人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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295話 目利き

 翌日

 

 11月29日(土)

 

 朝

 

 ~天城屋旅館~

 

「お世話になりました」

「またのお越しをお待ちしています」

 

 チェックアウトの時間。

 4では凄惨な事件以降体調を崩していたか何か、理由は良く覚えていないが、旅館を娘と他の仲居さんに任せていた……? 今からすると未来の事なので過去形はおかしいか?

 ……なんか面倒くさい。

 

 とにかく天城雪子によく似た、母親だと思われる美人の女将さんに対応していただいた。

 そしてそのまま見送っていただき、旅館を後にする。

 

「すみませーん! お客様!」

「あれ? たしか葛城さん、どうかされましたか?」

 

 表に出たところで呼び止められた。

 

「葛城さん? どうしたんですか、お客様の前で騒々しい」

「女将さんすみません。でも少しだけお待ちを……ほら! 雪ちゃん早く早く!」

「ま、待って!」

 

 あ、中学生の天城さんが急いでこっちに走って来ている。

 色紙のようなものを持って、大慌てで。

 しかも和服なので走りづらそうだし、なんだか危なっか――

 

「あっ」

 

 ほらやっぱり!

 

「っと、大丈夫ですか?」

「えっ……!!」

「ぬおうっ!?」

「あっ! ごめんなさい!?」

「だ、大丈夫。当たってないから……ハハ」

 

 走り方が危なっかしいと思っていたから、転びかけた天城さんを支えるのには間に合った。

 しかしその際、少々顔が近づきすぎたのか天城さんがとっさに距離を取ろうとした。

 そしてたまたま持っていた色紙の角が俺の目元を一閃。

 危うく目潰しを食らうところだった。

 

 物語の世界なのに、物語のような恋の始まる予感なんて欠片もないな……

 

「大丈夫ですかお客様!?」

「ええ、問題ありません。こちらこそ失礼しました。お怪我はありませんね?」

「はい! ありがとうございます……」

「本当にすみません、うちの娘が」

 

 と、このままでは謝罪で空気が悪くなってしまう。

 

「ところで、何かありましたか?」

「そうでした。雪ちゃん」

「この流れで!? う……さっきは本当にごめんなさい! それで、私の友達が葉隠さんのファンで、最近ずっと足技が凄いって話してて」

「あ、サインですね。わかりました。大丈夫ですよ」

 

 色紙とファンという発言からして間違いないと思ったが、やはり当たっていたようだ。

 あと友達で足技なら渡す相手は彼女だろうね。

 葛城さんは天城さんが言い出せないのを察して一肌脱いだとかだろう。

 ……あとで女将さんには怒られるみたいだ。

 

「はい。これでどうでしょう?」

「ありがとうございます! それで本当に」

「ああ、もう本当に大丈夫ですから。それよりそう遠くないうちにまた来ると思うので、次もよろしくお願いします」

「あっ、はい、またのお越しをお待ちしています!」

「!!」

 

 体の中に湧き上がる力……だがここで固まっているわけにはいかない。

 勢いで別れを告げ、条件反射気味に返事をした天城さんの前から立ち去る。

 

「まさか……」

「葉隠様?」

「近藤さん。近いうちにまた八十稲羽に来ようとは話していましたが、思ったより濃密な関係になるかもしれません。たった今、運命のコミュに彼女が追加されました」

「運命というと久慈川さんの……なるほど、運命も集団で1つのコミュだったのですね」

「推測ですが、再来年の事件の関係者かと。その内、これまでは久慈川さんとしか接触していなかったから、彼女だけのように見えたのだと思います」

 

 ……これは3だけでなく4のキャラとも絡むことになりそうだ。

 八十稲羽にいるキャラならともかく、直斗や陽介はどうなるんだろうか……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 昼

 

 ~巌戸台商店街~

 

 帰ってきたぜ巌戸台! そして、

 

「こんにちは!」

「おっ! 来たね葉隠君」

「お疲れ~」

 

 古本屋・本の虫の前に止まっていた車の傍で、これから始まるであろう作業の準備をしていた方々。先週のコラボ動画でお世話になった清掃業者“クリーンクリーン”の皆さんへと声をかける。

 

 今日は彼らに交じって、本の虫の店内を片づける手伝いをする日である!

 

「おや! 虎ちゃんじゃないか。本当に来てくれたんじゃのぅ」

「文吉お爺さん、今日はよろしくお願いします」

「ありがとう。頼りにしとるよ」

 

 ということで……まずは準備から。

 

 服装は働きやすいTシャツとズボン、そして八十稲羽で買った地下足袋。

 地下足袋は新品だけど物が良いのか、かなり動きやすくていい感じ。

 試し履きからかなり気に入って履いてきた。

 

 そして今回の仕事では店の中を片づけるが、前回のゴミ屋敷とは違い運び出される物の大半は商品でもある“本”になる。

 

「今回はまずお店の本のジャンルごとに分け、それをさらに大きさごとに箱詰めして搬出、貸し倉庫へ送りますが、全ての本は入りきらないため一部は処分。こちらで買い取りが可能なものは買い取りをさせていただくことになっています。処分本とそれ以外の基準は――」

 

 社長から分別の細かい注意を受けて、いざ仕事に取り掛かる。

 

 

 ……

 

 

「葉隠君、そっちに箱あるかな?」

「あります! どうぞ」

「ありがとう。課長ー! 箱の消費が早いから、外で箱どんどん組み立ててくれる?」

「分かりましたー」

 

 開始10分で早くも大きな棚が片付きつつある。

 

「今日は普段と比べると楽っすね」

「古そうではあるけど掃除とかお店だからきちんとしてあるねー」

「棚の中身ももうほとんどジャンルごとに揃ってるし、ありがたいけどちょっと張り合いがないね」

 

 普段の現場と比べて余裕があるようで、和気藹々と作業が進むなか。

 

「あれっ?」

 

 引き出した本の隙間から、珍しいものが出てきた。

 処理の方法も説明がなかったので、一度確認しよう。

 

「文吉お爺さーん。すごく古い雑誌が出てきたんですけど、これはどうしたらいいですか?」

「古い雑誌? ……おお! 懐かしいのぅ。しかしそれは売れんから資源ゴミとして捨てておくれ」

「わかりました」

「ちょっと待った!」

 

 資源ごみの袋にまとめようとしたところで、買取担当の専務からストップがかかる。

 だいぶ慌てた様子で見せて欲しいと言われたので手渡すが……

 

「専務さん、それ買い取りできるんですか?」

「ああ、これは良いものだよ。古い雑誌にもコレクターがいるからね。価格は雑誌の種類や年代、状態などにもよって変わるけど、1980年代以前のものになるとぐっと価値が上がるんだ。買取価格で大体千円~1万円ってところかな」

『1万円!』

「ほう……こんなに古い雑誌がそんなにするのかい?」

「ええ、間違いなくお宝ですよ」

これくたぁ(コレクター)という人はすごいんじゃなぁ」

 

 専務と文吉お爺さんがそんな話をしている間に、俺は興味本位で周辺把握に集中。

 専務の手元にある雑誌を参考にして、同じような形状のものを探してみる。

 

「!」

 

 すると店の奥に雑誌らしき反応が多数。数箇所に集まっているのを感知した!

 

「文吉お爺さん。こういう昔の雑誌はまだあるんじゃないですか?」

「ん~……残念じゃが、雑誌は毎週、毎月大量に新しいものが売り出されるじゃろ? 流行り廃りも早いから、うちではあまり取り扱わないのぅ……持ち込まれても値段はつけても50円くらい。ほとんど代わりに処分するだけなんじゃよ、虎ちゃん」

 

 ……文吉お爺さんは本当に心当たりがなさそうだ……

 

「そうですか……でもなんとなくありそうな気がするんですけどね。店の奥の方に」

「店の奥? 確かに奥にもここに置ききれない在庫はあるが……」

「古い雑誌ならありますよ」

「!」

「おや? そうじゃったかの? 婆さんや」

「嫌ですよお爺さん。昔から古い雑誌が持ち込まれると、懐かしがって奥に持っていくのはお爺さんじゃありませんか。あとはそのまま押入れの中に溜めているでしょう?」

「おお! そうじゃったそうじゃった!」

「すみません。本当に昔の雑誌が他にも? 差し支えなければ見せていただきたいのですが」

「お爺さんも忘れていたようですし、買える本は全部買ってもらえると私も助かるわ。量も多いし重くて片付かなかったの」

「そんなにですか。葉隠君、手伝ってほしい」

「了解!」

 

 こうして光子お婆さんに案内された店の奥の押入れからは、なんと押入れの4分の1を占める古雑誌の山が発見された。

 

 それを見た専務は、

 

「おおおっ! これは凄い! 1972年! こっちは1968年! しかもどれも古いわりに美品だ!」

「私たちは本を売って生活をさせていただいていますからねぇ……」

「なるほど。ところで専務さん、ここからどうしますか?」

「そうだね……まずこの山のような雑誌をタイトルごとに分けようか。それから発行された年月日順に並べなおす。単体でもそれなりに値がつくけれど、何冊も揃っているとまた値が上がる要因になるんだ」

「了解! そういう作業は得意分野なので任せてください!」

 

 周辺把握とアナライズ、スクカジャまでフル活用。

 タイトルごとと年月日順への並べ替えを同時に、丁寧かつ素早くこなす。

 その速度は専務が押入れから次の本の山の一部を取り出すまでに、受け取った分が片付く程度。

 

「葉隠君、ちょっと待って、これ僕の方が追いつけない!」

 

 押入れの下段に入って中腰での高速作業は、少々お年を召している専務には辛かったらしい。

 速度を緩め、のんびり作業を進めることにすると、作業をしながら会話をする余裕ができる。

 そして専務から査定のポイントなどについて詳しい話を聞かせていただいたところ、

 

「!」

 

 唐突に体の中に芽生える力……新しいスキル“財宝ハンター”を手に入れた!

 

 MAP上……周辺把握の範囲内にある“宝箱”の位置が分かるスキルだけれど、なんと目の前にある古い雑誌や隙間に落ちている小銭など“隠された価値のあるもの”にも反応するようだ!

 

 これはうまく使えばひと稼ぎできるかも? と思ったが、今となっては超人プロジェクトの契約で金銭面に不安はない。タルタロスの宝箱なら周辺把握だけでも見つけられていたし、微妙に残念感が漂っている気がする……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 そして夕方。

 

 途中俺やクリーンクリーンの皆さんが撮影をしているということで野次馬が集まったり、休憩中にファンサービスをしたり、商品の搬出(倉庫への移動)に時間がかかり、急遽超人プロジェクトの支部に搬出用の車と人手を要請したり、商店街の方々から差し入れをいただいたりと色々あったが、無事に本の虫の清掃作業が完了した。

 

 現在の店内は本棚も全て撤去され、完全に空っぽの状態になっている。

 文吉お爺さんと光子お婆さんはこれまでの日々を思い出しているのか、感慨深そうだ。

 

「間に合ってよかったのう、婆さんや」

「はい。これで心置きなく建て直せますね、お爺さん」

「虎ちゃん。この人たちを紹介してくれて、その上片付けも手伝ってくれて、本当に……ありがとよぅ」

「来年、お店を開けたらまた来て頂戴ね。その時は改めてお礼をしたいわ」

「来年と言わずいつでも来てくれていいんじゃよ? 明日も明後日も、店は閉めていても儂らはここにくるからの」

 

 そっと握られた文吉お爺さんと光子お婆さんの手から、感謝と信頼の気持ちを強く感じた!

 また時間を見つけて来てみよう。




影虎は天城雪子と会話をした!
天城雪子が運命コミュに加わった!
影虎は八十稲羽を後にした!
影虎は古本屋・本の虫の掃除に参加した!
影虎はスキル“財宝ハンター”を手に入れた!
影虎は作業の合間にファンサービスをした!
文吉お爺さんと光子お婆さんからの信頼がガッチリ固まった!

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