人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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287話 対戦相手決定

 11月26日(水)

 

 午前

 

 ~超人プロジェクト・日本支部~

 

 今日は朝から多数の打ち合わせ&極秘の連絡があるらしい。

 昼からは学校へ行くため、制服とカバンを持って支部を訪れると、会議室に通された。

 

「まずは一番重要と思われるものから」

 

 近藤さんから手渡された資料をめくると、“年末の試合について”と書かれていた。

 

「対戦相手が決まったんですね?」

「はい。本部と連絡を取り合った結果、この方が適任として選出されました」

 

 暗くなる部屋の中、起動したプロジェクターによって映し出されたのは……

 

「ウィリアムさん!?」

 

 なんと夏休みにお世話になった、ジョーンズ家のウィリアムさん。

 確かに彼も総合格闘家だけど、彼が?

 

「ウィリアム・ジョーンズ。葉隠様もご存知とは思いますが、彼は怪我の治療で休業していましたが今年の夏に復帰。復帰後の戦績は3戦3勝3KO。すべて第一ラウンド、一分以内で勝負が決しています。この結果には当人の元々の実力もありますが、夏の事件中にペルソナ使いとして覚醒したことが大きいと考えられています」

 

 ウィリアムさんのペルソナは“ゴライアス”。

 神話に出てくる巨人兵士の名を持ち、名前に負けない巨体を誇る。

 ウィリアムさん本人と同じパワー型で物理に特化していた。

 

「ペルソナ発現から検診と聞き取り調査を定期的に続けていますが、腕力とそれに伴う打撃力の向上。ペルソナの打撃耐性による耐久力向上も確認されています。候補者や試合を希望する方々はまだ何人もいたようですが……ペルソナ使いであり打撃耐性を持つ葉隠様と同等の条件で試合ができるのは彼だけでしょう」

「確かに」

 

 打撃耐性は常時発動のため止められない。

 普通の相手だと俺だけバレない防具を着ているような状態になってしまう。

 それがウィリアムさんならイーブンになると。

 

「ちなみに本部からこのような映像が送られてきています」

 

 切り替わった画面から流れた映像は、ウィリアムさんが大量に積み重ねた石のブロックや自然の岩を拳で破砕したり、トラックを牽引したり、軍人風の複数人を相手に無双している姿だった。相変わらず。いや、前よりもはるかにパワーが上がっている。

 

『ようタイガー! 元気にしてるか? こっちは見ての通りさ。ペルソナが目覚めてから俺は急に、前より強くなっちまった。ぶっちゃけ相手が弱く感じて仕方ないくらいだ! だから今度の試合の話は楽しみだ! 夏からお前が急成長してるのは聞いてるし、どんだけ強くなったか見せてみな!』

 

 そんな短いメッセージと共に、映像が終わる。

 

「ウィリアムさん……もしかして気も?」

「葉隠様が中国拳法を通して学んだ気について、報告された事はすべて本部にも送られています。彼はその情報と本部のロイド様に協力を得て独自に取り入れ、さらに腕を上げているようですね。路地裏の不良のようにはいかないでしょう」

「そうですか……」

 

 あれはあれで一般人にはそこそこ脅威になりえるはずだけど、確かに俺にとっては、戦えば既に勝ちが決まっているも同然の相手。

 

 しかしウィリアムさんの場合は違う。

 ペルソナ使いで打撃耐性を持つ条件は対等。

 戦闘経験はプロとして長年試合を重ねた彼と、1年間シャドウと実戦を重ねた俺。

 格闘と気の扱いなら俺が上だろうけど、ウィリアムさんも貪欲に取り入れている。

 

 元々の体格と怪力、さらにペルソナの後押しに気の力が加わるとなると……厄介だ。

 油断をすればあっさり負けても不思議ではない。

 

「嬉しそうですね」

 

 近藤さんに言われて気づく。

 自分の頬がわずかに吊り上がっていることに。

 そして、気分が高揚し始めていることに。

 

 話を聞いただけでこれなら、本番は金流会の手下に囲まれた時以上かもしれない。

 

「俺も、戦闘狂じゃない、とは言えなくなってきたなぁ……」

「自分を磨き、成長を確かめようと思うのはごく普通の欲求ですよ。理性を捨てず、対戦相手やTPOの分別がつくなら構わないと思いますが……30日にはアフタースクールコーチングのスタジオロケがあり、そこで対戦相手が正式に発表されます。知人であることは話しても問題ありませんが、表面上は取り繕ってください」

「気をつけます」

 

 現場で万が一テンションMAXになったら放送事故どころじゃないからな……

 

「さて次ですが、霧谷様から連絡がありました」

「! 久しぶりですね。何と?」

「長く連絡できずに申し訳なかったと。それから送った資料は葉隠様の役に立っているかどうか。そして以前相談していた葉隠様の痛みの原因となる呪いを調べる件について、準備が整ったので都合のつく日を教えてもらいたいとのことでした」

 

 !!

 

「呪いを?」

「確かにそう仰いました。こちらは可及的速やかに対応すべき案件として、最も早くスケジュールを空けられる明後日にと返答。明後日は1日オフにしました。問題ありませんか?」

「大丈夫です!」

 

 流石は近藤さんだ!

 明後日……とうとう悩まされてきた痛みについて、対処法が分かるかもしれない。

 

「そうだ、何かお土産というか、お礼の品か何か持って行くべきですよね」

「当日は菓子折りを用意いたしましょう。

 続いてはCraze事務所から。公開されたコラボ動画の反響が大きく、評価は上々。お礼の連絡に加え、またクリスマスのイベントにゲストとして出演しないかとお誘いをいただきました。

 アフタースクールコーチングの試合が12月の24日の夜。そしてCraze事務所のイベントがクリスマス当日の12月25日と連続して忙しくなりますが、このイベントはダンスや歌がメインとなるので、エネルギー回収のチャンスでもありますね」

「これは難しい……」

 

 ウィリアムさんが相手なら油断できない。

 少しでも練習時間をとって準備したいが、大量のエネルギーも捨てがたい。

 Craze事務所のクリスマスイベントといえば、かの有名な“Cステージ”。

 観客動員数は10万を超えるという超大型イベントだ。さぞ多くのエネルギーも集まるだろう。

 ただそのためには吸い上げる魔力の調整に、新たな道具の準備と用意が必要。

 

「う~ん……」

「返答が来月の頭までなら何とか対応するとのことで、あちらとしては出演を期待しているようですね」

 

 それはありがたいが……うん。もう少し考えてみよう。

 

「そしてCraze動画事務所からはもう一件。こちらは先日掃除の動画でコラボしたクリーンクリーン様から、宣伝のお礼が来ていますね。なんでも古本屋“本の虫”の老夫婦からお仕事の依頼があったとか」

「文吉爺さんと光子お婆さんから?」

「ええ、葉隠様からのご紹介だと。違うのですか?」

「……あっ」

 

 そういえばサバゲーの帰りに寄り道して、チラッと話した。

 

「引っ越し屋さんじゃなくて清掃業者さんだけど、不用品の買い取りもしてらっしゃるし、働いてる人はみんないい人だったって……確かに言ってた」

「古本・古雑誌にもコレクターがいるので、品と状態によっては買い取り可能。商品として取り置きする本が多そうですが、葉隠様の紹介ということで特別に倉庫への搬入まで対応していただけるそうです」

「それは良かった。作業はいつですか?」

「今週の土曜、29日のお昼からですね。参加されますか?」

「先方にご迷惑でなければ」

「ではその旨を連絡しておきます。連絡を受けた時の感触からして、おそらく大丈夫でしょう。

 あとはもう一つコラボ関連で、アンジェリーナ様との動画について。こちらも世間からの評価は上々。それに伴って葉隠様とアンジェリーナ様の関係も公となり、例の児童性愛者疑惑も解消されたと言って良いでしょう」

 

 提示された資料には、参考としてネットの評判が掲載されている。

 

『神』

『いや、天使』

『金髪碧眼の美少女キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』

『アンジェリーナたんhshs』

『髪がフワフワでいい匂いしそう』

『おまわりさんこいつらです↑』

『このロリコンどもめ!』

『見るべきはエレナちゃんだろうが!』

『お姉さんの方は大変良いものをお持ちで』

『特攻隊長裏山』

『KalafinaのStoriaとか、隊長の出す歌は相変わらず作曲者も歌手も分からん……』

『激しく同意。おまけに神曲ばっかりとか、どうなってんの?』

『金の力で有名アーティストに依頼、とか?』

『投稿ペース早すぎるわwどう考えても依頼してからじゃ無理。

 趣味でコツコツ書き溜めてたって言われた方が信じられる』

『隊長って作曲とかそっち方面もできたっけ? すぐ覚えて書いた感じ?』

『んなの無理無理wって、普通なら言うんだけどな……』

『頭から否定できないのが怖い』

『少なくとも作曲ソフトの使い方くらいは一日で覚えられると信じてる』

『そんなことよりお布施は!? お布施はどうやって納めればいいんですか!?』

『あー、あのサイト投げ銭機能ついてないんだよな……』

『隊長もコラボ相手の家族も、広告の収益化とかしてないしな』

『俺的には邪魔なく神曲を無料の高音質で楽しめて最高なんだけどね。

 ただ今回は俺も投げ銭したくなった』

『Storiaは圧巻だったな。3人のハモリが脳に突き刺さった』

『俺なんか最初の一言目で動けなくなった』

『高音質ノイズキャンセル機能付きのヘッドホンで雑音をシャットアウトして聞いてみろ。

 リピートが止められなくなるぞ』

『独特の世界観に引き込まれるよな』

『アンジェリーナちゃんがこれで小4というのが凄い』

『小4の歌唱力じゃないよな』

『A Whole New Worldはそのままデスティニー映画の挿入歌になってもおかしくない』

『なにそれ?』

『アンジェリーナちゃんのチャンネルに投稿されてる歌』

『隊長と自分の両方のチャンネルで別の歌を1つずつ投稿してるんだよ』

『この子自分のチャンネル持ってたんだ!』

『情弱乙。隊長のチャンネルに友達登録もされてるし、概要欄からも行けるよ』

『“コラボ”だから……一人だったり家族とだったり、色々歌って動画出してるよ』

『あの容姿と歌声だし、アメリカで人気急上昇中らしいぞ』

『だからいつも以上に動画サイトの外国人のコメントが多かったのか』

『例のプロジェクトで注目されてる隊長とのコラボだし、また人気爆上がりだろうね』

『つーかそもそもアンジェリーナちゃんが動画投稿始めたのは隊長がきっかけらしい』

『詳しく』

『アンジェリーナちゃんの動画見てくと1番最初の動画で、

 “知り合いのお兄さんが動画投稿を始めたそうなので、私もやってみたいと思いました”

 みたいなことを自己紹介で話してる』

『知り合いのお兄さん=隊長ってこと?』

『そういえばちょっと前のヘルスケア24時。

 検査入院中の隊長が小学生女子の動画を繰り返し見てたとかで、

 隊長がロリコンじゃないかって話がどこかで出てたよな? あれもこの子じゃない?』

『2人が知り合いなのはコラボの最初で前から友達的な事を言ってるからほぼ確定。

 どこでどう知り合ったとは言ってないけど、アメリカのスレッドではこの子、

 夏に隊長が巻き込まれた事件に関わってるって話題になってる。

 なんでも隊長が盾になって助けた女の子がアンジェリーナちゃんらしい』

『マジか!?』

『あっ(察し)』

『そういう繋がりだったのか……』

『隊長が動画投稿始めたから自分もやる。隊長がコラボしたから自分ともコラボ。

 アンジェリーナちゃんカワユス』

『幼女になつかれてる特攻隊長に嫉妬不可避』

『……隊長が盾にならなかったらこの子が撃たれてたってことだよな?』

『ちょ』

『この天使が撃たれる? 撃た、撃たたたた……イャアアアア!!!!!!』

『ヤベェ、確かにそういう事だよな』

『特攻隊長GJ!!』

『流石は特攻隊長!』

『よく大天使アンジェリーナ様を守った!』

『これは許すしかない』

『そもそもロリコン疑惑ってアンチとか荒らしの連中が勝手に言ってるだけでしょ』

『アンジェリーナちゃんの動画なら俺も昨日から超リピートしまくってるんだけど』

『私女だけど、純粋に歌声を楽しむ目的でリピートしてる』

『俺も。動画見てるだけでロリコン扱いされたらたまらんな』

 

 ……アンジェリーナちゃんの実力や俺との関係が広まったおかげだろう。

 CD化希望などの声が上がり始め、やがて俺の疑惑は忘れられたように話に出なくなった。

 

 それに安心すると同時に、いつもの痛みが襲ってきた。




影虎の対戦相手がウィリアム・ジョーンズに決定した!
ウィリアムは急速に力をつけている!
影虎の気分が少し高揚した!
霧谷君との連絡がついた!
影虎の呪いを調べる日程が決まった!
Craze動画事務所とのコラボ動画は評判が良いようだ!
影虎はイベントに誘われた!
古本屋“本の虫”の掃除を行う日程が決まった!
アンジェリーナとの動画も好評らしい!
影虎のロリコン疑惑が払拭された!

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