人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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328話 

 夜

 

 ~男子寮・自室~

 

 試合までに、これまで学んだことを復習し、さらに理解を深めたい。

 

 そこで学んだことを他人に教えると仮定して、どのように教えるかを考え、脳内で参考書のようにまとめてみる。

 

 ……

 

 考え方を変えてみることで、感覚的な部分や、曖昧な部分など、まだ追求できる点が浮き彫りになってきた!

 

 しかし……これはだいぶ、脳を酷使する……

 

「少し休憩を入れるか……」

 

 甘いもので糖分とカロリーを摂取しつつ、気分転換に掲示板を覗いてみる。

 プロフェッショナルコーチングの評判でも調べてみるか……と思ったら、

 

 “【試合】葉隠影虎についての雑談スレ【間近】Part64”

 

 こんなのが目に入った。しかもかなり伸びているので、気になって覗いてみた。

 

『とうとう年末だな』

『試合のチケット取れたやつおる?』

『予約開始から即完売だったからな……俺はダメだった』

『俺もダメだった。有名選手の試合でもないのに何であんな倍率高いんだよ!?』

『特攻隊長はテレビに出てるし、動画も投稿してるし、ドラマにも出てる。数年後は分からないけど、少なくとも今はノリにノってる人物なんだよなぁ』

『付け加えさせてもらうと、それでも一応“素人”の高校生だからな。プロの格闘家じゃないから、今回の試合も形式上はエキシビジョンマッチ。下手したらこれが公になる最後の試合ってこともあり得る』

『“素手で人食い巨大熊を仕留めた”ってインパクトがあるからなぁ……』

『……素人ってなんだっけ?』

『俺、新米だけど一応プロライセンス持ってる格闘家。

 でも正直熊に勝てる気はしないし、先輩のプロ見てても無理だと思うわ』

『普通は無理だわw』

『そんなの相手にするとか、誰だっけ? あの、隊長の元試合相手。試合やめて正解だったんじゃね? 俺なら絶対相手したくねーわ』

『負けたらプロとして恥ずかしいし、素人相手に勝ってもな』

『いや、熊を殺す素人って前提なら別に恥ずかしくはないんじゃないか?』

『その辺は個人の受け取り方次第じゃね? つーか、隊長の試合相手も結構凄いよな?』

『アメリカの総合格闘家で身長2M越えの巨漢だったな。プロフェッショナルコーチングの紹介映像で、ブロックの壁を殴り壊したり、水牛と力比べした挙句に投げ飛ばしてたり』

『隊長とは前から知り合いだったらしいね。インタビュー映像でも仲良さげだったし。

 八百長とか手抜きの試合にならないといいけど』

『友人だからこそ全力で、って言ってたけどなぁ……正直どこまでやるかは分からん。そもそも体格とウェイトの差が酷くて、普通に考えたら相手が有利すぎる』

『ルールもかなり“何でもあり”って感じだよな。禁止行為は金的、目潰し、噛み付きだっけ。普通はここに肘と膝の使用禁止も入るだろうけど、それはOKらしいし』

『そうしないと隊長が勉強した八極拳の肘打ちとか使えないだろ。日本では禁止や制限のある団体が多いけど、海外の団体だと普通だったりするし』

『熊を殴り殺す男 VS 腕力で牛を投げられる男 か……』

『やっぱり、実際に試合を見てみないとなぁ』

『チケットはあくまでも会場での観戦で、試合そのものはネットで生放送もするらしいし、本番を楽しみに待つしかないな』

 

 そのコメントに同意が集まっている。

 やはり、俺たちの試合はかなりの人に興味をもたれているようだ!

 

『ところで話が変わるけど、この前アップされた隊長のコラボ動画見たか?

 手の込み方が半端なくない?』

『アンジェリーナちゃんとその家族に、現役アイドルのりせちーまで参加してたやつな』

『“Alice in musicland”タイトルからわかる通り、不思議の国のアリスがモチーフのミュージカルって感じで面白かった。そしてクオリティーがやたら高い。あの編集どうなってんだ』

『撮影した映像にCGで合成してるんだと思うけど、世界感がすごかったな。特に途中のお茶会の踊るティーセット、マジで浮かんで動いてる感じだった』

『それより歌って踊ってるアンジェリーナちゃん一家、見た目が良すぎw』

『同意。女王様役のカレンママ、ドレス姿のエレナお姉さん、猫耳アンジェリーナちゃんに、意外にもきっちりしたらイケメンお兄さんだったロイド君。お父さんのジョージさんは女王に付き添う執事みたいな格好で、コーラスしたりサックス吹いてる姿がえらいカッコイイ』

『美男美女一家だよな。現役アイドルのりせちーと並んでも見劣りしないし』

『しかも家族全員楽器弾けるのな。アンジェリーナちゃんのドラムは意外だったけど』

『カーテンコールが終わるまで気持ちよく見てたら、終わった後がなんとも言えない気持ちになった』

『わかる』

『分かる』

『今北。なんか俺が見たのと違う……新着は必ずチェックしてるんだけど……りせちーが“星間飛行”って歌を歌ってる動画じゃなくて?』

『それもあったな。Alice in musiclandの後に投稿された奴。投稿のタイミングが重なって分からなくなったんじゃないか?』

『あれもいいよね!』

『すんなりと耳に入ってきて、リズムが心地いい』

『相変わらずいい曲出してくるよな』

『了解、タイトルで検索して見てみる』

『隊長の動画投稿、っていうか、新曲発表のペースは異常』

『最近はさすがに忙しいのか、撮り貯めていたものを小出しにしてる感じだけどな』

『コラボ動画のメイキング映像を見てると、自分もあの中に入りたくなる』

『分かる。マジで“仲間”っていうか、本当に仲がいいのが伝わってくる』

『アメリカ人は特に表現がストレートだし、距離感も近いよなぁ』

『外国の人と分かり合って、一緒に音楽やって、ああやって笑い合う……そういうのマジで憧れるよな!』

 

 ここから先は似たような話が続く。

 とにかくコラボ動画は好評、そして人気や注目が高まっているようだ!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 影時間

 

 ~タルタロス~

 

 脳内でまとめた内容を見直し、まずは自分で召喚したシャドウを相手に試す。

 そして本物のシャドウを相手に、実戦の中で反復練習した!

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 12月21日(日)

 

 朝

 

 ~アクセサリーショップ・Be Blue V~

 

「使う石は決まっているのね」

「はい、コレとコレを使おうと思ってます。それでデザインなんですが──」

「それなら──」

 

 オーナーに相談しつつ、山岸さんへのプレゼントを用意した!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 昼

 

 ~アクセサリーショップ・Be Blue V 地下倉庫~

 

 相談に乗ってもらったお礼も兼ねて、いつの間にか搬入されていた新たなゴミを引き取る。

 ただ、先日も引き取ったはずなのに、前よりもゴミの量が多いのはどうしてだろうか……

 

「まぁいいや、運んでくれ」

『ウッス!!』

 

 裏の顔に姿を変えて、呼び出した不良たちに指示を出す。

 寄ってくる霊を払いつつ、作業の監督をしていると──

 

「ヒソカさん、ちょっといいかしら」

「はい、どうされましたか?」

 

 倉庫の外から声をかけてきたオーナーの背後には、見覚えのない女性が一人。

 

「こちら、私達と同じポロニアンモールでお店を構えてるオーナーさんなんだけど、やっぱり年末でしょう? この方もできれば不用品を引き取って欲しいそうなの」

「そうでしたか」

「お仕事中にすみません」

「大丈夫ですよ。お声をかけていただき、ありがとうございます」

 

 そう言って笑顔を見せると、女性の顔が赤く染まる。

 素顔ではまずこうならない。よほど好印象らしいので、このままさらに押していく。

 相手のオーラを見ることで感情を把握し、演技力と話術で望む方向へと誘導する。

 

 その結果──

 

「お願い、しようかしら」

「ありがとうございます」

 

 新たな顧客を手に入れた!

 さらに知り合いにも紹介してくれる、という約束を取り付けた!

 あくまでも口約束だが、オーラを見る限り本気だろう。

 

「それではまた後ほど」

「はい、待ってますね!」

 

 女性は機嫌よく去っていった。

 

「フフフ……上手くやったわね」

「ただの営業トークにその言い方は、少々語弊があるのでは?」

 

 まぁ、ヒソカのイケメンフェイスを利用しなかったわけではないけど……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 午後

 

 ~某スタジオ~

 

 Cステージの練習中。

 

「うん! いい感じ!」

「そうね。じゃあこの辺でちょっと休憩しましょうか」

「詰め込み過ぎも良くないからな」

 

 カレンさんとジョージさん。

 大人2人がペース配分を考えて、適度に休憩を入れる。

 

「はい、タイガー」

「おっ、ありがとうロイド。レモネードか」

「夏のあれ以来、うちではすっかり定番になっちゃってね」

「ああ、あれはあれで楽しかったな……っと、そうだロイド、ひとつ相談があったんだ」

「僕に? どうしたの?」

「昼に思いついたんだけど、写真に撮った文字列を読み取って、PCに取り込むことってできるか?」

「画像化された文字をテキストにするってこと? それならできないことはないよ」

「本当か!?」

「うん。印刷物はあるけどデータがないとか、いちいち入力し直すのは面倒くさいとか、よくある話だし、需要はあるもん。Mr.コールドマンの会社でも研究してたし、試作アプリもあるけど、何に使うの?」

「それはな──」

 

 ロイドに思いついたことを相談した!!

 すると専用アプリと必要な機材を手配してくれることになった!

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 夜

 

 ~男子寮・玄関~

 

「お帰りなさい、葉隠君」

「お疲れ様です」

 

 寮に帰ってくると、玄関で寮母さんに呼び止められた。

 

「いくつか荷物が届いてるから、ちょっと来てもらえるかしら?」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 そしてついて行った管理人室には、大きな段ボールが3つ。

 2往復して部屋に運び込んでから開けてみると、中には野菜が大量に入っていた!!

 しかも野菜は全て八十稲羽の野菜。よく見たらダンボールに“八十稲羽農協”と書いてある。

 

「あ、手紙がついてる。……なるほど」

 

 どうやら送り主は謎の多い魔術師であり、農家でもある霧谷君だったようだ。

 手紙には短く、“これを食べて試合頑張って下さい”と書いてある。

 

 霧谷君からの応援と、農作物の贈り物を頂いた!!

 

 今度またお礼をしよう。


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