人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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今回もだいぶ短いです、最近すみません。


325話 

『キャーッ!!』

「大変だ!」

「けが人は!?」

 

 突然の轟音に声を失っていた周囲の人々が我にかえって騒ぎ始める。

 

「近藤さん!」

「問題ありません!」

 

 よかった。近藤さんも無事に回避できていたらしい。

 

「先輩! 上に……あれ?」

「ああ、大丈夫だよ。この手の問題には本当に慣れたみたいだ」

 

 自分でも驚いたことに、回避の瞬間、咄嗟にドッペルゲンガーで護符の文様と魔法円を腕に描き、浄化のエネルギー弾を撃ち込んでいた。天井にいた霊はそれによってあっけなく消滅。天井に残ったのは焼け焦げた電線がむき出しになった照明の跡だけ。

 

「それよりもこっちを手伝ってくれないか?」

「あ、あああ……」

 

 腕の中では佐竹の母が、何が起こったかを理解して腰を抜かしている。先ほどは緊急時だから仕方なかったが、あまり女性の体をベタベタと触るわけにもいかない。

 

 休むにしてもここにはガラスの破片がたくさんあるし、久慈川さんの肩を借りて、 とりあえず安全なところまで移動してもらおう。

 

「大丈夫ですか?」

「立てますか? 私の肩につかまって……」

「え、ええ……」

 

 呆然と言われるがままになっている佐竹母。

 そんな彼女に肩を貸して、適当な椅子に連れて行く久慈川さん。

 近藤さんは早くもこれを“ただの事故”として処理するために動き始めているようだ。

 慌てたスタッフさんが俺達の無事の確認などに走り回っている。

 霊は退治したし、これ以上俺の出る幕はなさそうだ。

 

 しかしあの霊は一体何だったのか……あれは愛と叡智の会の人工霊ではなかった。

 だけどあのタイミングと視線は明らかに俺を狙っていたとしか思えない。

 偶然とは思えないし、妨害と考える方が自然……そういえば、佐竹は? 

 

 そう考えた時だった。

 

「何の騒ぎだ?」

「うぉっ! アレ割れてんじゃん。落ちてきたのか?」

 

 いまだ騒がしい体育館に、光明院君と磯っちが入ってきた。

 

「おはよう、2人とも」

「おっ、虎じゃん。来てたんだ」

「早速だけどアレって」

「見ての通り落ちてきてな……そうだ、佐竹を見なかったか?」

「それならそこを右に曲がって、突き当たりの男子トイレに入っていくのを見たぜ」

「あ、でも、しばらくそっとしといた方がよくね? “鬼気迫る”っつーの? あいつさっきスゲー機嫌悪そうだったし。人でも殺しに行くのかってくらい」

「ああ……それは分かるけど、佐竹のお母さんが落ちてきた照明に当たりかけたんだよ。結構ショックを受けてるみたいだから、家族と一緒に居てもらった方がいいと思ってさ」

 

 適当な理由をつけて、佐竹の様子を見に行くことにする。

 念のため近藤さんに同行してもらい、聞いたトイレへと向かう。

 

 するとそこには血にまみれ、奥の個室から逃げるような状態で倒れた佐竹。

 そして個室内には明らかに、何らかの魔術が行使された形跡のある魔法円が残されていた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 昼前

 

 ~某ファミレス店内~

 

 意識を失った佐竹の発見後、人を呼び、応急処置や救急車の手配。そして病院への搬送が終わると、撮影責任者から今日の撮影の中止が言い渡された。撮影スケジュール的にこの遅れは厳しいが、トラブル続き。それも主演の1人が急病では仕方がないだろう。

 

 そして俺と近藤さんは、早めの食事を取りながらの打ち合わせをしていた。

 

「! 江戸川先生から、先ほど送った魔法円の画像についての連絡です。結論から言いますと、降霊術の類であることはまず間違いなく、悪影響を及ぼす霊を呼び寄せて使役し、他者を害する術ではないかということです」

「なるほど……現場に残されていた魔法円から魔力を感じましたし、状況から見て術者は佐竹でほぼ確定ですね」

「はい。本人が倒れていたのは、おそらく術に失敗したからではないかと……」

「あの魔法円、走り書きみたいでお世辞にも綺麗とは言いがたかったですからね」

 

 代表的な悪魔に限らず、何かを呼び出す際に使われる魔法円には、呼び出したものから自分の身を守る防壁の役割を持っていることが多い。それが機能しなければ、術者は無防備な状態で呼び出したものと対峙することになる。

 

「それにしても勝手に自滅するなんて……なんかモヤッとする」

「今回のことで証拠を押さえましたし、彼が目覚めれば理由を追求するなりなんなりできますよ。我々も彼に聞きたいことは色々ありますが、目を覚ますまでは何もできません。警戒は続けますが、ここはひとつ、身の回りの危険が1つ減ったことを喜びましょう」

 

 確かに……

 

「……そうしますか」

 

 犯人はお前だ! とかそんな感じに、ビシッ! と解決しないのも、ある意味俺らしいかもしれない。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~巌戸台図書館~

 

 模試に向けて、弱点を補うべく勉強を行った!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夕方

 

 ~校舎裏~

 

 今日は秘宗拳、最後の練習日だ。

 

 これまで学んできたことの総仕上げとして組み手を行う。

 ただし目隠しをしたまま、ゆっくりと、相手に触れた場所から相手の動きを感じて動く。

 心を落ち着けて、相手の“勁”を──気の流れを聴く──

 

 1分、2分と続けるうちに、急激に鋭敏になっていく感覚。

 それに伴って、相手をしてくれている先生の動きが明確に把握できてくる。

 

 いま触れているのは拳。

 だけど拳は手首、腕、肩、胴体……足の先まで全身が繋がっている。

 それを感じられた時、踏み込み、また逆に後退するタイミングすら読み取れた。

 

 まるで……見えない人が見えているように感じる。

 頭の中で明確に先生の体勢が、目で見るよりも明確に把握できる。

 そして先生の体内の気の流れ──経絡と狙うべき急所が明確に見えた!

 

 ここだっ!

 

「! っと!」

 

 腹部の急所へ突き。

 先生はそれを避けたが、その一瞬の隙を突いて腕を極める。

 

「今の動きは素晴らしい! 今の感覚を忘れないでください。忘れないうちにもう少し練習しましょう」

「はい!」

 

 自分でも今の感覚は忘れたくなかった。

 そう思い、さらに練習に没頭した結果──

 

「!!」

 

 新しいスキル“会心眼”を習得した!!

 肉眼で見えているわけではないが、相手の経絡の状態、気の流れが手に取るように分かる。

 これによって、クリティカルの発生率が間違いなく上がると確信した!




続いていた襲撃の犯人が発覚した!
犯人の術者は佐竹だった!
しかし佐竹は自滅していた!

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