今年もよろしくお願い致します!
影時間
~タルタロス・15F~
オーロラの壁を巻き藁の代わりに、ひたすらに攻撃を加える。
学んだことの復習の成果もあり、徐々に、だが確実に威力は増していた。
以前は突き込んだ拳が貫通し、破れてもすぐに修復されてしまった。
しかし今は衝撃を伝播させ、穴を開けられるようになってきている。
さらなる威力、そして技の習熟を目指し、さらに訓練を続ける……
……
…………
………………
12月22日(月)
朝
~保健室~
「はい、もういいですよ」
学校に早く来て、江戸川先生の診察を受けた。
「問題なし。コンディションは良好。このまま試合まで、ゆっくり力を溜めましょう」
「わかりました」
「それでは……と、思いましたが、診察のために早く来てもらいましたからねぇ……終業式まではまだあります。ヒヒッ。お茶でも飲みますか? たしか昨日、いいところのお茶菓子をもらったはずです」
「ありがとうございます」
温かいお茶と高級茶菓子をいただけることになった!
「ふぅ……おいしいですね」
「そうですねぇ」
健康の保証、そして気力と体力が回復した!
……
…………
………………
午前
~講堂~
粛々と終業式が行われている……
『ではここで、プログラムを一部変更しまして……』
ん?
『1年A組の葉隠影虎君、壇上へ』
はっ?
「ほら葉隠君」
「呼ばれてるぞ」
「早く早く」
「ちょっ、え? 何?」
何も聞いていないのに、クラスメイトが早く行けと後押ししてくる。
追われるように壇上に上がると、端で進行役をしていた
『えー、それではこれより“特別プログラム”試合を控えた葉隠君への応援会を始めます!』
『ワー!!!!!!!』
歓声と拍手が響き渡る。
『ふっふっふ、どうやら驚いているようだね?』
「当然でしょう!? 何も聞いてないんですから!」
『その反応が見られて安心したよー。なんたって君は勘が鋭いからね……気取られないようにすんごい気を使ったよ』
ふと会長の方を見ると、その横にいた桐条先輩が薄笑いを浮かべ、さらにうちのクラスの方に一瞬だけ視線を向けた。
「……なるほど」
ここ最近、学校ではほとんど一緒にいた勉強会のメンバー。
彼らも、というかこの様子だと全校生徒に教師陣もグルなのだろう。
その中でも特に、勉強会のメンバーは俺の注意をそらす役割か何かを担っていたらしい。
『色々言いたいこともあると思うけど、終業式の間にちょこっと時間を貰ってるだけだから、チャッチャカいこう! まずは校長先生から、どうぞ』
『えー、葉隠君。あなたは当校の生徒として、テレビ番組、プロフェッショナルコーチングにて素晴らしい成績を残してくれました。その過程には辛いこともあったでしょう。ですがそれを乗り越える君の努力には──』
校長先生の思いのほか長い応援。さらに先生方や生徒からの手紙の一部が読み上げられるなど、学校中から応援の言葉を頂いた!!
……
…………
………………
昼
~某所・レンタルスペース~
勉強会の女子メンバーと一緒に、キッチンつきのレンタルスペースへとやってきた。
内装は広めのマンションの一室のようで、アットホームな雰囲気。
島田さんが見つけたそうだが、仲間内でパーティーをするなら良い選択だと思う。
これからここで、山岸さんの誕生会と打ち上げの準備を行う。
ちなみに他の男子メンバーはパーティーグッズの買出しをしてから来る予定だそうだ。
「さて、まずは何から作ろうか?」
「えっと、材料は葉隠君が持ってきてくれた“大量のお野菜”と、ゆかりちゃんが持ってきてくれた“果物”に……」
「アタシは豚肉が安いお店を見つけたから、多めに買ってきたよ。ミヤとか男は肉だ肉だってうるさいでしょ」
「確かに。明彦もいつも肉ばかり食べているな。ちなみに私は発注ミスをしてしまったようでな……新巻鮭といくらが3本分も届いた」
「新巻鮭!?」
「しかも3本分!?」
「そうなんだ……寮だけではとても食べきれないし、無駄にするのは生産者と鮭に悪い。ぜひ使ってくれ」
「そ、そういうことならありがたく……」
先輩から鮭の入った保冷容器を受け取る。
そこに貼られている、さすがお金持ち! と言いたくなる額の値札は気にしない。
「葉隠君……先輩の後だとちょっと恥ずかしいけど。これ、鶏肉……安いやつだけど」
「あ、ありがとう岩崎さん」
「お菓子やジュースは私と美千代ちゃんで買い込んできたから心配ないよ!」
島田さんと高木さんが胸を張る。
あちらは本当に任せておいてよさそうだ。
となると、俺達が作るのは食事……それにしても食材が多い!
「こうなったら作り置きや持ち帰りができる物も作るか」
「あ、いいかも。それなら和田君や新井君に電話して、タッパーみたいな保存容器もお願いしようか」
「山岸さんナイスアイデア! お願いしていいかな?」
「わかった。連絡しとくね」
女子チームと協力してパーティー用お料理を作り始めた!
……
…………
………………
30分後。
『おー!』
どうやら男子チームが到着したようだ。
しかし、若干足音が多い……と思ったら、なんと荒垣先輩が一緒に来ていた!
「荒垣先輩、いらっしゃい」
「荒垣じゃないか、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも、外歩いてたらそいつらに捕まったんだよ」
「先輩が暇そうにしてたんで、連れて来やしたー! せっかくのパーティーだし、いいかと思ったんすけど……?」
なるほど、順平が強引に連れてきたようだ。
「いいわけねぇだろ。俺は別に用があったわけじゃねぇが、料理とかの用意もあるだろうし……」
「全然大丈夫ですよ。ねぇ? 桐条先輩」
「ああ、材料を持ち寄ったら集まりすぎたくらいだったんだ。ゆっくりしていくといい」
「ホラホラ先輩、桐条先輩もそう言ってるんですから逃げないでくださいよー」
「チッ! ……分かったよ。……代わりに手伝わせろ。何もせず飯だけ食ってくのは悪いからな」
相変わらず義理堅い人だ。
でも荒垣先輩なら即戦力になるだろう! 大変ありがたい!
「あ、料理まだなら俺も手伝いますよ」
「俺も、皿洗いでも何でもしますんで」
さらに立候補してきた和田と新井を連れて、キッチンスペースへ向かう。
「こいつは……」
キッチンスペースには、女子チームが格闘した形跡が残されている……
「これは、だな……葉隠に教えてもらいながら努力をしていたところだ」
「桐条は料理なんてしたことないだろうからな……他の奴もか」
「荒垣先輩、これでも皆、本当に努力してたんです」
女子チームでちゃんと料理ができたのは、岳羽さんと西脇さんだけ。
調理が始まってから聞いたのだが、自分で料理を作ってパーティーするなんて面白そう!
と話は一気に決まったが、 肝心な料理のできる人の数を確認してなかったらしい。
「皆、自分はできないけど他の子ができるよね、って思ってたんだとか。少なくとも俺は料理動画とかやってるから確定で」
「計画が雑すぎんだろ、ったく……ん? この大鍋、出汁か」
「ええ、なんか前に動画で出した鍋が食べたいって話になって。他の料理にも使えると思って、多めに取ってます」
「ああ、あの鍋か。冬だし野菜もたっぷり取れる。悪くねぇな。でもこの量なら……おい、そこの鮭は余ってるか?」
「はい。これ1匹分は“ちゃんちゃん焼き”にしようと思ってますけど、あと2匹分ありますね」
「だったら“石狩鍋”も作ってみるか。この人数なら食いきれるだろ」
「いいですね! いろんな料理を少しずつ食べられるようにしましょうか」
「よし……じゃあまず野菜を」
「荒垣先輩! 下ごしらえは俺も手伝います!」
向こうの鍋は先輩に任せて良さそうだな……なら俺はケーキを作るか。
「新井、ケーキの飾りを作るから手伝ってくれ」
「はい! 何しましょう?」
「鍋を用意してくれ。前にプロから貰ったお菓子のレシピに飴細工の作り方があったから、それを試してみようと思う」
こうして再び料理が始まった!
「……キッチン、男子に占領されちゃったね」
「うん……てか全員、アタシ達より手際がいいね」
「和田君と新井君はご両親のお店の手伝いもしてるらしいし、葉隠君は動画とかも出してるからと思ったけど」
「荒垣先輩……負けてないね」
「ああ、荒垣は昔から料理が上手いぞ。私も何度か食べたことがある」
「料理のできる男子は悪くないけど~、なんか敗北感……」
「部屋の飾りつけとか手伝いに行こうか」
女子がそっとキッチンを立ち去った……
……
…………
………………
しばらくして、料理の準備が整った。
時間的にも良い頃合なので、一度リビングのようなスペースに集まる。
乾杯の音頭を取るのは、パーティーの立案者である島田さん。
「こういうのは先輩とかが適任だと思うんだけど……」
「いや、私はこういうアットホームなパーティーには慣れていないんだ。だからここは頼む」
「それじゃあ……皆、試験勉強お疲れ様でした! そして山岸さんは誕生日おめでとう! そして~、葉隠君は頑張って! あとちょっと早いクリスマスってことで、楽しもう! 乾杯!」
『乾杯!』
一斉に飲み物の入ったコップが掲げられ、料理へ手が伸びる。
「いっただっきまーす! ってか、料理めちゃめちゃ多くね?」
「全部美味そうだし、どれから食えばいいか迷うな」
「……別に少しずつ食えばいいだろ。ほら、器よこせよ。鍋よそってやるから」
「荒垣先輩手ずからあざっす!」
「ちゃんちゃん焼きって初めて食べた。こんなのなんだ」
「岩崎さんも? 名前は聞くけど食べたことないものってあるよね」
どうやら味は問題ないらしい。よかった……ん?
「はい、葉隠君も見てないでどうぞ」
「ああ、ありがとう」
皆が食べる様子を見ているだけの俺を見て、山岸さんがお皿にフライドチキンを盛ってきてくれたようだ。
「いただきます」
1ついただいて、かぶりつく。
すると表面はカリッと、中からは肉汁があふれ出した。
そしてふわりと漂う、ハーブの複雑な香り……とてもおいしい。かなり好みの味だ。
「うん、美味い!」
「本当に!? よかった~」
……ん? こんな味付けのフライドチキン、俺は作った覚えがない。
てっきり荒垣先輩かと思ったんだが……もしかして、
「これ、山岸さんが?」
「えっと、味付けというか、ハーブの調合だけやってみたの。それを荒垣先輩に見せたら、良い感じだって使ってもらえて」
なるほど、そういうことだったか。
「味付けだけでも凄いと思うよ。本当に凄く美味しいし、かなり好みの味。……こんなこと言うとちょっと偉そうだけど、確実に成長してると思う」
「偉そうだなんて全然! 事実だし、それに上達できてるなら嬉しいから」
山岸さんは安心したように笑っている。
さらに話を聞くと、最近は以前にも増して“ハーブの調合”に興味を持ち、自分の部屋でも鉢植えで育てられるハーブを色々と育てているらしい。 山岸さんがハーブの専門家になる日はそう遠くなさそうだ。
「はいはい、お2人さん。お話し中のところ失礼」
「島田さんか」
「どうしたの?」
「そろそろ山ちゃんへのプレゼント贈呈しようかな? って話になってたんだけど、お邪魔しちゃった感じ?」
「そんな、ただフライドチキンの味付けについて話してただけだよ」
「俺もプレゼントの用意はしてきたから、いつでもいいぞ」
「んじゃ、そういうことで!」
山岸さんへのプレゼント大会が始まった!
花、テディベア、電子部品、アクセサリー、洋服……
男子も女子も、それぞれ買ってきたプレゼントを渡していく。
飛び入り参加の荒垣先輩はプレゼントを用意してなかったため、少々居心地が悪そうだったが、さきほどのフライドチキンのように、たっぷり作った美味しい料理がプレゼントということなったようだ。
そしてなぜか最後が俺の番。
「さーて、プレゼント大会の
……さっきから 島田さんのテンションおかしくないか? 酒は用意してないから飲んではいないだろうけど……場酔い? まあそれはいいとして、
「プレゼントはこれだ」
丁寧にラッピングした箱を、山岸さんに渡して開けてもらう。
「わぁ……!」
それは“先見の蝶のペンダント”と“浄化用品”のセット。
12月の誕生石であるマラカイトとタンザナイトにパワーを込め、変化や復活の象徴である蝶をモチーフにした台座に填め込んだ一品。羽には模様に見せかけたルーン文字が刻まれていて、護符としての効果も高い。
マラカイトには強力なヒーリング効果があり、心身を癒して安眠や体力の回復効果があるとされるだけでなく、直観力や洞察力を高めたり、邪気を吸収することで身に着けた人を守り、人の感情に飲み込まれないように保護してくれたりする。
タンザナイトも所有者の柔軟性を高め、自立心を養い、知性や意識を高める。複雑な問題を解決する助けとなる石だ。また、“人生における重要な局面に光をもらたらす”ともいわれている。
あってほしくないが、来年、山岸さんはいじめの標的にされるかもしれない。
さらにペルソナ使いとしても数々の困難に巻き込まれていくだろう。
「占いによると、来年の山岸さんにはいろいろと驚くような事や、悩んでしまうような事が起こるかもしれない。だからこれはお守りの意味も込めてある。抱え込み過ぎないように。訪れる困難を乗り越えて、未来の山岸さんに実りがありますように」
「ありがとう、葉隠君。占いも、分かった。何かあったらみんなにも相談するね」
山岸さんへプレゼントを渡した!
山岸さんは喜んでくれているようだ!
※お知らせ(1月10日追記)
3日から体調不良で寝込んでいたため、次回投稿は1月21日とさせていただきます。
現在は体調もほぼ回復していますので、ご安心ください。