薄暗く不気味な街の中を、特別課外活動部の面々が必死に駆ける。
しかし疲労困憊の上、体には僅かとはいえ回復しきれない傷も残る状態。
彼らの胸中は焦りで埋め尽くされていた。
「これ、逃げ切れるの……?」
「岳羽! 今は考えずに走れ!」
「クッソ、とんでもねぇ奴に喧嘩売っちまった」
「アイギス……」
「! バウワウッ!」
そんな矢先にコロマルが急かすように咆えた。
「コロマル、まさか!?」
「グルルルルッ!」
犬の聴力を持つが故に、仲間よりも早く気づいた音。
それは徐々に大きくなり、やがて他のメンバーの耳にも届いた。
「! しまった……これは私のバイクの音だ。カギもそのまま、すまない、皆……」
「気にすんな、あの状況じゃ仕方ねぇ」
「そ、そうですよ! で、でも、どうしましょう?」
謝ったら許してもらえるか……と続いた山岸の言葉は、横をすり抜け、派手なドリフトで反転するバイクの音にかき消されてしまう。だが、彼らにそれを気にする余裕などなかった。
完全に停止したバイクから降りてくるのは当然、影虎だ。しかしその風貌はタルタロスのエントランスにいた時とはまるで異なり、漆黒のローブのようなものに包まれている。そして何よりも、その体から溢れる重圧に誰もが言葉を失った。
「まさか、“死神”タイプ……?」
思わず山岸が呟いた言葉で、仲間たちの間に更なる緊張が走る。
「身構えなくていい」
だが、影虎の声には敵意がなかった。先程まで激しく戦っていた相手とは思えないほどに。
「俺は忘れ物を届けに来ただけだ」
影虎は口を開くこともできずにいる特別課外活動部の面々に、一方的に要件を伝え始めた。乗ってきたバイクの座席を軽く叩き、さらに着ていたローブの背中から、もの言わぬ金属の塊と化したアイギスを放り出す。
「後のことは好きにしろ」
「アイギスさん!?」
「てめぇッ!」
悲鳴に近い声で叫んだ天田に続いて、頭に血が上った順平が声を荒げる。
しかし、影虎は意に介した様子もなく立ち去ろうとした。
「……待って」
「ッ! 公子!?」
それを呼び止めた公子が、肩を借りていたゆかりから離れて影虎を見据える。
「あなたは一体、何なの? 何で私達を見逃すの?」
「……“どうでもいい”」
一言、そう吐き捨てた影虎は驚異的な脚力で飛び上がり、街灯に手をかけ鉄棒のように体を1回転させながらさらに上へ飛び、街灯の頂点に着地。
「ここじゃない……帰らなきゃ……早く……」
誰も言葉を発せない緊張感と影時間の静寂の中に、うわごとのような言葉を残して、影虎は街灯を蹴る。人間離れした動きでビルを駆け上がり、飛ぶように去る影虎の姿を、特別課外活動部は黙って見送るしかなかった。
……
…………
………………
2009年9月11日 夜
~巌戸台分寮・作戦室~
影虎との戦闘からほぼ一日が経過。
再び影時間が訪れる前に、特別課外活動部のメンバーは集められていた。
「皆、集まってくれてありがとう」
幾月の言葉に対して、メンバーは無言。
それぞれが怒りや悔しさ、後悔で悲痛な顔をしている。
「幾月さん、アイギスは、アイギスはどうなったんですか?」
「公子君……他の皆も、気になるのは当然だろうね。結論から言うと、アイギスは無事だよ」
「本当ですか!?」
幾月の言葉で、暗かった少年少女の表情が僅かに明るくなった。
犬のコロマルも円を描くように駆け、全身で喜びを表す。
しかし、まだ室内の雰囲気は暗く、重い。
仲間の無事が喜ばしいことは間違いないが、大きな問題が解決したわけではないからだ。
「さて、アイギスが無事であることを理解した上で話を続けたいんだけど……これも結論から言うと、アイギスが助かったのは葉隠少年のおかげだ。僕も、アイギスの状態を確認したラボの研究員全員も同じ結論に至ったよ」
その言葉を理解した瞬間、幾月以外が困惑した。
「どういうことっすか!? あいつはアイちゃんをぶっ殺しかけた奴っしょ!?」
「順平うるさい。でもその意見には賛成です。どういうことですか」
「じゅ、順平君、ゆかりちゃんも落ち着いて。幾月さんは今から話してくれると思うから、ですよね?」
「もちろんだとも。まず彼がアイギスを救ったと判断した根拠は、破壊されたアイギスのボディーに残った傷さ」
ここで幾月が作戦室のモニターに画像を表示させると、誰かの息を呑む音が響く。
画像はラボで撮影されたものだろう。大きな作業台の上には右目を潰され、手足を捥がれかけ、胴体にはいくつも穴が開いた無残な姿のアイギスが横たわっている。
「アイギス……」
「公子君、もう一度言うけど、彼女は無事だよ。外見の損傷は酷いけど、実は内部はそれほどでもないんだ。というのもアイギスは動力を伝達する“駆動系”と稼動に必要なエネルギーを供給する“パイプライン”、この二点のみに絞って的確にダメージを与えられていたんだ」
「それってつまり、動けなくされただけってこと?」
「天田君が言った通りで、行動不能にされただけ。完全にエネルギー供給が断たれているせいで、人間で言えば仮死状態になっているけれど、アイギスの記憶や人格を司る重要パーツは無傷だった。
元々、アイギスは対シャドウ兵器としてかなり頑丈に作られているんだ。重要部位は無傷で、行動に関係する部分だけ破壊するなんて、意図的にやらなきゃまず無理だよ。仮に偶然だったら、ものすごい奇跡。そのくらいの低確率だよ。
あと決定的なのは、アイギスの記憶が無事だったおかげで、彼女の行動記録が抽出できたこと。それによると、どうも彼女は勝てないと悟って自爆しようとしたらしいんだ」
「自爆だと!? どういうことですか幾月さん!」
「彼女は動力源であり、人格のコアとして埋め込まれている特殊な黄昏の羽根“パピヨンハート”の力を暴走させたんだよ。そして彼は、それを止めた」
そこに待ったをかけたのは、桐条。
「待ってください。そんなことが可能なのですか?」
「厳密に言うと、パイプラインを破壊してエネルギーを流出させることで、全体にかかる負担を軽減した、という感じかな。風船に過剰な空気を送り込めば破裂するけど、小さな穴を開けて空気を逃がせば、萎みはしても形は残るだろう?」
説明はなんとなく理解できた、しかし信じられないと言いたげな子供達を無視して、幾月は話を続ける。
「それに彼女を回収できたのは、ほかならぬ葉隠少年自身が君達の下に送り届けてくれたからだろう? 敗走中にボロボロになった仲間を担いでくれば、追って来たのかと思うのも無理はないと思うけど、結局彼は何もせず立ち去ったというじゃないか」
「クゥン……」
「……確かに、奴は美鶴のバイクとアイギスを“忘れ物だ”と言って置いていった。口調はとても友好的とは言えなかったが、結果としては何事もなく立ち去っている……」
「あの……」
ここで、おずおずと呟いた山岸に注目が集まる。
「山岸、気になることがあれば言ってくれ」
「はい、その……葉隠君は私達に危害を加えるつもりはなかったんじゃないかと思って。
昨日の戦闘中、情報解析を試みていた時になんとなく感じたんです。“死にたくない”って」
「死にたくない? 山岸君、詳しく聞かせてほしい」
「私も詳しくはわかりません。葉隠君は私の探知を妨害する能力があるみたいで、とても読み取りにくくて……それでなんとか、もっと深く繋がろうとしていたらそう感じただけで。でも、ほんの少し感じただけなのに、それがとても“強い思い”なのは理解できたというか……矛盾してますね。ごめんなさい」
「いや、実に興味深い内容だった。話が逸れてしまうが、山岸君の意見は我々の葉隠少年のペルソナに対する考察を裏付ける証拠、いや答えと言っていいかもしれない」
「! 彼のペルソナについて、何か分かったんですか?」
「推測の域を出ないけど、ペルソナとシャドウは表裏一体の存在だ。シャドウを理性で制御することができればペルソナになるし、何かの拍子にコントロールを失えば、本能が暴走してペルソナはシャドウになる」
ここで荒垣、真田、桐条の三人が伏し目がちになったことに気付く者はいなかった。幾月も淡々と話を続ける。
「つまり、君達も含めて普通のペルソナ使いは、無意識に理性と本能で主導権の奪い合いをしているようなものなんだ。しかし彼の場合は奪い合いではなく、1つの目標に向かって協調しているのではないかと僕達は考えている。この目標というのが、山岸君の言った“死にたくない”という思いなんだろう。
人間に限らず、生き物の多くは本能的に“死”というものを恐れ、忌避する。そして、そのような状況に置かれた場合、死を回避するために理性を働かせることは、人間として特におかしなことではない。身近なもので言えば、学校で行う避難訓練もそうだ。
“死にたくない”、それ以上でも以下でもない理由で本能と理性が手を取り合っている。ペルソナとシャドウに境界線があるとすれば、彼のペルソナはどちらかに偏ることなく、その真上にいる存在なんだと思う。
言うなれば“最もシャドウに近いペルソナであり、最もペルソナに近いシャドウ”ってところかな? 極めて珍しい事例なのは間違いないけど、ありえない話ではないよ」
特別課外活動部の面々が、幾月の説明に唸る。
そして、口を開いたのは岳羽。
「……考えてみれば、彼って“遭難者”なんだよね。最近はストレガとのこともあったし、私もつい身構えて攻撃もしちゃったけどさ……そもそもの発端はアイギスが葉隠君に発砲したからであって、それまでは普通に会話に応じてくれてたし、結局は私達が強引に取り押さえようとしたから戦うことになったんだよね」
「今それを言っても仕方ないだろう。第一、発端がアイギスの銃撃だとしても、あのときの奴は既に戦闘体勢に入っていた。むしろアイギスの銃撃で傷一つつかないことが異常だ。警戒は必要だったし、美鶴も警告はしたはずだろう」
「真田先輩。彼からすれば撃たれた直後なんだから、警戒されて当然だと思いますけど。その後にろくな謝罪も弁明もなく、敵意を向けたのが問題だったって言ってるんです。てか先輩は格闘家だって聞いた時から、葉隠君に戦おうとか言いかけてたでしょ。闘いが始まったら真っ先に突っ込んでいきましたし、渡りに船だと思ってたんじゃないですか?」
「なんだと!?」
「ちょ、やめろってゆかりっち。俺らで喧嘩してもしかたねぇって」
「アキもやめろ。岳羽の言うことも間違っちゃいねぇ。少なくとも俺らの対応がまずかったのは確かだ」
順平と荒垣が間に入り、言い争いを始めかけた二人を諌める。
しかし、険悪な空気は収まらない。
岳羽は無言で謝罪も前言の撤回もせず、真田は持論を曲げなかった。
「先に攻撃を加えたのが俺たちなのは認める! だが、あのときの対応が間違っていたとは思わん。アイギスの銃撃を受けて無傷だったこともそうだが、その後あいつは俺たちと闘い、圧倒した。
奴の言葉が本当なら、ペルソナに目覚めたばかりのはず。そんな奴にあんな戦闘ができるとは到底思えん。何か目的を持って近づいた、といわれたほうがまだ納得できる。先日も順平がだまされて捕まったようにな」
「ちょっ、それは今関係ないっしょ!?」
「伊織のことはおいておくとして、その点については私も少し思うところがある。あの戦闘時、彼の対応は的確だった。戦っていて、まるで“私たちの能力や行動が知られている”ような錯覚すら覚えた。
山岸のような探知系の能力を持っている可能性も考えたが……ペルソナの使用には慣れも必要だ。仮に発見前は連戦をしていたとしても、彼はペルソナを使った闘いに慣れすぎている。今となっては、ストレガの仲間であったと考える方が自然だろう」
桐条が真田に加勢する形となり、場の空気がさらに重くなる。
ここで、幾月が手を打ち鳴らして注目を集めた。
「彼の強さについてもいくつか心当たりはある。もしかすると彼は“魔術師”かもしれない」
幾月に向けられた視線は様々だった。
突飛な発言に、何を言っているんだという疑問。
冗談を言うときではないだろう、という怒り。
場を和ませるにしても寒すぎる、という憐憫。
それでも幾月は止まらない。
「冗談で言っているんじゃないよ。君たちがペルソナを扱うペルソナ使いであるように、世の中には魔術を扱うことができる魔術師が実在するんだ。
君たちが日々使っている召喚器は、世間一般の科学技術とは一線を画す代物だろう? そんなものを桐条グループは一体どうやって開発したのか? 影時間やシャドウに対して、どのような方法で研究をしていたか、気になったことはないかい?」
「それは桐条グループの独自技術――まさか、それが魔術だというのですか?」
「桐条グループは魔術を様々な方向から科学的に調べることで、人が持つエネルギーやその扱い方を発見したんだ。そういう意味で、魔術は桐条の技術の原型と言える。しかし魔力や魔術は確かに存在するものの、習得は困難だった。
まず魔術を扱う素養を持っている人が希少な上に、長い年月と修行が必要。やっとのことで身に着けても、はっきりと効果がわかるほどの魔術を使える人はごくわずかだったそうだ。シャドウと戦えるほどの力を使える人間はさらに少なくて、とても実用的とは言えない。
だから桐条グループは魔術を研究したデータを参考に、科学技術を用いてもっと汎用的に使える技術を構築してきたのさ。それが今の桐条グループの技術であり、君たちの召喚器や桐条君のバイクに使われている技術なんだ。
桐条の技術の話は本題じゃないからここまでにするけど、とにかく魔術と魔術師は本当に存在する。それに君たちが彼に負けた原因の一つである“有毒の魔法陣”だけど、アイギスから回収した映像データを分析したところ、陣の模様から“ルーン魔術”に用いられる“ルーン文字”だということが判明しているよ。
それに彼が魔術師だとすれば、初心者と思えないペルソナの扱いにもある程度の説明がつく。魔術もペルソナも精神と深い関係があるものだし、根本的に近い部分があるからね」
「じゃあ、あの時魔法の反応が二種類あったのは」
「十中八九、ペルソナの魔法とルーン魔術を併用していたんだろうね。ルーン魔術を使うにはまずルーンを準備する必要があるそうだけど、発覚している彼のペルソナの特性を利用すれば、様々な魔術をその場で使い分けることもできるだろう」
「そっか、だからあの時、わざわざ魔法陣を描いてたんだ……」
「距離を取らずにたたみかけるべきだったか」
与えられた情報に、各々が思考を巡らせる。
しかし、その内容は表情から読み取れるだけでも“まとまりがない”と分かる。
様子を見ていた幾月も、この状態には眉をひそめた。
(これは思ったよりまずいかもしれないね……普段は皆の中心にいて、こういうときにはすかさずフォローする公子君が、今日はフォローどころか一言も話さない。よほど敗北……いや、アイギスの破壊がショックだったのか。
このままでは、次の大型シャドウ戦にも支障が出かねない。それは“デス”の完成にも差し支えるということだ。この計画のために10年を無駄にしたというのに……そうだ、ここは一つ問題の葉隠少年を利用させてもらおうか)
そんな思いを心に秘めて、幾月はさらに情報を与える。
「あー、まだ葉隠君について話したいことがあるんだけど、いいかい?」
「! 失礼しました。お願いします」
「ありがとう、桐条君。
皆、これまでの話を聞いて驚いたことだろう。正直なことを言えば僕も驚きっぱなしだ。葉隠少年のことを調べてみたら、父親の海外赴任に伴って去年からドイツにいるらしい。能力もそうだけど、彼は昨夜タルタロスにいるはずがない人間。存在からしてイレギュラーなんだ。おかげで平行世界から来たという話が徐々に信憑性を持ち始めている」
「ああ、そういやそんな話が、って! マジであいつ別世界から来たんスか?」
「タルタロスの性質を考えると、否定できない」
「マジっすか……」
「そうなんだよ。そして彼の話が全て真実なら、おそらく彼は再び君たちの前へと現れるだろう」
「どうしてですか?」
天田の質問に、幾月は当然だと答える。
「彼が異世界から来たのなら、帰りたいと思うはず。実際にそんな発言をしていたんだろう? 元の世界に帰る方法を探すなら、この世界に来る原因となったタルタロスを調べる、あるいはその知識を持っている我々に接触してくるというのが自然な行動だと思うよ。
ファーストコンタクトは最悪だったかもしれないけど、落ち込んでいられる状況ではないと思う。ストレガのこともあるし……厳しいことを言うけれど、今回の件では桐条グループの中でも色々と議論があってね……」
「議論? 幾月さん、どういうことですか?」
「……これはあくまでも一部の人間が言っていることだけど、君達から召喚器とペルソナを取り上げろという声が上がっているんだ」
「なっ!?」
「どういうことですか!?」
「俺たちが葉隠に負けたからですか、幾月さん」
特別課外活動部の面々が驚きを隠さず声をあげると、幾月は内心でほくそ笑みながら、表面上は彼らの味方として悲しげに語る。
「葉隠少年に負けたことも理由の1つではあるけれど、それ以上に“敵対していない人間に対し、先制攻撃を仕掛けたこと”が問題視されているんだ。召喚機とペルソナ、それに君達が探索時に装備している武器も、全てはシャドウに対抗するための力であって人間に向けるべきものではない。
ペルソナ使いとして覚醒するには素質が必要で、現状では君達に頼るしかない。だから仕方なく対応を任せてはいたが、やはり子供に武器を持たせて戦わせるのは危険ではないか? 力を持ち、それを行使する人間としてふさわしくないのではないか? せめて彼らを現地で管理する大人をつけるべきではないか? そんな声があってね。
今回の件で最初に攻撃をしたのはアイギスだし、ストレガという前例もあったから、警戒する気持ちも必要性もあると僕は思う。今回はそう説明してなんとかなったけど……正直なところ、こんなことが続けばいつまで庇えるかはわからない」
「そんなっ、僕らだって必死にやってきたのに。そりゃ今回のことは良くなかったと思いますけど、だからって、その大人達はこれまでずっと僕達に任せてたでしょう!? 実際に危険を犯して戦ってたのは僕達なのに。今更そんなの勝手ですよ!」
「……落ち着け天田」
「でもっ! 荒垣さんはそんなこと言われて悔しくないんですか!?」
「他人の失敗につけ込んであれこれ言ってくる奴なんていくらでもいるだろ。いちいちギャアギャア騒ぐのはガキのすることだ」
「ガッ!?」
荒垣も見かけは落ち着いているようで、普段よりも心に余裕がなかった。漏れ出た言葉には棘があり、それがさらに天田の機嫌を逆撫でする。
怒り心頭になった天田は一触即発の状態。それを感じた周囲が宥めに入ろうとする前に、一拍早く口を開いた者がいた。
「もう失敗しない」
「えっ、リーダー……?」
「皆、やるべきことは明確だよ。今回は失敗した、それは事実だし、もう変えられない。だったら失敗を取り返せばいいんだよ」
それまで力なく座っていたことが嘘のように、公子は力強く立ち上がって仲間たちに問いかける。その言葉は前向きに自分を奮い立たせているようで、どこか頑なで仄暗い決意のようなものを感じさせる。
しかし……
「そうだな、公子の言う通りだ」
「俺も一度の負けで引き下がるわけにはいかん!」
「そ、そうだよな! オレッチも次は負けねぇ!」
「えっ、た、戦うの?」
「まぁ、話をしたくても、今のままだとまともに聞いてくれそうにないもんね……」
「……」
公子が立ち上がれば、それを追うように他の者も立ち上がる。
公子が道を指し示せば、他の者もそちらを向く。
1人に多くを委ねた集団の癖は抜けることなく、盲目的に突き進む。
そんな子供たちの様子を見守る邪悪な大人は、表情に安堵を浮かべていた。