人身御供はどう生きる?   作:うどん風スープパスタ

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前回、あとがきに遅くなるかもとか書いたのに意外と早く次が書けた。
投稿します。



33話 理解される事

「それ、どういう事ですか?」

 

 天田少年は平坦で感情のこもらない声でそう聞いた。

 

「笑われそうな話だけどね」

 

 少なくとも目の前の少年には笑われはしないと確信しているが、そう前置きして話を始める。それは俺がまだ幼い頃の話。

 

「始めて化け物を見た正確な日付は覚えていない。でも、あれは俺が幼稚園の時。あの日俺は夢を見たんだ」

「夢……?」

「そう。人の居ない町に一人ぼっちで放り出されて、黒い化け物に襲われる夢」

「夢、ですか……」

 

 期待していた話と違うと思ったんだろう。天田少年は露骨に肩を落としているが、これで全部じゃない。

 

「最初はただの夢だと思ったけど、俺はその日からその夢を頻繁に見るようになって、一週間に二日か三日は必ず見ていた。それが二年間続いた」

「そんなに……?」

「そうさ。両親にも親戚にも心配かけたよ……勧められて心療内科に通院していたこともある。結局原因は不明だったけどね」

 

 あれは俺が転生とシャドウへの恐怖を処理しきれず、夢と言う形で見るようになったんだと思う。原因こそ伝えられなかったが、病院の先生もどこかで悪夢を見るような怖いものや強いショックを受けたんじゃないかと言っていた。

 

「夢の中の俺はいつも一人で逃げ回ってた。でもどんどん化け物の数が増えていって、最後は必ず殺されるんだ」

「それが二年ですか……きつそうですね……」

「まぁな」

 

 あれは周りの助けと曲がりなりにも大人の精神があったから耐えられたんだと思う。それに訓練をするため、それで不安が和らぐならと、道場へ通うために必要な両親の許可と援助をとりつけることもできた。

 

「それからいてもたってもいられなくて体を鍛え始めたんだ。そっちに集中しすぎて小三までは友達なんていなかったけどな」

「先輩も?」

「も、って……天田君も友達いないのか」

「そ、そんな事! ……あります……」

「やっぱり天田君もクラス中から恐れられて」

「ないですよ!? ただ暗い奴って思われてるだけです! ていうか……先輩何したんですか?」

「いや……俺も学校では天田君と同じようなもんだったけど、あの頃はせめてちゃんとした指導者がいるところにって、爺さんに空手を勧められて近所の道場に入ってたんだよ。

 練習は真剣に取り組んだからか、俺が一年生の時には三年生を相手にしても勝てるようになって……でもそれが気に入らないって奴も居てさ、稽古を理由に挑んでくる奴を返り討ちにしてたらいつの間にか敵が増えてたんだよ。道場では歳と体格が大きく離れた相手とは組まされなかったから無敗だった。

 おまけにその道場の師範が空手家精神とかそういうのにうるさい人でさ、もっと力が欲しかった俺とは反りが合わなくてよく説教されてたんだ。それを見て向こうではあいつは先生にいつも怒られてる、怒られるのはあいつが悪いからだ、悪い事をしている奴を懲らしめてやる! って、小学生の正義感が暴走してたみたいでね……

 元々仲のいい友達がいなくて、学校には同じ道場に通ってる奴も居たからそこからクラスまで変な話が広まって、後は自然と怖がられたというわけ。あとは学校で取り囲まれたときに返り討ちにしたり、勝てないと分かって連れてこられた六年生三人泣かせたのが致命的だったな」

「ほんと何やってんですか先輩……それに一年生が六年生三人泣かせるって、どうやったんですか?」

「別に楽勝だったわけじゃないぞ。何度殴り倒されても起き上がって向かって行って、金的狙ったり必死だった。それにあの時は三人全員を倒したわけじゃない。一人を金的で蹲らせて顔面殴ったら鼻血が出て、それを見た他の二人まで急に腰が引けて戦ってるうちに泣いて逃げ出したんだよ」

 

 大人の精神力と根性に物を言わせてなんとかの粘り勝ちだったんだ。

 今思えばちょっと大人気ない気もするけど、当時は本当に必死だった。

 体は一年生だったから六年生のパンチも普通に痛かったし。

 

「先輩のご両親には何も言われなかったんですか?」

「うちの父さんは元ヤンだから喧嘩上等、囲まれるなんてよくある事だって。母さんは心配してたけど、基本的に子供の喧嘩に口は出さない方針だった。

 でも二人ともちゃんと起こった事は把握していて相手の親が出てきたら守ってくれたし、六年生を泣かせた時は大慌てで病院に連れて行かれて、流石に度が過ぎると言いに行ってくれたよ。学校と取り囲んだ生徒の親と道場、関係するところ全部に。

 それでその問題は終わり、というかお互いに距離を取ってかかわらない関係に収まった。絡まれる以外で付き合いがあった訳じゃないし、唯一の機会になる道場は破門になったから」

「空手、辞めちゃったんですか?」

「いや、空手は続けた。最初に空手を勧めた爺さんが指導力の無い師範の元に俺を送り出してしまったって責任を感じていて、段位も持っていたから仕事の暇を見て教えてくれる事になったから。だから違いは自主練習が増えたくらいだったな。破門って言われた時もそういうのって本当にあるんだーくらいしか思わなかったし。道場に執着もなかった。それで三年の時にパルクールを知って……

 って、話がずれてるな……まぁ、とにかく俺が化け物を見たのは夢の中。でも俺はいつかあの化け物が襲ってくるんじゃないかと本気で思った。それだけで周りが見えなくなって、人の恨みにも行き着くところまで気づかず、最後には今話したみたいなバカな事をするくらいに……おかしいだろ?」

「……」

 

 俺がそう言うと天田少年は顔をうつむかせ、しばらくするとゆっくり首を振る。

 

「笑いません。……先輩。もし僕が、僕も化け物を見たことがあるって言ったらどうしますか?」

「笑わない」

 

 俺は断言した。笑うわけが無い。俺はもう本物の化け物も見ているのだから。

 

 口には出さずに天田少年を見つめる。

 ただそれだけだったが、天田少年は涙を流しながらゆっくりと話し始めた。

 母親と死別したこと。

 ある日の夜、母と歩いていると町の様子が変わったこと。

 そこで化け物に遭遇したこと。

 自分の目の前で母親が化け物に殺されたこと。

 町が元に戻ったこと。

 そして母親の死因は事故死になり、化け物に殺されたと訴える彼の言葉を誰一人聞き入れなかったこと。

 

「ごめんなさい、急に泣いたりして」

「少しでも気が楽になるなら、俺のことは気にしなくていい」

「ありがとうございます……」

「いや……俺は家族を亡くした経験が……取り残された経験がない。だからかける言葉が見つからないんだ。大抵の励ましの言葉はもう聞いただろ?」

「はい。事件の後から、お母さんのお葬式が終わってからもずっと。今でもお母さんを知ってる人に会うと言われます」

「それ以上のことは俺には言えない。だから泣きたければ泣けばいいさ。代わりに……もし天田君がやりたいなら、パルクールだけじゃなくて格闘技の技も教えるよ」

「本当ですか!?」

「パルクールで体を作るのが第一だけど、その合間に基本くらいは教えられると思うから」

「ありがとうございます葉隠先輩!」

「いやいや、人に教えた経験は無いから下手かもしれないぞ?」

「それでもです!」

「そうか。なら同じ理由で強くなろうとした者同士、仲良くやって行こう」

「はい!」

 

 目元を袖で拭って、俺が差し出す手を即座に握った天田少年の目元には、以前部室で見たものとは違う心からの笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 そこで周辺把握に休憩所のドアが開き、背を向けていても人が七人入ってきたのが分かる。

 休憩所なので人も来るだろうと思っていると

 

「あれっ、葉隠君?」

「え? あっ、岳羽さん」

 

 呼ばれてみるとそこには私服の岳羽さんが、その後ろには順平たちがぞろぞろと歩いていた。そういや来るって言ってたな。

 

「おーす影虎」

「こんにちは」

「葉隠君、奇遇だねぇ」

「何でこんなとこに?」

 

 今日の中心人物である友近と岩崎さんに、フリルの多い服を来た島田さんや動きやすそうな服装の西脇さん、と次々と声をかけてくる。

 

「どうも皆さんおそろいで。順平から話は聞いたけど、博物館は楽しめてる? あと西脇さんの質問に答えると、俺がここに居るのはバイトしてるから。今は休憩中だけどな」

「なるほどぉー? ところでさー、葉隠君。そちらのショタっ子はどちらさま?」

「ショタっ子て……」

 

 変な聞き方をする島田さんに苦笑いをしつつ天田君に視線を向けると、ショタの意味が分からないようで首を捻っていた。しかし自分の事を聞かれているとは理解できたようで、前に出て自己紹介を始めた。

 

「初めまして。僕は月光館学園小等部四年の天田乾です。葉隠先輩には部活動のことでお世話になっています」

「おぉ~、これはしっかりしたいいショタっ子だ」

「島田さん、ショタっ子はどうかと……でもホントしっかりしてるね。私は岳羽ゆかり。クラスは違うけど、葉隠君の友、知り合いかな?」

 

 友達と迷わず言えるほど親しくもないけど、言い直さなくてもよくない? 

 さっき話した内容のせいか、天田少年が一瞬俺に向けた視線がまだ友達居ないんですか? と聞いていたような気がする。

 

 そんな俺を放って順平たちの自己紹介が続いたが、それが終わると西脇さんが目を細めてこう言った。

 

「……ねぇ天田君。なんか目、赤くない?」

「そ、それは……」

「なにかあったの?」

 

 天田少年への視線がこちらへ向いた。

 え? 俺が泣かせたと思われてる? いや、泣かせたは泣かせたけど……と思っていると、西脇さんは俺の心情を察したのか自分の言葉を訂正した。

 

「ごめん、言い方間違えた。別に葉隠君が天田君をいじめて泣かせたとかは思ってないよ。さっき声かける前に見たときは笑顔だったし」

「あぁ、そうか……でもなぁ……」

 

 話してもいいかと視線を送ると、天田少年は頷いて前に出る。

 

「葉隠先輩は悪くないです。僕が勝手に、その、泣いちゃったんで」

「? 腹でも痛かったのか?」

「ちょっと思い出しちゃったから、ですかね……この博物館、母さんとの思い出の場所なんです。去年事故で死んじゃったけど」

 

 その一言で順平たちの天田を見る視線が沈痛なものに変わり、踏み込んだ質問をした宮本が気まずそうに謝る。

 

 しかし、天田少年がここに居たのはそういうことか。でも……

 

「天田君、ちょっと……」

「はい、なんですか?」

 

 ちょっと離れた場所に呼び出して聞く。

 

「言ってよかったの?」

「いいんです、事実ですから。それに正直に今までの話をして理解されると思いますか?」

「そりゃそうだけどさ……」

 

 俺のも成り行きで話したけど、本来なら原作キャラにだって話すつもりのなかった話だし……

 

「……母さんの事は、まだ悲しいです。小さなことで思い出したりします。けど、今日はちょっとだけ平気な気がするんです。真面目に僕の話を聞いてくれる人が居たって、分かったから」

 

 ……そうか。

 

 どうやら少しは天田少年の支えになれたようだ。

 

「先輩は変な人ですけどね」

「って誰が変な人かっ! 話を真面目に聞いて信じてるのに……」

「だからですよ。先輩と他の大人の意見、どっちが普通かくらいちゃんと分かってますから。だから……だから、ありがとうございます」

「……はぁ……分かった。もう何も言わない。……戻ろうか、向こうで不安そうな顔してる連中のところに」

「はいっ!」

 

 吹っ切れたとまではいえないが、一歩前進と言ったところか。

 

 それからみんなの居る場所に戻ったところ、携帯のアラームが鳴り響いて休憩時間の終わりを告げた。仕事に行かなければならず、俺はここで別れることになったが……

 

「皆さん、もう館内を見て回りましたか?」

「一階だけね、それだけで男子が疲れたっていうから」

「広くて色々あったけど、オレッチ普段こういうとここねーからよく分かんなかったりして……」

「伊織君、自分で連れてきといてそれってどうなのかなぁ? 下調べが足りないと、女の子とデートする事になったらがっかりされるよぉ? マイナス五十点です」

「島田さんは順平に期待しすぎ、どうせ葉隠君からアドバイス貰ったからここに連れてきたんでしょ?」

「返す言葉もありません……」

「まぁ期待してなかったし、あの時は私たちも悪かったし、責めてないけどね」

「? よく分かりませんけど、もしよかったら僕が博物館を案内しましょうか? 僕、年に何度もここに来てるから、常設の展示なら説明もできると思いますよ」

「おっ、マジで?」

「ハハッ、順平の案内よりは楽しめそうだな」

「体を動かせる場所ってないか?」

「ともちーひどい! 宮本は博物館で無茶言うなよ! 天田っちが困るだろ!?」

「体を動かせる展示なら槍投げ体験のコーナーがありますよ。ゴムでできた石器の槍の模造品をアトラトルっていう投槍器を使って的に投げるんです」

「あんのかよ!?」

 

 ……問題はなさそうだ。

 

 俺はそう判断し、憂いなく仕事に戻った。




影虎は過去を話したが核心は隠した!
天田は少しだけ心の支えを得た!
天田が伊織順平とであった!
天田が岳羽ゆかりとであった!


次回の投稿は早く書けるかもしれないし、遅くなるかもしれない。


投稿後に書き忘れていた事が見つかったので編集し、
天田に話した夢の話が、戦い方を学ぶことを両親に認めさせる一因であった事を書き加えました。
編集前に読んだ方は違和感があるかもしれません。すみませんでした。

小学生が道場に通うには親の許可や月謝の支払いや必要ですからね。
どこかで親になにかしら伝えておかなければならなかった。
そういうことがあったはずだと思っています。
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