人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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291話 復縁の代償

 10分後

 

 ~廊下~

 

「ふぅ……」

 

 一仕事終わった。

 

 山根は結束バンドで手足を拘束し、空いていた控え室に放り込んである。

 またその際に除霊の札を当ててみたところ、あの霊が出たのでこっそり駆除した。

 とたんに山根が動かなくなったのには驚いたけれど、意識はあったし命に別状はない。

 周囲には捕まって観念したと見られたようで良かった。

 

 捕縛から放り込むまでの一部始終はDr.ティペットが携帯で撮影していたので、何か言われたとしても、必要以上に痛めつけていないことは証明できるだろう。

 

 ちなみに急に山根が暴れだした原因は、プログラミングで言うところの“バグ”。

 

 山根に取り付いていた霊には“光明院君を追い込む”ことのほかに“アイドルの子供たちを支配できる”という内容が含まれていて、そこがかなり重要なポイントだったようだ。

 

『途中まで順調に追い込めていた光明院君が予想外に復活して困っていたところに、これまた予定外に光明院君が独断で謝罪。つまり山根自身の指示を無視したことでいろいろ崩壊したっぽいです』

『なるほど……』

『? どうかしましたか?』

『山根については独自に調べを進めていたのですが、今の話を聞いて少し気になることが。後ほど確認を取ってからご報告します』

『了解。後のことはスタッフさんに任せましょう』

 

 魔術による密談を終えて、いまだ混乱の残るスタジオへ踏み込む。

 

「葉隠君! それにサポートの皆さんも、ご協力ありがとうございました」

 

 入るや否や番組プロデューサーが駆け寄ってきた。

 

「お疲れ様です。お互いに大変でしたね」

「まさかBunny'sのマネージャーがあんな男だったとは……この後に予定していた連絡はまた改めて、各事務所のほうにさせていただくことになりました。葉隠君は流石というか平気そうですけど、他の子が先ほどの件で動揺しているようなので」

「そうですか……」

 

 確かに一段落したとはいえIDOL23は全体的に恐怖や警戒が残っているし、Bunny's、特に霊に憑かれているであろう子たちは山根の本性を知って困惑しつつも、指示を出す山根がいなくなりどうしたらいいか分からない。という感じだ。

 

「そういうわけなので、今日のところはもう解散ということになります」

「承知いたしました。ではまた次の機会に、よろしくお願いいたします」

「お疲れ様でした」

 

 近藤さんと俺がそう言うと、番組プロデューサーは去っていく。

 そして入れ替わりに光明院くんがやってきた。

 

「葉隠。今、ちょっといいか?」

「ああ、俺は問題ないけどそっちは……」

「ゴタゴタしてるけど、お前には改めてちゃんと言っておかなきゃと思って。今日のマッサージとか、本当に助かった。あれがなかったら、撮影に参加できても満足のいく仕事はできなかったと思う。……これまで散々つっかかったのに……ありがとう」

 

 そして彼はもう一度頭を下げた。

 

「終わったことはもういいさ」

「……やっぱりな。そうだろうと思ったよ」

 

 予想? 何か少しニュアンスが違った気がしたけれど、気にするほどでもないか。

 そんなことより、光明院君のオーラが急激に力強いものに変わっていくのは何故?

 

「絡んだり怒鳴ったり睨んだりしてたのは本当に悪かった。でもこれだけは言っとくぞ、アイドルとしては(・・・・・・・・)負けねぇからな。お前がどんだけ天才でも、絶対に俺が上に行く」

 

 唖然……という言葉の意味を、たった今実感した。

 しかしどうやら彼の調子はようやく元に戻ったようだ。

 そしてようやく安心もできた気がする。

 

「これでこそ光明院光。ようやくそれらしくなったな」

「は? どういう意味だよ」

「お前ずっと噛み付いてきてたから、落ち込んだりしおらしくしてるのを見ていると調子が狂ってしょうがない」

「んなっ!? お前、人がせっかく謝ったってのに」

「別に馬鹿にはしてないさ。態度はアレでもアイドル活動に真剣なのは前から知ってたし」

 

 しかしこうして負けないと言いにくるなら、こっちも言わせてもらおうか。

 

「正直な気持ちを言えば、俺はアイドルになりたいとは思っていなかったし、熱意の面では負けると思う。だけど歌もダンスも演技も、より高い技術を身につけたいとは心から思うし、仕事としてやらせていただく以上はより高いクオリティーを提供する。そこに手を抜くつもりはない。

 ……勝ち負けをどう判断するかは知らないけど、同じ土俵に立つならそう簡単に勝たせる気も負ける気もないよ」

「上等だ。ドラマの撮影では見てろよ」

 

 数秒間にらみ合い、光明院君はオーラを滾らせたまま去るのを見送……あ、そうだ。

 ついでにもうひとつ言っておきたい事があったんだ。

 

「ちょっと待った」

「っ……何だよ」

 

 かっこよく別れようとしたところ悪いが、これだけは言っておかないと。

 

「この前から何か勘違いしてるみたいだから言っておくけど、お前、俺が歌や演技の才能を持ってると思ったら大間違いだからな?」

「は? 嫌味かよ」

「嫌味でもなんでもなく事実のつもり」

 

 確かに俺は技術習得が常人よりも圧倒的に早い。

 それは認めるけれど、それは俺に“才能がある”という意味ではないと俺は考えている。

 

 他人から見たら歌もダンスもあっという間に覚えてしまう天才。

 実際に俺はスキルを活用して覚えているし、十分に天才レベルに見えるだろう。

 だけど元から歌やダンスの才能を持っていたわけでは断じてない。

 

 今でこそ“演歌の素養”も習得しているけれど、それも技術習得の過程で手に入れたものだ。

 

「俺に才能があるとしたら、それは“効率化”の才能だ。普通とは少し違う脳機能をフルに使って情報を収集・記録し、徹底的に無駄を省いて自分の中の極限まで技術習得の効率を上げる。さらにそのための情報源。指導は幸いにも超人プロジェクトのおかげで超一流から受けられた。でも正直、俺は“実力で大きく差をつけている”とは思えない」

「……だからなんだよ?」

「才能だけならそっちの方がよっぽど持ってるって言ってんだよ」

 

 ボンズさんやアンジェリーナちゃん、Mr.コールドマン、エリザベータさん、アンジェロ料理長、Mr.アダミアーノ。帰国後もアフタースクールコーチングの関係でMs.アレクサンドラや久慈川さん。桐条先輩と……真田も。

 

 改めて考えると、今年は才に満ちた人々とたくさん交流してきた。

 だからこそわかる。というよりも感じる?

 

「お前は十分“才能のある”側の人間だよ。だから焦ってもまた体壊すだけだからやめとけ」

「そうかよ。まぁ、考えとく。じゃあな」

 

 ……俺の言葉は届いたのか? 光明院君は変な顔で背を向け、そのまま歩き去ってしまった。

 

「せわしないなぁ……」

「せ~んぱい!」

「うおっ!?」

 

 背後に久慈川さんがいた! 井上さんも近藤さんと一緒にいるし、てか何で離れてるの?

 

「いつからいた?」

「えーっと、先輩たちが青春ドラマみたいなこと始めた頃からかな。話の邪魔しちゃ悪いかと思って声かけなかったんだけど」

「青春ドラマって、そんなんじゃないだろ」

「結構いけてたと思うけど?」

 

 ……面白がってるな。人が一応真剣に話してたのに。

 

「……まぁ確かに、ライバル宣言はされたな。久慈川さんと同じように」

「うぐっ!? それ持ち出す!?」

「仕返しだ」

 

 わざとらしく笑って見せると、久慈川さんもわざとらしく怒る。

 

「それにしても……今日は最初から最後までバタバタだったね。私が先輩の楽屋に遊びに行ったら飛び出していっちゃうし、その後は撮影スケジュール変わるし、最後はアレだったし……」

「確かに」

「本当にお疲れ様。でも仲直りできたみたいで良かったね」

 

 ん?

 そういえば俺と光明院君は仲直りできた、ということでいいんだよな?

 謝罪も受けたし、ライバル宣言もされた。少なくとも前の関係には戻れたと思う。

 そうなると………………あっ。これヤバイ。

 

 顔から血の気が引いたのが分かる。

 それに反して心臓が激しく鼓動を打ち、全身に勢いよく血が巡る。

 

「近藤さん」

「は―。どう――まし――か?」

 

 耳鳴り……耳の血管を血が流れる音か?

 雑音で近藤さんの声が聞こえない。

 のぼせたように体が熱い。

 さらに訪れる、これまでの比ではないコミュの激痛。

 

(やっぱり……! 光明院君とのコミュが、リバースで一度に0になった力が一気に戻って)

 

 思考ができたのはそこまで。

 さらに強まった激痛と共に、目の前が暗くなった……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「……」

 

 目を開けると、点滴を受けていた。

 ここは……病室じゃない。

 

「気がついたかしら?」

「Dr.ティペット……ああ、ここ日本支部……」

 

 どうやら気絶中に、超人プロジェクトの日本支部まで運ばれたようだ。

 

「何があったか覚えてる?」

「光明院君とのコミュが戻って、痛みが一気に。その激痛で気絶したのかと」

「それだけ?」

 

 ? ほかに何かあっただろうか……

 

「あ、急に動悸と血流が激しくなったことも覚えています。その先は……」

「そう。痛みのせいでそれどころじゃなかったのかしら」

「何があったんですか?」

「あなた、倒れたときに血を吐いたのよ」

「!?」

 

 血を吐いた? 俺が? ……言われてみれば、なんだか鉄臭い匂いがする気がする……

 

「厳密に言えば鼻血なんだけどね。反射的に抑えようとしたんじゃないかしら? 出血量が多くて、一部が繋がった口からも出たみたい。同時に気を失ってしまったし、鼻血と分かる前にちょっとだけパニックが起きたけど、そちらはもうMr.近藤がフォローしてあるから心配しないで」

「ご迷惑をおかけしました……」

「これが私たちの役割だもの、迷惑なんてしてないわ。それより質問に答えて」

 

 Dr.ティペットの質問に答えていく。

 目が覚めてくると特に異常は感じない。

 しかし今度は自分自身が治療を受けることになるとは。

 

「……」

「どうでしょうか?」

 

「検査の結果は全部正常値。今見た限りでも特に問題ないようだし、この点滴が終わったら日常生活に戻っていいわ。夕方の撮影にも参加していいけど、無理は禁物。念のため私もついていくし、ほどほどにね」

「ありがとうございます」

 

 Dr.ティペットがいてくれて助かる。

 しかしコミュで出血するなんて……

 

「そのコミュというものがペルソナではなく、肉体に影響を及ぼしている可能性はないかしら?」

「と言うと?」

「以前入院して検査をしたときに“多血症”を疑われたのを覚えているかしら? 多血症によって鼻血やめまいが頻繁に起こることもあるから、医学的に考えれば今回の出血と関係している可能性はあるわ。だけどあなたの体には他にも色々な変化があるし……コミュも複数あるのよね?」

「コミュによって肉体(・・)が強化されている」

 

 ……それは正直、まったく考えたことがなかった。

 

「ドーピングの類には副作用が付き物よ。摂理に反して無理に肉体を強化したら、体に負担がかかるのは当然じゃないかしら?」

「……」

 

 正論だ。

 ……霧谷君と会えるのは明日。

 少し間に合わなかったけれど、命にかかわらない段階で連絡が取れてよかった……

 




影虎は山根を捕縛した!
影虎は山根に憑いていた霊を駆除した!
影虎はと明院君の関係が少しだけ良くなった!
影虎は光明院君とのコミュを復活させた!
影虎は復活したコミュの影響で、鼻血を噴いて倒れてしまった!

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