人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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318話 突然の会社設立

 深夜

 

 ~廃ビル~

 

「今日は飲むぞー!!」

『オー!!!!』

 

 今日の不良グループは訓練なし。

 先日で金流会との抗争が終結したため、祝勝会を開くことになった。

 俺は飲んだフリをしているが、皆は酒が入って大騒ぎをしている。

 

 ……“皆で大きな目標を達成した”のだし、ゲームならこれで彼らとのコミュは終了……

 

 だが、これは現実である。

 たとえコミュがここでMAXでも、人と人との付き合いは終わる気がしない。

 そうなると、今後どのようなことをしていくかが問題だが……

 

「ヒソカ、金流会の頭から書類を預かってるぜ」

 

 それについては、先日別人のような俺が勝手に手を打っていた。

 鬼瓦から書類の入った袋を受け取り、中身を確認。

 

「それ、何の書類なんだ?」

「んー……会社設立とか銀行口座」

「会社ぁ?」

「金流会の連中は色々と法に触れる稼ぎ方してたからねぇ……資金洗浄のためのダミー会社や銀行口座を持っててさ、適当な名義で一つ作らせたんだよ。会社と銀行口座。あと土地と店にする建物も用意するように言っといた」

「おいおい、ずいぶん大掛かりだな。何する気だよ」

「あれば便利ってだけさ。別に真面目に経営しなくてもいい。会社があって、そこに雇われる形にすれば“就業ビザ”が取れるかもしれないし」

「ああ……今更だけどお前、外人だっけ?」

「ハーフだけど、国籍はアメリカなんでね。……それに真面目な話、お前らだっていつまでもこんなこと続けてられないだろ。いつかは不良から足を洗わなきゃいけない時もくるんじゃないか?」

「……確かにな」

「俺は別に不良をやめろとは言わないけどさ……マトモな職に就こうとしたら、フリーターや無職よりショップ店員とか正社員って履歴書に書けた方が、多少印象が良くて有利だろ?」

「お前、そんなことを?」

「思い付きだけどな。便利に使えるものがあれば使えばいいのさ。……ところで誰か暇な奴がいたら声かけといてくれないか? 一応営業してる体裁は整えておきたい。ゴミの回収・処分も業務の一部で申請してあるから、車が運転できる奴だと尚いいな。もし儲かればその分、ちゃんとバイト代を出すぞ」

「そういうことなら任せておけ。俺が責任もって集めてやるよ」

 

 

 不良グループの今後について、鬼瓦と語り合った!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 ~自室~

 

 アメリカチームの合流とそれによる報告には、将来性のある話が多かった。

 しかしそちらに時間を割いた分、センター模試や期末の勉強スケジュールに遅れが生じている。

 勉強の遅れを取り戻すべく、今日の影時間は勉強にあてた!

 

 期末の対策は大丈夫だろうけど、センター模試をA判定で突破するには……

 もう少し勉強時間が欲しい……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 12月10日(水)

 

 午前

 

 ~保健室~

 

 センター模試のための勉強時間を捻出するため、午前の授業をサボタージュした。

 

 おかげでだいぶ勉強が進んだ!

 

「ヒッヒッヒ……さぼり目的で保健室に来る生徒は時々いますが、勉強するために保健室に来る人は始めて見ましたよ」

「江戸川先生」

「勉強も一段落したようですし、一息入れなさい。疲れた脳にも糖分補給です」

「ありがとうございます」

 

 江戸川先生からシュークリームとハーブ系の匂いがする飲み物が乗ったトレーを受け取る。

 

「勉強は好調のようですねぇ」

「おかげさまで」

「記憶転移の方はどうです?」

「違和感を覚えたら脳内でメモして分けています。少しずつですが、“別人の記憶”として整理がついてきているかと。ただ、夜の顔はまた違う感じです」

「自分のことと自覚しつつ、別人のように感じると話していましたね?」

「それに加えて“入れ替わる”というか……改めて考えてみると夜の方は元々“演技”だったのに、今は何も考える必要なく、体が自然にヒソカとしての受け答えや行動をしている。本来の自分はそれを外から観察している気分でした。昨夜も──」

 

 鬼瓦や不良グループとの件を簡潔に説明。

 

「なるほど。リサイクルショップとゴミの回収を行う会社を興させて、不良グループの人材を回収係として利用すると」

「不用品でもまだ使える物は転売、ゴミにしかならない物でもルーンを用いた錬金術によって、資材としてリサイクルするつもりみたいですね」

 

 簡単な構造の……たとえば金属製のラック()とかなら問題なく作れるだろうし、なんなら銅線みたいな金属の塊として、金属の買取をしている業者に買い取ってもらうこともできるだろう。

 

 ゴミの回収でも依頼があれば、いくらかの料金をいただいても悪くはない。むしろ当然。魔術を用いることで回収したゴミの処分にお金がかからなければ、ある程度の儲けになりそうだ。

 

「処理にお金がかからなければ、それは確かに儲けになるでしょう。しかしお金の流れが……ああ、誤魔化すノウハウは金流会が持っていたんでしたねぇ……ヒヒッ。

 しかしそこまで君の状況を利用するように動くとなると、単なる記憶転移とは違いますね」

「……昼は正直、今やるべきこと……“テストや年末の試合に集中したい”、“余計な仕事を増やさず、年末に向けて自分の力を磨き上げたい”と思っています。

 しかし、夜はそんなの関係ないとばかりに恣意的に、でも最終的には“自分のためになるように”動いている印象があります。あともう1つ、“他人を利用するようなやり方”を考えると……話していて心当たりが1つ」

「私も思い当たりました。夏休みの“ルサンチマン”ですねぇ……となると夜の行動は別人格ではなく、君の“側面”というべきでしょうか? それなら自分自身の行動でもありますし……それとも君の側面が別人格と化した?」

 

 卵が先か鶏が先か、みたいな話になっているが、おそらくその方向性で間違いないだろう。

 自分の中で納得というか、しっくりくる。

 

 ……この件については経過観察を続けるとして、今日のところはここで終わりにしよう。

 

「ヒヒッ、そうですねぇ……焦っても仕方ありませんし、休憩が休憩になりませんからね」

「まったくです。……あ、そうだ聞いてください。昨日ロイド達の研究成果に触発されたのか、通信用の魔術の改良やスキルカードの研究のヒントになりそうなアイデアが思い浮かんで──」

 

 しばらく先生と魔術の話をして、リラックスした後に勉強に戻った!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 放課後

 

 ~部室~

 

「すみません桐条先輩。この問題なんですが……」

「どれ……ああ、ここはな──」

 

 勉強会に参加。

 2年の学習内容に少々分かりにくい部分があったので、桐条先輩に聞いてみた。

 さすがは桐条先輩。問題の部分を分かりやすく解説してくれた!

 

「こういうことだ。どうだ?」

「ありがとうございます。そうなると次も同じで……こうですね」

「その通りだ。やはり飲み込みが早いな」

「先輩の説明が分かりやすいので」

 

 そんな話をしていると、室内が妙に静かなことに気づく。

 

「ん……皆どうした?」

「葉隠君が質問してるのって珍しいな~って。ね?」

「う、うん。ほら、葉隠君はいつも教える側だから」

 

 島田さんと山岸さんの言葉に同意するように、皆が首を縦に振る。

 

 確かに俺はアナライズとアドバイスの恩恵で学習能力も理解力も上がっているし、一度は受験勉強をして大学まで卒業した記憶がある。おかげでそう簡単には学習面で躓く事はなくなったけど、絶対というわけでもない。

 

 社会に出てから使わずに忘れた部分、高められた学習能力でも分かりにくい部分というのは存在する。……主に前世の苦手分野に。

 

「私も答えられてよかったよ。たまに頼られて答えられなかったら、先輩として恥ずかしいことになるからな」

 

 時折雑談も交えながら、楽しく試験勉強を行った!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夕方

 

 ~部室~

 

「おお……」

「鍼も灸も指圧も、ツボを刺激して体の気の流れ、体調を整える。それは共通。だけど適当に押せばいいというわけではないですね。何事も過ぎては逆効果。効果のあるツボを見極めて、刺激の仕方や強弱もありますし、刺激するツボはできるだけ少なくした方がいいです。

 治療には患者の体にある気を使って治療するわけだから、無駄に気を使ってしまいます」

 

 なるほど……俺も気功と指圧によるツボ押しで光明院君の体調不良を治したことがあるけれど、それはかなりの力技だったようだ。

 

 先生から症状に合わせたツボの選択方法。

 そして効果を調整するための指圧の技術などを学んだ!

 これでもっと自分や患者に負担が少なく、効果的な治療を施すことができそうだ!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夜

 

 ~私立・秀尽学園~

 

 夜の校舎を使って、春に放送されるドラマの撮影を行う。

 前回、日曜に行うはずだった撮影は熊騒動の直後だったので休んでしまった。

 その分、撮影スケジュールにも調整が入っている。

 スタッフの皆さんやアイドルの皆さんにも迷惑をかけた。

 その分を取り返せるように頑張らねば!!

 

 そう意気込んで、出演者のために開放されている体育館へ足を踏み入れる。

 

「おはようございます!」

『──!!』

 

 ……なんだ? アイドルもスタッフもひっくるめて、一瞬だけ全体がざわめいた。

 ぽつぽつと挨拶が返ってくるが、それ以降は静かになってしまう。

 

 かと思った直後、

 

「みんな集合!!」

 

 突然IDOL23のリーダーが号令をかけ、アイドルの女の子たちが準備をやめて集まってきた。

 

「葉隠君、近藤さん。うちの佐久間と桜井を、それにマネージャーも。助けてくれてありがとうございました!」

『ありがとうございました!!』

 

 おお……並んで声を揃えられると、かなりの圧を感じる。

 

「どういたしまして。助けられて良かったです。ね、近藤さん」

「はい。不幸中の幸いでした」

 

 お礼の言葉は素直に受け取るが、あまり堅苦しいと疲れてしまうので普通にして欲しい。

 そう伝えると、彼女たちは少し肩の力を抜いてくれた。

 

「お言葉に甘えるけど、ホントありがとね。葉隠君」

「引退とか卒業とか、長くやってるとメンバーとお別れの機会はあるけどさ……やっぱ死別は違うじゃん?」

 

 その後も次々と声がかけられるが、皆さん、霊の被害に会った3人を心から心配し、また大切に思っていることが伺えた。

 

 だが、そんな話をしばらく続けていると、

 

「そうだ葉隠君! 葉隠君が大女優のエリー・オールポートと空港で親しげに話してたってニュース見たよ!」

「“エリー・オールポートの弟子”ってホント!?」

「えっ? “婚約者”じゃないの?」

「あれ!? 私が聴いたのは“愛人”だって噂だよ」

「待て待て待て待て!!!!」

 

 彼女たちも年頃の女の子。

 噂話が好きなのも分かるし、空港での話が流れているのも知っている……

 

 だけど婚約者とか愛人って何の話だ!? マジで!

 

「俺は1週間ほど演劇の指導を受けただけの関係です。婚約者とか愛人はなんだそれって感じなんですが……どこで聞いたんですか?」

「鶴亀の最新ネットニュース。やっぱり愛人はデマなんだ」

 

 あの雑誌社……マジで潰してやりたい。

 物理的になら今すぐにでも実行できそうだ。


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