人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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330話 試合当日

 楽しい打ち上げもお開きの時間がやってきた。

 

「ふー、食った食った」

「すげぇ量あったけど、結構無くなったな」

「ってか、影虎がほとんど食ってた気がする」

「葉隠、お前どういう体してんだ」

「最近は大盛りチャレンジメニューでも軽いんですよね……!!」

 

 なにげない男子チームの質問に答えたら、女子達の視線が突き刺さるような錯覚を覚えた!

 

 

「さ、さて。片付けますか……」

「おっと! 影虎、そいつはおれっち達に任せな」

「順平?」

「そうそう。料理とかほとんど任せちゃったし、俺らも片付けくらいはできるからよ」

「友近」

「だから影虎は試合に向けてゆっくり休んでくれ」

「宮本」

 

 なんと後片付けは男子チームが率先してやってくれた。

 不器用な思いやりを感じる!!

 

「ってことでー、葉隠君と山ちゃんはここで帰るべし!」

「えっ、私も?」

「山岸さんもパーティーの主役だしね」

「ささ、帰った帰った!」

「ええ~」

 

 ……山岸さんと一緒に、女子に追い出されてしまった。

 

「強引だな」

「あはは、でも皆、気を使ってくれたみたいだし」

「まぁ、それは確かに感じるよ」

 

 前々から、やり方はともかく色々と気遣ってくれていたが、最近は特にそれを感じる……

 

「? どうかしたの? 葉隠君」

「え、あ、いやべつに」

 

 なんだかボーっとしていたようだ。

 

「それより山岸さん、せっかくだから女子寮まで送るよ。そろそろ暗くなるし」

「そんな、悪いよ。道も違うし」

「ちょっと食べ過ぎたし、散歩にちょうど良いから」

 

 なんとなく気まずい? のか、自分でもよく分からない。

 ごまかすように山岸さんを女子寮まで送って行った……

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 夜

 

 ~アジト~

 

 寮に帰らず、そのまま不良グループのアジトに行くと、先日のポロニアンモールの件で噂が広がったのか、ポロニアンモールに店を構えるオーナー方から廃品回収の依頼があったようだ。

 

 そこで仕事を割り振ろうとしたところ、鬼瓦を筆頭に、不良たちが自らやると言い出した。

 

「どうした、突然」

「突然も何も、俺らの仕事だろうが。いつまでもおんぶにだっこでいられるかっての。大体お前、近いうちに、何か他に大事な用があるんだろ」

「……分かるのか?」

「なんとなく、っすかねぇ」

「こう、喧嘩の前のヒリついた雰囲気出してんだよなぁ」

 

 葉隠影虎として接していないため、こいつらに試合のことは話していない。

 しかし、雰囲気から察されて、どこかに喧嘩しに行くと思われているようだ

 

「ま、なんにしてもだ。俺らの仕事は俺らで回せるようになる必要がある。テメェの研修だって受けただろ、問題は起こさねぇ。だからテメェは好きにやってこいよ。誰とやり合うかは知らんけどな」

 

 ……不良たちからの、不器用な応援を受けた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 影時間

 

 ~タルタロス・15F~

 

 今日も体の負担にならない程度に練習と調整を行う。

 

 ……最近、皆に応援されているからだろうか?

 コミュの影響か、日に日に力が増すようで、壁に空ける穴も飛躍的に大きくなっている。

 既に自分1人がくぐるだけなら問題はないだろう。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 12月23日(火)天皇誕生日 

 

 朝

 

 朝食後、日本支部へ向かう。

 すると、

 

「お待ちしていました、葉隠様」

「メディカルチェックの用意が整っております」

 

 近藤さんとハンナさんの案内で、Dr.キャロラインとエイミーさんの待つ医務室へ向かった。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 午前

 

「……これでメディカルチェックと測定は終了よ。疾患と言えるような症状はないみたいね。調子が良すぎる(・・・・)といえばいいのかしら、ある意味異常な数値だけど」

「体内のエネルギー量も、2週間ほど前の計測結果と比較して2割ほどの向上が見られるわ」

 

 Dr.キャロラインとエイミーさんが、それぞれの視点からの検査結果を報告してくれる。

 やはり、といえばいいのか……

 

「よく分かりませんが、最近とても調子が良いんです。もちろん無理のある練習はせずに、これまでの復習って感じなんですが……1つ1つが噛み合っていくというか……エネルギーに関しては、コミュの影響なのかと」

「そう……気にはなるけど、現状では問題ないということでよさそうね」

「何か異常があれば、すぐ連絡するように」

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 昼

 

 ~日本支部・1F~

 

 試合に向けて、エステとサロンで身だしなみを整える。

 テレビやネット生中継で全国に映像が流れるのだ。

 こういうところもきちんとしておかなければならない。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 午後

 

 ~某スタジオ~

 

 安藤家の皆さんと、最後の練習を行った!

 

 またその際、

 

「タイガー。例の件に必要な機材、用意したよ」

「ありがとう、ロイド」

 

 ロイドに注文していた、“写真から文章を取り込む機材一式”を受け取った!

 と言っても、デジタルカメラとコードでつながるノートPCが一台。

 非常にシンプルだが、これがあればアレを早く作ることができそうだ。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 夜

 

 ~長鳴神社~

 

 明日は試合当日。今日はゆっくり休めと言われていたし、俺もそう思った。

 だけど、なんとなく眠れなくて、散歩をしていたら神社へたどり着いた。

 

「ワン! ハッハッハッハ……」

「やあ、コロ丸。なんだか久しぶりだな。ごめんな、最近会えないし、タルタロスにも連れて行ってやれなくて」

「バウッ」

 

 気にするな、と言っているようだ。

 

「ありがとう」

「クウン?」

「どうしたのかって? 特に何ともないんだけど、試合が近くで興奮してるのかな。眠れなくてさ」

 

 しばらく夜の神社の境内で、コロ丸と話しながら星空を眺めた。

 

 そして夜遅くなり、帰ろうとした時。

 

「バウッ! バウッ!」

「……試合頑張れ。勝ってこい、か」

 

 コロ丸からも応援を受けた!

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 影時間

 

 ~タルタロス・15F~

 

 コロ丸と別れても、まだ寝付けずに今日も来てしまった。

 まぁ、これが俺のいつも通りとも言える。

 

 そんな言い訳をしながら、散々殴り倒した壁を眺める。

 そしてなんとなく、いつものように壁の前へ立つ。

 

「ふぅ……」

 

 立禅での瞑想、からの一撃。

 放つは脳裏に思い描く、これまでで最高の一撃。

 

「……破ァッ!!」

 

 それは壁に穴を開けるに留まらず、端まで完全に破壊する。

 これが、今の俺にできる、俺が学んだことの集大成。

 

「…………」

 

 しかし、この技の成功率は1割以下。たっぷり集中しても、極まれにしか成功しない。

 実戦で使えれば強力な武器だが……仕方ないな。それは今後の課題だ。

 

 こうしていると、また練習を続けてしまうかもしれない。

 心を落ち着けて、もう帰ることにしよう……

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 12月24日(水)試合当日

 

 朝

 

 ~某ホテル・レストラン~

 

 とうとう試合当日になった。

 今朝は早くから、試合会場近くにホテルを取り、時間まで余裕を持って準備をする。

 

 そして俺はやや遅めの朝食が届くのを待ちながら、携帯でメールを確認。

 画面にはこれまでテレビや動画で関わった方々や、中学時代のクラスメイトや先生方からもメールが届いていて、 未読メールが溢れている。

 

「ここ、いいかしら?」

「えっ? !! どうぞ」

 

 急に声をかけてくるから誰かと思えば、 そこにいたのは護衛を伴った大女優。エリー・オールポートこと、エリザベータさんだった。

 

 彼女が俺の返事を聞くと、正面の席に座り、ウエイターさんにコーヒーを注文。

 

「おはようございます。どうしてここに?」

「別に。たまたまここに泊まっていただけよ」

 

 そうなのか……? と思っていたらコーヒーが到着。

 さすがにコーヒー一杯だと出てくるのも早い。

 

「それはそうと貴方、今夜格闘技の試合をするのよね」

「はい」

「試合が終わってすぐとは言わないわ。そうね……明後日、予定がなければ少し付き合いなさい。日本人の知り合いのところへ行くのだけれど、その人、格闘技が大好きでね。連絡したら、貴方のことを熱心に聞かれたんだけど」

「失礼します。エリザベータ様、お時間が……」

「ッ! 分かってるわ! コーヒーくらい落ち着いて飲ませなさいよ! ……詳しいことはあとで連絡しましょう。でも貴方にとっても悪い話ではないと思うから。それじゃ、試合頑張りなさいな」

 

 エリザベータさんは、ホテルのレストランにざわめきを残して去っていった……

 

 ちなみに後でコールドマン氏に聞いたところ、エリザベータさんは昨日このホテルに宿泊していなかったようだ。

 試合前に一声かけるために、忙しい中、わざわざ偶然を装って訪ねてきたのだろう。


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