妄想が止まらない……
夜・自室
「はがくれ」営業時間が終わった事を確認し、叔父さんの携帯に電話をかけると数回のコールで叔父さんが出た。
「叔父さんこんばんは、影虎です。いまお時間よろしいですか?」
「おう、なにかあったのか?」
「実は今バイトを探してまして、叔父さんのお店に人を雇う予定はありませんか?」
「バイトか……しばらく前に雇ったから今のところ人手は足りてるな。当分新しく雇う予定はねぇが、なんでまた急にバイトなんか探し始めたんだ?」
そう聞かれたので、俺は事情を話した。
「ほー……バイクの話は俺も聞いたが、お前の学校そんなガキが居るのか。そんでお前がプロテクターだのなんだのを用意したいと……なんつーか、やっぱお前兄貴の息子だよなぁ」
「叔父さん?」
「いやな、兄貴も族やってた頃はよく後輩を気にかけててよ。金に困った舎弟のためにバイトやってた事あるんだわ。そんで気前よくメシ奢ったりしてなぁ。そういうとこが似てると思ったのさ」
「そうなんですか? 初耳です」
「まぁ兄貴はお前みたいに裏で動くような真似より、気になる奴を正面から腕力で引っ張りまわすのが基本だったしな…………で、どうする? うちの店以外にあてはあんのか?」
「ネットで調べて地道に探します」
「そうか、まぁ頑張れ。またいつか人手が要りそうなら声をかけてやるが、無理はすんなよ。あと今度その後輩含めた部活の奴らで店にこいや、そんときは味玉とチャーシューおまけしてやるからよ」
「はい、ありがとうございます。その時はぜひ」
俺は叔父さんに礼を言うと、数秒で電話が切れる。
バイト先の候補が一つ減ったが、予想の範囲内ではある。
俺はPCを立ち上げて影時間が来るまでバイト情報のサイトを閲覧した。
~影時間・タルタロス5F~
今日からタルタロスで訓練を再開。
たった二日空いただけで久しぶりに感じたが、ここまでの道のりは快調そのもの。休みを入れて動きが鈍ってないかと心配したが、むしろ好調。前から一匹一匹のシャドウは弱かったが、今日はいままで以上に弱く感じた。
周辺把握で敵の動きを把握するコツを掴んだからか、とにかく回避が楽。ここまでの階層には俺以上の機動力を持ったシャドウは宝物の手くらいしか出てこないので、物理攻撃は完全に避け放題だった。あの脳筋のおかげと思うとちょっと癪だが、周辺把握の使い方のコツが掴めたことには感謝しないでもない。
吸血と吸魔で疲労もなく、あっという間に上階に続く階段も見つかり、俺は未知の領域へ踏み込んだ。
五階は番人シャドウであるヴィーナスイーグルがいるはずだが、周りには柱が等間隔に立っているだけでシャドウの姿は見えない。踏み込んでいきなり襲われることは無いようだ。
しかし、部屋には一本だけ奥へと続く通路がある。柱の影に隠れてこっそり通路をのぞくと、天井付近を飛び回るヴィーナスイーグルの姿が確認できる。その数は五羽。
予定より増えているが、まずは各種耐性の確認から始めよう。
隠蔽と保護色の効果が出ている事を確認し、柱の影からそっと出る。相手はこちらに気づいていないようで、優雅な旋回を見せている。……相手が飛んでいると接近戦は難しい。火から初めて氷、雷、風と攻撃魔法を撃ってみるか。
通路に入り接近したら、敵の一羽に狙いを定めて集中……俺は想像した。敵の一羽が進む先で発生する爆炎を。そして心の中でアギと唱えると、いつもの体から力かが抜ける感覚を覚えた直後、狙った場所に咲いた炎の花が一羽を飲み込んだ。
「ギィッ!? ギャギャギャッ!」
「「「「ギィッギィッギィッ!!!」」」」
「火は吸収か」
アナライズにより視界の端に結果が表示された。どうやら火は効かないらしく、攻撃を受けた一羽もダメージを負った様子は無い。
先ほどの悲鳴は不意打ちに驚いただけか。しかもいまので俺の存在もばれた。五羽は警戒してより高い場所を飛んでいるが、全部の目がこちらを向いている。
「ケェー!!」
「!」
一羽の……紛らわしい! っと、“敵A”が俺の左を通過。動きがだいぶ速いが、まだ避けられる速度だ。しかし残りの敵B~Eが頭上で旋回して縦横無尽に、続けざまに飛び込んでくる。
脳筋との戦いを思い出せ……周辺把握で敵の動きを把握。Aは上へ戻り勢いをつけている。
Bは正面から、Cは真上、DとEは右と後ろ!
俺は右斜め前へ大きく踏み出すと四羽の軌道修正は間に合わず、四つのくちばしが空を切った。
「対応、できる!」
「ギッ!?」
もう一度飛び込んできた敵Aを避けると同時に鈎爪を突きたててやる。
おっと弱点発見! 貫通か!
「ギギギギギギッ、キィィ……」
「キィ!?」
鈎爪に刺さってもがく敵Aに吸血と吸魔を使い、他からの攻撃を避けつつもう片方の鈎爪でメッタ刺しにすると敵Aが消滅。それを見た他の四羽が慌てたように高く飛び上がった。
だが攻撃はしてこない……特にスキルを使った覚えはないが、状態異常:混乱、動揺、恐怖のどれかに罹っていそうだ。攻撃してこないなら一つこの前戦って思いついた技を実験させてもらおう。
右拳を開いて貫手の型に。
手の部分を変形させて刃に。
弓のように腕を引き、突き出すと同時に腕のドッペルゲンガーを
「キキッ!?」
ドッペルゲンガーは元来特定の形状を持たないペルソナ。普段は服の形を取らせているけど、ロープに変形させた時のように伸ばそうと思えば伸ばせる。直線的に伸ばすだけなら操作もさほど難しくない。
そう考えて放った槍のような貫手は空中で羽ばたく敵Bへ向かって五メートルほど伸びたものの、避けられた。
「外……したけど発射は成功!」
「「「「ギィ!」」」」
今の一撃で警戒し直したヴィーナスイーグルが揃ってガルを撃ってくる。
的を絞らせないように素早く前後左右に動いたが、一発被弾したようだ。
しかし、それは攻撃とは思えないほど弱い風圧だった。
あまりの弱さに少し驚いたが、これはチャンス!
俺は攻撃の手を早めた。攻撃を避けながら、敵が近づいてくれば爪、遠くに居る敵には槍貫手でジワジワと攻める。
そして五分後……
スピードと空中での機動力に多少翻弄されたものの、危なげなくヴィーナスイーグルの殲滅が完了……ヴィーナスイーグルからあまり吸血できず、まだ慣れない槍貫手を連発して疲れたけど、最後はもう逃げまどうヴィーナスイーグルを狙って撃ち落とすだけの作業だった。
ゲームで例えるなら適性レベルを大幅に超えたせいで敵の攻撃で一しか食らわなくなった感じ……よく考えたら俺はこれまで毎日のように四階までのシャドウを大量に殺戮していた。この世界にレベルの概念があるのかは分からないが、そろそろもう少し上に行くべきということだろう。
今日は疲れたから帰るとして、明日からは六階に登ろう。
……そういえばヴィーナスイーグル倒しちゃったけど、来年までに復活するのかな?
明日もし復活してたらまた戦おう。攻撃の精度を上げるために。
俺のペルソナ物理攻撃スキル全然覚えないし、変形能力の応用技も増やしたいな……
俺はそんな事を考えながら、五階の奥にある転移装置を起動した。
影虎は「はがくれ」でバイトができない!
影虎はネットでバイト先を探している……
見つからないと、残る候補はストレガの「危ない仕事」か江戸川先生の「怪しい仕事」
影虎はタルタロス五階の番人を倒した!
影虎は新技、槍貫手を編み出した!
槍貫手:ドッペルゲンガーの変形能力を応用して槍のような刃をつけて伸ばした貫手。
貫通、斬撃属性、射程距離五メートル。
考えてみたら影虎のドッペルゲンガーって超人系悪魔の実の能力を一部再現できそう。
ゴムゴムの実(打撃)とかスパスパの実(斬撃)とかトゲトゲの実(貫通)とか……