人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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300話 気配

 昼休み

 

 ~生徒会室~

 

 落ち着いて昼食を食べたかったので、生徒会室を使わせてもらう。

 

「こんにちは~」

「あっ、葉隠君! その荷物はお昼だね?」

「テレビでの活躍は良く見ているが、顔を合わせるのは久しぶりな気がするな」

「あまり生徒会に参加できなくて申し訳ないです。席借りますね」

 

 机を見る限り、会長と副会長は食事をしながらも何かを話し合っていた様子がうかがえる。

 相変わらずの忙しさと、それに対応する2人には頭が下がる。

 

「葉隠君も遊んでるわけじゃないんだから、気にしなくていいよ。それより年末の試合! あと1ヶ月ないね!」

清流(しずる)、その言い方は不要なプレッシャーになるんじゃないか?」

「大丈夫ですよ副会長。いまさらその程度で心を乱したりしませんし、どのみち本番に向けて調整をしていきますからね」

「ならいいが……そうだ、食べながらでいいので1つ聞いてもらえないか」

「はい、何でしょう?」

 

 副会長が話題に出したのは、来年の卒業式について。

 

「式自体は先生方とも打ち合わせをする必要があるんだが、生徒の希望が多くあれば、ある程度プログラムを変更して独自性のある式にもできるんだ。実際にやった例はあまり多くないが、今年は清流が思い出に残る式をしたいと言うんでな」

「私や武将の卒業式でもあるからね~。やっぱ最後は楽しく、思い出に残る式がいいじゃない?」

「そういえばお2人も卒業でしたね……」

 

 始めは成り行きだったけど、それなりに関わりを持って思い出もある。

 そしてたった一年でもお世話になった先輩が卒業することに寂しさを感じた。

 俺にできることなら協力したいが……

 

「何をすれば?」

「うむうむ。何も聞かないうちから前向きに検討してくれる後輩を持てて嬉しいよ。

 問題は卒業式で何をするのかなんだけど、卒業証書授与とか絶対に抜かせない行事もあるし式には父兄の方々も来るでしょ? あまり奇抜すぎるのは人を選ぶし、スベるとアレだしさ……ということで万人受けする企画の候補として、“特別な卒業の歌で祝う”っていうのがあってね」

 

 あ、察した。

 

「俺に歌えと。曲も何か用意して」

「話が早くて助かるよ。ぶっちゃけ今人気の葉隠君とのツテありきの企画なんだよね、これ」

「清流が言った理由で色々と制約があってな……候補1つ出すにもなかなか困る」

「さらにそれを実現するためには生徒や教師から賛同を得なければならない。ってなわけで、数少ない候補にして最有力なんだよね」

「なるほど……分かりました、いいですよ」

 

 俺がそう返答すると、2人は目を見開いた。

 

「えっ? いいの? 本当に」

「新しい卒業式ソングにもいくつか心当たりはありますから、近藤さんに連絡してスケジュールの都合をつけてもらえば大丈夫でしょう」

「頼りにしていた我々が言うのもなんだが、新曲の権利関係や出演費用などそちらも色々あるだろう?」

「一言連絡すれば大丈夫だと思いますよ。卒業式は来年の3月ですから、まだスケジュールも埋まってないでしょうし、ネットに流してる歌やステージに関してはある程度自由と決定権をもらってるんで。

 そもそも俺の活動は格闘技がメイン。芸能活動は超人プロジェクトの“広告塔”。というのが基本のスタンスなので、収入が目的じゃないんです。プロジェクトのスポンサーが大富豪ですし、お金よりも名前を売る機会の方が重要と考えているみたいで」

 

 だいたい新曲って全部俺がトキコさんの協力を得て再現してるものだから権利とか今更だし、ステージの目的は売名+エネルギー回収だからね。極端な話、スケジュールさえ合えば全国ツアーを無料でやっても構わないらしい。

 

 以前の学園祭で回収したエネルギーも本部で分析・研究されているらしい。

 エイミーさんの言葉を借りれば、エネルギー科学の革命だとかなんとか。

 将来的に膨大な利益を生む可能性もあって……そういや今どこまで研究が進んでるんだろう?

 

 っと、いけない、思考に没頭するところだった。

 

「とりあえず近藤さんにメールしておきます。細かい話は電話か、今日の夕方に時間があれば学校に来ますからその時に」

「分かった」

「協力に感謝するよ、葉隠君」

 

 その後、昼食を食べた残り時間で片付けられる生徒会の仕事を片付けた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~部室~

 

「さて、今日から試験期間で部活動はないわけだが……声かけてないのに集まったなぁ」

「いやー、やっぱ俺らも勉強しないとと思ってさー」

「順平、声に感情がこもってないじゃん」

「あはは……」

「ま、順平もそうだけど俺らもうかうかしてられないっつーかさ」

「そう思えるようになっただけでも友近、成長したね」

「結局葉隠君や桐条先輩頼みなのに、岩崎さんは優しいね~」

 

 もはや恒例。

 試験前の勉強会メンバーが自然と集合していた!

 せっかくなので長机と椅子を用意し、勉強できる場所を作りながら皆話している。

 

「ほ、ほら! 葉隠君や桐条先輩を頼りにさせてもらうのは私たちも変わらないし!」

「まぁ、そうなんだけどね~……特に今回は例年より全教科の難易度上げるらしいし」

「そうなのか?」

 

 島田さんに聞いたつもりだったが、深い頷きが1年の全員から帰ってきた。

 

「聞いた話だと、今年は葉隠君に100点取られまくったかららしいよ?」

「100点を阻止するための問題を入れたり、他のも軒並み難しくするとかマジ勘弁って感じ」

「学校の掲示板でも不満が爆発しているみたい。先生たち意地が悪い! って」

 

 島田さん、岳羽さん、山岸さん。

 このメンバーでは情報通な3人が教えてくれる。

 おかげで状況は理解できたが……はたして本当に先生の意地が悪いのだろうか?

 

「どういうことですか? 先輩」

「テストを難しくする理由によっては、先生の意地が悪いとは限らない。……そうだな。天田は学校のテストって何のためにやると思う?」

「それは、成績をつけるためじゃないんですか?」

「間違いじゃない。なら、成績をつけるためにどうしてテストを行う? 順平」

「うえっ!? 俺!? あー……考えたことねーわ……」

「“授業で学んだ内容の理解度を測るため”だな」

 

 おっと。答えが出そうにないからか、桐条先輩が苦笑いを浮かべて代わりに答えてくれた。

 

「さすが桐条先輩。先輩の言った通り、テストは生徒の理解度を測るために行われる」

 

 それが何故かというと、生徒が理解している所、理解していないところをハッキリさせて、理解度を上げるため。さらに何故生徒の理解度を上げるかと言えば、生徒の将来のためだろう。

 

 小学生なら中学。中学生なら高校。高校生なら大学。

 学校の勉強はどんどんと、前段階の内容が次を理解する下地になることが増えていく。

 さらに進学の際には入学受験、大学受験など、人生を左右する試験も存在する。

 

「もちろん受験や勉強が人生の全てとは言わないが、今の時代は“大学くらい出て当然”みたいな風潮もある。いざ試験を受ける段階で理解度が低い、つまり実力不足にならないように、先生方は生徒の理解度を測って、その向上を測るわけだ」

 

 次にテストを難しくする理由だが、簡単すぎるテストでは“生徒の実力が正確に測れないから”。

 

 

「テストの理想は生徒の点数と人数をグラフにした時、きれいな山の形になる事とされていて、0点も100点もない。あるいは少なくて、平均点あたりの人数が最も多くなるように難易度を調整する。

 またその中に様々な難易度の問題を組み合わせることで、生徒がどこまで、本当に理解しているのかを探るんだ」

「うわっ、超面倒臭そう」

「あれ? そうなると兄貴が毎回作ってる問題集もまさか?」

「あれは各単元ごとに問題をまとめて、次にそれで間違えたのを個人ごとにまとめてるだけだからそうでもない。ただ最後の予想問題は同じだな」

 

 和田と新井はとりあえず“すごい労力がかかっていた”と考えたのだろう。

 やや申し訳なさそうに感謝の言葉を告げてきた。

 

「まぁ好きでやってることだから別に、な? それよりここからは推測が入るんだけど、次のテストの難易度を上げる正当性について」

 

 先ほど話した通り、簡単すぎるテストでは意味がない。

 しかしそれはこれまでも同じで、考慮された内容だったはず。

 ならばなぜ突然難易度を上げることになったのか?

 

 それは、もしかしたら俺が原因ではないだろうか?

 実際そういう噂も流れているらしい。

 ただ、俺1人が100点を取っているだけならまだ構わないだろう。

 だが俺は前回、成り行きでクラスの皆にも少し勉強を教えたこともある。

 ネットで勉強動画を公開したり、こうして勉強会を開き予想問題を作ったりしている。

 それにより一夜漬けでもある程度の成績が取れてしまうことを先生方が危惧しているとしたら?

 

「つまり葉隠君が皆に教えたテクニックやヤマで、生徒の実力が正確に測れないかもしれないから、先生たちはテストの難易度を挙げて本当に勉強している人や、正しい理解度を確かめよう、ってことかな?」

「いま山岸さんが言った通りじゃないかと俺も思う。

 正直たかが俺1人のせいでと思わなくもないけど、最近は何かと注目されたり知らずに影響与えてることもあるし……今回は全科目で難易度が上がるんだろ? だったら特定の先生の私怨ではないと思う。だいたい嫌がらせにしては手間がかかりすぎるし」

「そっかぁ~……」

「ふふっ、諦めてしっかり勉強することだな」

 

 桐条先輩は余裕の微笑みで話をまとめた。

 

 ……そういえば何度も勉強動画を出しているが、改めてテストの意義について話したことはなかった。次の題材にいいかもしれない。サブタイトルは……“先生は敵じゃない!”といったところでどうだろうか?

 

 あとで山岸さんに提案するとして……心機一転、 勉強を始めよう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夕方

 

 みんなと勉強を続けていると、

 

「こんにちはー! あ……お邪魔だった?」

 

 なんと部室に目高プロデューサーが訪れた。

 今日もこの後、アフタースクールコーチングの撮影が控えているけれど、まだ時間はあるはず。

 何かあったのだろうか?

 とりあえず応接室に案内して話を聞いてみる。

 

「実は次のサブ課題のことで相談したいことがあってね。相談というよりも、大人の都合でほぼ確認なんだけど……」

 

 サブ課題というと、百人一首やバック転のようなやつか。今度は何だろう?

 

「次はギネス記録繋がりで“1時間で何回懸垂ができるか?”っていうのをやろうとしたんだけど、体力系の課題はこれまでずっとクリアされているし、試合を控えた体に負担になるんじゃないか? ってことで、上からストップがかかってね。

 代わりに頭を使うサブ課題が提案されたんだけど、それが……」

「それが?」

 

 今日のプロデューサーは歯切れが悪い。

 精神面は困惑? そんなに意味不明なのだろうか?

 

「……センター試験、って聞いたことない?」

「それは知っています。というか有名ですし」

 

 センター試験。正式名称は“大学入学者選抜大学入試センター試験”。

 独立行政法人大学入試センターによって行われる、全国共通の大学入試。

 毎年ニュースにもなるし、高校生なら近い未来のこと。

 知っていて当然だろう。

 

「だよね。ならこれも知っていると思うけど、センター試験には模試がある」

「色々な塾でも高校でも、毎年やってますね」

「そうそう、それでその模試を受けると結果が色々出てくるわけだ」

「……なんとなく察した気がしますが、今から模試って受けられるんですか? 申し込みもしてないのに。あと課題達成の基準は?」

「もっともな質問だね。試験はまだ受け入れをしている塾があるらしい。そこの試験日は“12月15日”だから、今週と来週の2週間を試験勉強の期間に当てる。だから今回のサブ課題は1週間じゃなく、2週間でどれだけできるか? ってことになる。

 それで肝心の達成基準。これが僕も引っかかってるんだけど……志望校は日本の最難関とされる“T大”にして、“A判定”を取ることなんだ。おまけに最初の案では全国受験者のランキングも出るから、その中で100位以内に入るって条件もあったんだよね」

 

 ……

 

「目高プロデューサー。俺、高1ですよ」

「分かってる。でも模試は受けられるからって」

「だからって高2・高3がみっちり準備して受ける試験に。それも最難関のT大でA判定? その上で全国ランキング100位以内……申し訳ないですが、提案した人アホじゃないですか?」

「本音を言うと僕もそう思う……葉隠君に期待する気持ちも少しあるんだけど、ここまで難しい内容だと普通はまず不可能だろう? それも期間は2週間。難しい課題を出して成功させた感動、もしくは達成できなかった悔しさ。そういうものが欲しいんだから、あまり露骨に失敗して当然な内容はちょっとアレなんだよね……」

 

 一度大学受験した身だし、今の能力があればいい所まではいけるだろうけど……

 どうやらこの課題については目高プロデューサーも気が進まないようだ。

 

 ……

 

「これ、上からの指示(・・・・・・)なんですよね?」

「うん。根強く交渉を続けるつもりだけど、断るのはかなり難しい。一応葉隠君には学校の試験があるからその勉強もあると、さっきまで近藤さんと会って話して聞いたけど、上の人たちはあまり配慮しないと思う。無茶振りはわりと日常茶飯事だけど、今回は輪をかけて強引なんだよね……」

「ちなみに近藤さんは何と?」

「同じ事を話したら“仕方ありませんね”って。極力変更するよう努力して欲しいとは言っていたけど……あ、あと模試を引き受けている塾の名前とか聞いてたよ。やけに深刻そうな顔をして、それにちょっとあわてた様子で仕事があるとも言ってたな……君にも後の仕事で会うなら僕の方から話して欲しいって言われたし」

 

 なるほど。

 やっぱり近藤さんも俺と同じことを考えたようだ。

 

 “輪をかけて強引な上の指示”

 “センター模試を引き受ける塾”

 

「その塾の名前は?」

「名前はたしか――」

 

 プロデューサーの口から出てきたのは、以前山根マネージャーが勤めていた所と同じ。

 愛と叡智の会が関与している、学習塾グループの名称だった。


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