人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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272話 暴発

 突然の乱入者に驚いたのは俺だけではなかった。

 今となっては見る影もないが、あのやる気のない態度の男がストレガに声をかけようとしていた。

 

「貴方、金流会の人ですね? 今のうちに帰りなさい。この男は貴方たちがいくら集まろうと、敵う相手ではありませんから」

 

 タカヤの率直な言葉に男は眉をひそめるが、戦意はないらしい。

 

「お前らの仲間か?」

「仲間ではありませんが、無関係でもありませんね」

「ワイらは別にこいつの肩を持つつもりは無い。せやけどこのまま続けたらお前ら、無駄死にするで?」

「チッ、おい! 引くぞ!」

 

 男が撤退を指示すると、我先にと走り去る。

 広場には俺とストレガ、あとは気絶して動かない奴らが残っている。

 

「……仲間、置いていくのか」

「ほとんど金だけの関係でつながっとる連中やからな」

「普段は結束が強いけど、本当にいざという時には脆弱ですぐ切れる関係よ」

「自分の命の危機には仲間も金も関係ない、ということですね。……貴方が散々脅かすからですよ? 尤も脅かすつもりは無かったのでしょうが……大丈夫ですか?」

「ああ、今はもう、大丈夫だ。……正直、止めてくれて助かった」

「……嘘。貴方はタカヤが声をかける前に止まってた」

「確かにそうだが、連中を帰らせてくれた」

 

 最後の最後……正気に戻らなかったら、俺はきっとあの時目の前にいた男を殺していた。

 正気に戻ったものの、間髪いれずに戦いたくはない。今はそう思う。

 

「にしても、さっきのは何や? だいぶおかしな事になっとったように見えたで」

「……戦闘中にやたらと戦意が高揚して、一時正気を失っていたよ」

「暴走ですか?」

「意図した事ではないが……」

 

 急激に訪れる疲労感。この感覚には覚えがある。

 前回よりはだいぶマシだけど、これは間違いない。

 

「精神が高揚し、理性が薄れる代わりに身体能力を爆発的に引き上げる……そういう能力を手に入れていたんだ。だいぶ前に。それが暴発したような感じだ。

 ペルソナそのものが暴走して制御不能になったと言うより、高揚感に流されたという方が正確な気がする。最後は少しおかしな方向に行ったが……」

 

 ……思い返せばここ最近、夜の活動は調子が良いというか、高揚感があった。

 嬉々として連中のトレーニングを始めたり……あれもこの兆候だったのだろうか?

 

「だそうですが、チドリ」

「……たぶん、この人の言う通り。暴走にしては収まるのが早すぎるし、今はすごく安定してる」

「安定? さっきのアレで、ホンマか?」

「本当」

「なんとまぁ、あなたのペルソナは本当に癖が強いのですね」

「俺も困ってるよ……まさか勝手に発動するとは」

 

 夏休みに習得したベルセルクモード。

 自分の意思で発動するほかに何か条件でもあるのか?

 戦闘中に興奮しすぎると勝手に発動するとか。

 戦闘中にそこまで興奮することって無い気がするが……

 いや、そう思ってるだけで心の奥では戦いを楽しむようになった?

 ……昔と比べたらだいぶ強くなって、余裕も出たしな……

 暴走はもちろんだが、そこも少し反省すべきだろうか?

 後で先生達にも連絡しておこう。

 

「最近調子が良かったので、調子に乗りすぎたのかもしれないな」

 

 俺がそう言うと、タカヤが疑問を呈す。

 

「調子が良かった。それは本当ですか?」

「? ああ、順調に力をつけているつもりだが」

「ふむ……私は最後、押しとどまる直前の様子に焦りを感じましたが?」

「焦り?」

「……貴方、もうあまり時間が残されていないのでは?」

 

 その一言が強く、鋭く胸を抉った。

 考えたくない、目を背けていた事実を目の前に突きつけられたようで、言葉が出なかった。

 ……確かに俺は強くなった。シャドウ相手にはまだ余裕があるし、真田にも勝った。

 しかし、最大の目的である原作後まで生き残る道はいまだ曖昧。

 糸口になりそうな物はいくつかあるが、どれも確実な形にはなっていない……

 

 理性を失って出たあの一言……それが本心だったのか?

 ただ勢いに流されただけではないのか……分からない。

 

「私としてはどちらでも構いませんが、1つだけ言っておきます。やぶれかぶれになるのはおよしなさい。貴方が何を考え何をしようと自由ですが、自暴自棄ではろくな事にはなりません。貴方も我々と同じ力を持ち、影時間を生きる事を許された人間なのですから」

「……ああ、覚えておくよ」

「そうですか。では、我々はこれで」

「ちょっと待った。そういえば君たちは何故ここに?」

「……仕事。そこで寝てる人を痛めつけること。この人たちも相当他人の恨みを買ってるから」

「依頼人がそいつに袋叩きにされたらしくてな。影時間に襲うつもりで追っとったんや。先にアンタにやられてもうたけど、依頼人には状況を伝えれば納得するやろ」

「前金は既にいただいていますし、空いた時間でもう1つ依頼を片付けられそうです。フフッ、今日はお手伝いありがとうございました」

 

 タカヤは俺にそんな意図がないのを知っているだろうに、ニヤリと笑って身を翻す。

 そんなタカヤの後を追い、他の2人も去っていく……!!

 

 この痛み……ストレガ相手にもコミュが!?

 

「……」

「どないした? チドリ」

「今の、何? 貴方からペルソナと似たようで違う力を感じた」

「ほう?」

 

 コミュか? それとも封印か? どちらにしても分かるのなら。

 

「呪いの様なもの、と言っておこうか。少々事情が複雑で、上手く説明できないが」

「貴方は本当に、難儀で変わった人だ。すこし詳しく「待って」チドリ?」

「どないした?」

 

 急に彼女の表情が険しくなった。

 

「よく分からない、けど……これ、あまり良いものじゃない……感じたくない……」

 

 能力で探られている? どうやら俺から何かいやな物を感じるようだ。

 だがそれよりも。

 

「やめろ。感じたくないなら無理をするな、俺も何が起こるか分からないし、責任も取れないぞ!」

「そこまでです、チドリ。無闇に藪をつついて蛇を出したくはありません」

「……分かった」

「今日のところは帰ります。いきますよ、ジン」

 

 タカヤは改めて、2人と共に立ち去る。

 その背中を、俺は黙って見送った……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 ~出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のアジト~

 

 疲れた体でアジトへ向かうと、既に争いは終わっているようだ。

 静まり返った建物の外に、出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のメンバーが立って見張りをしているところを見ると、勝ったのだろう。

 

 挨拶をして鬼瓦の居場所を聞くと、中庭にいるらしいのでそちらへ向かう。

 

 すると、

 

「結構いるな」

 

 中庭の中心部に、見覚えの無い男たちが修学旅行生のように座らされている。

 出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のメンバーはそれを取り囲んでいて、立場の違いが明白だ。

 

「! ヒソカ!」

「鬼瓦、無事に勝ったっぽいな。怪我人は?」

「ほとんどいねぇよ。それも擦り傷とかちょっとしたもんだ。連中を誘い込んで網を被せたのが滅茶苦茶効いたからな」

「そうか、そいつは良かった」

「それより無事だったのか? 今ちょうどあいつらを締め上げてた所なんだが……」

 

 無事、おそらく金流会の話だろう。

 見れば俺に気づいたクレイジースタッブスと思わしき連中が目を見開いている。

 

「金流会の連中なら倒してきた」

『倒したァ!?』

「自分の足で来た以上、そうだろうとは思ったが……」

「確かに強めではあったけど、苦戦するほどでもなかったぞ」

「馬鹿言うんじゃねぇ! あいつらの中には元プロや格闘技の有段者、それに勝てるくらい喧嘩慣れした連中がいるんだぞ!? 雇うために俺らがいくら払ったと思ってやがる!」

「うっせぇぞコラァ!」

「誰が喋っていいっつった!」

「テメェの力で喧嘩一つできねぇ臆病モンが!」

 

 叫んだ男に荒々しく罵声と蹴りが飛び、男は黙り込んだ。

 

「で、これからどうするの?」

 

 鬼瓦に聞いてみると、

 

「アンタを助けにいく必要もなくなったし、俺らもある程度話はついたよ。こっちに被害はねぇし、二度と舐めたマネしないようにヤキ入れてやった。あとはアンタ次第だ」

「俺次第?」

「金流会をけしかけられたんだろ?」

「それはさっきも言った通り、大した事無かったから。……つか半端に強い分やりすぎた」

「やりすぎた、って何したんだよ」

「やった事は普通に殴り合いだよ。ただ相手が40人くらいで、武器持ってて、ちょっと興奮して暴れまくって……知り合いに止められたら、動けた奴は全員逃げた。……失禁してたやつも何人か」

「マジで何やってんだよ!?」

「なんて事してくれたんだ!?」

「金流会の恨みがこっちに向いたらどうすんだよ!?」

 

 鬼瓦に続いて依頼人の男たちが叫び始めたが、今度は誰も手を出さない。

 むしろかわいそうな相手を見る目で見ていた。

 

「あいつら、依頼人にも手を出すのか?」

「無い、とは言えないな。そこまでやられる原因を作ったと言えばそうだし、組織は関係なく個人で誰かくるかもしれねぇし。金を稼いでヤクザ気取ってるが、所詮俺らと同じ不良だ。力がある分、気に入らなければ手を出す可能性はある」

「ふーん……ん? それ、俺や出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)はどうなる? 報復の対象になるのか?」

「……面倒な事してくれやがったな。本当に」

 

 出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)の怒りが再燃したようだ。

 

「止めろ止めろ。もう叩き帰した後なんだ、いまさらそいつら痛めつけたって、何も変わらないだろ」

「確かに。だがどうする?」

「んー……まだ連中が報復に来ると決まったわけでもないしな……」

 

 クレイジースタッブスは既に鬼瓦たちにやられてボコボコ。

 さらに金流会の話で精神的にも打ちのめされたらしい。

 既にお通夜のような雰囲気が漂っている……

 

 そうだ、こういうのはどうだろうか?

 

「……鬼瓦、こいつらも俺の下についた、ってことにしないか?」

『ハァ!?』

 

 周囲から驚きの声が上がるが、双方にとってその方が得にならないだろうか?

 もし金流会に狙われた場合、戦力は少しでも多い方がいい。

 足止め部隊を散々な目に合わせた俺を警戒して手を引くならそれはそれで構わない。

 

「言いたい事は分かるが、こいつら仲間にしろってのか? あと、戦ってみたら予想以上にアレだったぞ……こんな腑抜け共が役に立つのか?」

「別に皆仲良くしろとは言わないよ。基本別々のチームで、お互いを傷つけない事、金流会に対しては協力する形にすればいい。実力に関しては、まとめて鍛えてやればいい。

 ……というか、今日は俺も流石に疲れたから、さっさと話まとめて帰りたい」

「おい! ……だが実際、他の選択肢は無いも同然か。俺らもアンタの名前に守られてる立場だしな……分かった。そうしよう」

「ちょっと待てよ! 何勝手に」

「アァン!? テメェらに拒否権があると思ってんのか!?」

「まだ仕置きが足りねぇみたいだな!」

 

 反抗の声を上げた男が睨まれ、押さえ込まれる。

 

「あいつらはこっちで話しつけといてやるよ。アンタはもう帰って休め」

「自分で言っといてなんだが、いいのか?」

「構わねぇよ。喧嘩の後始末なんて日常茶飯事だ。それに金流会のことを考えると、アンタの体調を万全にしてもらったほうがよっぽど助かる。……ちと情けないが、頼りにしてるぜ。これからも頼む」

 

 不良グループ同士の抗争が終結した……

 鬼瓦を始めとした出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のメンバーから、素直でない信頼を感じる……

 

「!!」

 

 体が痛んだ。どうやらまた絆が深まったようだ。

 後のことは任せろと言う鬼瓦に任せ、アジトを後にした……

 今日はタルタロス探索も控えよう……あ、報告だけはしておかないと……

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