人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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275話 日本支部

 11月17日(月)

 

 朝

 

 今日から1週間は芸能活動が中心となる。

 そしてテレビ局へ移動するための車中、俺と近藤さんは打ち合わせを行った。

 その後、時間も余ったので、なんとなく昨日見たネットの評判を話題にしたところ……

 肯定的な返事をしてくれたが、その前に一瞬、珍しく彼が言葉を詰まらせた気がした。

 

 そこを追求してみると、

 

「実はですね……ごく一部にですが、葉隠様がロリコン。所謂児童性愛者なのでは? という話もありまして……」

「……? どういう事でしょう?」

 

 マジで何それ。意味分からん。

 

 詳しく聞いて見ると、事の発端は昨夜俺が寝た後。

 ヘルスケア24時の放送内容にネットの人々が議論を重ね尽くした頃の事。

 

『特攻隊長が何度も繰り返し見てる動画が気になる』

 

 というコメントが流れた事。

 

「何度も見た動画……アンジェリーナちゃんの?」

「画面にはモザイクがかけられていましたが、声は彼女の幼いと分かる声でした。彼女の動画も最近視聴者数が伸びていたようで、割と簡単に特定されたようです。小学生の女の子が歌う動画を何度も見返す、そこからロリコンなのでは? という疑惑に繋がるようですね」

「有名税、なんですかね?」

 

 ほぼ言いがかりだが、“鶴亀”とかが無責任に騒ぎ立てても困るなぁ。

 

「そうですね。経緯と現状の広まり方を考えれば、あまり深刻に受け止める必要はないと思います。しかし仰る通り面白半分で話を広められると面倒ですし、社会的には最悪と言ってもいい風評被害になりかねません。念のため対応を始めています」

「対応ありがとうございます」

「この手の問題はデリケートですし、葉隠様のイメージはプロジェクトの評判にも影響しますから。

 ちなみにこの件について、アンジェリーナ様から。別に関係を隠す必要もないので、コラボ動画を出して知り合いだと公表してしまえばいいのでは? という意見が出ていますね」

「コラボ動画…………Craze事務所からの申し込みの話を聞いたとか?」

「おそらくそれが本音かと」

 

 もしかしてと思った事を口にすると、近藤さんも苦笑いで同意。

 引っ込み思案に見えて、割と色々積極的にやりたがる子だよな……

 

「ですが、下手な言い訳をするよりはよほどマシですね。家族ぐるみの付き合いがある事と親しい理由を公表できれば、疑念も払拭できるでしょう。否定的意見にあまり露骨な反応を返すのはどうかと思いますが……単純にコラボ企画を楽しむのはアリだと思います」

 

 アンジェリーナちゃんがあの事件の被害者であると公表する事になるのでは?

 

「今はボスの協力もありますし、何よりあれほどの大事件、地元ではそれなりに騒がれました。公的なメディアで伏せられている個人情報も、現地に行って探りを入れれば意外と簡単に分かるものです。

 本人やご家族も別に気にしていないそうで、先ほどの対策の一環として、“動画に出ている少女”と“葉隠様が夏休みに身を挺して救った少女”が同一人物であると分かるように情報を流しています」

 

 なんだ、そうなのか。

 だったらせっかくだから一緒に楽しもうか。

 

「では、本部の方に連絡を入れておきますね」

「よろしくおねがいしますっ!?」

「葉隠様!? ……また例の痛みですか?」

「はい……アンジェリーナちゃん? それとも安藤家? どちらにしても、コミュがあるようです」

 

 日本とアメリカで遠く離れているのに……

 いや、原作の男主人公の隠者コミュだとネットを介して鳥美先生と繋がる。

 つまり物理的な距離は関係ないんだろうな……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午前

 

 ~テレビ局・楽屋~

 

 今日の仕事は、以前俺を尾行したドッキリ番組。

 ゲストとして出演するため、スタッフさんと打ち合わせをしたところ……

 

 ターゲットの中に久慈川さんがいた!

 

 残念ながらスタジオ収録には来ていないようだけれど、アイドルとして頑張っているようだ。

 俺も頑張ろう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 昼

 

 ~移動車内~

 

 撮影は無事に終わったが、番組中に紹介された超人プロジェクトの事務所が規格外だった。

 

「いつの間にあんなビル用意してたんですか?」

「ビル自体は売りに出されていたものを買い取っただけですよ。改築と機材搬入を急がせたため経費は少々かかりましたが、10億にも届いていませんよ」

「コールドマン氏の資金力、それに平然と大金を使う事は知っていたつもりでしたが……」

 

 10億にも、って何なのさ……文字通り桁が違うよ。

 

 ちなみにそんな大金で用意された超人プロジェクトの事務所(日本支部)は、7階建て。

 辰巳ポートアイランド駅から徒歩7分で行ける。

 

 そしてその各階の設備はこう、

 

 屋上 ヘリポート+ヘリ1機

 7F  警備室、宿直室、道場

 6F  スポーツジム、シャワー、プロテインバー

 5F  事務所

 4F  事務所

 3F  医務室、仮眠室、社員食堂&休憩所、喫煙室

 2F  点滴BAR、酸素カプセル室

 1F  エステサロン、美容室、マッサージ専門店

 地下 駐車場

 

 改めて見ても驚く。事務所スペースは4階と5階のみ。

 ワンフロアが広いのでそれで十分らしいが、それ以外の階にはこれでもかと贅沢な設備が。

 社員の憩いの場となる3階にも自動販売機や良質のベッド等、それなりの物が用意されていた。

 

 6階のジムは社員のリフレッシュや運動不足解消のため専属のアドバイザーが常駐。

 社員とプロジェクト参加者ならいつでも使って良いらしい。

 

 7階の警備室にはアメリカから送られてきた屈強な警備員が昼夜問わずに交代で待機。

 ビルに何かあれば即座に反応、対処してくれる。

 

 そして1階と2階……

 そこは参加者の肉体ケアを目的とした場所であり、一般にも開放する商業と宣伝のスペース。

 1階に入るお店は海外で有名な高級美容ブランドだったり、カリスマ美容師がいたり。

 スタジオの熱気、特に女性陣は目つきとオーラが変わっていた。

 

 2階の“点滴BAR”はまだ日本では馴染みがないけれど、通常病気の際に病院で行われる点滴とは違い、体の状態に合わせて不足した栄養素を補う栄養剤、あるいは美容に関する各種成分を配合した液体を点滴して疲労回復・美容の効果を得ようというもの。アメリカではセレブを中心に流行り始めているようだ。

 

 そして、酸素カプセル。

 だいぶ前にサッカー選手の怪我治療に使われたとして有名になったが、その最新式を導入。

 カプセルの中の気圧や酸素濃度を装置で高めることにより、体に酸素を取り込む効率を上げ、疲労回復や血行を促進する健康器具だ。世間ではまだ記憶に新しい北京オリンピックでも、海外の選手は試合前のコンディションを整えるために使っていたという。

 

「我々のプロジェクトはスポーツ、ひいては健康や美容と人体の研究など多岐にわたりますからね。協賛企業も多く、様々な面から参加者をフォローできます。特に先日の葉隠様の検査結果は各企業の方々から見ても興味深いようです。

 ひとまずこれから事務所に向かい、健康診断。その後、葉隠様には一度全ての施設を体験していただきます。どの施設も完全無料で利用できますので、以降も定期的にご利用ください。エステや美容室も芸能活動のためにぜひ」

 

 エステに美容室……縁の無い場所トップ2と言っても過言ではないが、今後を考えれば必要か?

 先生から貰ったSoma美容液しか使ってないし、髪も……だいぶ切ってない。

 そのわりに髪が伸びた感じもしないが……

 そういえばゲームの原作キャラっていつ髪切ってるんだろう?

 特に主人公は朝から晩まで行動をコントロールしてるのに、1年間一切変わりない。

 不思議だ……

 

 そんな事を考えているうちに車は事務所に到着。

 サポートチームのDr.ティペットによる健康診断を受けた後、設備と施術を全て体験した!

 

 ……“疲労”がとれた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~鴨山ジム~

 

 総合格闘技、最後の練習日。

 総仕上げとして、練習生で1番強い人と試合をさせていただく事になった。

 ドッペルゲンガーを送還して、素の状態で向かい合う。

 

 これまでの総仕上げ……百人一首を応用した技を出していきたい。

 軽く拳を合わせて、大きく距離をとる相手。

 どうやら真田のようにヒットアンドアウェイを得意とする選手のようだ。

 これまでの練習を見ていたし、俺を警戒しているのか、中々踏み込んでこない。

 

 これは好都合。

 

 猫脚立ちで站樁(たんとう)。相手を見据えて立禅。

 視界を広く、相手の一挙手一投足に集中しつつ、心は穏やかにと心がける。

 自分の腕の届く距離、攻撃範囲を確認。まだ遠い。

 

 ジリ……ジリ……とガードを固めて近づいてくる。まだ遠い。さらにガードの上。

 

「前に出て行け!」

「一気に攻めろ!」

 

 周囲の練習生から飛ぶ様々な声援に押されてか、少し大きく相手が踏み出した。

 一足飛びで攻撃できる範囲内。だが焦るな……まだ遠い……

 

「……」

「……」

 

 そして、相手が動いた。

 

 瞬時に加速、接近する体。

 ガードから攻撃に移る右腕。

 それが俺の顔へと向かう刹那。

 

「!」

 

 鈍い音を伴って、俺の左拳が相手の顎を打ち抜いた。

 確実な手ごたえに、身に着けた技を出し切れた感覚。

 まさに渾身の一撃。そして体の内で新たなスキルが生まれたのが分かる。

 

 相手は数歩後退した後に崩れ落ち、会場がどよめく。

 

「試合終了! KO!」

 

 レフェリーの宣言により、試合は静かに終わった。

 

 “居合いの心得”……集中する事により、攻撃の速度と精度を高めるスキルのようだ。

 

 このスキルはこの後行われた百人一首でも活躍し、鴨山婦人から勝利をもぎ取る事に成功。

 百人一首、そして教えてくださった鴨山夫妻に心から感謝だ。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のアジト~

 

『セイッ!』

「っとと……」

「焦らなくていい! 最初は丁寧に動きを覚えるんだ!」

 

 集団訓練を始めたばかりのクレイジースタッブスはともかく、出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)のメンバーはだいぶ動きが身について、タイミングも揃ってきている。もう少しすれば彼らだけでもこの練習はできるようになるだろう。

 

 クレイジースタッブスの方を多めにサポート。

 出巣吐露威鎖亞華栖(デストロイサーカス)は褒めて士気を上げておこう。

 

 不良グループとトレーニングを行った!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~タルタロス・41F~

 

 今日は2つ目の壁を外から越えて、踏破記録を更新。

 出現するシャドウが少し変化しているため、データ収集を始めた。

 しかし……

 

「先輩のシャドウ、目に見えて動きが良くなってませんか?」

 

 どうやら天田も俺と同じ思いを抱いていたようだ。

 

 現在俺は先日の“黒衣の夜想曲”と元ネタは同じ。

 “魔法先生ネギま”に登場する影使いが使役する人型使い魔を模したシャドウを5体召喚中。

 先を歩かせて遭遇したシャドウを倒させているが、一気に動きが良くなった。

 さらに変化はそれだけでなく、召喚する速度も僅かではあるが実感できる程度に向上した。

 指示を出してからの反応も同じく。

 

 ……試していないが、おそらく今ならシャドウ1匹に4つはスキルを与えられる。

 シャドウ召喚と使役に関する能力が急激に上がったような感覚……

 

「ワフッ!」

「コロマルが何か心当たりはないのか? って聞いてますよ」

「心当たりといえば」

 

 おそらく、鬼瓦たちとのトレーニングだ。

 何故かというと、シャドウの動きがまるで彼らと同じ。

 厳密にいえば、鬼瓦たちに教えている軍隊格闘術や団体訓練用八極拳のようだ。

 シャドウの方が個人の癖がなく、基本に忠実といった印象は受けるが偶然とは思えない。

 

 まさかコミュの結果? 封印しきれていない力が影響した?

 

「……確証はないけど、とりあえず弱くなった訳じゃないし。とりあえず連中とのコミュを続けて様子を見るよ」

「気をつけてくださいね。なんかまた面倒なことになってるみたいですし」

 

 天田から素直でない気遣いを感じる。

 

「ありがとな。だけどまぁ、そう悪いことばかりでもないぞ。こういう物も手に入ったしな」

 

 腰元から取り出したのは、クレイジースタッブスの男が持っていた改造エアガン。

 遠くから迫る“傲慢のマーヤ”、そして天使のような姿をした“嫉妬のクピド”へ続けて発砲。

 久々の射撃。さらに銃も前と違うが、弾は狙い通りに当たったようだ。

 

 金属弾の衝撃に足を止め、マーヤに至っては不自然に苦しむような動きをし始める。

 そこへ手の空いた召喚シャドウが殺到。集中攻撃で2匹の敵は瞬く間に消滅した。

 

「今のって……もしかして毒?」

「驚いたか? この改造エアガン、金属の玉を飛ばす仕様になってたから、持ってた不良に代金を払って買い取ったんだよ。そんで弾自体には魔法円を使って毒の付与。それと弾を入れるマガジンには防護の力を付与して、手に持った自分には毒が回らないようにできたんだ」

 

 火、氷、風、雷の4属性はまだ故障の原因になりそうで使えないが、毒、混乱、恐怖、魅了。

 それから以前実弾に付与した“弾丸の威力上昇”も使えそうだ。

 

「便利そうですね。予備の武器として一丁持ってるといいかも」

「今見た感じ毒の効果が出なくても、物理的な威力で一瞬動きを止めるくらいの効果はあるみたいだし、こうして後ろでシャドウを操りながらでも使える武器が手に入ったのは大きいな」

 

 魔術を応用した武器開発もまた一歩進展した!

 

 さらに探索を続けたところ、宝箱からは各種ジェムやミステリーフード等。

 41階から出てくる“ブロンズダイス”というシャドウは“銅製のコマ”。

 そして不意に現れた“財宝の手”は“財宝の金貨”を落とした。

 

 これでタルタロスで手に入る金属は金、銀、鉄、銅。

 金属系の素材が増えてきた!

 

 そして64F……次の壁がある階まで一気に上り、人工島計画文書03を回収。

 最後に強くなった召喚シャドウと戦ってみたいと天田&コロマルが言うので、戦闘訓練を行う。

 ついでに俺も1つ実験。

 

「ちょっ、これ、数多すぎませんか!?」

「1匹1匹は人型より弱いだろ?」

「それは! そうですけど! 的も小さいし!」

 

 天田とコロマルが大量の「ピクミン」に囲まれて苦戦している。

 シャドウの形を変えても、操作性が向上していることに変わりはないようだ。

 

 これで倉庫の掃除がさらに捗る!

 ついでにピクミンもそれなりに戦えることが分かった。

 

 1匹1匹が小型のため、コストパフォーマンスに優れていたが、思いのほか原作に忠実。

 敵(タルタロスのシャドウ)1匹から回収するエネルギーで3~5匹生み出せる。

 1匹1匹は弱いので10匹20匹ならあしらえていた2人も、50匹相手では苦労するようだ。

 

「ガウッ!」

 

 コロマルがペルソナを召喚し、アギを使った。

 しかし残念、召喚の隙に“赤ピクミン”が身を挺し、他のピクミンを守る壁になった!

 

「何度も言ってるけど、赤ピクミンは火に強い(火耐性)からな~」

「バウワウッ!」

 

 お前が指示してやらせてるんだろ! 的な意思が魔術も使ってないのに伝わってくる。

 

 ちなみに天田がジオ系の魔法を使う時には、電気に強い“黄ピクミン”が盾になる。

 

 ……自分でやっといてなんだけど、これ相手にするの面倒臭そう。

 

「でもこういうのも経験ってことで」

 

 俺も夏休みにはシャドウの大群相手にしたし、訓練しといて損はないよね!


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