人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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321話 乱入

 影時間

 

 ~某病院前~

 

 今日もアメリカチームと約束がある。

 しかし突然合流場所が変更になり、俺は聞いたこともない病院前にいる。

 理由は合流してからという話だったけれど……あ、来たみたいだ。

 

 周辺把握に引っかかる物体を感知した瞬間から数秒。

 八本の足を持つ、巨大な馬のペルソナが、猛スピードで俺の前へと到着していた。

 

「お待たせ!」

「タイガー、早いわね!」

 

 乗っていたのはロイドにエレナ。

 そしてこのペルソナ“スレイプニル”の召喚者であるジョージさんだ。

 

「今日来るのは3人だけか?」

「後からグランパの“へーリオス”で、アンジェリーナとウィリアム叔父さんが来るわ」

 

 と、話しているうちにスレイプニルは送還され、今度はいかにもな戦車が轟音を響かせて向かってくるのが見えた。

 

「……あれがボンズさんのペルソナ……聞いてはいたけど、本当に戦車だな」

「車種は“M1エイブラムス”だね。昔、一時期乗ってたらしいよ」

「それはそれは……」

 

 到着した戦車が器用に縦列駐車する様子を眺めていると、上部のハッチから3人が出てくる。

 

「これで全員ですね。ところで合流地点が変わった理由を知りたいんですが」

「ああ、それは俺から話すぜ。当事者だからな」

 

 声を上げたのはウィリアムさん。

 

「タイガー。年末の試合は本来、俺じゃなくて別の奴が試合相手だったんだよな?」

「ええ、そういう話でした」

 

 先方が怪我とかで一方的にキャンセルされて、ウィリアムさんが代役として来てくれたわけだけど……

 

「その元対戦相手が昼間、俺のところに来たんだよ。タイガーと試合をさせろって」

「……どういうことですか?」

 

 詳しく話を聞いてみると……

 

 今日の昼、ウィリアムさんは年末の試合までの調整のために、場所を貸していただくジムへ挨拶に行っていた。また、そこで俺の対戦相手として、アフタースクールコーチングの取材を受けることにもなっていた。

 

 そんなところに、元対戦相手が乱入してきたそうだ。

 

 そしてその人は、俺との試合を断ったのは事務所やマネージャーが勝手にやったこと。ネットで俺から逃げたと噂されて迷惑しているなど、色々理由を並べて俺との試合、つまりはウィリアムさんとの選手交代を要求したという。

 

「もう決まったことなんだから、そんなことできるはずねぇだろ……ってなったんだが、相手を代われの一点張りで会話にならなくてさ。

 困ってたら、取材のレポーター役で来ていたあのリセって子が、俺らにコッソリ言ったんだよ。そいつが何かに憑かれてるって。んで例の召喚補助器を使ってもらって、別室から様子を見てもらったら、弱いけど霊に憑かれて洗脳状態だったことが分かった、ってわけだ」

「それも話を聞いた限り、報告にあった“愛と叡智の会”って団体の霊っぽいんだよね」

「タイガーには今から、その元対戦相手を調べてもらいたい。タイガーなら一般人でも影時間に落とせただろう?」

 

 ロイドとボンズさんも補足してくれた。

 

「何でまたそんなことに……でも事情とやるべきことは分かりました。その人はこの病院に?」

「ああ。最終的に俺とそいつがスパーリングして、勝った方がタイガーと戦うって話になってな」

「……なるほど」

 

 精神面の異常で病院送りになったわけではなかったようだ。

 

「病室は調べがついてるから、僕が案内するよ。ついてきて」

 

 そう言って手を挙げたロイドを先頭に、影時間の病院へ潜入。

 調べがついているとの言葉通り、病室までの案内はスムーズ。

 

 俺は言われた通りに病室で象徴化していた男を人間に戻し、調査を行った。

 

 その結果、

 

「どう?」

「結論から言うと、愛と叡智の会の人工霊で間違いない。ただ犯人……術者が前とは違う」

「どういうことだ? タイガー」

 

 元試合相手の男性から追い出した霊は、まるっきり光明院君やそのマネージャーに憑いていたのと同じ姿をしていたが、それを駆除した時に読み取れる命令内容が明確に異なっていた。

 

 具体的には……光明院君等に憑いていた霊の命令は端的でわかりやすく、 支配力も強かったように思える。

 

 しかし今回の霊から読み取れた命令はその全く逆。感情的で荒く、わかりにくい。

 そのせいか支配力も低く、思考の誘導はできたようだが、対象の行動を操りきれていない。

 

「コントロールできていない?」

「はい、ジョージさん。命令を読み取った限り……今回の件を仕掛けた術者は、本当は俺を狙っていたみたいです。とにかく俺を襲えとか、試合前に怪我をさせろとか」

「……じゃあなんで俺のところに来たんだ?」

「たぶん、術者の力不足で支配が中途半端だったので……この方に、命令に抗う格闘家としてのプライドがあったのかも。“路上の喧嘩じゃなくて、リングの上で”とか」

「……操られながら、それなりに筋を通そうとしたってか」

「想像にすぎませんが、そうでなければ試合の権利をよこせ! なんて言いに行かないかと。命令では手段を選ばず再起不能にしてもいい、みたいなのもありますし……」

「誰だかしらねぇが、胸糞悪いぜ」

「それは同意します」

 

 以前にも不良グループを雇って俺を襲わせようとした“何者か”がいたが……今回の件に関わっている気がしてならない。人工霊を使った事件だし、白鐘にも連絡しておこうか……

 

「調査が終わったなら、撤収しよう。まだ時間はあるが、影時間のうちに出なければマズイ」

 

 気になることは多いが、ひとまずボンズさんの提案に従うことにした……


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