人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

285 / 338
284話 合格

 夜

 

 ~巌戸台商店街~

 

 Craze動画事務所でのコラボ動画撮影を終えて、皆と巌戸台まで帰ってきた。

 

「いや~、今日は楽しかったですなぁ。てか俺っち、実はサバゲーとかちょっと興味あったんだよ」

「あ、俺も俺も! でもモデルガンとか場所とか結構金かかるみたいだし、ルールもよく分からないしでなんか手が出なかったんだよな」

「案外見た目普通のビルの中にもああいう場所あるんだな」

「たまにはああいうのも良いかもね。」

「私は明日がちょっと心配かも……でも良い運動になったよね。ダイエットとかにいいかも」

 

 コラボ動画第4弾のサバゲーは教えてくださったチームの方々が良い人だったこともあり、俺以外も顔を隠して参加。男女共に楽しめたようだ。

 

「でもあれだな。一番驚いたのは影虎と天田少年だな」

『あぁ……』

「えっ、僕もですか?」

「おい天田。なに自分は違うみたいなこと言ってるんだ」

「僕は先輩みたいに非常識なことしてませんから。だいたい何でゴムナイフ一本で敵陣深くに突っ込んでそのまま制圧したりするんですか。サバイバルゲームでナイフ使える場所ってそもそも少ないのに、そんな人いないって言ってましたよ」

「ネタとしてどうだって薦められたんだからしょうがないじゃないか。使ってみたら使いやすかったし……いつものアレで。それに天田こそハンドガンの命中精度がエグイって言われてたじゃないか」

「あれは、だって実銃より反動が小さくて撃ちやすいから……それにいつものアレに比べて相手の動きも遅いし……」

「お2人さん、俺らから見たらどっちもどっちだったからな?」

「連携されると手に負えねぇ」

「つかアレって何さ」

「いつもの訓練、的な?」

 

 タルタロスで鍛えた戦闘力と連携が、無意識にサバゲーでも役立った結果だった。

 

「ま、それはともかく何か食って帰ろう」

 

 今日はもう仕事も用もない。

 近藤さんはたまには友達とのんびり過ごすようにと気を使ってくれていた。

 せっかくだから今日は徹底的にのんびりしよう。

 

 この後“はがくれ”でラーメンを食べ、帰りに空いていた“本の虫”に立ち寄って本を買い、夜を過ごした。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~自室~

 

「おっ、ロイドからコラボ動画のデータが返ってきてる」

 

 部屋でメールをしていると、近藤さんから連絡が入る。

 

「もしもし」

『葉隠様、お休み中失礼します。たった今連絡がありまして、先日のオーディション結果が出ました』

「! 結果は?」

『おめでとうございます。合格です!』

「!!」

『役柄は主人公と同学年。高校2年生で生徒会長を務める青年の役です。性格は柔和で役職柄か事情通。主人公グループに助言を与える立場……ですが後半から徐々に怪しげな行動を初め、最終的に学内の変革を阻止するべく主人公を妨害していた黒幕と発覚する主要人物の1人だそうです』

 

 まさかのラスボス役!?

 

『先方は葉隠様の演技力を高く評価しているようですね。直接電話をくださった担当者の方も二面性のある難しい役になる、それでも期待していると』

「これは気合を入れないといけませんね!」

 

 寝る前に一通り演技の練習をしてから寝ようか。

 

『よろしくお願いします。また急な話ですが、先方から可能であれば明後日、主要な役の方の顔合わせと初回の撮影内容についての説明。その後少々打ち合わせをしたいという申し入れがありました』

「分かりました。スケジュールが調整可能であれば是非参加したいと思います。調整をお願いできますか?」

『かしこまりました。詳しいことは明日にでも。おやすみなさいませ』

「連絡ありがとうございます。おやすみなさい。……よし!」

 

 ドラマのオーディションに合格した!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 翌日

 

 11月24日(月)

 

 早朝

 

 ~自室~

 

「ん~っ! ふぅ……」

 

 いつもより目覚めがスッキリしている。

 昨夜は買った本を読むだけで出歩かず、タルタロスにも行かなかったからだろうか?

 

 体調が“絶好調”になった!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 朝

 

 ~食堂~

 

 朝食を食べていると携帯が鳴る。今回も近藤さんからの着信だ。

 

 珍しいな……

 

 彼は基本的に朝の忙しい時間帯やこちらの用事がある時間帯には連絡をしてこない。

 朝に何かあるなら前日の夜に確認の連絡を入れておく。

 緊急性のない要件なら後にまわすなど、いつも配慮を感じる。

 そんな彼がこんな時間に連絡をしてくるなら、緊急の用だろう。

 

「順平、電話してくる。戻らないかもしれないから」

「おっ、了解。そん時は片付けとくぜ」

「悪い、頼んだ」

 

 察してくれて助かった。

 気を引き締めて電話に出る

 

「おはようございます」

『朝早くに失礼します。今、大丈夫でしょうか?』

「少し待ってください。静かな所へ移動します」

 

 やはり、いつもより僅かだけど声が固い。面倒事のようだ。

 急いで部屋まで戻り、念のためドッペルゲンガーで防音。

 

「お待たせしました。もう大丈夫です。何がありました?」

『週刊“鶴亀”です』

 

 その名前を聞いた瞬間に嫌な予感がする。

 

「今度は何をやらかしたんですか?」

『葉隠様に関係のある記事が2つ、本日発売の鶴亀に掲載されています。1つは先日19日に起きた光明院君との一件が不仲説として、撮影現場での態度の悪さまで赤裸々に。もう1つは葉隠様と年末に試合をする予定だったプロ格闘家に対して“逃げた”という批判記事です』

 

 最近はおとなしくしていると思ってノーマークだった……

 直接的に俺のことが書かれてはいないようだけれど、

 

「一度に2つも、偶然でしょうか?」

『分かりません。しかしこの件について先ほどBunny's事務所から抗議が来まして……』

「抗議?」

『ええ、何でも例の一件は“葉隠様の挑発的な態度が原因だ”と、そのせいでこのような記事が書かれてしまった。大事な時期にイメージを傷つけるような報道をされた。どう責任を取ってくれる。……まとめるとこのような内容です』

「なるほど……事務所ぐるみで喧嘩売ってるんですかね?」

『我々も正直、困惑しています』

 

 無理もない。俺も意味が分からない。

 

 19日の一件は俺が光明院君に聞かれたからとはいえ、演技を短期間で身に着けたと話した。

 挑発的という言い分には納得できないが、彼の気分を逆撫ではしたかもしれない。

 しかし現場での彼の態度にこちらの落ち度はないだろう。

 

 しかし向こうの言い分は……

 

「19日の事がなければ鶴亀に目を付けられず、態度の悪さも露見しなかった?

 そもそも俺がいなければ彼が気分を害することもなく、あの騒ぎも起こさなかった?

 ふざけてるようにしか聞こえませんね」

 

 確かに俺がいなければそうなったかもしれないが、仮定の話をいくらしても仕方がない。

 ましてや、だから自分の所のアイドルは悪くない! 悪いのは相手だなんて言い分が通るか?

 常識的に考えて、まず通らないだろう。

 それで彼の行動の全てを肯定していたら……?

 

 違和感を覚えた。

 

「……」

『葉隠様?』

「すみません。聞こえてます」

『大丈夫ですか?』

「はい。ただ何かがおかしいと思って……」

『おかしいと言えば何もかもがおかしく思えますが、具体的にどのあたりが?』

「あちらの言い分なんですが」

 

 アナライズも使って、考えたことを一字一句余さず伝えていく。

 

 “それで彼の行動の全てを肯定していたら……?”

 

 ここだ、違和感を覚えたのは。

 

 “彼の行動を全て肯定していたら”

 

 ……はたして光明院君の行動は肯定されているのだろうか?

 問題を起こすなと注意を受けているのは見たが、彼の態度は悪化していくばかり。

 マネージャーは形式的で心のこもらない謝罪を繰り返しているだけ。

 あまり厳しい指導を受けているようには見えないが、肯定というよりも放置に近くないか?

 そもそもマネージャーの態度といい、今回の抗議といい、光明院君のためになるのか?

 むしろ逆効果としか思えない。

 

「……もしかして、事務所は光明院君を潰したいのか?」

『潰したい。確かにそう考えるとオーバーワークも杜撰な対応も理解できますね。実際彼は優秀ですが、周囲からいい評価がありません。このままでは近いうちに業界に居場所はなくなるでしょう。

 しかしこのやり方では彼だけでなく会社の評判も落とします。記事が出てからの反応もやや早すぎますし、光明院君1人を潰すだけならもっと利口なやり方がいくらでもあるはず。何故わざわざ稚拙な手段を用いるのかが、私としては気になりますが……』

 

 近藤さんがそこで話を切る。

 どうも電話をしてきたそもそもの目的は、迎えを出したので支部まで来てほしいとの連絡。一応は正式に抗議を受けた事だし、目的がいまいち見えないので慎重に対応する。

 ということだった。

 

 今日は学校に行く予定だったが、このままいくと周囲からの追及が予想される。

 そこで俺が黙秘したら怪しい。記事をほとんど認めたも同然だ。

 かといって回答して、ネットに俺がこう話したなんて流れても面倒。

 Bunny's事務所がどんな言いがかりをつけてきても不思議でなくなってきたし……

 

「了解しました」

『ありがとうございます。学校の方にはこちらから連絡を入れておきます』

 

 今日は1日自習だな。

 この際だ自分のペースで授業の内容を進めておこう。

 あと順平たちには事情を伝えておくとして、部活のことは山岸さんへ。

 こっちも問題ないように連絡しないと……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 次の日

 

 11月25日(火)

 

 午前

 

 ~都内某所~

 

 先日オーディションを行った建物にまた訪れた。

 以前と違って人気がなく、がらんとしているエントランスを抜け、指定の部屋へ入る。

 すると、

 

「おはようございます」

『おはようございます』

 

 中にいたのはBunny'sとIDOL23のメンバーの一部。

 パラパラと挨拶に返事が返ってきたと思えば、

 

「あれっ、虎じゃん。何してんのこんなとこで」

「ああ、おはよう磯っち」

 

 以前共演した時と変わらず、Bunny's所属なのにやたらとフレンドリーな磯野がいた。

 

「いや、俺も呼ばれたんだよ。顔合わせと役柄の説明に」

「マジで? じゃあ虎もメインキャラに大抜擢なのかよ。俺らBunny'sとIDOL23、ぶっちゃけえこひいきされてるようなもんなのにスゲーな」

「自分で言うのかよ。ってか、俺“も”?」

「せんぱ~い……」

「!」

 

 気づけばIDOL23のメンバーの間から、久慈川さんが顔を出している。

 なんだかかなり緊張したオーラに包まれている。

 明るく声をかけてみよう。

 

「久慈川さんもいたんだ」

「いたよ、ずっと」

「そうそう。メインはウチとIDOL23で固めるって話だったんだけどさ~、なんかオーディションの結果で監督さんがどうしてもって言ったらしくて? 他所の事務所からメインに大抜擢された奴らがいるって聞いてたんだ。虎とりせちゃんの事だったのな!」

 

 おお……磯っちは心から笑っているみたいだが、周りは全然笑っていない……

 IDOL23は認めてる部分もあるようだけど、Bunny'sには完全に敵視されている感じ。

 正直、居心地が悪い。

 

 これは久慈川さんも委縮するわ……おっ。

 

「チッ!」

「フン……」

 

 光明院君と佐竹もいたけど、相変わらずのようだ。まるで取り付く島がない。

 こちらを睨みつけ、邪魔をするなとばかりに教科書らしき本へ没頭し始めた。

 昨日の鶴亀のせいか、周囲も様子をうかがっているみたいだし会話は無理だな……

 

「そういや虎、これ見たか? ネットニュース」

「これって俺が試合する予定だった相手が、逃げたって話?」

「その続報だよ。なんか今日になって選手本人が否定したらしいぜ」

「あ、それ私知ってる。なんか試合は上層部が勝手に断ったんだ! って自分のブログに書いてたんだって。いまネットで拡散されてるみたい」

「へー」

 

 そっちのほうは何も聞いてないけど……まぁ、なるようになるだろう。

 

 その後も時間まで久慈川さんや磯っちと話すことにした。




影虎はロイドからコラボ動画のデータを受け取った!
影虎はオーディションに合格した!
影虎はラスボス役になった!
久々に鶴亀が行動を起こした!
Bunny's事務所から抗議を受けた!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。