深夜
~廃ビル~
『ハッ! フンッ!』
ドッペルゲンガーで顔を変え、不良に戦闘技術を叩き込んでいると、
「ヒソカ。ちょっといいか?」
「鬼瓦か。どうした?」
「金流会に動きがあったらしい。つっても俺らとは関係なさそうな話だが。おい」
「ウッス!」
鬼瓦に呼ばれ、後ろに控えていた男が出てくる。
確か、元はクレイジースタッブスのメンバーだった奴だ。
所属チームがこちらに喧嘩を吹っかけて、実質吸収されて、それでも今は元気にやっている。
上下関係はみっちり叩き込まれたらしいけど……まぁそれは置いておいて、
「情報を持ってきたのか?」
「ウッス。酒場で飲んでた奴が女相手に話してたんですけど、今度――」
「――何だと?」
一瞬、耳を疑った。
「もう一度言ってくれ」
「う、ウス! “葉隠影虎”を襲う! 今テレビやなんやらで有名な奴をぶっ潰してやる。そう息巻いてる奴がいました……」
このタイミングでの襲撃計画……愛と叡智の会との関係を疑ってしまう。
しかし安易に暴力に訴えるのなら、あのサブ課題は何だったのか? 単なる偶然?
だとしても
「おい、ヒソカ? どうした急に」
「ああ……すまない。しかし金流会が葉隠君をねぇ……実を言うと、狙ってたんだよねぇ……ほら、彼って強いらしいし? それに年末に向けてさらに特訓してるってテレビでやってるから、限界まで強くなってくれるまで待とうと思って、今まで手出しせずにいたんだけど……」
戦闘狂として有名になっている
「そういうことかよ。急にキレるから何かと思ったら」
「いやいや……これは見逃せないね。せっかく、もっと強くなる事を期待して、手出しを我慢しているのに。それにその時が来たらスムーズに戦えるように、彼が働いてるお店に行ったり、道端で偶然を装って声をかけたりして顔見知り程度にはなっておいたのに。手出しを我慢して」
「……俺はお前が怖くなってきた」
「前々からヤベェとは思ってたけどマジヤベェ……」
「あいつ探偵つってたけど、本当はストーカーじゃね?」
「半端に強そうで興味を引くとああなるのか……」
「変態かよ」
「俺、雑魚でよかった……」
「葉隠って奴に同情するわ。あんなのに狙われたくねぇよ」
「つーか、何だあの雰囲気。喧嘩で負けたら掘られそうな――」
「ん?」
『ヒィッ!』
おっと、どうやら演技が過剰すぎたようだ。
妙な事を言っていた連中に目を向けると、一斉に激しい練習を始める。
「……まぁいいか。で、襲撃の詳細は分かるか? いつどこで狙うとか、そもそも何で葉隠君を狙うとか」
「ああ……襲撃は明日、水曜と土曜にシフト入ってる日が多いって調べがついてるみたいで、バイト先からの帰り道を襲うとか何とか。具体的にどこ、っていうのは、すんません……」
「いや、そこまで分かれば十分だ。彼の帰宅ルートは把握しているから、その道中で襲撃しやすいポイントを考えればある程度予測できる」
色々と分からない事はある。
しかし愛と叡智の会と関連があろうとなかろうと、襲ってくるつもりなら対処が必要だ。
「手、出す気か? 連中の仕事を邪魔したとなると向こうは黙っちゃいられないぜ」
「……別にいいんじゃない? 前、助っ人に来た彼らと喧嘩したけど、あんまり面白い相手もいなかったし。あっちもそれっきり音沙汰ないし。このままだとうやむやなまま時間が過ぎそうだし……ここは1つ、この機会に問題を片付けるのも良くない?」
鬼瓦は数秒考える様子を見せたが、やがて深く頷いた、
「分かった。金流会とケリをつけようぜ」
「いいのかい? そんなにあっさり決めて」
「ハッ! 俺らは連中に対抗するために訓練してんだろうが。今やらなくてもいつか来る日の事だろ。それが少しばかり早まったからって、逃げるような腰抜けは俺らの中にはいねぇよ。――聞いてたよなァ! 野郎共!!」
『オオオッ!!!』
周囲から野太い声が上がり、視界のいたるところで真っ赤なオーラが立ち上る。
突然の決定にも関わらず、誰も異論は無いようだ。
「ってことだ。俺らの頭はお前だし、やりたいようにやれよ」
「!!」
不良たちの結束と、共に戦う強い意志を感じる!!
不良グループとのコミュが上がった!!
それに伴い新たなスキルを覚え……そうになったが覚えなかった。
あと一歩、という感じなので、近々何か身に着きそうな気がする!
それからは対金流会のための会議を開き、意見を交換した……
……
…………
………………
12月3日(水)
午前1時
~自室~
「はい。ええ、やっぱり敵意は1点に集めて――はい、後処理は――」
近藤さんに連絡を取り、金流会と不良グループの動きを報告。
あちらでも対応に協力してもらうと同時に、今後の動きを相談した!
さらに眠くなるまで勉強会用の問題作りを行った!
……
…………
………………
放課後
~部室~
先生方からいただいたセンター試験の出題傾向。
そして近藤さんが調べた情報によると、センター試験は高校1,2年で習う内容が大半。
特に英語・数学・国語に関してはほとんど1,2年の学習範囲で解ける問題が出題されるとのことだ。
今の俺は高校1年。
今習っている内容がまさに、センター試験やその模試の出題範囲の半分に該当する。
これから2年以降の内容も学んでいくためにも、まずは下地を作らなければ。
模試までには範囲の内容をすべて学び直し、何週も復習が必要なのだ。
のんびりしている暇はない。
センター模試の対策と基礎固めを兼ねて、じっくりと1年の復習を行った!
……
…………
………………
夕方
~校舎裏~
『昨日の段階で君の体がしっかりと鍛えられていることが十分に分かった。なので今日からはさらに難易度を上げて“鉄頭功”を教えようと思う』
呂先生はそう言うと、実演として自分自身の頭にレンガをたたき付けて割った。
『これは頭を強く鍛える方法であると同時に、体内の気を用いて高い防御力を得る方法を学ぶ事ができる。強靭に鍛えた肉体を持って、この技法を応用すれば、腕であろうと体であろうと、致命的な急所である金的にであろうと攻撃を受けても耐えることが可能になる。たとえそれが鋭い槍の一突きであってもだ』
地功拳、そして鉄頭功の練習を行った!!
……
…………
………………
夜
~アクセサリーショップ・Be Blue V~
バイトとして働き、近藤さんと合流。
さらに久慈川さんと井上さんも合流し、霊に関する勉強を行った!
……
…………
………………
バイト後
~ポロニアンモール~
「それじゃ先輩、また明日ね!」
「ああ、また明日。井上さんも、
「うん……
井上さんには近藤さんを通して、つい先ほど俺に襲撃予告があったと伝えた。
悪戯かもしれないが、念のために俺とは分かれて、タクシーで帰ってほしいと。
井上さんは指示に従ってくれた。
久慈川りせのマネージャーとして、彼女の安全を第一に。
2人は最寄りの車道まで呼んだタクシーに乗り込み、夜の街に消えていく……
「行きましょうか」
「はい……あっ、すみません。ちょっと忘れ物が」
背中に視線を感じつつ一度店に戻り、改めて光源の少ない夜道へと歩き始める。
……
…………
………………
ポロニアンモールから寮までの道のりにある、小さな児童公園。
子供に危険だという理由で昨今なにかと撤去されがちな遊具が豊富で、木々や緑も多い。
昼間は子供の集まる綺麗な公園だが、夜には人気がない。
そして木々や遊具が襲撃者に都合のよい死角を作ってしまう絶好の襲撃ポイント。
他にも候補はあったが、そこが一番狙いやすいポイントだと予想していた。
そして実際、その公園の入り口前を通り過ぎようとした時。
どうやら前情報と予想は正しかったようだ。
進行方向の先に停まっていた車から、覆面を着けてバットや鉄パイプを持つ男たちが出てくる。
明らかに危険と分かる集団を目にすれば、当然足を止めるか逃げようとするだろう。
その退路を塞ぐように背後の交差点に1台の車が走りこむ。
そして出てくる。同じ格好の男たち。
前後を挟まれ、とっさに空いていた公園の入り口へ駆け込めば――待ち構えていた別働隊。もはや袋の鼠。覆面の下でほくそ笑む男たちに囲まれて、俺と近藤さんは絶体絶命!
――誰かが見ればきっとそう思うだろう。
でも事前に罠と分かっていたんだから、無策で嵌まってやるわけないよね?
「貴方たち、何者ですか!?」
不意を打たれたような演技をする近藤さんは、襲撃者から俺をかばうように前へ出る。
ただし、それは
本物は普段通りヒソカの顔で、能力で姿を消して傍から様子を見ている。
似せたシャドウを作れば自分が囮になる必要はないし、本当なら近藤さんもシャドウにしたかった。しかし召喚シャドウは変声スキルを与えても会話まではできないし、演技もできない。そこで不審に思われるのをカバーするため、近藤さんは本物のまま罠にはまったふりをしている。
おかげで奴らは前回より少ない18人でも、自分たちの勝利を疑っていないようだ。
あの連中はいいとして……問題、というか
俺の潜む木陰のほぼ対面の木陰。
低い柵で区切られ、本来は人が入らないであろう場所。
公園の外灯の光も満足に届かない暗がりに、大きなカメラを構える男の姿を発見した。
そのカメラで何を撮る気なのか? 撮った写真をどうするつもりなのか?
逃がすと面倒になりそうだし、最優先で仕留めよう。
「俺たちが何者か? 教えるわけねーだろ」
「馬鹿じゃねーの?」
「あ、でもそのガキを差し出せばアンタは助けてやってもいいぜ? あと有り金置いてけや」
「できるわけがない!」
「おーおー、カッコイイっすなぁ~。でもそれならそれで、アンタも殺して奪うまでだぜ?」
「俺らだって余計な仕事はしたくねーし、おとなしく従っとけば良か――」
「うわぁあああべしっ!?」
「――っ、んだぁ!?」
「誰だこいつ、急に飛んできやがって……」
「いや、普通人が吹っ飛ぶかよ」
投げ飛ばしたカメラマンが良い具合に連中の注目を集めてくれた。
ここで満を持して登場。しっかりとキメよう。
「やぁやぁ。大勢集まって、何か楽しそうなことをしているね」
「げっ!?」
「ヒ、ヒソカ!?」
「ヒィイイイィッ!!!!」
「おい! 馬鹿、しっかりしろ!」
…………金流会相手ならシャドウよりこの顔を見せた方が抑止力になるとは思っていた。
しかしながら、悲鳴を上げて蹲る奴までいるとは思わなかった。
あれ、よく見たら正気を失って暴れまくった時に参加してた奴か?
変なトラウマ植えつけてたのかな。
まあいいや。とりあえず一番近い襲撃者と、俺の身代わりシャドウへ攻撃。
すると近かった奴はモロに受けて倒れ、シャドウはしっかりと防御した。
「チッ! 使えねぇ」
「つーか向こうも襲ったぞ! 助けに来たわけじゃねぇのか?」
「マジで何しに来やがった!」
「ん? 実は僕、前々から彼と戦いたいと思ってたんだ」
「……」
「でも今は特訓中だって話だったし、どうせなら限界まで強くなってからの方が面白いと思ってさ。様子を見ながら彼が熟すのを待ってたんだ……なのに君たちが今日葉隠君を襲うって話を聞いてね。獲物の横取りはイケナイなぁ」
「……噂通りイカレた奴だな、おい……こっちは仕事でやってんだ、邪魔すんじゃねぇ! 覚悟できてんだろうなァ!?」
その言葉を待っていた!
「だから今日は宣戦布告に来たよ。最後の確認もしたし。やっぱり君たちより葉隠君の方が楽しめそうだから、君たちはもうイラナイね」
『!!』
笑顔とは、本来相手を威嚇する攻撃的なものであるという……
全力の笑顔で煽ってやると、いまや金流会の襲撃者の注意はすべて俺に集まっていた。
そして同時に、体の内にまた新たな力を感じる。
どうやら宣戦布告をしたことで、また不良グループとのコミュが上がったらしい。
習得したスキルはそのまんま、“宣戦布告”と“ヘイトイーター”。
宣戦布告は敵単体・全体を“激怒”させるスキル。
ヘイトイーターは自分の防御力を高め、敵意を集めて自分に攻撃を集中させるスキル。
宣戦布告して挑発すればスキルじゃなくてもそうなる気がするが……おっと。
『ザッケンナコラー!!!』
『ッコロスゾオラー!!!』
既に効果が発動していたのか、連中が一斉に俺1人へと襲い掛かってきた!
しかも頭に血が上って正気を失っているのか、連中の言葉が怪しい。
言語能力にまでスキルの影響が出るのだろうか……
『葉隠様、また後ほど』
魔術による連絡。
近藤さんと身代わりシャドウは、今の隙に脱出したようだ。
戦っていないし、証拠も撮られていない。
これで万が一事件が発覚しても問題なく“被害者”で通せるだろう。
襲撃は無事に切り抜けたと考えて……後はこいつらだ。
せっかくなので迷惑料+怒りを全部こちらに向けてもらうため、襲い来る金流会の連中を適当におちょくってさらに怒らせた後、適当にボコボコにして情報を吐かせる。
それにより、ある意味予想通りではあるが、この襲撃が何者かの依頼で行われたと判明。
しかし残念ながら、実行犯の連中は依頼者の情報を持っていなかった。
やはり情報を得るにはもっと上を尋問したほうが早いだろう。
とはいえまだまだやるべきことは山積み。
さっさと次の処理に行かないと……
つーか今年に入ってから面倒事や厄介事が多すぎる気がする。
表の仕事もそれはそれで山積み。
なまじ体力とか諸々が強化されているからか、倒れる事もない。
次から次へと、ひたすらに忙しい。
だがそれももう少しだ。
年末の試合が終わったらしっかり休養をとるという話になっている。
だから今のうちにこの問題は片付けて、年末年始はしっかり休もう。
……休めるよね?
影虎は不良グループから襲撃の情報を得た!
不良グループと全面戦争を仕掛ける事が決まった!
影虎は逆に襲撃者を罠にかけた!
影虎は不良グループとのコミュが上がった!
“宣戦布告”を習得した!
“ヘイトイーター”を習得した!
襲撃実行犯からは情報が得られなかった……
影虎はまだなにかやるようだ……