「葉隠君、お弁当が届いたから昼にしよう」
「ありがとうございます」
今日もペルソナを使って土器の修復作業に勤しんでいた。
「今日はから揚げ弁当ですか。楽しみです。……一つ? 原さん、皆さんの分は?」
「僕たちまだ別の仕事があってさ、そっちを済ませてから食べるから先に食べといてよ。あと食べ終わったらこの部屋に居てもいいし、また外に出てもいいから」
「わかりました。それじゃお先にいただきます」
昼は一人か……
出て行く学芸員の皆さんを見送り、土器の破片から離れた部屋の隅に用意された休憩スペースで弁当を開ける。
部屋の中には組み立てられた土器、大方は組み立てられたが抜け落ちた部分がある土器、まだ組み立てられていない破片に分けられた置き場が三つ。その中心であり部屋の中心に俺たちが作業を行うシートが敷かれている。
今日は朝から原さんが破片を並べる役割を担当してくれて、俺は組み立て作業に集中することができた。他にも組み立てた土器に破片同士を繋ぐ印をつけて置き場に移動させデータをとる担当、完成した土器を別室に運んで接着する担当、と俺の組み立て速度を最大限に活用できるように一緒に働いていた学芸員さんの仕事が割り振られていたので、非常に効率的に作業が進んだ。
まだシートの上やケースの中に破片は沢山あるが、このペースで作業が進めば今日中に全て組み立てられるだろう。
……
…………
………………
「ごちそうさまでした。……さて、どうしようか」
一人で黙々と食べたせいか、十分もかからず弁当を食べ終わってしまった。
作業に戻ることもできるが……休憩時間だし本でも読むか。遅刻しないよう携帯でアラームかけて……よし。たしか裏の方に休憩できる場所があったはず。
鞄を持って昨日出歩いた時の記憶を頼りに外へ出る。
そしてそのまま歩いていると、すれ違うお客様の中に意外な顔を見つけた。
「あれ……ひょっとして天田君?」
「えっ? たしかに僕は天田ですけど……どちらさまですか?」
忘れられてる? 会ったのが二回、うち一回は気絶してたから仕方ないか。
「ほら、この前うちの部室までお礼に来てくれただろ? その時に会った葉」
「あっ! 葉隠先輩!?」
「そうそう、思い出してくれた?」
「すみません、眼鏡かけてたから気づかなくって」
……そういや俺、今
「先輩、どうしてここに……じゃなくて! 入部の許可をありがとうございました!」
「こっちも部員が増えて嬉しいよ。でも、とりあえず声を」
「あっ、すみません」
「大丈夫……よかったら、場所移して話す? どこかに休憩所があったはずだ、外で、公園みたいな」
「そうですね。東側ですから、ここから近いですし」
「天田君、場所知ってるの?」
「はい。僕、ここによく来るんで」
「そうか。なら案内頼めるかな?」
「わかりました、こっちです」
迷うことなく歩く天田君についていくと一階の東に位置する廊下に外へ繋がる扉があり、そこを出ると生垣や木が植えられた小さな公園のような広場になっていた。ベンチやテーブル、飲み物やスナックの自動販売機もあり、人はいないが休憩所であることは間違いない。扉にも休憩所と書かかれた紙が貼られていて、その裏が休憩所を使用した人に当てたであろう、飲食物館内持ち込み禁止の張り紙になっていた。
「そこ座ろうか。飲み物いる?」
「いえ、いいです」
「そうか……」
「はい……」
……気まずい……場所変えてどうするか考えてなかった……
「あー、そういえば、あれから会ってなかったけど体調はどう?」
「平気です。頭を打って気絶して、目が覚めたときは頭痛がしたんですけど、もう全然」
「それはよかった。なら来週からの部活にも参加できそうだな」
「はい、僕頑張ります! ……ところで、先輩はどうしてここに?」
「俺は昨日からアルバイトをね」
「アルバイト? 何かほしいものでも?」
「バイクの整備やガソリン代のためにね」
「アルバイトにバイク……なんか、大人っぽいですね!」
「そうか? まだお金を貯めようとしてるだけで、免許も取ってないんだが」
「それでもですよ! いいなぁ、アルバイトにバイク」
天田少年は目を輝かせている。
「天田君はバイトしたいのか?」
「できるならしたいです。けど小学生じゃ何処も雇ってくれませんよ」
「そもそも雇ったら違法だからね」
「そうなんです、せめて中学生にならないと」
「年齢ばかりは努力でどうこうなる問題じゃないしな……」
「…………」
「? どうかした?」
「……先輩って、笑わないんですね」
「……え? 何? 俺、顔怖い? まさか親父の遺伝子が……」
「遺伝子? あっ、や、違うんです! 笑わないってそういう意味じゃなくて、バカにしないというか、流さないというか……」
「?」
「僕……バイトしたくって、前に何度も聞いたんです。いろんな人に。そしたら皆小学生じゃ無理だとか、子供がそんな事考えなくていいの! 子供は勉強してなさい! とか……それが正しいんでしょうけど、まともに取り合ってもらえなくて。
部活だってそうでした。強くなりたくて中等部や高等部の部活に参加させてもらえないかとお願いに行っても、返事はいつも決まって絶対練習についてこれない、子供は邪魔だって。どこに行っても子供、子供、子供。子供だからダメって、小学生ってだけでろくに話も聞かずに拒否されました。
理由を聞かれて強くなりたい、って答えると子供の考えそうな事だって笑われたり……強くなりたくて何が悪いんでしょうね? 強くなりたいのがダメ、じゃあ何ならいいんでしょうか? なんであの人たちは運動部で格闘技をやってるんでしょうか? 大会とかオリンピックに出たいなら、別の競技でもいいじゃないですか。
……一度、あんまり馬鹿にされたんでできるだけ丁寧に聞いてみたら、その部の人たち何も言えなくなって、生意気だとかどなり始めました」
溜め込んでるなぁ……でもまぁ、分からないでもない。
最後のはちょっとどうかと思うが、聞いた限り天田少年への対応は一般的だ。
子供には無理、子供が考えることじゃない、勉強してなさい。
どれも一般的に言われることで、いろいろな場面で親が子供に対して使う。
天田少年もそれを正しいとは思っている、だけど納得ができないんだ。
元々理屈っぽいのか、母親の件でそうなったのかは知らないけれど……その言葉は納得できずに心にも響かなかったんだろう。そうなったら、ただ頭ごなしに子供ってことを理由に頭を押さえつけられてる気にもなるか。
「だから先輩が強くなれるって断言したときは驚きました。どうせまた笑われるんだろうな、って思ってたから。入部させて欲しいってお願いした後も、ホントは諦めてました」
「……迷惑だったか?」
「そんな事ないですよ! 僕、嬉しかったです! でも……なんでですか? 何で先輩は許可してくれたんですか?」
なんで? か。
「前に少し話したと思うけど、うちの部でやるパルクールってスポーツは走ったり飛んだりというより早く移動するための方法を学ぶ中で、体と精神を鍛える事を目的としている。そして無理は禁物。
だから天田君が強くなりたいというのはパルクールの目的に沿っていると思う。それに大人でも子供でも関係ないから、個人によって練習内容が違うのも当たり前だ。
多くの部員を抱える部活ではどうしてもノルマを設定してそれをこなす練習になりがちになるけど、うちは俺ともう一人しか部員がいない。
……山岸さんは覚えてる? 天田君を助けた女の子。あの山岸さんが丁度あの日に入ったところで、部員は天田君を含めて三人になった。しかも山岸さんはマネージャーだから、パルクールをやるのは俺と天田君だけ。つまり練習の調整がしやすい。これが天田君を部活に参加させても問題ないと考えた理由。
そして実際に参加させようと思った理由は……あー……天田君はさ、スポーツや格闘技では体格差が有利不利に繋がることはちゃんと理解してるよね?」
「はい……」
「でも、それを説明されたからって辞めようとは思わないんだろ? 天田君はそれを分かった上でそれでもやりたい。差があるからこそ、差を埋めるために強くなりたい。だから体格差や年齢を持ち出されても納得できないし、的外れに聞こえてしまう……違うか?」
「えっ、なんでそんな……」
「なんとなく。……俺も似たようなものだったから」
「先輩も?」
図星を指されて驚いたのか、天田少年は目を見開いて口まで半開きになっている。
しかしまぁ……本当に、天田少年は経緯は違えど似てるんだよな……小学生の頃、まだがむしゃらに戦う手段を捜していた頃の俺に。自分で言って気づいたよ。
「先輩、先輩はどうしてパルクールを始めたんですか?」
「強くなるため」
「! 僕と同じ……?」
「強くなれるならパルクールじゃなくてもよかった、強くなれれば別に何だって構わなかった。実際に色々な格闘技の道場やジムに入ったこともあるし、パルクールだって昔縁があって知り合った米軍の元大佐に鍛えてくれ! ってわがままを言って困らせて、何度も体ができてない子供には無理だ体を壊すって言われても頼み込んだ末に、軍隊格闘の変わりに教えてもらったんだ」
「先輩は、何で、強くなろうとしたんですか?」
「……それはな……」
「それは?」
俺の一言一言に天田少年は衝撃を受けているようだ。
驚きすぎて戸惑い始め、息を呑んでから恐る恐る聞かれる。
それに俺はこう答えた。
「俺が強くなろうとしたのは…………“化け物と戦うため”だよ」
その瞬間、天田少年は表情を失う。
だが同時に困惑、動揺、悲しみ、そして喜び。
彼の目には様々な感情の色が揺れていた。
影虎は意味深な発言をした。
天田は動揺している……
今回は突然シリアス? な展開に。次回まで継続します。
鬱な展開にはしたくない。少し時間がかかるかも。