人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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315話 作戦遂行中

 影時間

 

 ~ポロニアンモール・青ひげ前~

 

 到着してすぐに残酷のマーヤを5匹召喚。

 噴水周辺をうろつかせ、自分自身はモールの二階に身を潜める。

 

 10分、20分と影時間の時が流れ、彼らは現れた。

 

「まさか本当に現れるとはな……」

「美鶴、岳羽、油断するなよ。数が多いぞ」

「了解!」

「分かっている」

「よし。いくぞ! 先制攻撃で数を減らす!」

「「ペルソナッ!!」」

 

 真田は1人前へ出て、召喚器を取り出した桐条と岳羽が青白い光と共にペルソナを召喚。

 モール内に突風と冷気が吹き抜け、弱点のブフを受けた1匹が消失。

 ガルを受けた1匹は耐えたものの、続く真田の拳に打ち倒される。

 

 これで数は同じになった。

 

 “──行け──”

 

 奇襲を受けて、今まさに敵を認識したように。

 魔術による指示を受けたシャドウ3匹が襲撃者と向き合う。

 

 “アギ、一斉射撃”

 

「「「!!」」」

「来るぞ!」

「チッ!」

「キャッ!!」

 

 揃って放たれた爆炎は全体攻撃の如く広がり、3人を襲った。

 余波でガラスの割れる音も聞こえてくる。

 

 “畳み掛けろ。標的は右の女”

 

 まだ経験不足なのだろう。対応がワンテンポ遅れた岳羽にシャドウをけしかける。

 2匹は魔法を準備し、1匹は鋭い爪を振り上げながら迫っていく。

 

「させるかァ!」

「グヒッ!?」

「ペルソナ! ブフ!」

 

 “魔法、標的変更! 左の女! ”

 

 冷気と爆炎の魔法が衝突。そして威力は相殺された。

 続くもう一発が桐条を襲う。

 

「なっ!? くっ!」

「シッ! 2人とも大丈夫か!?」

 

 ”後退しながら交互に魔法連発。攻撃を止めるな。噴水を盾に、距離をとれ“

 

「問題ない!」

「私もっ!」

「なら援護を頼む! 奴ら逃げるぞ!」

 

 言うが早いか真田は突撃。桐条は召喚器を構え、岳羽は手数を意識したのか弓を構える。

 

 その後は魔法と矢の撃ち合いの中を掻い潜った真田によって1匹が倒され、均衡が崩れた途端にもう1匹も残る2人の集中攻撃を受けて霧散する。眼前で繰り広げられた戦闘は、特別課外活動部の勝利で終わった。

 

 途端に静まり返ったモール内に、岳羽の声が響く。

 

「倒せ、た?」

「……どうやらそのようだな。シャドウ反応はない」

 

 桐条の言葉を聞いた岳羽が武器を下ろす。

 そこへ特攻していた真田も合流。

 

「ひとまずお疲れ様、といったところだな」

「あっ、真田先輩。さっきはありがとうございました。それと……足を引っ張っちゃって、すみません」

「気にするな。イレギュラーシャドウは滅多に見つかるものじゃない。戦闘経験を積むには時間がかかる。ペルソナの召喚に攻撃魔法もしっかり使えていた。今はそれで十分だ」

「明彦の言う通りだ、ゆかり。それに今回のイレギュラーシャドウは、イレギュラーの中でもイレギュラーだろう。私や明彦は影時間に活動して長いが、一度に5匹も見つかるのも珍しい上に、これまで私たちが戦った同種のシャドウよりも強く感じた」

「ああ、それは俺も思ったな。倒すまでにいつもよりも多く殴ったし、動きも良かった。きっとかなり強い奴だったんだろう。上には上がいるということだ」

「……じゃあ、もっと鍛えないと」

「その意気だ! しかし、あまり無理はするなよ。俺が言えた事ではないが……」

「ははは、って……やっば」

「岳羽? どうした?」

「戦闘に夢中で気にしてなかったけど……周りのお店が、てか私のバイト先が!」

「ああ……ショーウィンドウが完全に割れているな……他の店もそれなりに」

「影時間の出来事は一般人は認識されず、適当な理由に置き換えられる。桐条グループの方から補填もある。あまり気にするな。今後は注意していこう」

「はい……」

「ならこれからのことを話し合うためにも、帰るとするか」

 

 3人はポロニアンモールから立ち去った……

 

 俺も報告に行くとしよう……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 12月9日(火)

 

 午前0時30分

 

 ~高級ホテル・スイートルーム~

 

「戻りました」

「おや、ずいぶん早いね?」

 

 豪華なリビングには来日したアメリカチームの方々と江戸川先生、さらに近藤さんと天田もいた。

 

「影時間中は遠慮なく力を使えるうえに、車や信号も動かないので道を独占できますからね。そこで距離を稼ぎました。ところでMr.コールドマン。お話の方はどこまで?」

「ここ数日の報告を受けていたところだよ。我々の渡航中にまた色々あったらしいね。江戸川からは後遺症が出ているとも聞いたが、大丈夫かね?」

「まだ様子を見ている段階なので、なんとも……ついさっきも少々、遠慮なくやりすぎた気もしますし」

「さっきって影時間? 何をやってきたの?」

 

 豪華なリビングに何故かついているバーのカウンターで、エレナが飲み物を片手に聞いてきた。

 

「くつろいでるな……岳羽ゆかりに“占い”と称して、影時間にシャドウが現れる位置情報を提供した。特別課外活動部は最近、全員でトレーニングをしているらしいからな。占いと称して情報提供することで、彼らの影時間の行動をコントロールできるかを試した」

 

 アメリカチームはこの滞在中に、一度はタルタロスを見ておくつもりだと聞いている。

 

「タルタロス探索の決行日が決まったら教えてくれ。今後彼らが占いを頼んできたら、適当な情報を与えてタルタロスから引き離しておく。そうでなくても影時間に俺が彼らの前に姿を見せれば、引き付けておく事はできるだろうから」

「そういうことね。OK」

「私からも1ついいですかねぇ……先ほどの“遠慮なくやりすぎた”とは?」

 

 今度は江戸川先生だ。

 改めて影時間の戦闘について説明。

 

「シャドウの確認だけさせれば、戦わせなくてもよかったんですが……」

「先輩、本気で襲わせたんですね?」

「うん。今の実力が知りたくなった。こう、衝動的というか、スイッチが切り替わる感じ? 命の危険はなさそうのが不幸中の幸いだな」

「……分かりました。些細なことでもいいので、変化があればすぐに私に 連絡してください」

 

 江戸川先生はソファーに座り、手帳に何かを書き始めた。

 

「そうだ、ロイド。昼の話だけど、データはとれたか?」

「Of course! タルタロスの日中の姿である月光館学園への立ち入り。そして主要人物である特別課外活動部メンバーとの接触。どっちもタイガーに手引きしてもらったからね」

 

 ロイドが操作していたノートパソコンをこちらに向けてくる。

 

「“HP”に“MP”……ゲームのステータスみたいなものが表示されているが、これは?」

「主要人物の肉体エネルギー()精神エネルギー(魔力)を数値化したものだよ。僕たちは人の体内のエネルギー量を測定する装置を開発して、さらに隠し持てるサイズまでの小型化に成功したのさ!」

 

 ロイドのペルソナは元々そういう能力を持っていたけど、それに頼らず機械で? 

 

「よくこの短期間でそんな装置を開発できたな?」

「完全なゼロからだとお手上げだったけど、私たちには幸いロイドの力があったから。

 観測機器の開発、効率化、その他諸々。研究分野では重宝したわ」

「基本的な機材ができるまで、僕は毎日地獄のようだったよ……」

 

 技術者のエイミーさんは満足そうだが、ロイドの目が一瞬だけ死んだように見えた……

 

「お疲れ様だったな。で、このデータから何が分かる?」

「あ、うん。まだ他のデータと合わせて解析したり、各個人の行動分析とか色々やることはあるけど……この数値化したデータ単体なら、その人の強さの指標になるね。強力なペルソナ使いほど数値が高いから。例えば今のタイガーを計ってみると……」

 

 ロイドはポケットからリモコンのようなものを取り出し、俺に向けてスイッチを押す。

 

「あー、やっぱり高いね。僕たちがアメリカで集めたデータから計算した一般人の平均値は“HP50・MP30”なんだけど、タイガーの数値はHPが612でMPも595。通常の約12倍と20倍のエネルギー量だよ」

「一般人と比べるとそんなに違うのか」

「目覚めたばかりのペルソナ使いもそんなに一般人と変わらないけど……そうだ! 今度のライブで魔力を集める計画があったじゃない?」

「ああ、確かに」

 

 年末のCステージだな。動画投稿者のCraze事務所主催の。

 そういえばあの件については、安藤一家の出演を提案したきりだけど、大丈夫か? 

 

「その件については先方と安藤家の方々から快諾を得た後、こちらで話を進めていました。連絡に不備がありました。申し訳ありません」

「問題がないならよかった。というか近藤さん、体の方は」

「おかげさまで、無事に復調いたしました」

「あの件についてはアイドルの救助を担当してくれて、こちらこそ助かりました。

 ……で、エネルギー回収計画とこのデータの関係は」

「さっき話した通り、一般人の平均値はHPが50、MPが30。日本人も同じかはチェックしないといけないけど、観測装置を使って調べた結果、人は“体内のエネルギーを7割失うと疲労や不調を感じる”という結果が出たのさ! つまり──」

「逆に言えば、7割までなら吸い上げても安全?」

「That's right! その通りだよ!」

「それは助かる!」

 

 ライブでの疲労や誤差を考慮して、1人の吸収量をそうだな……5割以下に抑えても、Cステージの来場者数は10万~15万人。一人分をHP15、MP10と考えたら150万~225万のHPと100万~150万のMPが手に入る計算になる。……1回でそれは十分すぎる量だ! 

 

「回収するエネルギー量の調整や回収後の保存方法についても考えてきたから、技術的なことについては私たちを信じて頼りにして頂戴。この機会に研究成果を思いっきり披露してあげる」

「よろしくお願いします、エイミーさん」

 

 その後は今後に関する打ち合わせを行い、そのままホテルに用意された部屋に泊まることになった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 朝

 

 ~教室~

 

 登校すると、クラスメイトに囲まれた。

 

「葉隠君! あの大女優、エリー・オールポートと会ったんだって!?」

「それも親しげに話してたって!」

 

 どうやら空港での話が拡散したようだ。

 隠すことでもないので、俺と彼女は一週間の師弟関係? だと話す。

 

「文化祭準備の時の演技経験ってそれか!」

「あの舞台での演技凄かったもんね!」

「大女優エリー・オールポートから演技習ったとか、マジヤバくね!?」

「ていうかー、そんな葉隠君に演技習った私たちって……考え方によっては孫弟子?」

 

 教室内の盛り上がりが凄い……

 

「ちょっ! 見てこれ! エリーのSNSの公式アカウント! 葉隠君の事が書かれてるっぽい!」

「えっ……と、なんて書いてあるんだ? 英語読めねぇ」

「私も自信ないけど、葉隠君が言ったようなこと書いてると思う! つまり正式に弟子と認められた感じ?」

「ちょっといい? ……あー、まぁ、確かに……」

 

 携帯の画面を見せてもらったら、確かに俺に演技を教えたことが書かれている。

 もちろん一週間だけということも書かれているのだが……たぶん俺との関係を騒ぎ立てた人がいたのだろう。文面がかなり刺々しく、苛立っているのが分かる。

 

「ねぇ、なんかこの記事のコメント、凄く荒れてない?」

「そもそも本人の書き方が刺々しいからな」

「へー……なぁ葉隠、エリー・オールポートって性格めちゃ悪いって聞くけど、本当か?」

「個人的には性格が悪いというより、話し方がきついからそう言われるんだと思う。演技に対してものすごく真剣な人だよ」

 

 この後、先生が来るまで質問攻めが続いた……


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