人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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294話 コミュの恩恵

 夜

 

 ~天城屋旅館~

 

 窓際の座椅子に体重を預け、ゆったりと。

 そして心は体の内側に満ちる力へと向ける。

 

 ……1つ1つを、しっかりと感じる。

 

 霧谷君による処置はコミュの痛みを取り除くだけに留まらず、いくつかの嬉しい効果もついていたようで……その1つが"コミュの認識”。

 

 これまでは体の痛みからコミュのある相手を判断していたが、旅館に帰ってから体内のコミュの力を、そしてそのコミュがどのアルカナで誰とのものなのかをはっきりと認識できるようになった。

 

 それを表にまとめると、

 

 愚者 :?

 魔術師:霧谷長船

 女教皇:オーナー

 女帝 :エリー・オールポート(エリザベータ・コールドマン)

 皇帝 :不良グループ

 法王 :江戸川先生

 恋愛 :?

 戦車 :葉隠龍斗&葉隠雪美

 正義 :Mr.コールドマン

 剛毅 :和田&新井

 運命 :久慈川りせ

 隠者 :ドッペルゲンガー

 刑死者:トキコさん

 死神 :アンジェリーナ

 節制 :?

 悪魔 :佐竹

 星  :光明院

 月  :ストレガ

 塔  :特別課外活動部

 太陽 :チームアメリカン

 審判 :?

 世界 :?

 

 ……こうなった。

 

 愚者、恋愛、節制、審判、そして世界はまだ該当者なし。

 魔術師の霧谷君、女教皇のオーナー、教皇の江戸川先生は納得。

 不良グループや和田と新井、トキコさんにアンジェリーナちゃんのアルカナも判明。

 久慈川さんと光明院君に佐竹も同じく、痛みでコミュがあるとは思っていた。

 

 しかし月、塔、太陽がそれぞれストレガ、特別課外活動部、チームアメリカ。

 これらは個人ではなく集団で1つのコミュだとは初めて知った。

 以前岳羽さんといる時に体が痛むことがあったが、それは彼女だけでなく他の面子も含めて。

 特別課外活動部コミュの一部、だったらしい。

 

 さらにコールドマン氏とアンジェリーナちゃんは個人でのコミュも持っているが、チームアメリカとして安藤家やジョーンズ家、サポートチームにアメリカの本部もひっくるめてまた1つのコミュである。

 

 さらにさらに……コールドマン氏もそうだけれど、女帝のエリザベータさんと戦車の両親に至ってはコミュがあることに気付いてすらいなかったので驚きだ。

 

 おそらくコミュが結ばれた当時はまだ、痛みが発生するレベルまでコミュの力が蓄積されていなかったのかもしれない。エリザベータさんの場合は夏休みだろうけど、両親とはもっと前からコミュがあったのだろう。全く気づいていなかった……しかしコミュによる力は確実にあると今は感じる。

 

 そして嬉しい効果その2。

 

 ゲームでペルソナを生み出す時の”経験値ボーナス”のようなものなのか、コミュによって俺自身の気や魔力の量が増大しているのを感じる。先日懸念として挙げられた肉体への影響は分からないが、スタミナが向上していることは間違いないと確信している。

 

 さらに嬉しい効果その3。

 

 霧谷君曰く、処置を受ける前の俺はコミュの力が十全に発揮されていなかった状態。そんな実感はなかったけれど、今は体の中から違和感が1つ消えたような、体の中で何かが噛み合った感覚がある。

 

 そしてそれは決して気のせいなどではなく、

 

 “吸魂”(吸血+吸魔)

 ・敵1体の体力と魔力を同時に吸い上げる万能属性魔法。どちらか一方だけでも吸える。

 

 “体術の心得”(拳の心得+足の心得)

 ・拳や足に限らず、体を使った攻撃の威力上昇。

 体を使う事に慣れ、効果的に使うコツを掴んだ証。

 

 “物理見切り”(打撃見切り+斬撃見切り+貫通見切り)

 ・物理攻撃に対する回避率上昇。単一の見切りより僅かに効果が高い。

 

 “精神耐性”(ヤケクソ耐性+恐怖耐性+魅了耐性+動揺耐性+恐怖耐性)

 ・精神系の状態異常にかかりにくくなる。

 

 これまで鍛えて身につけてきた多数のスキルの一部が統合され、別のより上位と思われるスキルへと変化していた。付け加えるならば全体的に技術がより習熟した感じもするし、これからも修練を続ければ、それぞれのスキルを“技術”として、単発ではなく組み合わせて使用することができるようになる……そんな確信にも近い予感がしている。

 

 ゲームのスキルを使う戦闘システムという制限から完全に解放されたような……

 もちろん前々から現実だとは思っているが、よりリアルになったと言うか……

 とにかく処置を受ける前とは大違い。恐るべき変化だ……

 

「様……葉隠様」

「! あ、はい。何でしょうか?」

「夕食の時間だそうですが、大丈夫ですか? 例の件で何か」

「いえいえ、体調は良すぎるくらいですよ」

 

 考え事に没頭しすぎたみたいだ。近藤さんの呼びかけに気づかなかった。

 

「で、お夕食ですか? どこに行けば?」

「今日のお客様は我々だけだそうで、一番景色の良いこの部屋に全員分を運んでもらえるそうです。皆も呼びますが、よろしいですか?」

「分かりました。ありがとうございます。お願いします」

 

 近藤さんの後ろに控えていた仲居さんへ声をかけると、彼女はかしこまりましたと一礼して去っていった……

 

 その後、女性部屋からハンナさんとDr.ティペット。もう1つの男性部屋からチャドさんとバーニーさんがやってきて、純和風の旅館の食事が楽しみだと語り合っていると……

 

「失礼いたします」

 

 旅館の仲居さんたちがお膳に乗せた料理を運んできてくれた。

 しかもその中には明らかに他の方よりも若い、中学生の“天城雪子”の姿がある。

 

『葉隠様、彼女が以前の報告にあった……』

 

 近藤さんからの質問に、その通りだと返答。

 

 彼女は失礼のないように料理を運ぶと部屋に長居はしなかった。そのため自然に声をかける暇もなかったけれど、こんな時期に俺のような年頃のお客は珍しいのか、それともテレビに出ていることを知っているのか、なぜかこちらを気にする様子が見られた。……もし機会があったら、それとなく声をかけてみることにしよう。

 

 ちなみに夕食は地元の食材を活かした、新鮮で美味しい料理の数々を味わうことができた。

 

 特に豆腐は美味しかった。確かここで使われているのは久慈川さんのおばあさんの作っていた豆腐のはず。明日帰りに買えたら買っていこう。 もし久慈川さんの都合が良ければ、お土産にしてもいいだろう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夕食後

 

 ~ベルベットルーム~

 

「ようこそ、ベルベットルームへ……今宵はまた異なる土地からいらしたようですな」

「月に一度しかないこの機会を逃すわけにはいきませんから」

「扉の場所をよくご存知のようで……では、今宵もごゆっくり……」

 

 船室の扉を開いて、甲板へ出る。

 するといつものようにドッペルゲンガーの姿が見えるが、様子がおかしい。いつもならばすぐに出迎えの言葉をかけてくるのだが、今日に限ってぼんやりと船首に繋がる鎖を眺めている。

 

「どうした?」

『……見てみろよ、あれ』

 

 言われた通りに船首の鎖を観察すると、明らかに前回まではなかった大きな傷が刻まれている。全体的に細かなヒビも増えているし、このままならいずれ切れるかもしれない。しかしたった1月でここまで変化した理由はやはり……

 

「霧谷君の魔術か……」

『その通り。それまで俺らも少しずつヒビは入れていたが、今日のたった一回でこれだ。一体あいつは何者なのか、なんであんな力を持ってるのか知らないが……不思議と信用はできる。状況的に信じるしかないっていうんじゃなくて、なんだろうな……変な確信みたいなものがあるんだよ』

「確信?」

『ああ。あいつは信頼できるって。失礼な話だけど、こんなに都合のよく問題を解決してくれる奴が現れるなんて、怪しく思っても仕方ないと思うくらいなんだが……不思議とそうは思わない。

 あいつが最初の手紙や今回の家に仕掛けていた術には気づけないし、今日使った術の詳細もほぼ分からない。だから例の組織みたいに思考を誘導する類の術を仕掛けているか? ……それもないと思う』

 

 ドッペルゲンガーは鎖から目を離さずに、1つ1つ確認するように呟く。

 

『俺はドッペルゲンガー。お前のペルソナであり、お前自身。我は汝、汝は我。だけど心の内側にいる以上、表層に出ているお前よりも少し、心の内側に敏感で、そのぶん多くの事に気づいている……つもりだった。

 だけどそれが施術で、また何かが解放されて気がついた……俺は知らない……分からない……霧谷が何者なのか。どうして信じられるのか。どうして俺が信じようと思えるのか。術に関してもさっぱりだ。これまで一緒にやってきて、それなりに急成長してきたと思っていたけれど』

 

 俺たちには、まだまだ色々なものが足りていない。

 

 それは言葉にされなくても痛いほどに理解できた。

 同時に、生き残ることを望むなら、理解しなくてはならないことも。

 

『少なくとも霧谷はあのクソ野郎が何をしたのか、最低限理解して対抗できる知識と力を持っている。霧谷も完璧じゃないらしいが、俺たちはそんな霧谷が何をしているかすら理解できていない段階だ』

「……たまたま霧谷君が協力的で力を貸してくれたから今回は何とかなったけれど、それはあくまでも力を借りられたから(・・・・・・・)。他にもたくさんの人の手を借りているし、今更自分の力だけで生き抜くとは言わないけれど、現状の力不足から目をそらすわけにもいかないな」

 

 ドッペルゲンガーは深く頷く。

 

 呪いが一部解けたのは嬉しいけれど、同時に自称神や霧谷君との力の差も明らかになった。

 そこから目をそらして“めでたしめでたし”では来年生き残ることなど不可能。

 それを俺に、そして自分自身に戒めるための時間だったのだろう。

 

『さて……ずっとこうしてても仕方ねぇし、いつも通り情報交換でもするか。先は長く感じるが、悪いことばかりでもないぜ。俺たちが新しく使えそうな魔術を思いついた。タイミング的にこれもコミュの力を解放してもらえたおかげだろう。

 便利そうだけど使いこなすにはかなりの知識も必要になりそうだし、クソ自称神の力に魔術で対抗できることも分かった。これからは魔術開発や習熟と魔術に力を入れてもいいかもしれないな』

「ああ、年末の試合が終われば格闘技の方も一区切りつくしな」

 

 ドッペルゲンガーはいつも通りに戻り、俺たちは魔術について語り合う。

 同じ目的を目指して、時間が来るまでアイデアをぶつけ合い……

 気づけばコミュも上がっていた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 深夜

 

 ~天城屋旅館・自室の窓の外~

 

 姿を消して庭から進入。

 部屋の窓を軽くノックすると、近藤さんが掃き出し窓を開けてくれたので素早く中へ入る。

 

「おかえりなさいませ。遅かったですね」

「すみません。少々気になることがありまして」

「ベルベットルームというところで何か?」

「いえ、ドッペルゲンガーとの対話で出た案はすぐにでも試したくなるほど実現の可能性があり、本当に実のある話でした。その件については後で詳しく説明します。あとそっちに関連してエイミーさん、Ms.ジョーンズの力を借りたいので連絡をとる準備をお願いしたいのですが、とりあえずそれは後回しで、まずは聞いていただきたいことが」

「かしこまりました」

 

 それはベルベットルームを出てすぐの事だった。

 今日の収穫に心を躍らせながら、人目を忍んで変装し、さぁ帰ろう! と思ったその時。

 中華料理店の“愛屋”から酔ったサラリーマン風の男が2人、肩を組んで出てきた。

 その時点では別に気にしていなかったが、すれ違った後にその会話が聞こえてしまった。

 

「うぅ~まだ飲むぞ! おい! もう一軒行くぞ!」

「はいはい、スナック紫路宮でいいですね? 先輩」

「たりめーだ! この辺に他にねーだろっ!?」

「ですよね」

「だいたいなぁ……飲まずにやってられるかよ! あれもこれも、全部“霧谷のガキ”が勝手なことをしやがるからだ!」

 

 ……と、

 

「それは、あまり穏やかではなさそうですね? あの霧谷君のことでしょうか?」

「結論から言うと、まず間違いなくお世話になっている霧谷君です。苗字だけでは同一人物か分からず気になったもので、後をつけて同じスナックに入り、話を聞いてきました」

「だから遅くなったのですね」

「ええ……幸か不幸かお店が狭くて、席が隣り合ったので本人から直接。あとお店の人からも少々……で、その話なんですが」

 

 ほとんど酔っ払いの愚痴なのでどこまで正確かは分からないが……現在、八十稲羽市で着々と進んでいる“ジュネス建設”に対する反対運動が水面下で広がっているらしく、その火付け役となってしまったのが霧谷君だという。

 

「反対運動自体はだいぶ前に一度行われ、自治体と地元の商工会や代表者の協議を経て一度収まりました。しかし前回の段階で納得しきれてはいなかった、押し切られてしまったが不安を抱えていたという人たちがいたみたいです。

 そして霧谷君は以前俺と契約をした時に話してくれた通り、八十稲羽の現状を懸念して行動を起こした。俺に動画作成と宣伝を依頼して、作物が注目を集めている内に自分で地元の農協や農家の方々に直談判して回ったりもしていたそうです。こちらはスナックのママ情報」

 

 曰く、自分のところで取り扱っている作物が動画のおかげで注目を集めた。

 大量の注文が次々と来ているが、販売も生産も自分のところだけでは手が足りない。

 そこで手や畑の空いている人のところで野菜を増産してもらいたい。

 幸いにして自分のところの人気が出ている作物は育つのが早い(・・・・・・)

 作物を代わりに作ってもらい、それを売った利益を分配する。

 

 おそらくすべて計算の上だったのだろう。

 作れば確実に売れる、成長も早くてすぐにお金に変わる野菜という武器を手にして交渉。

 ネットの評判も効果的に使い、中学生とは思えない行動力で協力者を集めることに成功。

 事前にプロ向けの栽培マニュアルも用意してあったらしく、勢いがつけばあっという間に。

 そして関係者全体に利益のある八十稲羽の野菜増産とネット販売の体制を作り上げていた。

 

「体制ができたことに伴って品薄や騒動は落ち着きましたが、関係者は今も好景気の真っ只中。ビニールハウスを所持している農家は野菜を増産していますし、そうでないところも春からの注文や予定が詰まって、農協では野菜のブランド化も進められている状態だそうです」

「なるほど。彼はうまく目的を達成したようですが、それが反対運動を再燃させてしまう結果につながったと」

「そうなんです……」

 

 霧谷君の誘いに乗った農業関係者は野菜の新たな売り先を手に入れ、すでにある程度のお金も手にしている。そして噂の早い田舎町……あっという間に霧谷君はその努力と熱意を認められ、盛大に褒め称えられた。

 

 しかしそれは経営者の立場の人に、ジュネスができた後への危機感を覚えさせることにもなってしまった。そして話は反対運動の再燃へとつながる。

 

「どうもその酔っ払いはジェネス建設を押し進める自治体側の人間らしく、もうすでに建設も大部分が進んでいるということで止められないと。今更余計なことをして混ぜ返されるのは迷惑だという気持ちはまだ分からなくもないですが……」

「きっかけにはなったかもしれませんが、反対運動に参加しているわけでもない霧谷君を敵視するというのはいただけませんね。酒の席の勢いというだけなら良いのですが」

「全くです。……この件、少し注意しておいてもらえませんか?」

「かしこまりました。話がどう転ぶにしても、霧谷様はすでに重要人物の1人ですからね」

「ありがとうございます」

「とりあえずは明日帰る前に一度挨拶をして帰りましょう。それからまた次回の約束を」

「長期休暇は部活の合宿とか理由をつけて、ここで過ごすのもいいかもしれませんね」

 

 霧谷君に関する不穏な噂話を共有した。

 何もなければ、何もないのが一番いいが……




影虎はコミュの恩恵を完全に受けられるようになった!
影虎はコミュの恩恵の詳細を把握した!
(レベルアップボーナス+技術向上)
影虎はドッペルゲンガーと目標を新たにした!
影虎はドッペルゲンガーから魔術に関する助言を得た!
影虎は霧谷君に関する噂を聞いた!
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