなきゃならない」

「なるほどね。理解した」

 

 すると、

 

「おい待て待て! な~に戦うしかない! みたいな空気になってんだよお前ら!」

「……ん? 戦わなくてもいいのか?」

「ああ、別に絶対じゃないぜ。今回の依頼はお前の足止めだからな。依頼主から連絡が来るまでここから動かないでくれれば、別に喧嘩しなくても構わない。俺は別にどっちでもいいけどな」

「いまそいつが言った通りだ。むしろ俺は喧嘩なんてしたくない。せっかく、ただ駄弁ってるだけでも金が入る依頼なんだからな!」

「ああ、そうなんだ……」

 

 どうやら、こいつらは本当に金のためにここにいるらしい。

 

「随分人手を集めたみたいだけど、儲かるの? 出てきてないけど、ざっと40人。前と後ろに20人ずつ分かれてる」

「は……? お前なんで知ってんの?」

 

 やる気の無い男も部下の数を言い当てられて流石に驚いたようだ。

 まさか特殊能力で把握してるとは思うまい。

 

「今は集まったみたいだけど、さっきまでは数人ずつ、この辺の路地の曲がり角付近に散らばってたよね? 俺がいつも通るここ以外を通った時に見失わないためかな」

「マジでバレてやがる。何だこいつ。おい、出て来い!」

 

 素早く曲がり角から沸いてくる男達。

 2人に比べれば雑兵。だけどそこらの不良よりは強そうだ。

 

「ネタばらしをすると、俺昼間は仕事で探偵やってるんだ。そのせいか人の気配とかには敏感でね……さらに暴露すると、クレイジースタッブスの襲撃が今日で俺に足止めが来るのは事前に調べて知ってた。流石に別のチームがこんな数で来るとは思わなかったけど、来ると分かってれば警戒もするよ?」

 

 さも当然のように。軽く挑発的に言い放った俺。

 それに対する彼らの返答は……

 

「ぶはっ!?」

 

 耐え切れなくなったように噴き出した、ガチムチ野郎3度目の爆笑だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。