楽しい打ち上げもお開きの時間がやってきた。
「ふー、食った食った」
「すげぇ量あったけど、結構無くなったな」
「ってか、影虎がほとんど食ってた気がする」
「葉隠、お前どういう体してんだ」
「最近は大盛りチャレンジメニューでも軽いんですよね……!!」
なにげない男子チームの質問に答えたら、女子達の視線が突き刺さるような錯覚を覚えた!
「さ、さて。片付けますか……」
「おっと! 影虎、そいつはおれっち達に任せな」
「順平?」
「そうそう。料理とかほとんど任せちゃったし、俺らも片付けくらいはできるからよ」
「友近」
「だから影虎は試合に向けてゆっくり休んでくれ」
「宮本」
なんと後片付けは男子チームが率先してやってくれた。
不器用な思いやりを感じる!!
「ってことでー、葉隠君と山ちゃんはここで帰るべし!」
「えっ、私も?」
「山岸さんもパーティーの主役だしね」
「ささ、帰った帰った!」
「ええ~」
……山岸さんと一緒に、女子に追い出されてしまった。
「強引だな」
「あはは、でも皆、気を使ってくれたみたいだし」
「まぁ、それは確かに感じるよ」
前々から、やり方はともかく色々と気遣ってくれていたが、最近は特にそれを感じる……
「? どうかしたの? 葉隠君」
「え、あ、いやべつに」
なんだかボーっとしていたようだ。
「それより山岸さん、せっかくだから女子寮まで送るよ。そろそろ暗くなるし」
「そんな、悪いよ。道も違うし」
「ちょっと食べ過ぎたし、散歩にちょうど良いから」
なんとなく気まずい? のか、自分でもよく分からない。
ごまかすように山岸さんを女子寮まで送って行った……
……
…………
………………
夜
~アジト~
寮に帰らず、そのまま不良グループのアジトに行くと、先日のポロニアンモールの件で噂が広がったのか、ポロニアンモールに店を構えるオーナー方から廃品回収の依頼があったようだ。
そこで仕事を割り振ろうとしたところ、鬼瓦を筆頭に、不良たちが自らやると言い出した。
「どうした、突然」
「突然も何も、俺らの仕事だろうが。いつまでもおんぶにだっこでいられるかっての。大体お前、近いうちに、何か他に大事な用があるんだろ」
「……分かるのか?」
「なんとなく、っすかねぇ」
「こう、喧嘩の前のヒリついた雰囲気出してんだよなぁ」
葉隠影虎として接していないため、こいつらに試合のことは話していない。
しかし、雰囲気から察されて、どこかに喧嘩しに行くと思われているようだ
「ま、なんにしてもだ。俺らの仕事は俺らで回せるようになる必要がある。テメェの研修だって受けただろ、問題は起こさねぇ。だからテメェは好きにやってこいよ。誰とやり合うかは知らんけどな」
……不良たちからの、不器用な応援を受けた!
……
…………
………………
影時間
~タルタロス・15F~
今日も体の負担にならない程度に練習と調整を行う。
……最近、皆に応援されているからだろうか?
コミュの影響か、日に日に力が増すようで、壁に空ける穴も飛躍的に大きくなっている。
既に自分1人がくぐるだけなら問題はないだろう。
……
…………
………………
12月23日(火)天皇誕生日
朝
朝食後、日本支部へ向かう。
すると、
「お待ちしていました、葉隠様」
「メディカルチェックの用意が整っております」
近藤さんとハンナさんの案内で、Dr.キャロラインとエイミーさんの待つ医務室へ向かった。
……
…………
………………
午前
「……これでメディカルチェックと測定は終了よ。疾患と言えるような症状はないみたいね。調子が
「体内のエネルギー量も、2週間ほど前の計測結果と比較して2割ほどの向上が見られるわ」
Dr.キャロラインとエイミーさんが、それぞれの視点からの検査結果を報告してくれる。
やはり、といえばいいのか……
「よく分かりませんが、最近とても調子が良いんです。もちろん無理のある練習はせずに、これまでの復習って感じなんですが……1つ1つが噛み合っていくというか……エネルギーに関しては、コミュの影響なのかと」
「そう……気にはなるけど、現状では問題ないということでよさそうね」
「何か異常があれば、すぐ連絡するように」
……
…………
………………
昼
~日本支部・1F~
試合に向けて、エステとサロンで身だしなみを整える。
テレビやネット生中継で全国に映像が流れるのだ。
こういうところもきちんとしておかなければならない。
……
…………
………………
午後
~某スタジオ~
安藤家の皆さんと、最後の練習を行った!
またその際、
「タイガー。例の件に必要な機材、用意したよ」
「ありがとう、ロイド」
ロイドに注文していた、“写真から文章を取り込む機材一式”を受け取った!
と言っても、デジタルカメラとコードでつながるノートPCが一台。
非常にシンプルだが、これがあればアレを早く作ることができそうだ。
……
…………
………………
夜
~長鳴神社~
明日は試合当日。今日はゆっくり休めと言われていたし、俺もそう思った。
だけど、なんとなく眠れなくて、散歩をしていたら神社へたどり着いた。
「ワン! ハッハッハッハ……」
「やあ、コロ丸。なんだか久しぶりだな。ごめんな、最近会えないし、タルタロスにも連れて行ってやれなくて」
「バウッ」
気にするな、と言っているようだ。
「ありがとう」
「クウン?」
「どうしたのかって? 特に何ともないんだけど、試合が近くで興奮してるのかな。眠れなくてさ」
しばらく夜の神社の境内で、コロ丸と話しながら星空を眺めた。
そして夜遅くなり、帰ろうとした時。
「バウッ! バウッ!」
「……試合頑張れ。勝ってこい、か」
コロ丸からも応援を受けた!
……
…………
………………
影時間
~タルタロス・15F~
コロ丸と別れても、まだ寝付けずに今日も来てしまった。
まぁ、これが俺のいつも通りとも言える。
そんな言い訳をしながら、散々殴り倒した壁を眺める。
そしてなんとなく、いつものように壁の前へ立つ。
「ふぅ……」
立禅での瞑想、からの一撃。
放つは脳裏に思い描く、これまでで最高の一撃。
「……破ァッ!!」
それは壁に穴を開けるに留まらず、端まで完全に破壊する。
これが、今の俺にできる、俺が学んだことの集大成。
「…………」
しかし、この技の成功率は1割以下。たっぷり集中しても、極まれにしか成功しない。
実戦で使えれば強力な武器だが……仕方ないな。それは今後の課題だ。
こうしていると、また練習を続けてしまうかもしれない。
心を落ち着けて、もう帰ることにしよう……
……
…………
………………
12月24日(水)試合当日
朝
~某ホテル・レストラン~
とうとう試合当日になった。
今朝は早くから、試合会場近くにホテルを取り、時間まで余裕を持って準備をする。
そして俺はやや遅めの朝食が届くのを待ちながら、携帯でメールを確認。
画面にはこれまでテレビや動画で関わった方々や、中学時代のクラスメイトや先生方からもメールが届いていて、 未読メールが溢れている。
「ここ、いいかしら?」
「えっ? !! どうぞ」
急に声をかけてくるから誰かと思えば、 そこにいたのは護衛を伴った大女優。エリー・オールポートこと、エリザベータさんだった。
彼女が俺の返事を聞くと、正面の席に座り、ウエイターさんにコーヒーを注文。
「おはようございます。どうしてここに?」
「別に。たまたまここに泊まっていただけよ」
そうなのか……? と思っていたらコーヒーが到着。
さすがにコーヒー一杯だと出てくるのも早い。
「それはそうと貴方、今夜格闘技の試合をするのよね」
「はい」
「試合が終わってすぐとは言わないわ。そうね……明後日、予定がなければ少し付き合いなさい。日本人の知り合いのところへ行くのだけれど、その人、格闘技が大好きでね。連絡したら、貴方のことを熱心に聞かれたんだけど」
「失礼します。エリザベータ様、お時間が……」
「ッ! 分かってるわ! コーヒーくらい落ち着いて飲ませなさいよ! ……詳しいことはあとで連絡しましょう。でも貴方にとっても悪い話ではないと思うから。それじゃ、試合頑張りなさいな」
エリザベータさんは、ホテルのレストランにざわめきを残して去っていった……
ちなみに後でコールドマン氏に聞いたところ、エリザベータさんは昨日このホテルに宿泊していなかったようだ。
試合前に一声かけるために、忙しい中、わざわざ偶然を装って訪ねてきたのだろう。