人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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326話 試合一週間前

 夜

 

 ~某有名ホテル・宴会場~

 

 秘宗拳の練習を終えて、今日は更にウィリアムさんとの合同インタビューが行われた。

 

 俺と近藤さん、そしてウィリアムさんと来日していたマネジメント担当者が横一列に座り、大勢の記者からの取材を受ける。そして一通りの質問が無難に終わった……

 

 と、思っていたら。

 

「続きまして、本日のスペシャルゲストをご紹介させていただきます」

「ゲスト? そんなの予定になかったはず……って!」

 

 なんと、いきなり安藤家の5人となぜか天田が大勢のスタッフさんを伴って入場。あっという間に簡易のステージが出来上がり、さらに楽器も用意されていく。

 

「葉隠先輩。実は今週、僕はギターと歌を習ってました! 先輩、ウィリアムさん、一週間の成果、聞いてください」

 

 いきなり始まる演奏。

 その曲は数年前から、色々な場面で流れている、有名な応援歌だった。

 

 本当に一週間で習得したのか。隠れてどれだけ練習をしていたのか。

 天田は力強く歌いながらも、途切れることなくギターの音を奏でている。

 その一言、一音から、俺とウィリアムさんを応援する心を感じる……

 

 ……

 

 歌、そして演奏が終わった瞬間。俺は心からの拍手を送っていた。

 

「どうでしたか?」

「ありがとう。いきなりで驚いたけど、感動したよ」

「Me too. Thankyou,Ken」

「よかった」

「安藤家の皆もありがとう」

 

 親しい人たちからの声援を受けて、さらに気合が入る。

 

『よっしゃ! 本番では子供相手に大人気ないと言われるくらい全力でやらせてもらうからな! 覚悟しとけよタイガー!』

「ウィリアムさんは友人。だからこそ、遠慮なく。必ずいい試合だったと言わせてみせますよ」

 

 力強い握手をして、インタビューが終わった。

 これから試合までの一週間は最終調整期間として、ウィリアムさんと会うことはない。

 次に会う時は試合会場だ。

 体調を万全に整えつつ、ウィリアムさんを攻略する作戦を練ろう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 明日は月曜日。

 学校の期末試験期間の初日であり、その後にはアフタースクールコーチングのサブ課題、センター模試が待っている。

 

 ここまで来たらもうジタバタしても仕方がない。

 試験に備えて体調を万全にするために、体を休める。

 1日が24時間以上あるのは、こういう時に得かもしれない。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 12月15日(月) 期末試験・初日

 

 午前

 

 ~教室~

 

 期末試験を受けるが、学校のテストはまだ1年の範囲。

 センター模試対策を続けてきた俺にとっては、どの問題も確認作業のようなものだ。

 

 動き始めた手が止まらない!!

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 夕方

 

 ~空き教室~

 

「そこまで! 手を止めてください」

「はい」

 

 カメラの前で、センター模試を受け終えた!

 

 荷物をまとめて学校を出ると、近藤さんが車を用意して待ってくれていた。

 

「お疲れ様でした」

「近藤さん。お疲れ様でした」

「いかがでしたか?」

「まぁ、合格圏内には入ってると思います。しかし……普通(・・)でしたね」

「なるほど、確かに」

 

 今回の模試は愛と叡智の会が関わっている学習塾のもので、それは特別に学校で受けられるようにしてもらった。それに企画段階で圧力がかけられた可能性も高く、模試の最中に何かが起こるのではないか? と、警戒していたのだけれど……

 

「不審な人物はいませんし、スタッフさんも問題を預かってきただけみたいですね」

「ええ、取り憑かれてる人もいませんし、問題にも仕掛けらしいものはなくて、ただの模試でした」

「……もしかすると、我々は勘違いをしていたのかもしれませんね」

「勘違い? ……あっ、昨日の?」

「はい」

 

 そうか……確かに近藤さんの言う通りかもしれない。

 考えてみれば、これまで直接的な妨害や俺を傷つけようと画策していたのは全部佐竹だったと思われる。

 番組製作側への圧力など、愛と叡智の会の気配は感じていたけれど、

 

「襲撃などは佐竹の独断で、愛と叡智の会そのものは、こちらに危害を加えるつもりはない?」

「あちらも魔術を使うのであれば、葉隠様の能力に気づいている可能性も否めませんからね。敵対的な行動は避け、穏便な手段で勧誘を考えているのかもしれません。佐竹様、お母様の話では、佐竹君と仲良くして欲しい、などと関係者らしい人物が口にしていたようですし……我々に直接声をかけてこないことは気になりますが」

 

 やり方が迂遠というかなんというか、本当に良く分からない組織なんだよな……

 

「佐竹に直接聞ければ楽で早そうなんですが」

「残念ながら、まだ目覚めず面会謝絶の状態だそうで……そうだ、先ほど連絡があったのですが、彼が倒れたことでドラマの撮影スケジュールも大幅に変更されそうです」

「むしろ中止にはならなかったんですか? だいぶトラブルが続いてるのに……」

「アイドル業界を挙げての企画ですからね。宣伝も始まっていますし、そう簡単に取りやめることもできないらしいですよ」

「それはそれは……調整はよろしくお願いします」

「かしこまりました」

 

 車に乗り込み、寮に送ってもらった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 影時間

 

 タルタロス15F

 

 試合に向けて、ウィリアムさん対策を考えよう……と思ったが、

 

「まずは自分に何ができるか」

 

 ・空手

 ・カポエイラ

 ・米陸軍式軍隊格闘

 ・戳脚翻子拳

 ・八極拳

 ・劈掛掌

 ・八卦掌

 ・形意拳

 ・太極拳

 ・総合格闘技

 ・地功拳

 ・秘宗拳

 

 これまで学んできたことを、格闘技ごとに整理。

 それらの技術を、召喚した人型シャドウに与え、型と動きを客観的に観察。

 そして再確認する。

 

 俺は多くの型と技を身につけた。しかし、実践で使えなければ意味がない。

 ……半端な技では、ウィリアムさんには届かないだろう。

 

 なら、どうするか?

 

「……やっぱり“空手”だな」

 

 様々な格闘技をドッペルゲンガーの能力で圧倒的に効率化し、急速に身に着けてきた。

 どれも正直、短期間で身に着けたとは思えないほどに体は動き、技を使える自信がある。

 けれどもやはり錬度、信頼感、自信……10年以上続けてきた空手を超えるものはない。

 構え方ひとつ取っても、他のものよりも慣れ親しみ、体に馴染むような感覚があった。

 

 ペルソナの有無に関係なく。

 長年かけて培った、戦闘スタイルの根幹。

 数多くの格闘技を学んだ結果、俺は空手(原点)へと立ち戻ることを決めた。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 12月16日(火) 期末試験・2日目

 

 午前

 

 ~教室~

 

 動き始めた手が止まらない!!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 昼

 

 ~購買~

 

「あ」

「おっ」

 

 小腹が空いたので、パンでも買おうと思っていたら、真田と遭遇した。

 学年が違っても同じ学校の学生なのだから、別に不思議ではないが……

 

「なんだ葉隠、お前も買い食いか?」

「そんなところですね。何を買うかは決めてませんが……ゆっくり来たのに、思ったより選択肢がありそうで良かった」

「試験期間中だからな。飯が喉を通らない奴も多いんだろう。どこの教室も、直前まで教科書を読み込もうとするやつで一杯だったぞ」

「ああ……うちのクラスにもいますね、そういう人」

「逆に吹っ切れたようなやつも出てくるがな……っと、そうだ葉隠、これをやろう」

 

 真田から渡されたのは一枚のDVD。

 誰かの自作のようで、タイトルも何も書かれていない。

 

「動画編集とか、そういうのが得意な後輩が入部、というか復帰してきてな。ボクシングの勉強用にプロ選手の動画を編集していたのを、コピーしてもらったんだ。かの有名な“ムハメド・アリ”、お前も名前くらい聞いたことはあるだろう?」

「それはもちろん。厳密にいつかは知りませんが、かなり昔の世界チャンピオンでしたね」

「その現役時代の貴重な映像も入ってる。来週試合なんだろう? 何かの助けになるかもしれんし、見て損はないと思うぞ」

「……そういう事ならありがたく受け取っておきます」

「ああ、俺はまたコピーしてもらうから、返さなくていい。……頑張れよ」

 

 真田はそう言い残し、買った物が入った袋を肩にかけ、部室の方に歩き去る。

 

 どうやら真田も俺を応援してくれているようだ……!!

 

 久しぶりに……特別課外活動部とのコミュが上がった!


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