この話は2話目ですので、1つ前からお読みください。
一通りの説明を終えて、2人が最低限の事情を把握したところで、
「率直に言います。2人にはお願いしたいことがあります。しかし、強制するつもりはありません。それを前提に聞いてください」
2人が頷いたのを確認して、本題に入る。
「まず1つめ。久慈川さんにはペルソナ使いとして、俺たちに協力してほしい。もちろんアイドルとしての仕事に影響しないよう配慮するし、Mr.コールドマンに相応の報酬も用意してもらう」
「あ……そのことなんだけど、私、先輩の役には立てないかも」
「? そんなことはないよ。久慈川さんの探知能力は非常に高いから、仲間になってくれるなら頼もしい。この前のトンネルでも」
「そういうことじゃなくて、先輩たちは午前0時の“影時間”っていう時間の中で戦ってるんでしょ? 説明の時から言おうと思ってたんだけど……私、それ感じない。普通の人と同じで、影時間中は象徴化してるんだと思う」
『!?』
「な……いや、そうか……本来の流れを考えれば、久慈川さんはまだペルソナに覚醒していないはず。素質はあったとしても。それに活躍の場も影時間ではない。影時間に入れなくても、別におかしくはないか……」
「そこは分からないけど……それに私、あれ以降ヒミコを出せないの。なんとなく力があるのは感じるんだけど」
「ああ、それはもっと不思議じゃないよ。日中にペルソナを召喚すると、普通は大きな負担がかかるから。影時間だとそれが軽減されるんだ」
「そうなの? でもあの時は召喚して力も使えたのに」
「……これは俺の予測だけど、あのトンネルは影時間のような状態になってたんじゃないだろうか?」
ペルソナシリーズを通して考えると、シャドウが現れ、ペルソナが召喚できる場所はそれぞれ違う。
「便宜上“異界化”とでも呼ぼうか……あの大勢人が亡くなっていたあのトンネルでも、霊的な力か何かで異界化が起きていたとしたら」
「たまたまあの場所ではペルソナが出しやすくなってたかも、ってこと?」
「もしかしたらの話だけどな。そうなると協力は難しいか……」
「待ってタイガー。日中の召喚なら手があるわ」
そう言ったのは、技術者であるエイミーさん。
彼女を見ると、研究成果を収めていると話していたトランクの中から、腕につけるプロテクターのようなものを取り出していた。
「これは日中にも実験をするために作った召喚補助機“DSAD(Daytime summoning assistance device)”……エレナ」
「OK。これを肘をカバーするようにつけて、横のボタンを押せば準備完了。……アラクネ!!」
『!!』
青い輝きと共に、下半身が蜘蛛のペルソナが姿を現す。
影時間じゃないのに、確かにペルソナが召喚できている!!
「いったいどうやって?」
「例の魔力と気を充填した水晶と魔法円に、小型化したエネルギー観測機器を組み込んであるの。装着者のエネルギー消費を観測したら、エネルギーを補充することで急激な消費による負担を軽減する仕組みよ。召喚の負担が大きくなるなら、どうにかして負担を軽減すればいいと思ってね。
魔術と機械を組み合わせる方法については……“ヒエロニムスマシン”って知っているかしら?」
「ヒエロニムスマシン?」
まったく心当たりがないので聞いてみる。
ヒエロニムスマシンとは、フロリダ州のトーマス・ガレン・ヒエロニムスという電気技術者が作り出した、エロプティック・エネルギーというエネルギーを利用する装置のこと。
そして“エロプティック・エネルギー”とは、光学的特性と電気的特性を併せ持つエネルギーと定義されているそうだが……アメリカチームが検証したところ、エロプティック・エネルギー=魔力であることが判明したらしい。
それも体から漏れ出した程度の微細な魔力を機械的に増幅することで、特別な訓練を受けていない人間にも使用可能とした驚くべき発明だった。
「しかもヒエロニムスマシンは、“出力が使用者の精神力によって変動する”、また“機械的な部品を使わず、紙に書き記した回路図だけでも効果を発揮した”という記録があってね。それ故に超能力に近い、疑似科学的として現代では認められていない、それこそオカルト扱いだったものなの。
でも、紙に描くだけで効果を発揮する……何かと似てないかしら?」
それは分かる。その言葉を聞いた瞬間に俺も考えた。
「ルーン魔術と同じですね」
「そう! 同じなのよ! 魔術、ひいては魔力についての研究を始めていた私たちのチームから見れば、素晴らしい先行研究だったわ。おかげで手探りだった研究がグンと進んだの。
たとえばルーン魔術の発動に必要な“魔力を通す”というプロセスは魔力を操れる人でしか成し得なかったけど、ヒエロニムスマシンの機構を組み込むことで、使用を念じた人の微細な魔力をキャッチ・増幅して魔法円に流し発動させることが可能になるわ。
魔術と機械工学の融合……“魔術工学”とでも呼びましょうか。もっと研究が進めば、装置を使って誰でも魔術を使えるようになるかもしれない。安全面とか色々考慮するとまだまだ先のことでしょうけど、タイガーには後でヒエロニムスマシンの概要と魔法円との組み合わせ方を例とあわせて教えるわね。暇があるときにでも術を作って共有して頂戴、サンプルはいくらあっても構わないから」
なるほど……実に興味深い。
それに霧谷君から教わった生活魔術と組み合わせたら、色々とできてしまいそうだ。
しかし今は、
「エイミーさん、大変興味深いお話ですが、今は久慈川さんの方を」
「あら、そうだったわ。ごめんなさい。とりあえず……使ってみてもらえるかしら」
「リセ」
「あ、ありがとう」
エレナから装置を受け取った久慈川さんは、同じように装着。
そして、
「! この感じ……ヒミコ!!」
当然のように、彼女のペルソナが召喚された!
「できた!」
「異常はないか?」
『うん……大丈夫! ちゃんと能力も使えるみたい!』
通信能力で力が使えることをアピールする久慈川さん。
あの装置、DSADを使えば召喚も問題なさそうだ。
いったんペルソナをしまってもらい、話に戻ろう。
「今ので久慈川さんも日中にペルソナが使えることが分かった。元々久慈川さんはサポートタイプ。能力の使い道はナビ以外にも調査や研究、影時間に入れなくても十分に役立つと思う。どうか力を貸してほしい」
「ちょっと待ってくれないか、葉隠君。君は強制はしないと言ったけど、りせちゃんが断った場合はどうするんだい?」
「その場合はまた別の、ここで聞いたことを他言しないようにお願いするつもりでした」
さっきも言ったが、おそらくここでの話を吹聴しても、世間の大半は信じないだろう。
しかし、ごく一部に信じる連中がいる。俺たちと同じように、事情を知っている連中がいる。
俺は桐条グループと影時間の関係。
影時間に活動できる特殊部隊の存在。
そしてかつて行われた非人道的な人体実験について、語って聞かせる。
すると2人はだんだんと顔色を青くした。
「脅すような話になって申し訳ない。ですが、ここで話したことはすべて事実です。もし2人がここでの話を外で吹聴し桐条グループ、その上層部の耳に入れば、おそらく桐条の手の人間があなた方の所にやってくる。合法、非合法を問わずに」
「尋問と口封じが目的……だね。まるでスパイ映画だ」
「残念ながら、彼らは影時間に関することは徹底的に隠蔽する方針です。なにせ世に出してしまえば、グループ全体を破滅に導きかねない汚点ですから。彼らは必死になって隠そうとする……
そしてお2人から情報が漏れた場合、次は我々の番だ。決して他人事ではないんです」
「……君たちに協力すれば、仲間として守ってもらえると考えていいのかな?」
「万が一の場合の逃走経路や安全な潜伏場所。国外へ脱出する用意も整えています。我々も情報源を敵に与えるような真似はしたくない。それが協力者であるなら尚更に」
井上さんは真剣な目でこちらを見ている。
久慈川さんを守る、できる限り危険から遠ざけようという意思を感じる。
下手なごまかしや気休めの言葉は逆効果だろう。
感情よりも打算的なメリット、デメリットを挙げていく。
「……りせちゃんはどう思う?」
「私? 私は……ペルソナのことをもっと知っておきたい。自分自身のことだし、私がペルソナ使いである以上、ある程度リスクはあると思うの。今の私たちだけだと秘密にしておく以上のことはできないと思う。それだったら先輩たちに協力したい。先輩にはお世話になってるから、力になれるならなりたいと思うし、私も相談相手がいた方が安心だもん」
「そうか……分かった。仕事や体調に影響が出ないように。またスケジュール管理のためにも、仕事の依頼は僕を通してほしい」
「! ありがとうございます!」
リスクとリターンを天秤にかけて、2人は俺たちに協力する道を選んでくれた!
「で、先輩。私たちは何をすればいいの? やると決めたからにはとことんやるよ!」
「あー、張り切ってるところ悪いけど、今はまだ何もないかな。とりあえず今日のところは親交でも深めますか?」
「あら、いいじゃない」
「アイドル……歌の話、聞きたい……」
「賛成!!」
「悪くないわね」
「これから共に仕事をすることもあるだろうしな」
「軽く何か食べたくなってきたところだ」
カレンさん、アンジェリーナちゃん、ロイド、エイミーさん、ボンズさん、そしてウィリアムさん。
次々と賛同の声が上がり、その後ろで静かに近藤さんとMr.コールドマンが軽食を発注。
2人を暖かく迎え入れる雰囲気ができあがり、その場はちょっとしたパーティーに変わる。
「ねぇタイガー! リセが僕らの動画見てくれてて、楽しそうだって!」
「先輩、私も参加したら? って誘ってくれてるんですけど、どう思う?」
「その辺は、どうなんでしょう? 井上さん」
「内容によるけど、安藤家の皆さんはだいぶ話題になってるからね。世間へのアピールという面ではありがたいかな」
「ちょうどいい曲、ある……」
「おっ、アンジェリーナちゃん。何か歌いたい歌があるのかい?」
「ん。メンバーが足りなかった。タイガーも一緒」
「俺もか。じゃあまたコラボになるな。しかし、そんな大勢で歌う歌なんてあったっけ?」
「“Alice in Musicland”」
「あれか! というかボカロ系にまで手を出し始めたのか」
「タイガーがどんどん送ってくるから、手当たり次第に聞いてるわよ」
トキコさんの協力を得て始めた楽曲再現だけど、数をこなすうちに自然とコツがつかめた。
気分転換にちょうどいいこともあって、こっちも手当たり次第に送ってるからな……
「先輩が曲を送ってるの?」
「音楽活動についても話さないといけないか」
趣味としての一面もあるが、エネルギー回収のために音楽活動を利用していること。
そのための楽曲は権利者がこの世界にいないのをいいことに、前世の記憶からパクっていること。
「えー……」
「言いたいことはわかる。でも、使えるものは何でも使わせてもらう」
軽蔑されるかもしれないが、この機会に魅了魔法のことも話しておこう。
覚悟して正直に話すと、
「あ、タイガー、それちょっと間違ってるよ」
「間違ってる?」
「一流の歌手とかダンサーのライブに行って調べてみたら、彼らも魅了効果のあるエネルギーを放ってたんだ。タイガーやアンジェリーナのスキルみたいに。
おそらく“他人を魅了する、感動させる、あるいは何かを感じさせる”っていう行為は“魔力を介して相手に働きかける”ってことなんだと思う」
「あとはそれを意図的に行う技術があるか、それとも歌やダンス、芸術の一部として無意識に行うかの違いだと我々の研究チームは結論付けたわ。コールドマン氏の所有していた世界的な名画を調査したら、微量の魔力が宿っていたのも確認しているし、まず間違いないわね。
だから踊っていて出る魅了効果は実力の内と考えて良いでしょうね」
へぇ、そうだったのか……と思っていると、考え込んでいる久慈川さんが目に映る。
「魅了……それが先輩のライブの秘密で、一流は無意識で同じことを……」
真剣にアイドルをやっている彼女としては、そんなことを言われても受け入れがた──
「ってことは、私もそれを身につければ、アイドルとしてレベルアップできる!?」
──いわけではなかったようだ。
「納得したの?」
「魅了に関しては一流なら当たり前にやってることなら、別に悪くないでしょ? それが分かりやすい形なら尚更取り入れていかなきゃ! 盗作に関しては思うことが1つもないわけじゃないけど、私にどうこう言う権利も、糾弾して証明する証拠もないし……そーだ、私にも何かヒット確実な曲を提供するってことで、何も言わないであげる」
「……」
柔軟かつ、
多数のアイドルが鎬を削りあう芸能界に身をおいて、生き抜いていく強さを感じる!
「あれ? 久慈川さん、そんな子だったっけ? 本当に」
「日々成長! っていうか……先輩と会って、鍛えられた気がするよ。良くも悪くも色々と……」
久慈川さんが言うには俺のせいらしい。
でも思い出してみれば、4の久慈川さんって元々けっこう強かでグイグイ行く方じゃなかったかな? 主に4の主人公にだけど……まぁ、いいか。
そして……!!
やっぱり来た。
久慈川さんとのコミュが上がり、新たなスキル“リベリオン”を習得した!
リベリオンは敵味方全体のクリティカル発生率を上昇させるスキル。
敵の攻撃も急所に当たりやすくなってしまうが、上手く使えば大ダメージが狙えるだろう。
「どうしたの? 急に黙って」
……コミュの話もしておこう。
こうして俺たちは、夜遅くなるまで語り合った……
影虎は久慈川と井上に協力を持ちかけた!
しかし久慈川は影時間に入れなかった!
エイミーは新発明DSAD(Daytime summoning assistance device)を取り出した!
DSADにより、アメリカチームは日中のペルソナ召喚が可能になった!
久慈川も改めてペルソナ召喚に成功した!
話し合いの結果、影虎とアメリカチームは、2人と協力関係を結んだ!
ちなみにですが、作中に登場した“ヒエロニムスマシン”は実在し、
“鉱物放射検知器”という名称で1948年には特許も取得しています。