翌日
11月20日(木)
午前
移動中の車内で1日のスケジュール確認を済ませた後、ふと気になったことを聞いてみる。
「近藤さん。昨日の光明院君のことで調査をお願いした時に言っていた“個人的に気になる事”って何か、聞いてもいいですか?」
「ああ、それはですね……葉隠様は“愛と叡智の会”という団体をご存知でしょうか?」
愛と叡智の会? 聞いたことのない団体だ。もちろん原作にもなかったはず。
描写されていない、あるいはこの世界独自の団体だろうか?
「芸術や学問を研究、さらに次世代を担う子供たちへのより良い教育を考えるという団体のようで、学習塾をはじめとして多数の音楽、演劇、絵画などのスクールに出資、あるいはアドバイザーとして関わっているようです」
そう言って近藤さんが名前を挙げたのは、先ほどとは一転して、日本の主要都市には必ず1つ2つ校舎があると思われる有名学習塾だった。
「その他の分野でも同様。第一線とはいかないまでも、それなりのシェアがあるスクールと太いパイプを持つ団体のようです。表向きは」
「表向き、ですか」
「はい。これは私の主観になりますか、どうも怪しく感じるのです。関連企業の知名度に対してここまで団体の知名度が低いことも気になりますが、何よりおかしく思ったのは昨日、葉隠様と久慈川様がオーディションを受けている間のことです」
なんでも別行動をしていた近藤さんや芸能事務所の人に対して、愛と叡智の会の人間が壇上に上がり、関連する学習塾や芸能スクールの説明会があったそうだ。
「アイドルの仕事と学業を両立させるため。ワンランク上を目指すため。内容としては概ね理解できましたが、それをなぜあの場でできたのか? どうやら愛と叡智の会という団体は随分と芸能界やメディアに顔が利くようです」
それとなく近藤さんがこれまで作ってきたコネを当たってみたら、業界人にとっては常識だったらしい。
「さらに、実を言いますと団体名を耳にしたのは昨日が初めてではありません。以前葉隠様に関するデタラメを書いて出版した週刊“鶴亀”とも繋がりが見え隠れしています。残念ながらガードが固く、確たる証拠や関連は掴めていませんが……昨日の説明会の直後、光明院君を連れて行ったあのマネージャーと説明を行った団体の人間が親しげに話していたのを確認しています」
近藤さんはBunny's事務所や光明院君達マネージャーを調べることで、愛と叡智の会についての手がかりを得られないかと考えているようだ。
「……近藤さんの理由はわかりました。でもまた一つ疑問が」
「何でしょうか?」
「これまで色々調査や用意を頼んできて今更ですけど、近藤さんって何者ですか?」
注文した資料は確実に揃えて持ってくるし、聞けばすぐに用意してあったりしてすごく助かるは助かるんだけど…… 事務処理能力はともかく、異常に調査力が高い。謎が多い不思議な人だ。
「思い返してみたらサポートチームの顔合わせの時、近藤さんだけ前職の事を聞いてませんでしたし」
「私の前職、ですか。基本的に話さないようにしているのですが、葉隠様には教えておいた方がいいかもしれませんね」
彼は声を潜めて一言。
「ボスの下につく前は、CIAで働いておりました」
CIA……アメリカの中央情報局!?
「……本物のスパイ?」
「元、ですが……あまり吹聴すると危険なので、秘密にしておいてくださいませ」
「了解……調査や潜入の技術指導は求めてもいいですか?」
「細かい資料を用意しましょう。後は実地で。葉隠様の能力を貸していただければ、こちらとしても調査の幅が広がりますから」
近藤さんの前職を知り、お互いに利のある話ができた、あッ!
「あ~……」
「私にもコミュがあるのですね」
「ほぼ間違いなく。不良グループやストレガの例があるので、個人なのかグループの一員としてなのかは分かりませんが」
そういえば霧谷君はどうしているだろうか?
前に投稿した動画で忙しくなったらしいが、もうだいぶ時間がたった。
受け取った資料の魔術にも慣れてきたし、彼ならこの痛みをどうにかできる可能性がある。
……頃合だろう。そろそろ彼と連絡を取ってみよう。
「かしこまりました。スケジュールの調整はお任せください」
怪しげな団体にコミュ関係。まだまだ先は長く、大変そうだ……
……
…………
………………
放課後
~部室~
「よし、次は実際に撮ってみるか」
「はい!」
今日の部活は特別編。
明日からまた始まるアフタースクールコーチングの撮影に、天田が正式に参加することになったので、そのための練習として動画撮影を行う。
「本番では基本的に渡される台本やスタッフさんの指示に従っておけば問題ないよ。無理に面白いことをしようとしたり、変なキャラ付けをする必要もない。台本に従いつつ、わざとらしさは見せないように」
「難しそうですね……」
「大丈夫大丈夫。多少ぎこちなくても分かってもらえるし、スタッフさんは俺もフォローするから。撮り直しもできるし。ひとまずさっきやった発声を忘れずに、しっかり声を出して喋れれば後はどうにでもなる。あとは少しでも雰囲気に慣れておこう。準備はいいかー?」
「ウッス!」
「兄貴。先輩。こっちはスタンバイOKです!」
「撮影機材もセットしたよ」
和田と新井、そして山岸さんの準備も整ったようだ。
天田に簡単な台本を手渡し、部室内の俺の部屋へ移動。
元展望台職員の宿直室であった和室には今、 2つのマットが敷かれている。
今日の企画は……
「「今日からできるマッサージ!」」
マッサージによる筋肉のほぐし方。
体の各所にあるツボを実際に実演しながら解説し、体の調子の整え方を学ぼうという企画。
和田と新井を実験台にして、俺が天田に教える感じで進めていく。
「さて、早速この2人を実験台にしてマッサージを始めたいと思いますが……」
「あの、大丈夫ですか?」
和田と新井がものすごく疲れている。
実験台にするために、ちょっと走って疲れてきてとは頼んだけど、
「どこまで走ったの?」
「学校の外周、15週してきたッス!」
「学校の外周って、中等部? 高等部? どっちにしても1キロくらいありますよね」
「測ったことないけど、うちの学校デカイしそれくらいはある。ってことは15キロかそれ以上」
俺たちの発声練習とか、全部合わせても1時間にギリギリ届かない。
となると10キロを40分くらいのペースになるが、マラソンだとかなり速い方だ。
「全力疾走してきました!」
「張り切り過ぎだよ!」
誰もそこまでやれとは言ってない。
しかしそんな和田と新井の天然により、天田の緊張が少し解けたようだ。
オープニングと自己紹介の段階ではガチガチだったけど、そこからの進行は自然になってきた。
ただ、もうひとつ思わぬ問題発生。
「あ゛!? 痛ッ! いたたたっ!?」
「ぐああああああっ!!」
指圧に伴う痛みで和田と新井が絶叫。
最終的に回復効果は実感してくれたが、動画を見直すと全く気持ち良さそうではない。
正直、罰ゲームにしか見えなかった。
「これ、誰も試そうと思わないんじゃないかな……」
「俺もそう思う」
「僕も……」
もっと患者の負担を軽減する工夫が必要そうだ……
……
…………
………………
夜
「夜遅くまでつき合わせてごめん。土日の撮影見学者の取りまとめも頼んでるし……本当に助かるよ」
「ううん、私も楽しみだから」
アンジェリーナちゃんとのコラボ動画用の歌収録を山岸さんと行った!
外は暗いので女子寮まで送っていくことになり、
「あっ、もうこんな時間だったんだ。寮のお夕食間に合うかな……」
「あー、帰り着くまでに食堂の時間過ぎるかもな……いっそ何か食べてから帰る?」
「そうだね。外食もたまにはいいかも!」
成り行きで一緒に食事をすることになった!
……
…………
………………
深夜
~廃ビル~
不良連中との戦闘訓練だが……山岸さんと食事をした後だと男臭さがハンパない。
そんな俺の様子に気づいたのか、
「今日はなにかあったのか?」
と聞いてきた鬼瓦に、名前を伏せて正直に答える。
するとそれを聞いていた連中がいて……
「女と食事だァ!?」
「自慢かコラァ!」
「テメェ顔が良いからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「モテない俺らへの当て付けか!?」
「表出ろやァッ!!」
「悔しいがテメェの指導で俺らは強くなった……今なら殺れる!」
訓練に参加していた奴の大半が反乱を起こした!
ちなみに反乱に加わらなかった連中には彼女がいたと判明。
それからは俺と彼女がいる野郎共VS彼女いない野郎共の戦いへと発展。
最終的に俺が敵味方関係なく全滅させて終結した。
しかし鍛えた分の成果が出ていること。
それをしっかりと彼らが実感し、次のモチベーションにできている事も分かって良かった。
……
…………
………………
影時間
~タルタロス・16F~
鬼瓦たちの成長を感じたので、俺も基本を見直すべく、ひたすら階層を隔てる壁を突く。
心を落ち着けて無心に壁を殴り続けると、エネルギーの流れを感じる。
オーロラのような壁は謎のエネルギーの塊。
常にその光を揺らがせ続けていて、エネルギー量も流動しているようだ。
思いつきで、狙っている部分のエネルギーの少なくなった瞬間を狙って突きこむと?
……!! これまでよりも遥かに楽に、拳が壁を突き抜けた!
「壁にも弱い部分があるのか!」
新たな発見だ! 体が通り抜けられる大穴を開けられる日も近い、かもしれない!
芸能界の怪しげな一面が見えてきた……
近藤の前職が明らかになった!
天田はテレビ出演の予行練習を行った!
和田と新井は脚力が上がっていた!
不良グループの実力を確認した!